に、じゅう、さん。
…夢…?
…これは、夢…なのかな。
泣きすぎて瞼が重くなり、頭も痛くなって喉も痛い。
ボーっとする頭で分かることは、私の腰に陸がしがみ付いているということくらい。
それと、まだぐずぐずと鼻をすすっている時にそっとクレンジングシートでドロドロのメイクを誰かに落としてもらったということ。
パンパンに腫れた瞼のせいではっきりとしない視界に居るのは愛する同居人2人と…隣人の大地。
ああそうだ。
私…大地に…。
この子達のことも、知られちゃったんだ…。
「このみさん…落ち着かれましたか?」
「拓…うぅ…拓ぅ…」
情けない。
子供のように泣き喚いて、小さな子にまで慰められて、優しく声を掛けられてまた泣いて。
拓の首に腕を巻きつけて抱き締めて欲しいと強請る。
いい歳して、とか大地の前なのに、とかもう関係ない。
優しくて温かい拓の手が頭をゆっくり撫でていく。
これさえあれば、何も望まない。
「このみ…」
そんな目で見ないで。
「このみ…俺…本当にごめん…。俺のしてきたことは独りよがりで自己満足で、このみをこんなに傷つけてるなんてちっとも思ってなかった。そのせいで猫が人間になるなんて意味不明なことまで起きちまって…。謝って済むことじゃないことは分かってるけど、謝らせて欲しい。で、勝手は承知でもう一度言わせて欲しい」
独りよがりの自己満足。
それが、長年私の足に絡み付いていた枷。
なんて単純で幼稚で馬鹿なことなんだろう。
「俺はこのみが好きだ。手に…入れたい。ガキの頃からお前しか見えてないんだ。自分でも図太い神経してるって思うけどさ、俺を…見て欲しい」
本当に自分勝手。
私を散々騙しておいてよくそんな事が言えるものだわ。
「私には…この子達がいるの。この子達がいてくれたら、もう何もいらないの」
苦しそうに顔を歪める大地。
彼の目に私はどう映っているのかな。
「私が大地に求めることは一つだけよ。私からこの子達を奪わないで」
「…さっきこいつらからある程度説明を受けたが、何がどうして猫が人間になったか分からないんだろう?それってちょっと危険じゃ…」
「危険なんてない!!この子達はいつも側にいてくれたの!悲しい時も辛い時も一緒にいてくれたの…人間になって欲しいって1番願ったのは私よ…」
いや。
もう何も言わないで。
これ以上大地を嫌いになりたくないの。
そっとしておいて。
「このみ…今日はちょっとお互い気が立ってるよな。うん、俺のせいなんだけどさ。ちょっと気持ちと頭を整理する時間が必要だ。今日のところは一旦引くよ。このみとちゃんと話ができるまで猫たちのことは他言しない。約束するよ。だから…だから、俺を拒否しないで。ごめん…あんなことしてきておいて、お前に嫌われたくない。ごめん」
こんな苦しそうな彼を初めて見るかもしれない。
私のこと、本当に好きなんだ…。
他人事のように実感が湧かない。
確かに今日は私も大地もいろんな事一気に暴露し過ぎてパンク寸前だ。
整理、したい、心の。
ありがとう、と場違いとも取れる言葉を小さく呟くと大地は安堵した表情を見せた。
高校生の時からあまり変わっていないこの顔。
安心できるこの顔。
「頭、冷やしておくよ。過去の罪の事も、このみへの想いも、猫たちに対する感情も、一回落ち着かせてみる。ああもう、本当に俺は自分勝手だな。落ち着かせてみるとか…。ごめん、ごめんな。今日は家戻るわ。このみの気持ちが整理ついたら、また話し合おう」
どこまでもマイペースな男。
私の意見を何より優先させる普段とは真逆の事の運び方に彼の混乱が伺える。
いいよ、この子達のこと黙っていてくれるのなら従うわ。
今日は…ちょっと疲れたしね。
大地は、最後までしつこく謝罪の言葉を口にして家を出て行った。
私たちのやり取りを黙って見ていた同居人は揃って私を取り囲んだ。
わたしの大切な家族。
宝物よ。
大丈夫、大丈夫。
守ってみせるわ。
あ、
夕飯の支度してたんだっけ。
…どうしようこれ。
ヘタレとヤンデレが混ざった場合、どちらが勝るのか。大地の場合はヘタレの部分が勝ちましたー。
このみに嫌われたくない!!、が大前提のヘタレヤンデーレ。




