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じゅう、なな。

「ん………ふぐっっ!!!」



久々に何の予定も入っていない休日。

携帯のアラームも完全オフして寝られるところまで寝ると決めていたが、同居人はそれを許してくれないらしい。

いつもより大分寝坊が出来たが、陸の豪快なハグを顔面に受けて目を覚ます。

寝起きに腹もふを堪能出来るのは嬉しいけど、ちょっと鼻が痛いよ陸くん。

あ、あ、私にグルーミングはやめてぇ。

前髪がねちねちとしゃぶられていく。



「おは…よう陸…うぅ」



のろのろとリビングに入ると朔が猫の姿で日向ぼっこしていた。

ああ、天気がいいな。

まん丸になって日向でまどろんでいる黒猫は…丸すぎてどこが顔でどこが尻尾なのか分からない。

規則的に上下する黒い塊は艶々に輝いていて私を魅了する。

今触ったら起きるよなぁ。

我慢、我慢。



カララ…とベランダから拓が顔を出す。

手には洗濯かご。

几帳面にシワを伸ばして干されている洗濯物たちが風に吹かれて揺れていた。



「あ、このみさん。おはようございます。よく眠れましたか?」



執事と家政夫…どちらがピッタリくるだろうか。

皆様想像してみて下さいな。

アッシュグレーの髪をオールバックに撫で付けて、顎には整えられた髭を蓄え、綺麗にアイロンが当てられた白いシャツと何の変哲のないデニムをモデル顔負けにさらりと着こなした40台のダンディなおじ様が…そんなおじ様がパステルカラーの花柄エプロンを着けているところを。

完璧すぎて隙が無いのに生活感ありすぎるエプロン姿。

…うん、拓のためのエプロン買おう。



「拓、いつもいつもごめんね。家事やってくれて本当に助かる。ありがとう」


「とんでもないです。このみさん、最近なんだかお疲れですよね。お休みの日くらいのんびり過ごしてください」


「もーーーーー。拓好きぃ」


「ふふ。残念、私は愛していますよ」



家の3人には素直に気持ちが伝えられる。

好きだよって。

みんなも私にありのままの気持ちを見せてくれて、それがすごく心地いい。

この子達だけでいいのに。

この子達が私を好きでいてくれるのなら、他には何もいらないのに。



副社長室に呼ばれたあの日。

大地に連れられて半ば転がるように帰ってきた私は、無表情の隣人に無言のまま部屋へ押し込まれた。



ちょっ…ちょっと!何!待ってよ!!


今日あったことは忘れて。記憶から消して。そのまま寝て。


え?え?大地、ちょっと!!



そういって一方的に会話を終わらせた大地。

私の顔をろくに見ないまま彼も自分の部屋に滑り込んでドアをバタンと閉めてしまった。

いつになく不機嫌に去っていった大地に私は呆気に取られるばかり。

影から顔だけを覗かせていた3匹も、何事かというように落ち着きが無い。

あ。

この前の「高橋大地襲撃事件(なな…のに。章)」以来、猫たちは完全に私が一人でリビングに入るまで人間にはならないルールというものを取り決めたらしく、密かに楽しみにしていた拓のお出迎えがなくなってしまったのだ。

大地の馬鹿野郎。アホ。まぬけ。


そして翌日若干びくびくしながら出社すると、私のデスクには満面の笑みの副社長がいらっしゃった。

他の社員は冷や汗を流しながらパソコン画面に額が付くほど噛り付いて自分に何か良からぬ火の粉が降りかかってこないことを願っていた。

仕事の支障にならないようにとかなんとか言ってなかったかしら。

というか、やっぱり本気だったのね。


直接的な言葉はあれ以来言ってはこないが、明らかに付きまとわれている。

社内では文芸課の橘がヘマをして副社長に目をつけられている、との噂が飛び交っていて自らフォローしようにも面白がった副社長に阻まれて噂には尾ひれも背びれもついてしまっている。

平穏な職場環境、カムバック。

そんな哀れむような目で見ないで。

無言で缶コーヒーの差し入れとか嬉しくないです。


そんな日々が続いて、ちょっと、割と、大分、疲れが溜まっております。




「お仕事、大変なんですか?」


拓特製のホットカフェオレを入れてもらって体の力を全て抜くようにテーブルに突っ伏していると、優しい手が頭を撫でてくる。

ゆっくりゆっくり往復する大きな手に安心していると、その問いかけに愚痴交じりで答えてしまう。



「男から口説かれることがこんなにも疲れるなんて知らなかったわ。ちょっと喜んでた数日前の私に教えてあげたい」


「…はい?」



ピタリと止まった手に顔をあげると、拓がなんだか黒い笑みを浮かべていた。

あれ?

何か怖いぞ?



「すみませんこのみさん、ちょっと聞き間違いがあったようです。今、なんて?」


「え?あ、えっと、今ねちょっと上司に口説かれてて…。男性からアプローチされるの初めてでさ、でもそれがかなり熱烈で…拒むに拒めない相手だからこそ気が張っていつもより疲れちゃってるのかも」



ちょっとだけ嘘が混じった。

私は副社長を拒もうとしているのかな。

今まで経験したことのないことが怒涛の勢いで迫ってきて戸惑っているっていうのが正直なところ。

ちゃんと考えるって言ったのに考え方すら分からないとかもう、女としてどうなのよ。

みんな、どうやって付き合う付き合わないの判断しているのだろう。

誰か、私に恋愛のいろはをご教示ください!!!






「このみさんには私がいるのに?」


「このみには俺がいるじゃねえか」


「みーみーにーー!!」

猫バージョンの陸はまだまだ子猫なので「にゃー」と鳴けません。

「にー」か「みー」です。

萌えます。

チビ白猫がみーみー鳴いてるとか悶えます。

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