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92神子の立場と責任の重さ

少し短いです。

「まぁ紗良様どうされたのですか!?」

「恭平に殴られた」

「えぇ!?一体何が…」


私を部屋に送り届けたファルドは戻っていった。心配するマリーから濡れタオルを渡されて顔を冷やしながら、先程の出来事を話した。


「それは紗良様がいけませんね」

「どうして?」

「紗良様は自分勝手です。自分さえ良ければそれでいいのでしょう?」

「そんな事言ってないよ」

「いえ、そう思われても仕方がありませんよ。紗良様に何かがあった時に、私達が紗良様を心配しないとでもお思いですか?」


マリーが目尻を下げて私の目を見つめた。そうだ、私はいつも勝手に行動して皆に心配掛けてた。リハルト様だっていつも不安そうな顔で私を抱きしめてくれていた。馬鹿だ私。酷い事言ってしまったんだね。


「……。これじゃあ、殴られても文句言えないね…」

「そうですよ。紗良様を守る為の決断なのですから。白銀の一族の事もいいですけど、たまにはリハルト様の気持ちを汲んであげて下さいね」


私自分の事ばっかで周りが見えてなかった。私が皆が傷付くのを嫌がるように、リハルト様達だってそう思ってるんだよね。なのにその気持ちを踏みにじる様なことを言ってしまったから、恭平が怒ったんだ。


「ふふ、勝手に死ねだってさ。初めて言われたよ」

「恭平様もカッとなっただけで本心ではないと思いますよ」

「うん。大丈夫、分かってるよ」


頬がじんじんとするこの痛みは恭平の心の痛みなのかも知れない。優しい子だから、私の言葉にリハルト様達の気持ちを考えたら我慢できなかったんだろう。お蔭で目が覚めたよ。恭平にお礼言わなくちゃね。


「紗良様どちらに?」

「恭平のとこ」

「え、今すぐですか?」

「そう。早い方がいいでしょ?」


そう言って部屋を出た。恭平の部屋に向かう途中で本人を見つけたので、部屋まで行く手間が省けた。


「恭平」

「あ?なんだよ。謝らねぇからな」

「ごめんね」

「…は?」

「マリーに言われて気付いたの。皆の気持ちを蔑ろにして自分の事しか考えてなかった。酷い事を言ったって分かったよ」


私が恭平に謝ることなんてほぼないから、呆気にとられていたけれど、すぐ正気に戻ったのか恭平も謝って来た。殴ってごめんだって。痛かったけど私が悪かった所為だし、別にいいのにさ。


「じゃあ一発殴らせて?」

「は?意味分かんねぇし」

「大丈夫大丈夫!おあいこでしょ?」

「いや、俺悪くねえし…」


じりじりと後退する恭平に笑顔で拳を握れば、走って逃げた。


「ぷ、あははは!!どんだけ必死なんだか」


恭平のお蔭で冷静になれたし、感情的にならずに考えなくちゃね。取り敢えずリハルト様にも謝りに行かなくちゃ。


「すみません。今は会いたくないそうです」

「え。謝りに来たんだけど…」

「お引き取りを」

「酷い!それってあんまりじゃない!」

「あの言葉にお怒りになられたのは恭平様だけではありませんよ」


だからと言って門前払いは酷い。頭冷えたんだから話ぐらい聞いてくれてもいいじゃない。なんて女々しい男なんだ。女の失言ぐらい笑って許せよーーー!!


「リハルト様の馬鹿ー!!!!」


ドアの前で怒りをぶつけて部屋に戻ってきた。マリーにも聞こえたのか何故か説教されたので、「マリーの馬鹿ー!」と叫んで部屋を飛び出して来た。…あれ?本末転倒じゃね?謝りに行ったのに結局喧嘩を売って来てしまったみたい。


「うわーん!!剣を貸してオルフェスゥゥゥゥ!!!」

「おいおい、御乱心か?がはは!神子には無理だぞ」

「出来る!!」

「たくっ仕方ねえな。カイト、お前の剣を貸してやれ」

「えー俺のっすか?偶に練習に来てみればこれだもんな。俺のでも無理だと思うんすけどね」


珍しくいるカイトから剣を手渡されたら腕が落ちた。重すぎて脱臼するかと思った!!グギギギと力を込めて剣を持ち上げるも少ししか浮かない。そう言えば私の腕力は子供並みで腕相撲に勝った事なかったんだっけ?


「ぐぬぬぬぬ…」

「ほらこうやって構えて振るんだぞ」

「神子様頑張るっす!」

「ぬおおおおー!!!やっぱ無理!もう無理!!」

ガシャーーン!!

「ちょ、俺の剣っすから!」


腕が悲鳴をあげたので剣を地面に落とすとカイトが慌てて拾い上げた。そんなに大事なら手放すなよと言いたいね。借りたの私だけどさ。


「で、どうしたのだ?」

「ちょっと心のモヤモヤを晴らしに」

「またリハルト様と喧嘩でもしたんすか?」

「うーん、似たような感じかな?」

「仲が良くてなによりだな!」

「人の話聞いてた?」


豪快に笑ってるオルファスに頭が痛くなってきた。折角なので久し振りに騎士達の鍛錬を見ていく事にした。禁止されてたから最近見れなかったけど、今はリハルト様が会ってくれないし、いいよね。


「…私も男なら良かったなぁ」

「何故だ?」

「だって女だと大事な話に入れてくれないのよ?護られてるだけじゃ嫌なのに」


騎士達が剣を振る姿を眺めてもいつもの様にはテンションが上がらなかった。体操座りをして顔を埋めて、小さく溜息を零した。


「(白銀の一族の件か)女は護るもんだって教わってきたからな。それが愛する者なら尚更だろ。いいじゃねぇか、大事にされてるんだからよ」


そう言ったオルフェスに、ぐしゃぐしゃと頭を掻きまわされる。ちょ、首がもげそうなんですけど!!?


「くび、首が!!」

「おお、すまんすまん!でもな神子様。俺がこうやって少し撫でただけで首が折れそうなぐらい神子様は弱い。弱いくせに無理をするだろう?」

「弱いって…。そうかも知れないけど…言い方ってものがあるでしょ」

「事実だからな、受け止めるしかない。上の人間てのは自分の命でも、自分だけの物ではない。色んな責任を負って生きている。あんたは神子として責任持って行動しているか?」


いつもの飄々とした顔ではなく、真剣に私の目を見て話すオルフェス。その真剣な問いに目を逸らしちゃいけない気がした。オルフェスに言われたのはいつも皆から言われる言葉だ。分かった振りしてずっと自分自身と向き合って来なかった内容だ。


「私は、考えも行動も私であり神子であると思ってる。…でも、今までの事を考えたらやっぱり私としてだったのかも知れない」


自問自答を幾度となく繰り返してきた。だけど違いが分からなくて曖昧な認識で行動してた。神子として生きて来た事がないから身の振り方が分からなくて、どの行動が正解か分からなくて。でもこうして考えてみると、私の行動は私だったんじゃないかなって思ったんだ。神子としてって考えたらもう少し控える行動が沢山あったと思う。


「私=神子は成立しないのかな…」

「しないな。神子様はこの世界に一人しかいないのだ。俺達は神子様の為なら命だって捧げられる。その意味を良く考えるんだな」

「命…」


そう言い残してオルフェスは部下の元へ戻って行った。


命なんて大層な物、捧げて欲しくなんてない。でも神子ってきっとそういう存在なんだね。騎士達は王や国を護る為に忠誠を誓う。それは自分の命を託すという事。そしてそれを王が拒否するという事は彼らの存在意義はなくなるという事だ。民も国も抱えていながら自らの命を大事にしない王など、誰が必要とするのだろうか?


「…はぁ。やっぱり私は全然分かってなかった」


私のしてる行動はそれだ。この世界でたった一人しかいなくて、私にしか救えない存在がいるのに、自分勝手に行動するという事は、その存在を裏切ってるのと同じなんだ。救えた筈の人達や守護者ガーディアン達を見捨てたのと同じ事なんだね。


「きついなぁ。こんなに身重だったなんて…」


明日食べる物もなく飢えて死ぬ人がいる中で、贅沢な暮らしをさせて貰ってる。でもそれは自分の責任を果たした者だけが得られる報酬であって、無責任な者に与えられる物ではないんだ。確かに世の中には責任を果たさず甘い汁を吸って生きている者だっているだろう。だけどその者達が死ぬまで幸せだった人はそう多くはないし、死んだ後もきっと天国にはいけやしないんだ。


「紗良様!見つけましたよ!!」

「マリー」


息を切らしたマリーが私の真横に見下ろすように立っている。その表情には怒りはなく、安堵の表情が浮かんでいた。


「良かったです。また町に出られたのかと思いました」

「うん、そうしてやろうと思ったんだけどね」


力なく笑ってそう言えばマリーが眉を下げて微笑んだ。私が外に出ると怒られるのはマリーだしね。ミルティナ達と出会った時もファルドがこっぴどく怒られたみたいだし。そうやって私が動くと誰かに皺寄せが来ちゃうんだよね。だからそれはしなかった。子供みたいな行動じゃもう駄目なんだよね。


「今までありがとね。マリー」

「え、どうされたのですか?いきなりそんな事を言われるなんて…」

「ちょっと思う事が色々あってね」

「だからと言って、そんなお別れみたいな台詞を言わなくてもいいではありませんか」

「言葉のチョイスを間違えたみたいね。苦労かけてごめんねって事だよ」


マリーは私には言わないけど、きっとリハルト様やファルド様から色々言われてるんだろうな。だって神子様だもんね。そんな事も気付かないで自分の権利ばかり主張してた私は、とても愚かだって良く分かったよ。


「紗良様、居なくならないで下さいね」

「え?ふふ、大丈夫だよ。マリーにはこれ以上迷惑かけないって」

「絶対ですよ?」

「ちゃんと町に行くときはファルドの許可取るから、心配しないでよ」


笑顔でそう言って部屋に戻る為に歩き出した私には、マリー表情が陰ったことには気が付かなかった。



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