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99忍び込み

カルデラの地からローズレイア国を出て隣国に位置する大国であるジェンシャン国に入国した。これって不法入国になるのかな??


『またこの国に来るとは。物好きだな』

「もうザルド王はいないし、カシュアにも罪はないからね。それにチサドラの地もちゃんと治ったか見たかったしさ」

『ならカシュアに会いに行くのかい?』

「うん。国を出た以上自由だし、ジェンシャン国で回る予定だった地もあるでしょ?勝手に動くよりかは、カシュアに協力してもらった方が早いしね」


私のその答えに紅玉が「利用されるぞと」脅しをかけてきたけど、カシュアはそんな事しないと思うんだけどな。リハルト様の子供の頃からの知り合いだから、この国にいるって事は口止めしなきゃならないけど。


「それよりもどうやって入ろうかな。出来ればカシュアに直接会いたいんだけど、今は女王様なんだよね?うーん、不法侵入したら捕まるかな?」

『窓から忍び込むつもり?警備は厳しいと思うからそれは流石に無理じゃない?』

「あ!ラーシュ姫の部屋ならちょろくない?」

『あの小さなお姫様か。うん、それならいけそうだね』


蒼玉と盛り上がる私を見て紅玉が溜め息を吐いた。神子がこんな真似をするなんてと呆れているんだろう。私だって色々と思う所があって隠密に行動してるんだから大目に見て欲しいな。


「よし、今日乗り込む!って事で蒼玉偵察して来て」


守護者ガーディアンは壁をすり抜けられるから、ラーシュ姫の部屋を探すのには持って来いなのだ。でもそんなに遠くまでは離れられないので、私も敷地内にはいなきゃいけないのだけどね。


『仮にも一国の主がいる城だよ?僕はいいけど、紗良見つからないでよ?』

「任せて!」

『俺がついてるから大丈夫だろう』

『そうだね。じゃあ、日が暮れてからにしよう。ダリアの居場所も考えなきゃいけないしね』


まだ日が明るいうちにダリアごと降り立つと目立ってしまうので、国の端で時間をやり過ごして、暗くなってから宮殿近くの森に降り立ってダリアを隠し、城に侵入する事にした。少し飛ぶぐらいなら蒼玉の水の力で何とかなるからね!






☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆






「それじゃあ、慎重にいきますか」


夜になり、辺りが明かりがないと先が見えずらい程真っ暗になったのを見計らって、宮殿の警備が手薄な場所からこっそりと侵入した。宮殿の裏側に辺り、静かな事から居住エリアに上手く潜り込めた可能性がある。そして私も規則正しい生活を続けて来た所為か欠伸をかみ殺す時間帯なので、寝静まっている可能性もなきにしもあらず。なんにせよ腕時計とかなく、時間が分からないので仕方ないのだけどね。


『(じゃぁ紅玉、紗良を頼んだよ。この場所なら暫くは大丈夫だと思うけど)』

『(任せろ)』

「(お願いね、蒼玉)」


話声でばれたくないので、声を出さずに会話をして蒼玉が壁の中に消えていくのを見送った。ここ姫の数が多いから探すの大変そうだよね。前も10人ぐらいいて、リハルト様にべたべたしてたもの。…思い出したらムカムカしてきたけど、もう私には関係ない事だよね。


『(なんだ、王子の事でも思い出したか?)』

「(え!?何で!?)」

『(心の中で色んな物が渦巻いているからな)』

「(勝手に覗かないでよね)」

『(仕方あるまい、感じ取れるのだから)』


そうでした。守護者ガーディアンと契約する事により、私の感情が伝わるんだったわ。二人とも普段は気付いてても特に何も言わないからあんまり気にした事はないけど。


「(…本当はね少し後悔してるの。あんな風に飛び出して来たこと)」

『(なのに戻らないのか?)』

「(知ってるくせにそういう事言うんだ?)」

『(別に構わないと思うがな。使命よりも好きな奴を選んだって。人の心は複雑でそんな簡単に折り合いがつけられるものでもないだろう。神子に拘る理由が俺には分からない。自分の気持ちを押し殺してまでやらねばならぬ事か?)」


それを紅玉が言っちゃうの?私は紅玉の為もあって行動に移そうと決めたのに。


「(でもそれじゃあ、あの地へはいつまで経っても行けなかったかもしれないんだよ)」

『(確かにそれは困る。だが、その所為で神子が不幸になる事を俺は望んではいない。それをあいつも望まないだろうからな)』

「(っ、そんなの今言わないでよ。もっと早く、…っ。ーーーーーーいいの、いずれ訪れる日が早まっただけだから。寿命の長さが違うと知った時からいつかは離れようと決めてた事だからさ)」

『(………それならそんな顔をするな)』


吐き出しそうになる自分の弱さをグッと堪えて笑顔でそう言えば、紅玉は何とも言えない表情で私の頭を撫でた。そんな顔ってどんな顔だろうか。鏡持ってきてないから、今自分がどんな顔をしているか全然分からない。笑顔でいるつもりなんだけど、笑顔に見えてないんだね。

それにこの行動をとった理由はそれだけじゃないし、もっと早く紅玉が言ってくれたとしても結果は変わらなかったと思う。何にせよ白銀の一族の事は放っておけなかったし、それがこの世界に来た理由だとも思った。勿論、守護者ガーディアンを救うって事もそうだけど。


「(…神子になって初めて守護者ガーディアンに会った時、凄く嬉しかったの。私をあんなにも必要としてくれた人なんて今まで居なかったから。私はずっと誰かに必要とされたかったんだなって、その時初めて気付いたの)」


純粋に神子を愛す守護者ガーディアンに心が震えたの。この子達の為なら死んだって構わないと思える程に愛しいと思った。それは子に向ける親の気持ちに近いのかも知れない。


「(私じゃなくて神子に向けられた気持ちだって分かってる。だから私は守護者ガーディアンに関わるうちに神子になっていった)」


紗良としての私は影を薄めて神子としての私に染まっていった。困ってる人も悪人も等しく救いたいという気持ちは前の私にはないものだから。


「(必要とされるのは神子ばかりだからそれでも良かった。だけどこないだの事で本当は私自身を必要として欲しかったんだって分かった時に、怖くなったんだ)」

『(怖く?何故だ?)』

「(本当の私を知ったら、誰も必要としてくれないんじゃないかって)」


神子としての私が居なくなれば、皆離れていってしまうと思った。本当の私はとても弱いくせに強がってしまうし、誰とでもすぐ仲良くなれるような社交性は持ち合わせていない。人見知りでマイナス思考だから初めて会う人は正直怖い。変な人だったら嫌だなとか、嫌われたらどうしようとかそんな風に思ってしまう。


「(思えば初めから私は偽っていたのかもって思ったらさ、リハルト様は偽りの私と神子の私を好きになったのであって、本当の私を知ったら幻滅しちゃうんじゃないかな)」

『(それら全てを含めて神子なのだろう?偽りとかではないと俺は思う。擬態して生き残る生物の事を、誰も弱いとか偽物だとか卑怯だとは言わないだろう。それを何と言うか知っているか?したたかと言うそうだ)』

「(強か…)」

『(だから偽りの姿だったわけではなく、強かに生きて来た神子の一部だ)』


私の一部か…。慣れない環境で適応して生きて行こうとした私の強さなんだよね。そっか、なら偽りではなくてこれも私なんだ。神子である私も社交的な私も弱い私も分けたらいけない。全部ひっくるめて私なんだよね。リハルト様のように器用に考えられないなら、全て私だと受け入れてしまえばいい。三上紗良は色んな顔を持っていたっていいんだ。


『(兎に角、馬鹿は難しく考えるなって事だな)』

「(何それ!酷くない!?)」

『(本当の事だろ。いつも同じような事で堂々巡りしおって)』


溜息を吐く紅玉にぐうの音も出ない。どうせウジウジと同じ事で悩んでますよー!!くそぅ、悔しいけど私には言い返せない。でも紅玉のお陰で心が軽くなったから感謝だね。


『(見つけたよ!ラーシュ姫は今寝床に入った所だから急いで)』


蒼玉が戻って来たので見つからないように、宮殿内に進入した。ラーシュ姫の部屋は二階にあるらしいので見張りの目をかいくぐって二階に上がり、ラーシュ姫の部屋の前へと辿り着いた。扉をゆっくりと開いて音を立てないように部屋の中に足を踏み入れる。


「(何だか泥棒みたい)」

『(神子が夜中に不法進入って何だか笑えるね)』

「(全然笑えないけど?)」


こっそり入ったのはいいけど、話を聞いて欲しいので寝たばかりであろうラーシュ姫に声を掛けた。


「ラーシュ姫、起きて」

「……ん、お姉様…?」


少し体を揺すり起こすと沢山いるうちの姉の一人だと思ったのか、寝ぼけながら重い瞼を開けて目を凝らしたラーシュ姫にフードを外し優しく笑いかけた。


「今晩はラーシュ姫」

「え!?み、神子さ…むぐっ」


驚きから声を張り上げるラーシュ姫の口を急いで塞いで、騒がないで欲しいとお願いすると、コクコクと頷いてくれたので手を離した。


「前は記憶をなくしてしまってあの時は約束守れなくて御免なさいね」

「い、いえ!あれは父上のせいでしたから…。私達を生かして下さってるだけでも感謝しなければなりません!それに神子様は約束を守ってくれました!」

「…そう。ぬしは現れたかしら?」

「はい!是非お時間ある時に紹介させて下さい!!」


嬉しそうに笑顔で言ったラーシュ姫の頭を撫でてホッコリしていると、蒼玉が本題本題と急かしてくるので、ここに来た目的を話すことにした。チサドラの地は気がかりだったから良かったな。


「実はラーシュ姫にお願いがあってここまで来たのだけど、聞いて貰えるかしら?」

「神子様のお願いなら何でも!!」

「ふふ、ありがとう。では他の誰にも内緒でカシュアに会いたいの」

「お姉様にですか?…分かりました!知らせて来ますね」

「お願いね」


眠気は吹っ飛んだのか、元気よく部屋を飛び出して行ったラーシュ姫。巡り巡って自分のした事がこうやって何かの役に立つ事もあるから、人助けって大事だよね。全部が全部そうなるワケじゃないし、それを期待して手を貸してるワケでもないけどさ。誰かを生かす事でメリットになる事もあるのだとリハルト様にも知ってもらいたい。例え結果が同じだとしても私は最後まで信じたいんだよ。


バンっ

「神子様、連れてきました!」

「!!?」


突然大声で入って来たので驚いて後ろを振り返ると、ラーシュ姫に連れられて目を大きく開いて同じように驚いているカシュアの姿があった。


「まさかとは思ったが、本物か?」

「ごめんなさいカシュア。突然お邪魔してしまって」

「いやそれは構わないが何故ここに…いや、場所を移そう。ランご苦労だった。もう休め」

「はいお姉様、神子様お休みなさいませ」

「有難うラーシュ姫。お休みなさい」


カシュアは驚きを隠せないようだけど、冷静さを持ち合わせているようでラーシュ姫の前で話を聞く事はしないで、別室に他の家臣たちに見つからないように移動した。前あった時よりも凛々しくなってかっこよくなったなー。女性にモテる女性だよね、カシュアって。服装もドレスじゃなくてリハルト様とかが着るような服着てるし、かっこよくて憧れるなぁ。


「それで?まさかとは思うがローズレイアから逃げて来たのか?」

「逃げてって訳じゃないけど…、似たようなものなのかな」

「なんだリハルトと喧嘩しただけか。てっきり我が国に乗り換えて来たのだと思ったんだけどな」

「喧嘩とも違う…もう終わりにしたの。全部」

「ふーん、あんなにお互い想い合ってたのに?それで神子様は本当にいいのか?」


心配そうなカシュアの言葉に涙がポロポロと出た。もう泣かないって決めたのに涙腺弱すぎて嫌になる。私が泣いてる事に驚くカシュアがハンカチで涙を拭いてくれて、私が泣きやむまでまってくれた。イケメン過ぎて惚れそう…。


「私は私を大事に出来ないからあの場所にはいられないの。誰かが犠牲になるなんて耐えられないから…」

「…この国での神子様の行動は聞いているんだが、神子様はどうしてそこまで他者の為に身を投げ出せるんだ?普通はわが身が一番可愛いだろ?」

「え?…えっと、誰かが困ってると体が勝手に動くと言うか…。自分の体の事は自分が一番良く分かってるし、早くなんとかしてあげなきゃって気になちゃって無理をしちゃうんだよね」


救ってあげられる力がある事も原因なんだと思う。やれば出来てしまうし、今までも何とかなってきたからって思っちゃうんだよね。それがいけないんだけどさ。


「生まれながらに神子様気質ってわけか。これはリハルトも今まで気苦労が絶えなかっただろうね」

「うん…。沢山心配も迷惑もかけちゃった。私の所為でリハルト様は早死にするんじゃないかって思う程に」

「あはは!先に禿げそうだな」

「禿げ…」


禿げたリハルト様を想像しようとしたけど、あのキラキラした顔に禿げた頭が想像出来なくて断念した。そして顔を思い出した所為で寂しくなってしまったので、両頬を自分の手で叩いて気合をいれたらカシュアが吃驚していた。そりゃそうだよね、ごめんねカシュア。


「だ、大丈夫か?」

「うん大丈夫!気合入れただけだから気にしないで!!」

「そうか…。何があったかは知らないけど力になれる事があれば言ってよ。神子様のお蔭で救われた場所のお礼をしなければね」

「それは報酬貰ってる筈だし、それが私の仕事だもん気にしないで。あ、でも一つだけお願いがあるんだけど」

「いいよ、何?」


カシュアにこの国で異変が起きてる所に行って守護者ガーディアンを助けたいので力を貸して欲しいとお願いすると、快く了承してくれた。


「それはこっちが助かるから有り難い。報酬はいくら欲しい?前と同じくらいか?」

「あ、ううん!それは大丈夫。私がやりたくてやってるだけだから」

「は?…無礼を承知で言わせてもらうけど、神子様って馬鹿なのか?」

「え…?」

「それなりに体張ってやっている事を無償で働くのは学がない馬鹿のする事だ。誇りを持ってやっている事なら尚更報酬は貰うべきだ。でなきゃ損しかしない」


あー…うん、普通の仕事ならそうなんだけどさ。別に元手も掛かってないし、何よりも神子だからそういうのは私自信は貰えないよ。ローズレイアにはお世話になっていた恩返しのつもりもあったから、何にも言わなかっただけだしさ。


「損とか得とかで動いてないから、それなら馬鹿でいいよ」

「――――はは、ならその馬鹿をこちらは利用させて貰うよ。どれぐらい滞在予定だ?その間はこちらで神子様の面倒を見よう」


…?カシュアの表情が変わった気がする。あ、女王としての顔かな?この国を背負ってるもんね、当然だよ。でも少しだけ怖いって思うのは気の所為かな?


「行く場所があるからあんまり滞在出来ないの」

「一週間か?」

「…それよりももう少し短い方がいいかな」

「なら五日でどう?」

「うんそれぐらいかな」

「分かった。こちらで場所を選んでおくよ。早速明日からで構わないか?」


カシュアの言葉に頷くと満足そうに頷き返してくれた。部屋はこのままここを使っていいみたい。一人だけ世話係を付けるとカシュアが言ってくれたので、言葉に甘える事にした。カシュアが部屋を出て行くと蒼玉が姿を現した。


『…紗良、少しだけ気を付けた方がいいかも』

「え?どうして?」

『カシュアは今や一国の王だからね。神子の存在はどの国も喉から手が出る程、欲しいんだよ』

「…うん、分かった。気を付けるね」


カシュアは強引な真似はしないと思うけど、用心するにこした事はないもんね!



気付けばもう99話だ。

皆様いつも読んで頂き感謝です!

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