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81ファイヤー

薬のお蔭で貧血も治り、元気になりました。今日は昨日の事もあるので皆で菌糸のある場所まで来ています。まだどうすべきか解決の糸口が見えてないんだけどね。山火事覚悟でやるしかないかな。


「…うん、蒼玉ソウギョクがいるから大丈夫よね」

「何を一人で納得しているのだ?」

「エンリッヒさん。多少燃えても仕方ありませんよね?」

「まぁ多少なら。この山が全部燃えると困るけど…」

「それは大丈夫ですわ。安心して下さい」


笑顔でそう言えば少しばかり不安な顔をされた。植物なら神子の力で再生というか、活性化出来るからね。この菌糸が残るよりは山が燃えた方がいい。うん、きっと大丈夫よね!私って土壇場に強いタイプだし。


ゴオオオオォ

「…不安になって来たんだけど。神子様に任せて大丈夫だよな?」

「さあな。なるようにしかならん」


私の威力の強い炎を見ながらエンリッヒさんがリハルト様に、そう聞いていたのが聞こえた。だって仕方ないじゃない!炎の調節が出来ないままなんだから!!…っといけない、集中しなくちゃ。手から吹き出る炎の中に粒子を混ぜ込んでいく。…勢い強すぎて炎の中に粒子が存在してるのか、全く分からないんだけど。これマシュマロ連れて来た方が手っ取り早いんじゃない?


「(暑い…。私の体は焼かないけど、熱波が来るよー)」

『(水被せてあげようか?)』

「(火が消えるから止めてー)」

『(おい、集中しろ)』

「(すみません!)」


頭の中で蒼玉ソウギョクと会話していると、紅玉コウギョクに注意された。いつもの事なんだけどね。お笑いコンビで言ったら私達がボケで、紅玉コウギョクは突っ込みだ。いかん!熱で頭がぼうっとしてきた。こんな真夏に炎を出すなんて拷問よね。


「(ん?ねぇこれって普通に燃やすんじゃ駄目なの?祈りの力いらなくない?)」

『(確かに、言われてみたらそうだね)』

『(いや、必要だからこそ蛍石フローライトが浄化の炎だと言ったんだろう。他の事考える程、力に余裕はないぞ)」

「(力尽きたら紅玉コウギョクが炎だしてね)」


そう言えば、昨日は紅玉コウギョクの出す炎に力を込めると結論を出したんだっけ。あのごたごたの所為で吹っ飛んでたけど、今思い出すなんて。でもここまで来たら止めるつもりもないので、暑さに耐えながら力を込めていった。


『(紗良、粒子が見えるよ!この量ならいけるかも)』

「(本当?そろそろ限界なんだけど…)」

『(俺にも確認できるから大丈夫だろう。神子、そのまま菌糸を燃やすんだ)』

「(りょうかーい!)」


火炎放射ばりの炎を菌糸に向けると勢いよく燃えた。…うん、大丈夫じゃないよねえコレ。炎の勢いが強すぎて広がっているように見えるんだけど。でもまだ菌糸の部分が残っているから今消すわけにはいかないのよね。菌糸が全て燃えた時点で、蒼玉ソウギョクの力で一気に消そう。


「うわ…大規模な山火事になりそうだな」

「いざとなれば一気に消火出来るから大丈夫だと思うがな」

蒼玉ソウギョク様がいますからね」

蒼玉ソウギョク様?もう一体いるのか?」

「はい。蒼玉ソウギョク様は水の力が扱えますので、問題ないかと」


辺り一面の菌糸が全て燃えたのを確認して炎を止める。暑さと力の消耗で倒れそうになるのを気合で堪えて、エンリッヒさんがいるので平然とした顔を作る。ヨレヨレな神子を見せたくないという私のプライドなんです。


蒼玉ソウギョク、今すぐ炎を消して!」

『了解。これやったら暫く出てこれないからね』

「えぇ、分かってるわ」


蒼玉ソウギョクは大量の水を宙に浮かせて、燃え盛る炎に一気に落とした。火は瞬く間に消えたけど、高い位置から落としたお蔭で水がこちらまで飛んできた。そこまで考えが回らなかった私の所為で皆びしょ濡れになってしまった。でも暑かったから丁度いいかも。


「いやー、見事な焼野原だね」

「菌糸が残るよりはマシだろう」

「そうなんだけどさ。神子様、お疲れ様。ありがとな」

「森なら心配ありませんわ」

「え?もしかして戻せるの?」

「元通りとはいきませんけどね」


濡れた髪をどけて泥だらけの大地に手をつく。あの炎の所為で力をかなり使ってしまったから、足りるといいんだけど。深呼吸をしてから祈りの力を使った。森が元に戻るようにと気持ちを込めて。


「おお!凄いな神子の力は!!」

「恭平。紗良を止めてこい」

「分かりました」


燃えてしまった木や植物は戻せなかったけど、地に潜んでいた種子などが目を出して立派な森に戻った。付近の生き残った植物が異常に成長してしまったけど平気よね?恭平に肩を叩かれた時には力を使うのを止めてたので、振り返ると体がぐらついた。それを恭平に支えられたので倒れなくて済んだ。体力の限界だったから助かったわ。


「神子様お疲れ様でした。戻って休みましょう」

「えぇ、そうね」

「貸せ恭平。俺が紗良を運ぶ」


水を吸った重いドレスのまま、スッと抱きかかえられる。ファルドといい、リハルト様といい、スマート過ぎるよね。世の中の男性が何人集まったって敵わないわ。恭平なんて通常のドレスでも無理なのにさ。


「よく分かったね。限界だって」

「当然だ。顔色が悪い」

「だって頑張ったもの」

「そうだな。俺にも力があればお前の負担を軽減出来るのにな」

「私だってリハルト様の仕事手伝えたらって思ってるのよ?でも私には無理だから、私に出来る事をやるだけ。リハルト様が気に病む必要はないし、これが私の役割だもの」


国の仕事は分かんないから役に立てない。でもそれを嘆いた所で仕方のない事だ。自分の出来る事を出来る範囲でやるのは当たり前だしね。お姫様抱っこで近くなったリハルト様の首に手を回して抱き着いた。リハルト様がこうして傍にいてくれるだけでいいの。それだけで頑張れるし、つらい事もやってみせるよ。


「リハルト様」

「なんだ」

「私より先に死なないでね」

「…お前のが年上だろう。普通に考えて俺のが後に死ぬ」

「ふふ、そうだね」


決して叶う事のない願いを口に出せば、リハルト様は呆れた様に笑ってくれた。知られたくない、知られちゃいけない。貴方が年をとってもきっと私は若いまま。貴方が死んでしまっても、私は若いままで一人で生きなくちゃいけない。一緒に年をとる事が出来ないなんて、どんな罰なんだろうか。自分の子供ですら看取る事になるかも知れないこの寿命がとても憎い。


「死んだら泣いてね」

「お前が死んだら俺も死ぬ」

「え、駄目だよ!」

「お前がいない世界に生きている意味などないからな」

「じゃぁ、リハルト様が先に死んじゃったら私も後を追うね」

「それは駄目だ。与えられた人生を全うしろ」


言ってる事矛盾してるけど、リハルト様らしい答えで笑ってしまった。自分は死ぬのに人には生きろってへんなの。でも、この先の私に向けられたようなその言葉に少し心が軽くなった。私の寿命を上手く減らす事が出来れば、一緒に年をとって死ねるかも知れない。…うん、まだ未来は決まってないよね。頑張って寿命を減らそうっと。


その後はゆっくりと休んで、翌日この場所とエンリッヒさん達に別れを告げて城へと戻った。良い子にお留守番してくれたマシュマロにお土産のメロンみたいな味のする果実をプレゼントしてあげた。


「留守番出来たご褒美だぞ!」

「はい、マシュマロ」

「キュキュー!(すっごく美味しい!)」

「気に入ったみたいだな」

「買ってきて良かったね」


恭平とほのぼのとマシュマロが美味しそうに食べるのを見ながら、ゆっくりとお茶をする。こっちの世界に来てからこうして恭平と過ごす事が増えたな。


「姉ちゃんはさ、神子ヤダなって思った事ねぇの?」

「んー、最初は面倒だなって思ったけど今はないわね」

「ふーん」

「それに、誰かを助けるって悪い気はしないわよ」


姉ちゃんはそう言って、テーブルに置かれた俺達用の果物を口に入れて幸せそうな顔をしていた。昔らから美味そうに食うよな。だから料理長が色んな物を姉ちゃんの為に仕入れてくるんだろうな。


「首を切られてまで助けたいもんか?」

「あれは私の責任だから」

「は?なんでだよ」

「もっと早く抜け出す事も逃げ出す事も出来た。なのにしなかったから、彼らがあんな目に遭ってしまったの…」


キュッと唇を噛み締めて悔しそうに呟く。そうだとしても悪いのは奴らじゃねーか。菌糸を振り撒き、神子を攫ったんだから自業自得だと思うのに、姉ちゃんは違うらしい。同じ血を分けた姉弟なのに、俺には同じ考え方は出来ねぇ。だからこそ姉ちゃんは神子なんだろうな。


「命が助かっただけマシだろ。それだけの事をしたんだから」

「…恭平はこの世界に染まって来たね。私は人があんなに血を流してるのを見て、凄く怖かった。この世界は罪を死で償うから、私には辛い…」

「俺も見た時に怖かったよ。姉ちゃんが死ぬんじゃないかって…」

「あ、私も血を流してたっけ」


おいおい、だから皆があんなに怒ってたんじゃねーか。何でこんな緊張感ねぇの?自分が傷付いてもいいけど、人が傷付けられる許せないってか?どんだけ自己犠牲が強いんだよ。魔王を倒しに行く勇者じゃあるまいし。


「ここは俺達のいた世界じゃないし、姉ちゃんは神子なんだよ。神子を傷付ければ、それを意味するのは死だ!さっき聞いた話の通りなら、今回の事は姉ちゃんが招いた事態だ。姉ちゃんには誰も責める資格はねぇよ」

「ぐ、そんな事言われなくても分かってるわよ。あれは八つ当たりだったんだから」

「ならファルドにちゃんと謝れよ」


俺がそう言えば、生意気だと殴られた。これも八つ当たりじゃね?痛がる俺の頭にマシュマロが飛び乗り、撫でてくれた。俺の味方はマシュマロだけだな。


「…あんたの言う通りにするのは癪だけど、そうするわ。リハルト様には謝ったけど、ファルドにはまだだったし」

「まぁファルドは気にしてないと思うけどな。だけど姉ちゃんを助ける為に剣を抜いたのは、紛れもない事実だからな」

「そうね。マシュマロ、また来るね」

「キュ!(うん!)」


マシュマロの頭を撫でて、恭平の部屋を出た。向かうのはリハルト様の部屋。きっとそこにファルドはいるから。ちゃんと謝らなくちゃね。あの時、酷い目でファルドを見てしまったんだから。


ガチャ

「リハルト様、今大丈夫?…あれ?いない」

「リハルト様でしたら陛下の元ですよ」

「あ、そうなんだ」

「そのうち戻られると思いますよ」


意図せずファルドと二人きりになってしまった。なんていいタイミングで来たのかしら。リハルト様も居ないし、今謝ってしまおう。書類を片付けるファルドの近くに立てば、何ですか?といった顔で見られた。


「…あの時は御免なさい。ファルドが悪い訳じゃないのに、怒ってしまって」

「いえ、斬り落としたのは事実ですので。気にしないでください」

「でも私を助ける為でしょ?この国とって有益な神子を失う訳にはいかないもの。当然のことよね」

「…紗良様は何も分かっていないのですね。私は神子だからではなく、紗良様だから傷付けられたのが許せなかったのですよ」


え?と戸惑う私に、ファルドは優しく笑った。穏やかな滅多に見れないその笑顔に、頬に熱が集まる。そうだった、ファルドもイケメンだったわ。


「え、あ、そっそれはどうも…」

「紗良様はリハルト様の婚約者なのですから、私如きに動揺なされませんよう」

「あ、はい。すみません!」

「貴女が私を望むと仰るのであれば、構いませんけどね」

「え?それってどういう…」


戸惑っていると後ろでドアが開く音が聞こえた。その音の主は勿論リハルト様で、何やら怒っているようだ。ダーヴィット様に何か言われたのかな?


「お帰りなさい!リハルト様」

「どういうつもりだ?」

「へ?な、何が…」

「どういうつもりだと聞いているのだ」

「なんの話?何で怒ってるの!?」


リハルト様の質問の意味が分からず、右往左往していると、リハルト様の視線が私を通り越してる事に気付いた。視線の先にはファルドがいる。もしかしてさっきの話を聞いてたとか?


「冗談ですよ」

「そ、そうだよ!ファルドが私に気があるわけないじゃん!いつも怒られてるのに…」

「ほぅ、お前の冗談は初めて聞くな」

「ねぇ、何にもないから!私はリハルト様だけだから!だからもうこの話は終わり!ね?」


険悪なムードをどうにかしようと、無理矢理話を終わらせた。リハルト様余裕なさ過ぎでしょ!それでも空気が重いので、どうしたもんかと考えていると、リハルト様と目が合った。


「揺らがないよ。この気持ちは」


強く強くリハルト様に抱き締められる。だから私も強く抱き締め返す。この想いが揺らぐ筈なんてない。それは今だけかも知れない。でも、この気持ちは本物だから。


「どうぞごゆっくり」

「え、ファルド…んんっ」


ファルドが部屋から出て行こうとしたので、声を掛けようとすると、リハルト様から強引にキスをされた。ファルドに見せつけるように、深いキスを角度を変えながら何度も。


「ちょっ、リハルト様!?」

「なんだ」

「何で急にキスなんか…」

「お前は俺だけを見てればいいのだ」

「ずっと見てるよ!リハルト様以上に好きな人なんて出来ないよ…」


いつの間にやらファルドが居なくなっていて、部屋に二人きりだ。リハルト様の部屋に二人でいるって久しぶりだわ。


「当然だ。俺以上にお前を愛してる者なんて居ない」

「私も誰にも負けないくらいリハルト様の事が好きだよ」

「毎日聞きたい言葉だな」

「毎日はちょっと…」

「何故だ」

「だって恥ずかしいもの」


また言ってるよみたいな顔をされたけど、無視だな。毎日気持ちを伝えるなんて、日本人にはハードだよ。おはよう!今日も好き!みたいな感じ?…なんか変。私だったら頭大丈夫?って思っちゃうわ。


「慣れろ」

「無理だよ!」

「思ってる事伝えるだけだろう」

「それが恥ずかしいのに…」

「…はぁ、いつになったらお前は結婚してくれるのだろうな」


深い溜め息を吐きながらそう言われてしまった。いつ?うーん、いつだろう。今のままで充分だから、それがいつになるかなんて考えた事なかった。結婚するのはリハルト様って思ってるから別にいつでもいいんだよね。前は気持ちが変わってしまうかもって怖かったから踏み切れなかったけど、今はその不安はない。ただリハルト様と夫婦になるっていう気恥ずかしさがあるのよね。


「形ってそんなに大事かな」

「大事だ」

「どうして?気持ちがあればどんな関係でも充分じゃない?」

「俺の妻になれば誰にもお前に手出し出来ぬからな。婚約者でもまだ隙があると言うのに…」


なにやらぶつくさと言い始めたリハルト様。隙?そんなものないと思うんだけどな。なんか時間が経つにつれ、どんどんリハルト様の余裕がなくなってきてる気がする。なんで?もしかしてダーヴィット様に急かされてるとか?…リハルト様がいくつか知らないけど、こっちの世界ならもう結婚しててもおかしくない年齢だと思うし。まぁそれは私もなんだけどさ。


「そんなにしたいの?」

「勿論だ」

「うーん、じゃあ白銀の神子の件が片付いたらいいよ」

「…なんだその条件は。いつになるか分からんではないか」

「でも、放っておく事は出来ないよ。彼らの目的が分からない以上はどうする事も出来ないけど、放っておいて私ではなく子供に危害が及ぶのは避けたいもの」

「そうだな。奴らがお前に呪いを掛けた可能性もあるからな」


そっか、そうだよね。ザルド王が呪いを掛けた事になっているけれど、いにしえの呪いをザルド王が知ってる筈はないとリールさんが言ってたって恭平から聞いている。リハルト様は何故かこの件の話を私に詳しくは教えてくれないのよね。だから恭平から聞き出してるんだけど、恭平も偶に歯切れが悪くなる。私があまり気にしてないのも、いけないのかも知れないけど。


「穏便にすませられればいいけど」


白銀の一族達が何の為に守護者ガーディアンの力を奪うのか未だに分からないけど、何の犠牲を払うこともなく片付けばいいな。皆が幸せになれたらいいのに。そんな上手くはいかないと思うけど。



更新遅くなり、すみません。

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