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95大空に舞う

パシャン

「?」

『怪我の手当てをしよう』


突然手に水がかかり、ダリアの涎かなって思ってたら蒼玉の水でした。そのままだと菌が入るから土を洗い流してくれたみたい。


「大丈夫だよ!まだまだ掘れるから」

『駄目だ。紅玉が薬買って来てるから待ってて』

「あれ?いつの間に…」


城を飛び出しては来たものの、出る時用に準備してた荷物も蒼玉がちゃんと持って来てくれたみたいで、前に外出した時に残ったお金も入っている。それで人間に化けた紅玉が買いに行ってくれたらしい。


『ついでにスコップも頼んだから』

「え?…どうしたの?急に。さっきまで意地悪してたじゃん」

『紗良に怪我をさせたい訳じゃないからね』


申し訳なさそうに、蒼玉は私の手を隅々まで綺麗に洗ってくれる。大事そうに私の手を扱う仕草や表情がリハルト様にそっくりで、泣きそうになる。


「…ルドルフの馬鹿」

『え?何で!?』

「なんで、そっくりなのよ」

『…あぁ。双子だからね』


よしよしと私の頭を撫でる蒼玉に、じわりと目に涙が溜まり出した。胸にしまっておくとか無理だよ。忘れるとか絶対に無理。だって簡単に箱の蓋を開けて出てくるんだもの。


「っ、会いたい…」


リハルト様に会いたい。あんな別れ方なんて嫌だ。あれが最後なんて嫌だ。まだ1日も経ってないのに、会いたくて仕方がないよ…。


『なら戻ろう。リハルトも待ってる』

「ううんっ、ダメ、駄目だよ…」

『どうして?会いたいんでしょ?』

「それじゃ駄目なの。決めた事だから」


例え戻るとしても、各地の守護者ガーディアンを救ってからだよ。だってそれがこの世界に呼ばれた理由だと思うから。私が自分で行動した結果だから、泣く資格なんてないんだよね。だから紅玉が戻ってくる前に涙を拭いた。馬鹿にされちゃうしね!


ドサッ

『買ってきたぞ』

『ありがとう紅玉。さ、手当てしよう』

「あ、ジラフの所の薬?」

『そこしか知らないからな』


蒼玉は紅玉が買ってきた袋から消毒液(日本で売られてるような完璧な物ではなく、ヒラギという植物から抽出された液体で、殺菌効果があると言われている)を取り出して傷口にかけた後、塗り薬を塗って包帯を巻いてくれた。…深く切ったとは言え、大袈裟だな。


「ありがとう」

『どう致しまして。さ、これで残り頑張ってね』


蒼玉は物凄い良い笑顔でスコップを手渡してきた。


「え、手伝ってくれないの?」

『自分の事は自分でやるんでしょ?』

「ぐ…ガンバリマス」


仕方がない。スコップがあるなら断然作業は早くなるから諦めて一人で頑張ろう。スコップを握り締め、ダリアに次の場所への案内をお願いした。


「ふー…。やっと最後の一個だ!」

『さっさと終わらせちゃおう』

「もう夕方か…。まさか私がまだこんな近くにいるなんて、思ってないだろうね」


額の汗を拭いながらぼやく。小規模な森とは言え、ぐるりと一周しながら種を取り出していれば時間もかかる。今日一日何も口にしてないので、喉も渇いたしお腹も空いてきた。これが終わったら御飯でも食べに行こうっと。本当はシャワー浴びたいんだけどね。


「よし、ダリア最後だよ!」

「キュイ!(お疲れ紗良)」


取り出した種をダリアの前に転がすと、すぐさま浄化の炎で燃やしたので、これで外に出られるだろう。疲労からバタッと倒れ込んだ瞬間、森に地響きが起きた。


「な、何!?」

「キュー、キュイキュイ(森に張り巡らされていた結界が解けていく音だよ)」

「結界が…?まじないじゃなくて?」

「キュ(同じ事だよ)」


揺れる中で体を起こしてダリアにしがみつく。急に地面とか割れたら嫌だしね!解いてからでアレなんだけどさ、どうしてダリアはこの森に閉じ込められていたんだろう?


『ようやく揺れが収まったみたいだな。早くこの場を去った方が賢明だろう』

「え?どうして?」

『この揺れの規模からいって国も調査はするだろうしね。この森に狐竜獣ジャスマーがいる事も知ってるとなれば、まじないを掛けたのも国だと考えるのが妥当だよ。それに野次馬も集まって来そうだしね』


確かにまじないを掛けたのが国なら、直ぐにこの場所だと分かるもんね。でも何で国が?ダリアが昔暴れたりでもしたのかな?


「なら早く移動しなきゃね!ダリア飛べる?」

「キュイン(問題ない)」

「っお前ら何をしている!?」

「ぬぉっ、ヤバ、見付かった!」


ダリアの背に乗ろうとしていると、背後から誰かの声がしたので急いでよじ登った。…ん?待てよ?この声聞いたことある気がするんだけど。


「あれ?ヤーティス?」

『酒場の主人の?』

「み、神子様!?一体何をされてるのですか!!」


近付いて来た人影はやっぱりヤーティスだった。恭平のお世話になった恩人である。ヤーティスなら大丈夫かな?と思ってダリアから降りた。


「久しぶりヤーティス。この子は私が預かるから心配しないで」

「なぜ狐竜獣ジャスマーを?それに城を出たって本当なのですか?またリハルト様と痴話喧嘩されてるだけですよね?」


わぉ質問攻撃来たー。あんまりゆっくりしてる時間はなさそうだけど、誰か来るまでなら答えてもいいよね?あ、ちなみに蒼玉達は姿を消してるよ。一応ね。


「ありゃ、もう広まってるの?」

「いえ。私が元騎士だったので話が来ただけですよ。神子様が居なくなったとあらば、国民は大騒ぎになりますからね」

「そっか。残念だけど戻るつもりはないの。狐竜獣ジャスマーを解放したのも、その為だよ」


到着まで早かったし、ヤーティスがもしかしたら此処を管理してたのかもね。でも来たのがヤーティスで良かった。オルフェスとか口で上手く丸め込まれそうだもんね。


「恭平はどうされるのですか?弟ですよね?」

「恭平は巻き込めない。私が決めた事だからね」

「一人でどうされるおつもりで?」

「私の目的を果たすだけだよ。あ、そうだ!もし恭平に会う事があったら伝えて欲しいの」


あの子私の事が大好きだからさ(気持ち悪いけどね)、追いかけて来そうなんだよね。世界を越えて来たこの場所には親は居ない。それはつまり、私達が姉弟だと証明出来ないってことになる。


「「私はあんたの姉ちゃんじゃない。赤の他人だから私に構うな」って伝えて」

「それは恭平にとって酷な伝言ですね」

「ふふ、そうだね。…これは内緒にしといて欲しいんだけど、私のたった一人の家族だから不自由なく幸せに暮らして欲しいんだ」

「素直にそう伝えたらいいじゃないですか。ですが一応それは胸に仕舞っておきますね」


そんな回りくどい言い方しなくてもと呆れるヤーティス。どうやらヤーティスは私を引き止めるつもりはないようだ。引き止めても無駄だと分かっているからだろうか?それとも神子だから強く出れないのかな?まぁどっちにせよ助かるけどね。


「リハルト様に伝言はいいんですか?」


伝言なんて言われても困るんだけどな。マリーとかファルドとかリチェになら伝えたい事が沢山あるんだけどね。まぁ謝罪になっちゃうけど…。


『(紗良、近くまで人が集まって来たよ)』

「(分かった)」


蒼玉の報告に時間がない事を知る。再びダリアの背中に乗ってヤーティスさんを見下ろした。ダリアが立ち上がると更に小さくなり、手や足を伸ばしても決して届かない高さになった。この距離でも聞こえるのかな?


「…………ね…。ーーーーううん、何もないです!もう行かなきゃ!さようなら」


前半は思わず声が出てしまったけど、ボソッと呟くぐらいの声量だったから多分聞こえてないよね?後半は声を大にして別れを告げた。それと同時にダリアが空高く舞い上がり、木々の上に出て空に近づいた。


「っ、た、高い…」


高所恐怖症である私は落ちないように、しっかりとダリアの毛を掴む。下は見れないけれど、森に近い場所に王国の馬車が見えた。あそこにもしかしたらリハルト様がいるのかな…。


「キューイ(何処へ行く?何処へも行けるよ)」

「…取り敢えず、何処でもいいから少し離れて」

「キュン!(了解)」


ダリアは更に高度を上げて大きく羽ばたいた。横目で見える森がドンドン小さくなって離れていくのが見えた。無意識にキュッと結んだ唇が私の複雑な心を表わしていた。




☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆




「紗良!!」

「一足遅かったようですね」


国が大きく揺らいだ地響きに、父上から何者かが狐竜獣ジャスマーを解放したと言われ、紗良だと思い急いで駆け付けて来たが、どうやら間に合わなかったようだ。上空にそれらしき影が一瞬見えただけであった。


「ヤーティス、紗良は居たか?」

「先程まで此処に居ましたよ」

「やはりそうか…。何か言っていたか?」

「恭平への伝言を預かっただけです」

「俺には?」


その問いにヤーティスは静かに首を横に振った。あんな別れ方をしたのだから当然だろうな。ただ、心のどこかで何かを期待していたのは否めない。


「伝言はありませんが、神子様が零した言葉なら。思わず漏れてしまったのでしょう」

「それは何だ?」

「ユフィーネと。何の事か分かりませんが」


ユフィーネ?人の名前か?いや、そんな名前を紗良から聞いた事はない。一人考え込む俺をよそに、ファルドが紗良が残していった物を拾い上げていた。


「スコップに塗り薬と包帯ですか。怪我をされたようですね」

「自分の怪我の一つも治せない癖に、一人で生きていくつもりか…」

「蒼玉様達が居ますから心配ありませんよ」


それでは困るのだがな。一人では何も出来ないと泣いて戻って来るのが理想なのだ。だがそんな弱音を吐いて戻ってくるような女ではないから手を焼いている。本音も限界になるまで吐き出してもくれないのだから。


「リハルト様。此方に何かを掘り出した穴があります。確認しなければ分かりませんが、呪いの種を全て掘り出して狐竜獣ジャスマーを解放したと考えるのが妥当かと」

「そうだろうな」


ファルドが穴の前で膝を付きながらそう報告してきた。この場には紗良を追う為に来たのではなく(あわよくばな気持ちはあった)、父上のめいで地響きの原因を突き止める為に来たのだ。調査の為に穴を追って行くと、地面には森を囲むように一定間隔を保ちながら穴が開いていた。


「…やはり紗良が掘り起こしたようだ。しかしどうやってこの種の存在を知ったのだ?」

「使い魔の契約を結んだのでは?それならマシュマロ様のように言葉が分かりますから」

「方法が分からないと言ってた割には、土壇場で契約を結べてしまうのが頭の痛いところだな」


紗良にはその場で何とかしてしまう引きの強さがあるからな。仕事では頼もしい話だが今回は失敗して欲しかったな。


「これでは紗良様の移動ルートが絞れませんね」

「仕方あるまい。最終目的地はあそこで間違いないのだからな」

守護者ガーディアンの救出で寄り道しなければの話ですがね」


この場を後にして、一先ず城へと戻った。父上に報告を済まし、騎士達を集めて出発の準備を進めるよう伝えた。


「これにはお前が行け、カイト。連れて行く人間もお前が選べ」

「こんな時に役職あると面倒っスね。本当は団長が行きたいくせに」

「仕方あるまい。俺は此処を離れられんからな」


オルフェスはカイトの肩を叩いて、頼んだぞとその手に力を込めた。神子である紗良をオルフェスは娘のように可愛がっていた事は、騎士達全員が知っている。だか騎士団長として城を任されている以上、この場を離れる事は許されないのだ。だから一番信頼出来るカイトに託したのだった。


「そうっすねー、神子様と仲がいい奴いたかな?取り敢えず行きたい奴手を挙げて」


カイトの問いかけに、その場にいる殆どの騎士が手を挙げる。その数にオルフェスは頭を抱えた。


「おいおい。それじゃあ誰が城を護るんだよ」

「団長っすね。強いんで一人いれば十分事足りるんで大丈夫でしょ」

「ふざけるな。完全なる人手不足だ」

「我儘言わないで下さいよー。んじゃロイドとティスターは決定な。顔見知りだったよな?」

「「はい!」」


この二人は、紗良がこの世界に来た時に初めて出会った騎士だ。雪遊びの日も参加しており紗良とも仲がいい。後は適当に紗良とあまり関わりのなかった騎士を数人カイトは選んだ。何故なら顔が割れてない方が何かと便利な時もあるからだ。


「まぁ神子様がどれだけ隊士達の顔を覚えてるかが問題っすけどね」

「それは問題ないだろう。基本、体しか見てなかったからな」

「体で判断出来る感じですか?…なんか厭らしくないすか?」

「知らん。俺に聞くな」


カイトが抜擢した人数は五名。自身を入れて六名だ。あまり多すぎても目立つので、少数で何かあった時に対応できる腕の立つ人間を選んだのだ。


「副団長、出発はいつでしょうか?」

「明日には出発する。暫くは帰って来れないからな、ちゃんと準備しとけよー」

「はい!!」

「団長、この遠征から帰ったらボーナスでますよね?」

「まったくお前は。…交渉しといてやるよ」


こそりと耳打ちするカイトにオルフェスは溜め息を吐いた。こんなふざけてはいるが、カイトなりに神子を心配しているのだろう。でなきゃ遠征の任務なんてもっとブチブチと文句言ってくるからな。


「ん?そういや恭平はどうするんすか?」

「知られてはおらんが聖杯グラールだからな、連れて行きはしないだろう」

「甘いっすね団長は。あの神子様の弟ですよ?はいそうですか、って納得するようなたまじゃないと思いますけどね」


その言葉にオルファスは頭をガシガシと掻いた。何故なら今まさにそれで揉めている王子達を思い浮かべたからだ。この遠征の話をされている時に、誰かから事情を聞いた恭平が乗り込んできていたからな。


「ま、そうなったらなったでお前が面倒見ろよ」

「えー俺っすか?あーあ、全く神子様は脱走が好きなんだから。さっさと連れ戻して美味しい物でも作って貰おうっと」


紗良の作るお菓子のファンであるカイトはそう呟く。これがいつもの脱走では無い事ぐらいカイトは分かっている。だけどいつもと変わらないと言う事で、紗良は帰ってくると、心配はいらないという意味合いが含まれているのだ。素直じゃないなと、オルフェスはそんなカイトの背中をバシッと叩いてその場を後にするのだった。



赤髪の隊長さんの名前が95話目にして漸く登場しました。1話から出てるのに可哀相なティスター。

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