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じゅう、ご。

倒れる!!



衝撃と痛みを覚悟してきつく目をつむる。

しかし、身構えて硬くしていた背中がぽすっと軽い音をさせて温かい何かに包まれる。


あれ?


おそるおそる後を振り向くと、そこにはいるはずのない長年の隣人がいた。



「このみ、大丈夫?」


「だ…大地!?」



なぜ彼がここにいるのか。

確かに彼の事務所からうちの会社は近いけど、近いというか隣のビルだけど。

え、どうなってるの?



「大地…?なんでうちの会社にいるの?」


「ん?あー俺ね、ここの顧問弁護士になったんだ。今の今まで社長室で打ち合わせしてた」


「顧問弁護士!?何それ凄い!!」


「だろ。で、副社長にも挨拶しておこうと思ってドアに近づいたらこのみの名前が聞こえてさ」



なんてタイミングの良いこと。

でも助かった。

肺にある空気を全て出すように深いため息を落とした。

思っていたより緊張していたみたいだ。

大地の介入によってちょっとだけ力が抜ける。



「それで、何してたんですかね、筧副社長さん」


「……ゴホン。これはこれは、敏腕弁護士として有名な高橋先生ではありませんか!顧問弁護士就任おめでとうございます」


「はい、今後ともよろしくお願い致します。で、何をしていたんですか」


「その若さでいくつもの案件を抱えているとか…いやいや頭が下がりますね」


「まだまだ勉強の毎日ですよ。身に余るお言葉です。だから、何してたんだよ」



にこにこと営業スマイルを貼り付ける2人の間でおろおろするしかない私。

目に見える建前合戦のはずなのに、大地の言葉の崩れが徐々に出てきている。

この人、副社長だよ!

こんなんでも偉い人なんだよ!

もうちょっと穏便に…



「…はぁ。相変わらずだなクソ犬。公私混同は身を滅ぼすぞ」



穏便…に?

え?

今の言葉、副社長が言った?



「あなた相手に(へりくだ)るなんて反吐が出そうだ。このみに何しやがったクソ親父」



なんてこと言うんだーーーーー!!!

しししし知り合いですか!?

大地君!

うちの重役とそんなくだけた仲なんですか!!

あなたが良くても間に挟まれいてる私が怖いからもう少し敬った言い方をしてもらってもいいかな!

副社長の顔、めっちゃ笑顔でキレてますよ!


大地は私を背中に隠して副社長相手に完全に喧嘩腰。

礼儀を弁えている彼が目上の方に対してこんな暴言を吐くことに驚くばかり。

でもね、大地。

副社長を親父呼ばわりするのはまだ早いと思う。



「ぐぅ…」



変なくぐもった声が聞こえて視線を上げると大地の頭を副社長ががっちり掴んでいて、所謂アイアンクローをかまされていた。

ぎりぎりと絞めつける音が聞こえそうなほどだ。

ヒイィィィ!!

なになになになになに!!!



「うっせ、クソ犬。図体だけでかくなったガキんちょが。大事なところなんだから部外者は外出てろ。犬は犬小屋にお帰り。しっしっ」


「犬犬呼ぶんじゃ、ねぇ!!」



ぎゃんぎゃんと吠え合ういい年した大人の男たち。

ああ、大地の夕方まで崩れない完璧なセットがぐしゃぐしゃにされていく…。

なんだろう、だんだん同級生のじゃれあいを見ているような気持ちになっていた。

やっぱ副社長が若く見えるからかな…。



「ああもう!俺の告白を!邪魔するな!!!」



柔道だかプロレスだか良く分からない組み手を始めていた二人だが、副社長の悲痛とも取れる叫びにピタリと動きを止めた。

激しく肩を上下させて息を荒げる36歳とポカーンとした顔で固まる30歳。

この辺りに年齢の差が出たのだろう。

大地は息を切らせず、むしろ息をしているのかどうかも分からないほど停止している。



「告白…だと?」



地を這うような低い声が静まり返った部屋に響く。

私に背を向けたままの大地と至近距離で対面している副社長は、サッと視線を逸らしながらも顔を引きつらせた。


きゃーーー!!

大地に言わないで下さいよ!

やだやだ、絶対からかわれる。

告白されて舞い上がってんのかって。

何本気に取ってんだバーカって…。

くそ…舞い上がったっていいじゃない!

副社長は本気って言ってくれたんだから、私だって本気で考えたっていいじゃない!

やーもー顔が赤くなるぅぅ!



「…っち」



大地は忌々しそうに舌打ちをすると、自らの襟ぐりを掴んでいた副社長の腕をやや乱暴に振りほどいて私に振り返る。

その顔はいつもの大地の顔。

じっと見つめてくる色素の薄い茶色い瞳は僅かに揺れているようにも見えるが、私に向けられる視線はいつも通りの落ち着いたもの。



「このみ…帰ろう」



ごく自然に私の手を取る大地。

その行為に違和感なんて感じない。

私にとってもそれは慣れたことだから。

そして、過去の経験上私はおそらく、このまま大人しく帰ったほうが良い。

ここで抗ったらとても後悔することになりそうだ。

長年の…勘かしら。

こういう時の大地に逆らっちゃダメだ。



「あ…あの、副社長!気持ち、ありがとうございました。初めてのことで少し戸惑ってしまいましたが、ちゃんと、ちゃんと考えますので…。ちょっとだけ時間を下さい」



副社長に向けたその言葉は、言い切る前に大地によって室外へ連れ出された為、最後まで相手に伝わったかはわからない。



「クソ犬の化けの皮…剥いでやるよ」





そして、副社長が呟いた短い言葉が、私に届くこともなかった。

残業お仕置きシーン、引っ張りすぎましたね笑

でも…


もうちょっとだけお付き合いお願いいたします汗

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