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じゅう、はち。

お前には俺がいる。

私じゃ力不足ですか?

にーーーーみーみーみー。

男に口説かれてるって、どこのどいつにだ。

どうりでこの前あの男の様子が殺気だっていたのですね…。

みーーみゃ…みゃーー。

まだ何もされてないだろうな。

何かされたとか言われたら喉元掻き切りに行きますよ。

みーっ…このみちゃんは僕が守るよ!!!

こっち来い。そんな男のことなんて忘れさせてやるよ。

それとも…私に嫉妬をさせたいのですか?ふふ、悪い人ですねぇ。

このみちゃん!このみちゃん!

お前は…いつもいい香りがするな…

ああ、そんなに顔を真っ赤にして…潤んだ目を向けられると食べてしまいそうになる…

こーのーみーちゃーーーん!!!!



男に口説かれている、という私の失言に鋭く反応した3人によってもみくちゃにされた私。

久しぶりに陸まで人間になって腰にしがみついて離れない。

朔の本気の色気に恥ずかしすぎて目を向けられない。

拓の黒すぎる笑顔に、風船の空気が抜ける時のような細い悲鳴が零れた。



「どうしたらこのみさんに私の気持ちをもっと、骨の髄まで感じていただけるのか…」


「ああああのっ!感じてます!拓の愛、ビンビン感じてますから!!」


「本当ですか?本当に…私があなたの為ならどんな悪にでも手を染め、この身を削いででもあなたを守り、あなたに拒まれでもしたら魂の一片も残ることなく消え失せてしまうと程愛していると…伝わっていますか?」


「ふひぇっ!!!」



変な声が出た。

真面目な顔してとんでもないこと言ってきたぞ。

しかも他の2人も当然とばかりに深く頷く始末。

愛されすぎだろ私。

今までの反動大きすぎでしょ。



「俺思うんだけどさ…」


朔がいつものようにソファにゆったり腰掛け、長い足を無造作に投げ捨てながらポツリと呟く。



「このみは俺たちの贔屓目を無しにしても美人だ。猫の目も人の目も手に入れた今、それは確信に変わっている。小さい頃のこのみを見たことがないけど、想像するに絶対可愛い子だったろ。それなのに今まで男に言い寄られたことがないって…あまりにおかしくないか?俺としてはどこの馬の骨かも知れぬ下衆い男にこのみが汚されていないことを喜ばしく思ってるけど、このみにとっちゃ大事な青春時代を男どもにに避けられるようにして過ごして…そんなことありえねぇだろ」



ビクっと震える体。

深く追求することを諦めたことを掘り返さないで。

おかしい…だなんてもう数え切れないくらい考えた。

でも答えなんて見つからなくて。

美人なんて嘘。完全な贔屓目だよ。



「それは私も思います。このみさんはこんなに愛嬌もあって美しく、頑張り屋さんで親切です。いくらこの国の男性が奥手傾向にあるとしても、まったくないというのは流石にありえない。何か…いや、誰かが故意にこのみさんに近づく異性を圧制していたとしか…」



誰かが、圧制…?

誰が、何のために?

しかし黒幕的な人がいたとしても、私のこのモテなさ過ぎる生活は数年の話ではない。

それこそ男女の区別が付き始める小学生から始まって今の今まで。

そんな長期間私の周りにいる人なんて…


そんな長期間…

私の近くに…




「だ、だい…ち?」




言葉に出した瞬間にぶわっと全身に鳥肌が立った。

大地しか思いつかない。

いや、大地しかいない。

小学生の時も、中学、高校、大学…社会人になってからも、大地は当たり前のように私の隣にいた。

進路で別れそうなときも、彼はまず私の志望校を聞いてから自らの進路を決めていた。

受験勉強を見てくれて私の偏差値を引き上げ、自分は少しランクを落としてでも私たちは同じ学校へ進学した。

それが当たり前だった。

何も、疑問なんて、浮かばなかった。



「あの人がこのみちゃんの邪魔をしていたの?」



陸の純粋な丸い目が大人たちへと問いかける。

邪魔を、大地が、私の、いつから、邪魔、大地のせい、私の気持ち…

混乱して気分が悪い。



ふらっとよろめくと拓がしっかりと肩を支え、そのまま私を後から抱きしめる。

朔も立ち上がり、青白くなっているであろう私の頬へ手を添えた。



「ま…待って。まだ、大地が…大地が何かしていたと決め付けちゃ…ダメだよ」


「このみさん…」



後から回ってお腹で組まれている手にきゅっと力が込められて、なんだかそれだけで涙が出そうになる。

思考が悪い方向へ走るのが止められない。

そんなこと考えたくないのに、答えへの道筋が一本しか見えない。



「大地は…大切な幼馴染…家族同然なの。家族…家族なの」


「このみ悪い、変な話したな。落ち着け、今日はもうこの話は終わりだ」


「このみちゃん…あ…あの、あっちで一緒に日向ぼっこしよ…?」



こんな小さな子にまで心配掛けて何をやっているんだろう。

陸の小さな手に引かれてさっきまで朔が丸まっていた窓辺へと連れて行かれる。

ゆっくりとクッションに腰を下ろすと軽やかに白猫が膝の上へと飛び乗ってきた。

黒猫も擦り寄ってきて傍らに丸まる。



「このみさん…今は私たちがそばにいます。悲しい思いも寂しい思いもさせません。だから、いつものように優しく微笑んでいてください」



そう言うと拓もグレーの猫へと変わり、日の光を求めるように体をぐぐっと伸ばして寝そべった。

もふもふの首元を撫でればゴロロ…と気持ち良さそうに喉を鳴らす。



大丈夫、大丈夫。

この子たちがいれば私は大丈夫。

男なんていらないわ。


男なんて…




私の知らないところで何が起こっていたのか。

誰が何を何の目的でしていたのか。

知っていないといけない気がする。

大地は…何か知っているの。



その日、胸のざわつきが治まることはなかった。

このみ、アルバム見せてよ。

へっ!?アルバム!?

あ、私も拝見したいですね。幼いこのみさんはさぞ可愛いんでしょうね。

このみちゃんのちっちゃい時見たいー!!



ってな感じでいつもの雰囲気に戻るんだろうなぁ。


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