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96連れてけ騒動

「絶対に俺も行くからな!!!」


鼻息荒く俺は大声で叫んだ。姉ちゃんが居なくなったのに、こんな所でジッとしてられるかよ!!それに俺の力は姉ちゃんがいなきゃ最大限には使えねぇし。聖杯グラールなんて誰も知らねぇから、俺が着いて行っても問題ない筈だ!!


「恭平、落ち着けって。お前に神子様から伝言預かっているんだが、聞いてからもう一度考えろ」


ヤーティス(マスターって呼んでたけど、止めてくれと言われたので名前で呼ぶことにした)が珍しく真剣な表情で俺を諌める。姉ちゃんからの伝言?そんなもん、聞いても聞かなくてもこの気持ちは変わらねぇよ。


「なんだよ」

「「私はあんたの姉ちゃんじゃない。赤の他人だから私に構うな」だとよ」

「…は?なんだよそれ!俺に諦めさせる為に嘘言ってんじゃねぇよ!!」

「一字一句間違えてない。神子様はお前を切り離したんだ」

「っ!なんでだよ!!なんで、姉ちゃんは家族を簡単に捨てられるんだよ!!」


俺はヤーティスの胸ぐらを掴んで怒りをぶつけた。だけど元騎士団長に敵う筈もなく、簡単に投げ捨てられた。情けねぇよな、この世界で一人になる事が俺はとんでもなく恐ろしい。お前はもういらないって言われる事が堪らなく怖いんだよ。家族に拒絶される気分はもう二度々味わいたくなかったのによ…。


「それだけの覚悟を持って出て行ったんだろ。恭平、お前にそれが止められるのか?神子様の考えを変えられる自身はあるのかよ」

「…っそんなの分かんねぇよ!でも、でも俺は行くからな!!そんで姉ちゃんに会ってふざけんなって一発殴ってやる!!」


姉ちゃんの考えてる事なんて俺にはいつも分かんねぇよ。でもな、姉ちゃんの言葉が俺を切り離す為の嘘だって事ぐらいは分かんだよ!!だから殴って目を覚まさしてやるんだ。そんなの優しくねぇよって!嬉しくねぇよって!!


「どうしても行くのだな?」

「当然だ!俺は姉ちゃんみたいなお人よしじゃねぇから、聖杯グラールの活動なんて真っ平御免だからな!それに姉ちゃんの怪我治せるの俺しかいないから、なんかあった時には役に立つぞ!!」

「…そうか分かった。ファルド、カイトに伝えておけ」

「分かりました」


王子に命令されたファルドは部屋から出て行った。そしてヤーティスも王に用があるからと出ていく。これで部屋には俺と王子が残された。


「こうなったのは俺の責任だ。すまないな」

「…また喧嘩でもしたのかよ」

「喧嘩か…。そんな言葉で済んだらいいのだがな」

「どうせ姉ちゃんの怒りが爆発しただけだろ。いつもの事だよ」

「お前の忠告をちゃんと聞いておけば良かったな。だが俺が何を言っても紗良は納得してくれないだろう。人を殺める事にどんな事情があるにせよ、紗良はきっと一生理解してくれないのだろうから」


王子は自分の手を強く握り締めていた。見た事がないぐらい悲痛な面持ちで弱弱しい姿は、見てて居た堪れなかった。姉ちゃんは頑固だからそこは一生争い続けるだろうな。だけどそれでもいいから話して欲しかったんだと思う。


「俺らの世界ではさ、どんな理由でも人を殺したら罰せられるんだ。例えその理由が第三者が聞いて仕方ないよなって思ってたとしてもな。人を殺せば罪になる。そこに例外なんてない」

「…規律がとれている国なのだな」

「まぁ歴史を遡れば仇討が許可されている時代もあったから、今でこそだけどな」


世界が違うから何とも言えねぇけど、今のこの世界は前の世界の古い時代のようだ。だからこそ俺らが居た世界のように変えていけるのだと、姉ちゃんは思ったのかもな。


「この世界のルールに口出すつもりじゃねぇけどさ、殺すのは最終手段でいいと思うんだ。生かしておけば何処かで役に立つときが来るかも知れねぇ。改心して真っ当に生きようと思うかも知れねぇ。それがいつかの誰かを助けられるかも知れねぇ。……姉ちゃんはそうやって王子に伝えたかったんじゃねぇのかな」


世の中そんな綺麗事で生きて行けるなんて思ってねぇよ。でもさ、その可能性も0ではないと思うんだよな。少しぐらい明るい未来に賭けて見てもいいんじゃねぇのかな。


「恭平のように紗良が話してくれれば分かりやすいのだがな」

「姉ちゃんの悪い所は言葉ってかせつめいが足りないんだよな。自分の考えが相手も分かってる前提での話するからな。なのに分からないと怒るんだぜ?エスパーじゃないんだから無理だっつうの」

「えすぱーとは?」

「超能力者って言っても分かんねぇかな?人の心が見える奴の事を言うんだよ。そんな奴に出会った事ないけどな」


その説明に王子は成る程と頷いた。でも実際に見えたらつまんねぇけどな。人付き合いで失敗はしないけど、何でも見えるって事は好意や悪意も見えるって事だろ?キツイと思うけどな。


「エスパーとやらの能力はないが、もう少し紗良と話をする時間が必要だったようだな。何を伝えようとしているのか汲み取る努力が俺には足りなかったようだ」

「…真面目だな。王子だけじゃなくて姉ちゃんが駄目なんだよ。王子なら他にもっといい女捕まえられると思うけどな。あんなめんどくさい女、俺なら御免だけどな」


笑いながらそう言えば、王子は眉を顰めた。どうやら気に障ったようだ。


「紗良以上の女を俺は知らない」


真顔できっぱりとそう言われてしまった。こっちが照れるからやめてくれねぇかな?姉ちゃんの何処がいいのか俺にはさっぱり分かんねぇけどさ、王子にこんなに想われてんだから幸せ者だよな。なのに何で不幸な方へと姉ちゃんは行っちゃうのかね?幸せアレルギーでも発病してんのかよ。


「…あーあ、俺も彼女欲しいな」

「ん?カシュアがいるだろう?」

「彼女じゃねーよ!!忘れろよなその話…」

「なんだつまらん。好みの女はいないのか?」

「好み…」


その言葉に婚約発表の会場で出会ったジョセフィーヌの顔が浮かんだので、慌てて消した。


「い、いねぇよ!!」

「そうか。ジョセフィーヌ嬢か」

「そんな事一言も言ってねぇだろ!!」

「紗良に取り持ってもらうんだな」

「その姉ちゃんは誰かさんの所為でいないけどな!」


俺の言葉で王子に大ダメージを与えたらしく、ようやくいつも通りの王子に戻ったと思えば、一気に表情が暗くなった。やべ、地雷踏んじまった。


ガチャ

「ただいま戻りました。…何かあったんですか?リハルト様」

「何でもない…」

「しゅ、出発は明日だよな?俺も準備があるから、また明日な」


タイミングよくファルドが戻って来たので、どんよりとした王子を放って俺はそそくさと自分の部屋へと帰った。


「キューィ!!」

「おっと。今日も元気だなマロ」

「おかえりなさいませ恭平様」

「恭平様がお戻りになって嬉しいんですよ。先程までマシュマロ様は寂しそうにしておられましたから」


メイリンとレイリンが微笑ましそうに俺に抱き着いているマロを見ている。もしかしてマロもどこかで感じてんのかな?姉ちゃんが居なくなった事。だから寂しそうにしてたんじゃねぇのかな?


「あ、そうだ。俺も明日一緒に行く事になったから」

「まぁ、でしたら準備をしなくては!」

「明日までに荷物を纏めておきますね」

「あぁ、頼んだ」


マロを引き離してクッションの上に乗せてやり、俺もソファーに腰掛けたらマロが再び飛んできて俺にピッタリと寄り添った。


「なんだよマロ」

「キュー」

「お前は甘えん坊だな」


マロの真っ白でフワフワな毛を優しく撫でてやると、嬉しそうに鳴いた。マロを連れてけないだろうし、暫くは会えなくなるからな。今日は一杯遊んでやろう。姉ちゃんも居なくなって、俺も居なくなったら悲しむだろうか?…ならちゃんと説明してやった方がいいよな?


「なぁマロ」

「キュ?」

「姉ちゃんが居なくなったんだ。だから俺は探しに行かなくちゃならない」

「キュン!!」


俺が言った言葉にマロは任せろっといった風に胸を張ってパタパタと飛んでいる。気合入ってんなと苦笑して、そうじゃないと首を横に振った。


「マロはお留守番だ。何があるか分かんねぇし、マロに何かあったらお前の母ちゃんに合せる顔ねぇよ」


マロの頭を撫でながらそう言い聞かせると、ションボリして納得するかと思いきや、猛抗議を食らった。キューキュー鳴きながら全身で怒っている。どんだけ行きたいんだよこいつ…と思ったが、今日王子の部屋で騒いでた俺の様だと思い出して顔を覆った。


「どうかされたのですか?」

「いや、俺こんなんだったんだって恥ずかしくて…」


自分に向けて言ったのに、自分が馬鹿にされたと勘違いしたであろうマロに思いっきり腕を噛まれた。


「ギュン!!!」

「いっでーーーーー!!!こらマロてめぇ!!」

「ギャギャギャ!!」

「何怒ってんだよ!お前の事じゃねぇよ!!」

「キューーー!!」


血が垂れる腕を抑えながらマロを睨むと、マロは目に涙をしたためながら「もう知るか!」てな感じで窓から飛んで出て行った。


「…なんなんだあいつ。てかガラスぶち破ってったんだけど…」

「可哀想にマシュマロ様。泣いておられましたよ?」

「きっと恭平様と離れたくないんですよ」

「は?あいつ悪口言われたと思って怒ってるだけだろ?」


俺がそう言えば、双子の侍女は信じられないといった顔で俺を見た。


「恭平様、マシュマロ様の性別をご存知ですか?」

「そう言えば知らねぇな」

「女性ですよ。ですのでマシュマロ様は恭平様の事が大好きなのです。片時も離れたくないのに、恭平様が分かってくれないから怒っているのですよ」


え?いやいや待ってくれ!そんな人間の女性のように言われてもな。あいつ獣だけど!?っていうかまだまだ子供だろ?この双子偶に俺で遊ぶんだよな…。これもその場で適当に言ってるだけじゃねぇのかよ。


「ほら早く追いかけてあげて下さい」

「敷地内から出てしまって誰かに見つかると捕獲されてしまいますよ?」

「―――あ~もう!分かったよ!!」


頭を掻きむしってマロを探しに部屋から出た。俺が悪いみたいな感じにされたけど、腕噛まれて怪我をした俺は被害者だよな!?


「マロ!出てこいよ。怒ってねぇから」


名前を呼びながら探すものの、一向に見つからない。あいつの行きそうな場所なんて分かんねぇよ。いっつも部屋にいるからよ。


「あー…散歩の場所か?」


城の敷地内に池があるんだけど、そこがマロのお気に入りの場所で、よく水遊びしてるんだよなと思い出してその場に向かった。


ガサ

「キュッ」

ガサガサガサ!

「キュー…?」

ガバッ!!

「うわーーーーー!!!」

「キューーーーーー!!!」


行ってみれば案の定マロの姿が見えたので、茂みに隠れてわざと音と大声を出して驚かせば、相当驚いたのか飛び上がって逃げて行った。


「ちょ、待て待て!俺だよ!!恭平だって!」


走りながら追いかけてそう言えば、マロが止まって此方を振り向く。一瞬嬉しそうな表情をしたが、怒って出て来たのを思い出したのか、ツンと顔を横に背けた。


「(えぇー…。)」


これが人間なら面倒くさい女極まりないなと思いながら、どうしたもんかと考える。離れたくないのは分かったけど、連れて行くのを王子が許可するとは思えないもんな。


「悪かったよ、そんなに離れたくないなんて思わなかったから」

「キュ」

「でも俺にはお前を連れてける権限はないんだ。分かってくれよ」

「ギィウ!」

「だから怒るなって。ならお前が王子を説得してみろよ。そしたら連れてってやるよ」


絶対無理だけど(言葉が分からないから)、何とかマロを納得させようと提案して見ると、マロはやる気満々で何処かに飛んで行ってしまった。


「えぇ…。何で出来ると思うんだよ」


苦笑しながらマロが飛んで行ったであろう王子の部屋へと急ぐのだった。




☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆




ガッシャーン!!!

「ブッ!!」


部屋で明日の出発に備えて仕事を片付けていたら、突然ガラスが派手に割れて何かが俺の頭に直撃した。あまりの勢いに顔をテーブルに強打してしまった。


「大丈夫ですか?リハルト様」

「っっ、一体何事だ!」

「ご自分の頭上に乗っているのが犯人です」


至って冷静なファルドに言われて頭に乗っている生暖かい物体に手を伸ばすと、柔らかな毛が手に触れた。


「…生き物か?」

「えぇ、マシュマロ様ですね」


その言葉にバッと頭に乗っているマシュマロを目の前に降ろした。


「キュイ!」

「…何の用だ」


何故か嬉しそうに羽をパタつかせながら鳴き声を上げるマシュマロに、鳥肌が立った。…小さい生き物は苦手なのだ。全く恭平は何をやっているのだ…。そっとテーブルの上に乗せると何やら必死で話しているが、いかんせん、何を言っているか全く分からない。


「キュイ、キューン!」

「分かるかファルド?」

「残念ながら」

「そうか」


割れたガラスと痛む額に深く溜め息を吐く。紗良が居れば何を言ってるのかも分かるのだがなと、考えても仕方のない事が頭をよぎった。


コンコン

「俺です。恭平です」

「入れ」

「マロ来て……るな。すんません!!」


王子の部屋のドアをノックして入ると、テーブルの上にいて王子に一生懸命訴えかけているマロと、背後にある割れた窓が目に入ったので即座に謝った。


「こいつは何を訴えてるのだ」

「あー…。俺に着いて行きたいって言ってんだよ」

「無理に決まってるだろう」

「そうなんだけどさ、納得してくれねぇから、王子に直接交渉して来いって言ったらこうなったんだよ」


俺にもどうしようもなかったんだと言えば、王子は頭を抑えた。すっげぇ分かるよ、その気持ち。


「恭平様、その腕どうされたのですか?」

「ん?あぁ忘れてた。怒ったマロに噛まれたんだよ」


俺は噛まれた腕をササッと治した。やべ、そこらへんに血垂れ流して来たかも…。ま、誰かが片付けてくれるよな?


「そんな凶暴な生き物は連れて行けん」

「でもさ、もしかしたら姉ちゃんの場所マロが分かるかもよ?」

「どういうことだ?」

「いや、姉ちゃんが居なくなったの気付いてたっぽいんだよな。だから遠くに行ったら分かんねぇけど、近くに居たらマロなら分かるかもなって思ったんだ」


これは口から出まかせだ。そんな確信はねぇけど、こうなった以上連れてかない限りマロが大人しくいう事聞くとは思えない。もしかしたらその可能性もあるかもよ、という希望を言ってみた。すると王子は少し考えた後に、渋々許可してくれたのだった。


「サンキュ!王子!!マロ、良かったな」

「キュイ!」

「くれぐれも目を離すなよ」

「分かってるよ!」


喜ぶマロを引き連れて部屋へと戻って、俺も頭を抱えた。


「窓どうすんだよ…」


その日は結局別室で寝る事になったのだった。



噛まれてもいいから思いっきりマシュマロをモフモフしたい。


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