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に、じゅう。

side 大地



「ねぇ大地、もしかして…さ、小さいときから私の周りで…何か、してた?」



いつもより若干緊張したように言ったこのみ。

愛して止まない彼女の口から決して紡がれてはならない言葉が出たというのに俺は妙に冷静で、彼女の彷徨う瞳を同じように右へ左へゆらゆらと追う。

いや、混乱と焦りで元々少ない頭のネジが更に吹っ飛んだのかもしれない。

真っ白になった頭にはポツンとこのみのことだけが残っていて、狂気の渦がそれを飲み込んでいく。

口元が、緩む。

このみは今、俺のことでいっぱいになっている。

きっと今日1日、俺のことばかり考えていた。


だめだ、口が…笑う。



ああ、でもどうしようか。

核心をついてきていないにしても、確実に何かを勘ぐり始めている。

あの言い方…勘ぐるというより確信に近いような、でもそれを認めたくないような、そんな言い方。

気づいた?

今まで何も知らずにいたこのみが?

誰かに何か言われた?

筧か…それともさっき会社で話していた女か…。

賢い女は嫌いじゃないが、勘が鋭い女はうっとおしい。

このみならどちらでも大歓迎だけど、自分のことに疎いこのみがやっぱり1番可愛い。

人を疑わなくて危なっかしくて。

だからこそ、俺が守ってやらなきゃいけない。

可愛い俺のこのみ。



コト…



「このみ、ちょっとソファに座って話そうか」



両手を塞いでいたグラスをテーブルに置き、このみを壁際のソファに誘う。

出来る限り優しく、いつものように言ったつもりだが大丈夫だったろうか。

上ずった声になっていなかっただろうか。

緊張と興奮を…隠しきれているかな。



「あの…ごめんね、いきなり変なこと言って…」


「いや、いいよ。小さいときから何かって、一体何をしていると思ったの」


「えっ何を…」


「そんなこと聞くって事は、俺が何かいけないことをしていると思ったからだろ。それを教えてくれないとこっちも答えようがないよ」



この顔、好き。

俺を傷つけないように、俺に嫌われないように必死に言葉を選んでいるときの困ったような顔。

おかしいな。

このみにだけは俺の黒い部分を見られたくなかったはずなのに、俺は間違いなくこの危機的状況を楽しんでいる。

本当に頭のネジ無くしたかも。

ま、それでもいいか。



「にゃーん」



グレーの猫が軽やかにこのみの膝の上へと飛ぶ。

くるくると丸くなりながら腰を下ろし、真っ直ぐ俺を見つめてきた。

うん、邪魔だな。

俺とこのみの間に入ってくるなよ。

黒い猫と白い猫もソファの周りに集まってきてジッと俺たちを見つめている。

こいつらがいるから、このみの全てが俺にならない。

こいつらがいなかったら、このみには俺しかいなくなるのに。

忌々しい。



「気を…悪くしないで欲しいの。もし、見当違いのことだったら笑ってくれていいの…」


「うん、言ってみ」


「あのね…」




さあ、言え。

俺の化けの皮を、お前が剥がしてみろ。




「私に好意を持ってくれている男の人に…何か酷いことして…私に近づかないようにしてた?」




ふふ。

ふふふ。

このみが気づいた。

このみが気づいたぞ。

どうする。

どうしようか。

言う?

言わない?

ああ…なんだこの高揚感。

何とも言えない黒いものが込み上げる。



体を斜めにしながら向かい合って座っているソファ。

壁を背にする彼女は俯きながら膝上の猫を両手で抱く。

手を伸ばせば触れる距離にいる愛しい人。

俺の異常に気づいたこのみ。

今まで感じたことのない興奮に理性が擦り切れそうだ。


スッと払うように腕を動かすと、このみは思いの外すんなりとその手を離し猫を解放する。

見つめるというより睨んでいるといったほうがしっくりくるような鋭い目線をぶつけてきていた猫も、俺の腕に迫られて慌てて床へと飛び降りた。

それでも決してこのみから離れようとはしない。

ソファの横にぴったりとついて俺を見る。

黒と白がグレーの脇に控える。

主人を守ろうとしているのか?

笑わせるな。

お前らに何が出来る。



このみ…

このみ、このみ

愛してるよ



ぐっと身を乗り出せば二人の距離なんてあっという間に縮まり、俺の右手の中にこのみの細い手首が収まる。

片膝を立てて更に近づくと、このみが背を預けている肘掛に左手を乗せることだって容易い。

子供のときから大好きで気が狂うほど欲しくてたまらない女が、今、こんなにも近くにいる。




16年間積み上げてきたものが、崩れる音が聞こえた。




「そうだよ。俺が、このみに近づく男たちを排除してきた。知り合った中学2年の時からずっとね」



驚愕の目を見張るこのみ。

みるみるうちに溜まっていく涙は今にも溢れんばかり。



「な…なんで、そんな…」


「なんで?そんなの、このみを他の男のものにしたくなかったからに決まってるだろ」


「え…」


「初めて会った時から、このみが好きだよ」


「ふぇっ!!?」


「好きだ。愛してる。俺のものになってくれなくていいから、誰のものにもならないで」


「ええっ!!?」


「このみ…好きだ…好きだよ」



止まらない。

決壊したダムのようにこのみへの思いが溢れてくる。

目の前で顔を真っ赤にして瞳を潤ませるこのみ。

ああ可愛い。

可愛い。

震える睫毛が影を落とす頬もつるりとしていて美味しそう。

食べてしまいたい。

食べたい。

食べたら…このみと一つになれるかな。

俺の一部となったら…もう誰にもこのみを盗られることはない。

食べ…

食べて…しまおうか。



真綿で包むように大切にしてきた彼女を、自分の手でぐちゃぐちゃにしてしまいたい。

傷一つ付けたくない彼女の体を、俺の爪痕で埋め尽くしたい。



「だ…大地…?」



不安そうな声。

小さく震える肩。

大きな瞳からは遂に涙が零れ落ち、頬に透明な筋を作る。

それでも、決して俺から視線を逸らさないこのみ。



無意識のうちに、舌が唇を濡らした。



このみ…




右手に掴んだ彼女の手首をゆっくりと上へ。

それに従うように上がる細く白い腕はちょっと捻れば簡単に折れてしまいそう。

美しくて、弱い。


それと連なった俺自身はこのみとの距離をゼロにしようとより一層立てた膝に力を入れる。

あと少し。

もう少し。


時が止まってしまったように固まるこのみ。

目だけはしっかり俺を見て。

だから俺も逸らさない。





「愛してるよ、このみ」





さあ

俺のものに






ガシッ


「その手を離しやがれクソ野郎」




やっぱり大地の章は長くなる…


迷走ヤンデレ。


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