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に、じゅう、に。

SIDE 朔



男の胸倉を掴みながら叫ぶ。

頭を埋め尽くすのは、記憶にある限りのこのみの悲しそうな泣き顔ばかり。

お前のせいじゃないのにどうしてお前がそんなに涙を流すんだ。

しかもそれが、この男のただの独りよがりなイカレたわがままのせいとか…。

許さない。

こいつだけは許さない。


何がこのみを愛している、だ。

何がこのみには俺がいるからいい、だ。

ふざけるのもいい加減にしろ。


怒りのせいで震える手に更に力を入れて男を締め上げる。

ぐ…とくぐもった声が漏れるがそれがどうした。



「このみはな!!ずっと自分のせいだと思ってたんだ!自分は人の気持ちが分からない酷い人間なのかもしれない。みんな自分と話したくないのかもしれない。女友達も嫌々付き合ってくれているのかもしれない。本当はみんな、自分のことが嫌いなのかもしれないってな!!」



何度も否定したこのみの言葉。

このみの周りにいる人たちと顔を合わせたことはないけれど、毎日俺達に話してくれる職場や友人たちとのことを聞く限り、このみが嫌われているなんてありえない。

きっとお前が困っていたらみんな全力で助けてくれる。

お前はひとりじゃない。

…何度言ってもこのみはどこか悲しそうに笑う。

周りをもっと信じてやれ。

俺達と同じように、もっと素直に信用してやれ。



「お前は自分の欲求のためにこのみを人間不信にさせたんだ!お前だけが頼りだったのに…」



このみが一番信頼しているのはこの男。

幼馴染だからとか、付き合いが長いからとか、そんなんじゃなくて…刷り込みに近い絶対的な信頼を寄せているように感じる。

なんでこいつなんだよ…。

このみの世界のこの男の存在は大きすぎる。

だらかこそ、その呪縛から開放してやりたい。



「お前のせいでそんなんになっちまったのにお前しか頼れないこのみが可哀想すぎるだろ!!そんなんだから俺達がこうしているんだ!俺達は…」




そんなんだから俺たちはこうして人間になったんだ。

このみのそばにいるように。

このみの涙を拭えるように。

このみに、一人ではないことを分かってもらうために。



俺の名を叫んだ愛する女は、拓の腕に抱かれてボロボロに泣いている。

そんなに泣いたら目が溶けてしまうだろ…。

もう、こんな男のこと忘れちまえよ。

俺達だけで生きていこう。



するりと男の服を離してこのみへ近寄る。

子供のように鼻水を啜る彼女が愛おしい。

泣くな。

泣くな。

拓と向かい合ってこのみを挟むように抱きしめる。

陸も横から飛びついてきた。

このみ…このみ…

愛してる。



「お前ら…何なんだよ。何者だ…」



絶望の色を顔に浮かべ、男が情けない顔で俺達に問う。

震えるこのみ。

困ったように彼女の頭を撫でる拓に、泣き出しそうな陸。



「このみから離れろ!離れてくれ!!彼女と二人で話がしたい。どこから沸いて出たか知らないがお前達こそ帰ってくれ!不法侵入で警察を呼ぶぞ!!」



このみの肩がビクッと大きく揺れた。

頭の中で何かが切れる音がした。

拓が素早く目で静止を訴えてくるが、止まらない。





「俺たちはこのみの飼い猫だ!!!警察でも何でも呼んでみやがれ!!!」



「いやあぁぁぁ!!ダメ!!ダメえぇぇ!!違う!違うの大地!!やめて!!」




俺が叫ぶと同時に泣き叫んだこのみ。

え…え、このみ…?

やめて、ダメ、違うを繰り替えす声は喉が潰れるんじゃないかと思うくらい悲痛なもの。

拓はこのみをぎゅうっと抱きしめて大丈夫としきりに声をかける。



「…飼い、猫?」



男は目をまん丸にして俺達を凝視した。

そしてキョロキョロと部屋を見渡す。

きっと先ほどまでソファのすぐ傍にいた猫達を探しているのだろう。

信じられないと顔に書いてある。



「え?な…え、どういうこと?」


「…」


「ねぇこのみ」


「…ダメ…」


「このみ、説明、して?」


「…違うの、違う、ダメよ」


「このみ、この人たち…」


「…いやよ!!ダメ!この子達はダメ!!!どこにもやらないわ!」




ああ。

このみは俺達のことを心配して泣いていたのか。

縋るように伸びてくる細く白い手を当たり前のように受け入れて自分の首へ巻きつかせる。

優しい香りをかき抱くように引き寄せると愛しい重みが胸に乗る。



「この子達を奪わないで…過去のことなんてもういい、もういいから。大地のことも許すから!お願い…この子達を私から取り上げないで」



このみ。

このみ。

ああ、愛してるこのみ。

俺たちはどこにも行かない。

スリスリと頬を合わせるとこのみも同じく頬を擦り付けて来る。

涙を舐め取ろうと舌を伸ばすと…拓に止められた。

調子に乗るなと言う目が怖い。

あんなに怒りに震えていた俺は、このみのおかげですっかり治まっていつもの調子になっていたみたいだ。

あの男のせいで泣いていたと思っていた涙も、俺達のために流していたと知ると愛おしくて仕方がない。

可愛い。



「ね、こ?お前達が…?え?ええ?」


「…信じられないかもしれませんが…事実です」





さーて

どうなるかわかんねぇけど…

言っちまったもんはしゃーない



正体、明かそうか




朔はこのみバカ。

俺のために弱い。

怒ってても泣かれると許しちゃう。


女で破滅するパターン…

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