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に、じゅう、いち。

私の…というより、朔たちの疑惑は当たっていた。

大地が私を一人ぼっちにしていたなんて。

でも、まさかの大地からの告白。

真っ直ぐで突き刺すような愛の告白。

あんなにも惨めな思いを私にさせた犯人からの言葉に、私の頭はショート寸前。

目の前に迫る大地に指一本動かせない状態だ。


待って。

え、どういうこと。

ねえ、待ってよ。


ぺろりと唇を舐める彼の赤い舌。

好きだと囁く彼の低い声。

私を囲う彼の逞しい腕。

逃げられない。

思考さえ奪われる。




「その手を離せクソ野郎」




私を金縛りから解放してくれたのは、私の大切な同居人たち。



朔が私の右手を握る大地の腕をがっちり掴んで引き剥がす。

その隙に拓が私を素早く立たせてソファから離れ大地と距離を作る。

そして陸が大地から私を隠すようにその小さな体を目一杯広げて私と彼の間に立ち塞がった。


シンと静まる部屋。

拓の腕に包まれながら、ぐるぐると頭の中を巡るのは中学生の頃からの大地との記憶。

家が近くだから一緒に登校して、一緒に帰宅していた。

クラスが離れていても何かと理由を付けて頻繁に声を掛けられていた休み時間。

たまに私とは違う方をじっと睨むように見ていて、何度かどうしたの?と聞いたこともある。

ごく稀に男子生徒から話しかけられ嬉しくなって会話を楽しんでいると決まって大地に急用だとか何とか言って連れ出され、その日の放課後大地はしばらく姿を見せなくて…次の日からその男子生徒は話すどころか目も合わしてもらえなくなった。

その時は、私が何か変なことを言ったり気に触るようなことをしてしまったんだと本気で悩んだ。

他人を傷つけてもそれに気づけない自分が嫌になったりした。

でも…。

今考えると全ては大地が裏で、私に男の子を近づけさせない為だったのかと、ようやく理解する。




「…誰だお前ら」




低く、唸るような大地の声。

そこでハッと気づく。


同居人たちは人間の姿だ。

見られた。

見られた。

この子達を、見られた。



「おい、そこのおっさん。このみに触るな。その手を離せ」


「はいそうですか、なんて言うわけないでしょう。可哀想にこんなに震えて…」


「このみに触るなっつってんだろうが」


「お前何様だ。指図してんじゃねぇよ。このみを怯えさせやがって…ここから出て行け」


「あぁ?お前もいつまで俺の手掴んでんだよ。離せ」



まさに一触即発。

男たちの怒気が部屋に充満して陸がぶるぶる震えている。

それでも真っ直ぐ大地を睨んで、その手を下ろそうとはしない。

一方私は他のことでガタガタ震えていた。


どうしよう。

人間のこの子達を見られてしまった。

どうなるの。


自分の過去の真実よりも、この子達との未来が不安になる。

非現実的な彼らの存在を誰が真に受けてくれようか。

不審人物として警察に捕まるの?

それとも未知な生物としておかしな研究所とかに連れて行かれるの?

まさか危険物体として処分…。

いや。

いやよ、ダメ。

そんなことさせない。

やめて…。



「このみさん?大丈夫ですよ、そんなに震えなくても…このみさん?」



異常なほどの震えに拓が怪訝な声を上げる。

ぎゅっと抱きしめてくれるが治まらない。

涙も後から後から零れて拓のシャツの色が変わってしまうほど。

異変に気づいた陸が私に抱きついてきた。



「このみちゃん!大丈夫だよ、僕達ここにいるよ!泣かないでー」



睨み合っていた朔と大地も私の様子に気づき視線をこちらに向けてくる。



「このみっ」



腕を振りほどいて駆け寄ってきたのは大地。

小さい頃から隣にいるのが当たり前の彼。

私の恋愛を妨害してきた幼馴染。

好きだと…言ってくれた隣人。


大地が真っ青になって私に触れるか触れないかのところで手を彷徨わせる。



「ごめんこのみ!!俺…俺…真っ白になっちゃって…謝るから!昔のこともさっきのことも謝る!ごめん!!だから泣かないで…このみに泣かれるとどうしたらいいか…」


「今まで散々泣かせといてよく言うぜ」


「…え?」



嗚咽が漏れる。

子供のように本格的に泣き出した私にオロオロとする4人の男達。


離れたくない。

拓も朔も陸も、私の大事な家族なの。

好きよ、愛してる。

だから奪わないで。



「お前、どうせ自分のことしか考えてなかったんだろ。このみを一人占めしたいというわがままのせいで今までこのみがどれだけ辛い思いをしていたか分かってんのか」


「こ…このみには、同年代の男とコミュニケーション取れなくて…つまらない思いをさせた、けど!俺がいたからいいだろ?他の奴らと話せなくても、このみには俺がいるんだ。だから…」


「ふざけんじゃねぇ大馬鹿野郎!!!!」



初めて聞く朔の怒鳴り声。

こんなにも感情を高ぶらせているところも初めて見る。



「このみはな!!ずっと自分のせいだと思ってたんだ!自分は人の気持ちが分からない酷い人間なのかもしれない。みんな自分と話したくないのかもしれない。女友達も嫌々付き合ってくれているのかもしれない。本当はみんな、自分のことが嫌いなのかもしれないってな!!お前は自分の欲求のためにこのみを人間不信にさせたんだ!お前だけが頼りだったのに…お前のせいでそんなんになっちまったのにお前しか頼れないこのみが可哀想すぎるだろ!!そんなんだから俺達がこうしているんだ!俺達は…」


「朔!!!!!」



大地、好みの涙に激弱。

朔、大地への怒り大爆発。

拓、このみさんは私が守ります。

陸、ガクブルガクブル。

このみ、過去より未来が大事ーー!!!

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