7印の持つ意味
あれから3日後。王子がファルド様と一緒に部屋に訪れた。私?えぇ、毎日毎日本を読みましたとも。意味を理解しながら読んでたから時間かかったけどね。
「ようやく分かったぞ。印の意味がな」
「本当ですか!?」
「紗良は大物だったな」
「大物?」
因みに、持っていた本には手掛かりは無かった。まぁただの本だしね。見た事ない印なら仕方ないのかもしれない。
「神に愛されし神子。人々の願いを叶えてくれるそうだ。その額と背中の紋章がその印だそうだ」
「はぁ」
「何だその腑抜けた返事は。もっと喜んだらどうだ?」
「はぁ。何かの間違いでは?私には人の願いを叶える力はありません」
冗談でしょ?そんな事できたら元の世界に帰ってるし。ん、待てよ?人々の願いをって、自分の願いは入らないのか?なんだよ、全くもって意味無いじゃん。いや、もしかしたらこの世界で叶えられる範囲でってこと?
「ならこの茶を酒に変えてみろ」
「出来ません」
「いいからやれ」
「……酒に変われ……。ほら、出来ませんよ」
王子が紅茶のカップを手に取り口に含む。次にファルド様に手渡しファルド様も同じように口を付ける。
「酒だな」
「酒ですね。しかもかなり美味の」
「まさか…冗談はやめて下さい」
「なら飲んでみろ」
差し出された紅茶のカップ。間接キスなんてしたく無いんだけど、断れなさそうね。お酒になんてなるわけないでしょ。ゴクリと一口飲むと…。
「…う…っ」
「ん?」
「美味しくない…」
「まさか紗良、酒飲めないのか?」
「飲めないです」
紅茶は立派なお酒になっていた。だけど私はお酒に弱く、ほぼ飲めないのだ。あれの何処が美味しいのか。不思議でたまらない。せめてキラキラとか、エフェクトぐらいかけて欲しい…ウンともスンとも言わなさすぎて分かりにくい。
「お子様にはまだ早いか」
「口に合わないだけです。お子様ではありません」
「へぇ。幾つなんだ?」
ニヤリと口の端を上げてそう聞かれる。何の笑みか知らないけど私立派な大人ですよ。
「25です」
「は?」
「えぇ!?私もっと下かと…」
「おい、冗談だろ?」
「嘘をつく意味が分からないのですが」
何で驚いてるの?私は別に童顔じゃないよ?何処をどう見たら下に見えるのか教えて欲しい。若く見られるのは嬉しいけど、驚きすぎよね。
「ファルドと同じか」
「ファルド様も25なんですね」
「えぇ。まさか紗良様が25歳とは。全く見えませんよ」
「どういう意味ですか?」
「リハルト様より下かと思ってました」
なんか貶されてる気もするけど、まぁいいや。ってことは王子は年下か。年上を敬うべきよね。マリーさんは因みに30歳だそうです。お姉さんだから勉強会を無くす事は出来なさそう。
「リハルト様はお幾つなのですか?」
「その話はどうでもいいだろう。それより紗良。これから忙しくなるぞ」
「え…何故ですか?」
「お前を見に国中からやってくるだろうな」
「こ、困ります!」
「そんな事言われてもな。嫌でも話は漏れるぞ」
私はのんびり過ごしたいだけなのに、何でこんな目に。印は消せないのかファルド様に聞いてみたけど後悔した。聞かなきゃ良かった。ていうか年齢のことはぐらかされた。悔しいのかな?私より下だと。
「死ねば消えますよ」
「死…死にたくないです…」
「まぁ、まずは王に謁見だ。マリー、紗良のマナーを完璧にさせろ。5日後に王に合わせる。いいな」
「かしこまりました。紗良様、頑張りましょうね」
「嫌です。私この部屋からでれない病気なので」
「何をふざけた事を…。駄々をこねるな」
頭をポンポンと撫でて去っていった王子。全然嬉しくない。頭を撫でれば女性が喜ぶと思うなよ!王様とか緊張するし、会いたくないよ…。マナーレッスンとか無理なんですけど!食事のマナーは日々直されてるけど、食べたい様に食べさせて欲しい。食べた気しないのよね、細かいし。
「王様に失礼の無いようにしませんとね。さぁ始めましょうか。一番は食事のマナーですよ!」
「はぁ」
「溜め息吐くと幸せが逃げますよ」
「マリーさんの願いを叶えるので、勘弁して下さい」
「それとこれは別のお話です」
マリーさんってちゃっかりしてるよね。私も強かに生きて行かないと!面倒なことになったし、色々押し付けられないようにしないと。
「紗良様、私のことはマリーと呼び捨てになさって下さい」
「無理です。何故ですか?」
「神子という存在はとても尊いのです。昔話程度にしか聞いたことのないぐらいの、夢の様な存在なのですよ。私の様な存在に敬語すら必要ないのです。今までのような振る舞いではなりません」
「今一実感が湧かないんですけど。大げさなんですよマリーさんは」
「紗良様、マリーです」
「ま、マリー、…さん。すみません、マリーですね」
「次敬語使ったらお勉強の時間を増やしますからね」
にっこりと笑顔で言うマリーさん。いや、マリー。鬼だ…いや、悪魔かもしれない。尊き存在とか言ってたくせにぃぃぃぃ。渋々了承し、話し方に気を付けつつ、マナーレッスンをした。王様に会ってどうするんだろう?政治に利用でもされるのかな。
「だいぶ良くなりましたね」
「はい…」
「日頃の成果も見られますし、これなら何とかなるでしょう」
「ありがとうマリー」
「たまには湯船にゆっくりと浸かるのも宜しいのでは?」
「うん、久しぶりに入りたいな」
「では参りましょう。許可はとってありますから。これからは、私と一緒でしたら外にも出られますので」
さすがに一人では駄目なのか。そうだよね、まぁ出られる様になっただけマシかな。明日はあの庭園に行ってみよう。ゆっくりと散歩するのも、いいかもしれない。もしかしたら、何か手がかりも見つかるかも知れないのだから。
「はぁー…気持ちいい…」
服を脱ぐのにひと悶着あったが、無事に湯船に浸かっている。何があったかと言うと、中に数人の侍女が居たのだ。服を脱がせてくれて、体も洗ってくれるそうだ。勿論、全力で皆さんを押し出して全部自分で済ませた。
人に服を脱がせてもらうとか、体を洗ってもらうとか無理だよ。ここだけはマリーに何を言われたとしても譲れない。一人で出来ることを人にやらせるのは怠慢だと思う。
「部屋に欲しいなぁー」
大理石を使った豪華絢爛なお風呂は無駄に広い。一度に何人も入るわけじゃなかろうに。税金の無駄使いよね、これ。一人分入れるだけでいいから、部屋に作ってくれないかな?存分に満喫して着替えてドアを開けるとマリーが待ち構えてた。
「いいですか紗良様!次回からは、嫌でも慣れて頂きますからね」
「無理無理!なんでそんな辱めに遭わなきゃいけないの?」
「辱めじゃありません。高貴なお方はそのような事に自らの手を使わないものなのです」
「嘘だぁ。自分の事は自分でやるべきだよ」
「次は有無を言わせませんからね。さぁ湯冷めして風邪でも引いたら大変です。早く戻りましょう」
「…はーい」
戻りながらもグチグチと小言を言われるのを聞き逃す。嫌な物は嫌だし、私にだって譲れないものもあるのだ。大げさだけど、それぐらいの信念がないとマリーには押し切られる。
まぁ、今日はのんびりお風呂に浸かれたし、良しとしよう。これなら明日には今日の疲れも取れそうね。王様に会う最終日は全部オフにしてもらってのんびりしようかなー。マリーは厳しいから、王子にお願いしたら聞いてくれるだろうか?いや、何か言われそうだからファルド様に言ってみよう。