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83ネリウス坊ちゃん

「ふぁんふぁっれ!?」

「はしたないですよ紗良様。食べながら喋らないで下さい」


食事を口に含みながらマリーの話を聞き返すと、注意されてしまった。だってマリーの話の内容に驚いたんだもん!!ちなみに今日の朝はモリッペというイングリッシュマフィンのようなパンに、卵やハムなどを一緒に用意して貰いました!シュヴァインのハムって凄く美味しいの!!見た目は怖いけどね!


「ちょ、さっきのもう一度言って!」

「ですから、恭平様は本日町に出ております」

「何で!?」

「前から打診されてましたからね。酒場の主人に会いに行かれた様ですよ」


何で私は駄目で恭平がいいのよ!私だって町に一人で行きたいのにぃぃ!!!でも一人で行かせて大丈夫なのか聞けば、ちゃんと護衛がいるらしい。あ、そうだよね!神子の弟って知ってる人も多いもんね。


「よしマリー!行くわよ!!」

「駄目ですよ。何言ってるんですか?」

「だって恭平が良くて、私が駄目っておかしくない?」

「おかしくありませんよ」


その後、何度マリーに交渉しても駄目だった。いいじゃんいいじゃん!リハルト様は忙しそうだし、ファルドもリハルト様の元で仕事してるんだから、少し出たぐらいでバレないのに!ルーナスさんに作ってもらった変装用の衣装だってあるのにさ…。


「ほらマリー!濃い紫のカツラなら黒い瞳のままでも、パッと見分からないでしょう?」

「…そうですけど、駄目ですよ。ファルド様の許可を取って下さい。前に誓約書書かされたの忘れたんですか?」

「ぬあーー!そうだった!!でも数時間だけなら大丈夫よ!」

「いけません。ファルド様の勘はとても鋭いのですよ。こういう時に限っていらっしゃるのですから」


それでも狡いと騒ぐ私にマリーが溜め息を吐いて部屋から出ていった。その隙にショートのカツラを被り、男性用の衣装に着替えた。男性用って言っても、どこぞの貴族のお坊ちゃま風の衣装だ。ルーナスさんが大人の男性はあんたには無理よ!と言われてしまったからね。


ガチャ

「よし、誰も居ないわ…ね…」

「その様な格好で、どちらに行かれるのですか?

「ファ、ファルド…」

「まさか約束をお忘れになった訳ではありませんよね?」

「も、勿論よ。これはその…、気分を変えて散歩に行こうと…」


見たこと無い満面の笑みに体が震える。全然笑ってないじゃん!目が、目が怖すぎるんですけど!!目を合わせられないので、俯きながらもごもごと喋っていると、カイトが声を掛けて来た。この状態のファルドに声を掛けるとか勇気あるわね。


「あれ?ファルド様何してんすか?ん?誰この子」

「見て分かりませんか?脱走しようとする紗良様に説教している所です」

「んん?お、ホントだ!美少年かと思えば神子様か!好きっすね、脱走するの」

「だって恭平が外出許可出て、私が駄目な意味が分からないんだもん!」

「でも恭平には団長が一緒っすよ」


おおう、オルフェスが護衛なんだ…。逆に目立ちそうだけど大丈夫なのかな?この剽軽な男はカイト・ブルームで騎士団の副団長だ。鍛錬はよくサボっているけれど、実力は折り紙つきらしいので許されてるって話。


「あ、なんなら俺が付いて行きましょうか?この恰好なら神子様って絶対分かんないので平気っすよ」

「…そうですね、カイトがいるなら安心ですね」

「え!?いいの!?」

「ええ。ですがくれぐれも神子とバレない様に。いいですね?」

「うん!約束する!!よし、今すぐ行くわよ!!」

「んじゃ行ってきますねファルド様」


カイトのお蔭で町に出られるー!と喜んでたけど、お金が無い事に気付いてファルドの元へ戻った。こいつ馬鹿だろって目で見られたけど、手渡されたお金の入った袋を手にその場を早めに立ち去った。


「何か買うんすか?」

「んー、特に予定は無いけど、恭平は酒場だから何か食べるかも知れないでしょ?」

「それぐらい団長に出させたらいいっすよ!」

「…カイトってオルフェスを敬ってないよね。え、財布にしか見えないの?」

「いやいや、尊敬してますよ?」

「そんな風には見えないわ」


城の裏口から町に出る。正面は人目に付く可能性があるからね。おっと、喋り口調も変えなくちゃ。少年の恰好してるのに、女口調は気持ち悪いもんね。


「神子様の事、外でなんて呼べばいいっすか?」

「好きに呼んでいいよ」

「じゃあ、坊ちゃんで」

「…うん、いいよそれで」


こういう男なのよね。まぁでも、それが自然に見えるのかな?裏道を通って(比較的安全な)メインの通りに出た。今日も賑わってますねー!ちょこちょこと買い食い&お土産を購入しながら酒場に向かった。


「坊ちゃんの買ってくるお菓子って全部旨いっすよね」

「ホント?良かったー」

「料理長も坊ちゃんの舌を買ってますしね」

「いつも色んな食べ物くれるんだよね。全部美味しいから、あれは料理長に舌を肥えさせられてるだけだと思うけど…。あ、ここだ」


ドアを開けて入れば元気のいい、ヤーティスとサリナスの入店の挨拶が聞こえた。酒場は神子様が来ただの、弟が働いていたなどで、噂を聞きつけたお客さんで連日大盛況だ。今日も大勢のお客さんで賑わっている。その中で恭平を探していると、ヤーティスが来た。


「カイトじゃねーか!今日はどうしたんだ?」

「どうも久し振りっす!今日は坊ちゃんの付き添いっすよ」

「坊ちゃん?お前城勤めだったよな?…ま、まさか…!」

「どうもヤーティス。遊びに来ちゃった」

「これはこれは!でも生憎満員で…。あ、恭平に会いに来たんですか?」

「ううん、会いにってか八つ当たりしに来た」


そう言えば顔を引き攣らせたヤーティス。とび蹴りはもうしませんので、ご安心を。するとカイトがオルフェスを見つけたので、相席をすることにした。恭平とオルフェスは旅人仕様に変装してるのによく分かったねと言えば「団長デカイんで」と帰って来た。まぁ、2ログ程あるもんね。


「失礼。店内が混んでいるもので、相席してもいいかい?」

「あ、あぁどうぞ」

「感謝するよ恭平殿」

「!!なんで俺の名前を!?」

「がははは!間抜けだな恭平」

「どうも。俺の顔をお忘れっすか?」


ここに来てカイトの顔が漸く視界に入ったようで、その後私に視線をずらすと恭平の顔がみるみる内に青ざめていく。なんだよ、化け物見た時みたいな顔しやがって。殴らないから安心してよね。目立つ事はしたくないのよ。


「カイト!!?まさか姉…ぬおお!」

「ネリウスだよ。忘れたのか?人の顔を」


何故か少年姿に扮した姉ちゃんに、顔を鷲掴みにされながら真っ黒な笑顔でそう言われた。ヤベェ!骨がミシミシいってんだけど!!?分かったという意味を込めて何度も頷けば、やっと離してくれた。なんだよ、俺が何したっていうんだよ…。


「…で?何しに来たんだよ。また勝手に抜け出して来たんじゃねぇよな?」

「カイトがいるからそれはないだろう。なぁネリウス」

「あぁ。恭平が僕を差し置いて町に出たのが気に入らなくてね。何故お前にだけ許可でるんだよ?」


うわぁ…それ俺の所為じゃなくね!?姉ちゃんの日頃の行いと、神子という立場の所為じゃね?いつも俺に八つ当たりしにくんのやめろよな…。勝手に人が注文した料理をつまみながら、ブチブチと文句を言っている。あー、胃が痛くなってきた…。


「恭平のお友達ですかぁ?」

「はい。ネリウスと申します。以後お見知りおきを」

「私ここの娘のサリナスです!ネリウスさんってお幾つなんですかぁ?」

「サリナスさんとそう変わらないと思いますよ」


誰だよこいつ。こんな甘ったるい声出すサリナスなんて知らねえよ。そして気付けよ!美少年に見えるかも知れないけど、そいつ姉ちゃんだよ!!姉ちゃんも何でノリノリで楽しんでんだよ!教えてやれよ!


「凄いっすね。まぁこれぐらいは坊ちゃんにとっては朝飯前なんだろうな」

「坊ちゃんは優秀だな」

「感心してないで止めろよな…」


せめて同性に変装しろよ。騙される女達が可哀想だ。周りを見渡してみれば、若い女性は姉ちゃんを見てるし…。それにしても前はおっさんばっかりだったのに、若者が増えたな。神子の噂のお蔭だろうか?


グイッ

「ちょっと恭平!いつのまにあんな素敵な人と友達になったのよ」

「は?あれは姉ちゃんだぞ?」

「ええ!!!嘘!!?」

「声でけぇよ!マジだって。良く見てみろよ」


サリナスに引っ張られて小声でそう聞いて来たから、真実を教えてあげたらかなりショックを受けていた。姉ちゃんの元に戻ってマジマジと顔を見つめてると、漸く気付いたらしいサリナスが小声で改めて挨拶していた。


「うう、お久しぶりです神子様。早く言ってくださいよ…」

「ごめんね。あまりにもサリナスが可愛かったから」

「その顔で言わないで下さい~!」

「あ、行っちゃった」

「がはは!罪な男だな」


オルフェスが面白そうに酒を飲みながら豪快に笑った。いや、女だからな!?いいのかよ!俺ら三人女に負けてんだよ!!くそ、なんで俺も姉ちゃんみたいに美形認識されないんだよーーーー!!!!!


「恭平この後どうすんの?」

「あー、ジラフのとこ寄ろうと思ってる」

「奇遇だね。僕もだよ」

「…それで行くのか?」

「気付くか試すんだよ」


呆れる俺にボソッとオルフェスが耳打ちしてきた。もしかして周りにどちらかの存在がバレたかも知れねぇってさ。は?なんでだよと聞けば、「カイトが城の騎士っていうのは有名な話だからな」だってさ。おい何で変装してこなかったんだよ!!!暢気に言う事じゃねぇだろうが!!


「まぁ落ち着けよ。他国の人間のお忍びを護衛する事もあるんだ。まぁ神子様は今男だし、バレるならお前だろうな」

「はぁ!?これ被ってたら大丈夫って言っただろ」

「長居しすぎたな。店主達と仲がいいのも裏付けになるだろ」

「じゃあ、そろそろ出る?」

「そうしようぜ。面倒事は勘弁だ」


「ここは僕が払うよ」と姉ちゃんが男前に金を払おうとしたのを、オルフェスに止められていた。坊ちゃんが金を払うのは不自然だってさ。そりゃそうだよな。メイドや使用人が払ったりするもんな。金を払って店を出ようとすると、何人かが声を掛けて来た。


「何か?」

「もしかして神子様ですか?それとも弟さんですか?」

「お隣にいらっしゃるの騎士団の方ですよね?」


ミーハーな若者達か。何故俺を見ながらチラチラ姉ちゃんを見てんだよ。そんなにイケメンに見えるのか?当の本人はニコニコしてるだけだしよ…。どうしたもんかと頭を悩ませていると、姉ちゃんが一歩前に出た。


「僕達は男だし、神子様って女性でしょ?それに弟君だとしても護衛一人でうろつかないと思うけど。もし僕達が本物だったら気安く話しかけると護衛の人が黙ってないと思うんだ。違うかい?」

「そ、そうですよね…」

「すみませんでした…」


満面の笑みでそう言い切る姉ちゃんに、俺は心の中で拍手を送った。その笑顔に女性客は顔を赤らめながら、スゴスゴと帰って行った。知らない内に注目を浴びていたのか、最初から気になっていたのか知らねぇけど、めっちゃみられてんだけど。


「お騒がせしてすみません。失礼しますね」


そそくさと酒場を出ると、何故か頭を殴られた。俺の所為なのか!?カイトの所為だろ!!


「この変装もうここで使えないじゃん」

「知らねえよ!カイト変装させて来いよな」

「え、もしかしてカイトの所為?」

「俺っすか?どう考えても恭平の所為っすよ」

「誰の所為でも構わんから移動するぞ。ここじゃ目立つからな」


酒屋に入りたいお客さんの邪魔になるので、薬屋に向かう事にした。姉ちゃんは自分じゃないという確固たる自信をもっているから話しになんねぇしな。俺も次回からは気を付けよう。じゃないと町に行く許可出して貰えなくなるからな。




年末年始多忙の為に更新遅いです。

すみません。隊長じゃなくて団長です。修正しました。

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