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じゅう。

大地がいるせいで人間になれない拓に代わり、私は2人分の夕飯をテキパキと作り始める。

その間、大地が拓のことをじーっと観察するように眺めているのをびくびくしながら見ていた。



大丈夫、大丈夫。

もし何か見られてとしても、猫が人間になるなんて非常識なことを鵜呑みにするわけがない。

見間違いで済ませるわよ。



「だ、大地!あんまり構いすぎると嫌われるよ?ただでさえ苦手意識持たれているのに」


「ん?あーまあ、今更?」




無理やり仰向けにされてお腹をぐにぐに揉まれている拓。


(私ももふもふしたい)


助けたいけど手が出せずオロオロしている陸。


(困り顔も可愛い…)


我関せずとばかりに私にくっついてくる朔。


(足にまとわり付かれる好きだー!)




いつもの光景。

大丈夫、大丈夫。



「はい、できたよー」



本当にお腹が空いていたのか、大地は大きめに作ったハンバーグをぺろっとたいらげてしまった。

作り手としては気持ちがいいくらいの食べっぷりだ。




「あーーー美味かったーーーー!サンキューな!!」


「はいはい、お粗末さんでしたー」


「あ、お礼に片付けは俺がやるよ」


「え?いいよいいよ、疲れてるでしょ?早く帰って寝な?」


「食ったら体力回復したから問題ない」


「そう…?じゃあ、お願いね。私はお風呂入れてくる」


「え?風呂まで入れてくれんの?」


「大地は自分の家で入りなさーい!」



ケラケラ笑う大地は慣れた手つきで食器を洗い始めた。

お互い、伊達に長く一人暮らしをしていない。

家事なんてお手の物。



安心して片づけを任せ風呂場へ向かうと、後から黒い塊もトトト…と付いてくる。

水が大の苦手なくせに朔だけはお風呂場にまでいつも付いてくる。


前に誤ってシャワーをぶっ掛けてしまった時は、その鋭い爪の餌食になってしまった。

あれは痛かった。

朔は朔でやっちまった感が駄々漏れ。

尻尾も耳もぺたーんと下がった姿にちょっと笑ってしまったのは内緒な話。

朔に引っかかれたのは後にも先にもあの時だけだ。



ふふ。

思い出し笑いをしながら腕をまくり、シャワーとスポンジを手に浴槽の前に膝を付く。


すると、トンっと私の体の両端に大きな手が置かれ、背中に温かな重みを感じた。



「俺あいつ嫌い」


「朔!!だ、ダメだよ人間になっちゃ!大地がまだいるんだから!」


「俺、あいつ、嫌い」



朔は初めて会ったその日から大地を嫌っている。

彼もまぁまぁ猫好きだから構いすぎて嫌われるっていつもしょんぼりしているのだけれど、朔の嫌い方はどうも違ったように感じる。


尻尾でも踏まれたか?



「う…うん?そんなにはっきり言われるとちょっと大地に同情しちゃうんだけど」


「このみは、俺のものだろ?」


「…ふへっ!?」



頭のてっぺんに柔らかく口付けされ、ぎゅっと抱きしめられる。

スリスリと頬擦り。

お腹に巻きつくがっしりとした腕。


彼も膝を付いているのか、私の背中と彼の胸はピッタリとくっついていて振り返ることも許してくれない。



「朔?どうした?大地が来ちゃうよ?」


「もう少し…」



あんまりにも朔が切ない声を出すものだから、それ以上抗うことが出来なくてじっと彼の温もりを感じていた。






大地は何に気づくことも無く、満足気に帰っていった。

顔にも幾分生気が戻ってきたようなので一先ず安心。

向かいのドアが閉まり、施錠の音を聞いてからフーーっとゆっくり息を吐く。



こんなに緊張していたら、いつか絶対バレる。

大地は頭もよければ勘もいい。

しっかりしろ、私。




部屋の中に戻ると、陸が軽やかに私の体を登りぎゅっと抱きついてきた。

まだまだ小さくてスマートな猫だからへっちゃらだけど、あと半年もすれば勘弁願いたくなるのかな。

耳元でうにゃうにゃ鳴いている彼も、きっと緊張していたのだろう。



「このみさん…あの、配慮が足りず、すみませんでした」



人になった拓がしょんぼりしながら謝罪を口にする。

ああ、ダンディーな人は眉尻を下げてもかっこいいのね。

跪いて土下座せんばかりの雰囲気なのは止めていただきたい。



「拓は悪くないよ。大地もいきなりだったし、私がちゃんと扉を閉めてなかったから。びっくりさせてごめんね」


「このみさん…」



縋るように拓に抱きしめられる。

後から、人になった朔が優しく頭を撫でてくれる。

首に巻きついたままの陸はスリスリと頬ずりをしてきた。




大丈夫、大丈夫。

私があなたたちを守ってあげる。


この幸せを手放したくない。




温もりに包まれながら、私はそっと目を閉じた。


男の嫉妬合戦です。

だって逆ハーだもん。


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