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69海はトラウマになりそう

ジェンシャン国二日目


「どうされるのですか?」

「え?」

「この国に協力されるのかそうでないのか」

「えっと…?結局はやらなきゃいけないと思ってるけど」


翌朝部屋に訪れたファルドから突然そう聞かれた。昨日リハルト様に嫌だと伝えたことで確認に来たようだった。いくら不愉快だったとしても、一度受けた以上はやるのが大人だしね。国同士の問題もあるだろうから多少の事は目を瞑らなくては。


「いいのか?」

「うん。別に私自身に被害があった訳じゃないしね。昨日は少し感情的になっただけだから大丈夫だよ」


一晩経ったら冷静になったのもあるけど。リハルト様に娘を嫁がせたいのは分かるけど、もう少し穏便なやり方でお願いしたいわね。食事を済ませて馬車に乗り込む。一番最初に向かった場所には枯れた大地が広がる元海だった。リリーファレスと違うのは塩が残っていない只のひび割れた大地だって事。


「ここカッセラ海を神子様の力でどうか復活させてください」

「(また海か)えぇ、分かりました」


この場所は船が何隻もあるから海だったんだなって認識できる状態だ。海は危険だとリリーファレスで学んだので、金の薔薇を使用する事にした。恭平と共に船の裏に隠れてジェンシャン国の人に見られない様にして、箱から薔薇をだして力を使う。


「元の豊かで美しい海に戻れ」


言葉を呟けば粒子が金の薔薇から溢れ出して広がっていく。大地に粒子が溶け込むも、薔薇の力じゃ足りなかったのかウンともスンともいわないので、仕方なくいつも通り祈りを捧げた。


「なぁ、大丈夫か?」

「………」

「姉ちゃん?…もしかして、力を使ってる時は聞こえないのか?」


粒子が行き渡り、問題なく溶け込んだのを確認して立ち上がると体がフラついてしまう。金の薔薇のおかげで前よりは力が残っているけど、それでもしんどい。


「姉ちゃん大丈夫か?」

「えぇ、何とか…。それよりも早く下がるわよ。海が吹き出…」

グラッ

「うわ!?何だ、地震か!?」

「恭平走って!」


海の中でも陸地に近い場所にはいるけれど、この場所じゃ飲み込まれてしまう。恭平を走らせて私は立ち止まった。走る体力は残ってないので、蒼玉ソウギョクの力を利用しようと思って。だけど恭平にはその力を説明してなかったので、立ち止まった私の元へ戻って来てしまった。


「馬鹿!!何やってんだよ!!」

「え、あんたこそ早く行きなさい。私は大丈夫だから」

「大丈夫って…うわっ!っち、怒んなよ!!」

「何を、ってきゃ!!」


奥の方から勢いよく水が上がり、ドドドドドと振動が伝わってくる。それを見た恭平は私を持ちあげて走り出した。だけど鍛えてない恭平では人一人を抱えて、早く走れる体力があるわけでもなく、水がすぐそこまで迫ってきている。


蒼玉ソウギョク!力を貸して!!」

『勿論!でも、もう少し早く呼んで欲しいな』

「恭平が戻ってきた所為だよ」

「はぁ、はぁ、なんだよ、俺の所為かよ!!」


飲み込まれる寸前で蒼玉ソウギョクの力で包まれて海の中で流される。暫くすれば勢いが静まるので、そうなってから守護者ガーディアンを探せばいい。あ、リハルト様が心配してないといいけど。…大丈夫よね?


「凄ぇなこれ。シャボン玉みたいだ」

「綺麗でしょ。でも迂闊に触らないでね。割れたら困るから」

「おっと、気を付ける」

『ようやく流れが落ち着いたみたいだね。それじゃ探しますか』

「さっき一瞬だけど声が聞こえたわ。でも大分奥のほうだった」


時間が掛かればリハルト様も心配するだろうし、恭平でも戻しておこうかなと言おうと思ったら、先に恭平に釘を刺されてしまった。


「姉ちゃんを一人にするなって言われてるから、俺は戻んねぇよ」

「はぁ、困った弟ね」

「姉ちゃんこそ無理ばっかしてんなよ」

『はは、恭平も紗良に似て頑固そうだね』


笑い事じゃないんだけどね。一人の方が楽なんだけどな。移動しながらリハルト様にどうやって伝えようか考える。紅玉コウギョクを使うのが手っ取り早いけど、ジェンシャン国の人に見られたくないからな。何か伝える手段がないだろうか。


「…水にメッセージが込めれたらいいのに」

『また唐突な事を言い出すんだから』

「水には無理だろ。せめて紙とペンがあればいいけど」

「どっちもないわね。あ、普通に祈ればいけるかも!」

「声を届けてってか?」

「そう」


頭の中でイメージを作り声に出して祈る。すると粒子が蝶の姿に形を変えて飛び立った。海の中にも溶けてないようだし、上手くいったかも知れない。あとでリハルト様に確認してみよう。


「…そんな事も出来るんだな。いいな神子の力。万能過ぎねぇか?」

「ね。上手くいったっぽい。でも自分を癒す事には使えないからそうでもないけどね」

『紗良の発想にはいつも脱帽だよ』

「ありがと!」


しいて言えば思ったよりも力を使った事が誤算なんだけどさ。よほどの時か、余裕のあるときしか使わないでおこう。海の中を進んでいると、大きな岩場を見つけた。


「うん、ここから聞こえる」

「?俺には何にも聞こえねぇけど」

『うん。微かだけど気配がするね』


船が座礁しそうな岩場に近づいて祈れば粒子は膜を通り抜けて岩に入り込んでいく。そしてその力を受けて守護者ガーディアンが姿を現した。良かった。海に身を放り出す勇気はないからね。


『ありがと神子。…あたちは珊瑚コーラル。神子のおかげで海がもどったよ』

「初めまして珊瑚コーラル。長い間ごめんね、苦しかったでしょう?」

『…うん。からだがなくなっちゃうかと思った。でも神子が力をくれたから、もう大丈夫だよ』

「良かった。おいで、力を貴女に分けてあげる」


珊瑚朱色の着物を揺らして私の元に嬉しそうに飛び込んで来た。紅水晶ローズクォーツよりも更に幼い姿をしていて、こんな小さな子供が苦しんでいたかと思うと胸が痛くなる。見た目よりも長い事存在しているんだけどね。


『神子の力は陽であたたまった海水のようで気持ちいい』

「ふふ、そうなの?」

『うん。あれ?お前、聖杯グラールなのね。ひさしぶりに見た』

「おう。毎回現れる訳じゃないんだってな」

聖杯グラールはあたち達をうみだすことが出来るきちょうな存在なの』

「え、そうなの!?」


成る程ね。神子は聖杯グラールの力を使って守護者ガーディアンを生み出していたんだ…。その方法を珊瑚コーラルに尋ねるも知らないそうだ。気付いたら生まれていたからだって。守護者ガーディアンになる前の記憶は無いそうだ。


『あたちはまだ生まれたばっかりだったから記憶が無いんだって神子が言ってた』

「生まれたばかり?守護者ガーディアンとしてじゃなく?」

『うーん、よく分かんないけどこの世界にって言ってた』

『なんだか守護者ガーディアンって知れば知る程、謎だね』

「そうね…。恭平、薔薇を持ってる?」

「いや、さっきの一本しか渡されてない」


それは困ったわね。少しずつ力を与えてはいるけど、これじゃあ時間が掛かるし…。かといって城には連れて行けないのよね。この地からは離れられないから。一気に渡す方法は二つ。一つは口づけで力を送る方法。でもそうすると力の残量からいって寝込む羽目になる。二つ目は紅玉コウギョクの力を渡してもらう方法だ。でもこれをやると私も蒼玉ソウギョクも力を結構使っているから、何かあった時に紅玉コウギョクが使えなくなる。


「うーん…」

「なあ、一つ思ったんだけどさ、俺の力を姉ちゃんに渡す事は出来るのか?」

「…分からないけど、あんたがどれぐらいの力があるかによるかな。下手したら死ぬ可能性もあるのよ」

「はっ!?そうなのか!!?でも姉ちゃんはそいつに力送ってんじゃん」

「私は力の量が多いから出来るの」


といってもそれは海で力を使ってなければの話だけど。仕方ない、リスクを冒すより安全をとろうかな。蒼玉ソウギョクもこの状態を維持するのきつそうだし、私が倒れたら恭平の身の保証が出来ないしね。


紅玉コウギョク、この子に力をお願い」

『ま、神子にしては賢明な判断だな』

「便利だな。俺も守護者ガーディアン欲しいな」

『見たところ聖杯グラールには、いじ出来ないと思う。そもそも神子みたいに力がつよい存在じゃないから』

「ふぅん。いいのか悪いのかよく分かんねぇな」


恭平がいじけた様に呟いた。紅玉コウギョクが力を分け与えて、珊瑚コーラルと別れた。案の定、蒼玉ソウギョクが限界を訴えて来たので、一気に戻してと提案した。


『途中力が切れたらごめんね』

「うん」

「は?まじで言ってんの?」

「大丈夫だって。浜辺にはきっと着くから」

「きっとって…不安しかない」


文句を言う恭平を放っておいて蒼玉ソウギョクが水を操り、一気に海岸の方面に押し出される。風の無いジェットコースターみたいで楽しかった。そう、途中までは…。


『ごめっ、もう無理!』

「恭平息を吸ってから止めて。もう持たない」

「くそっ、なんでそんなに平然としてんだよ!」

「早く!時間ないから!!」

「分かったよ!」


大きく息を吸い込んだのと、膜が破れたのは同時だった。強い水の勢いに耐えながら砂浜に辿り着くのを待った。息を吸い込んだ時に、はぐれないように繋いだ手が離れそうになるのを必死で掴みながら。


バッシャーーーーーン!!!!

「っぜぇはぁ、し、死ぬかと思った!!!!」

「はぁはぁ、ね、大丈夫、だったでしょ…」

「ゲホゲホッ、どこが、だよ…」

「紗良!恭平!!大丈夫か!!?」


途中息が続かなくなり、多少海水を飲んだけど、なんとか生きて砂浜に辿り着けて良かった。リハルト様達が私達の姿に気付いて駆け寄ってきた。びしょ濡れで砂まみれの私を抱き起すリハルト様の顔色は悪かった。


「まったく、あれほど無茶をするなと言っただろう!!!」

「海は無茶しないと、無理…」

「馬鹿物!また態勢を整えればよかっただろうに、何故そのまま行くのだ!!」

「ごめん、なさい」

「っ、生きた心地がしないではないかっ」


強く抱きしめるリハルト様の体は少し震えていた。いっつも上手くやろうとして、でも上手くいかなくて心配掛けちゃうな。無茶するつもりも無いのに、どうしてこうなっちゃうんだろうか。


「恭平様も大丈夫ですか?」

「あぁ。ぺぺっ!砂が口に入ってジャリジャリする…」

「とにかく馬車に乗って下さい。歩けますか?」

「俺は平気だけど、姉ちゃんは…」

「いい。俺が連れて行く」


馬車に運ばれてタオルと水を手渡された。砂まみれで乗りたくないんだけど、着替えもないししょうがない。宮殿についてすぐさま湯浴みの準備をしてもらって体に付いた砂や海水を落とした。辛うじて自分で歩けるぐらいの力は残っていたので、裸を見られたのはマリーだけで済んだ。昔は嫌だったけど、何度も見られてたら何とも思わなくなってきたわね。


「またご無理をなさって…ここはローズレイアではないのですからね」

「分かってるって。結果的にこうなっただけで、無理をするつもりなんてないもの」

「いつもそう仰いますけど、説得力ありませんからね」


髪を乾かして部屋に入れば皆揃っていた。あれれ、これ説教のパターンですか!?リハルト様も恭平もシャワーを浴びたのか服装が変わっていた。私も今は神子の服ではなくて、普通の普段着用のドレスだ。まぁ、神子の服は何枚も予備があるからいいんだけどね。


「話は大体恭平から聞いた」

「そう?ならもう休んでいい?」

「さっきまでの反省はどこにいった」

「…ごめんなさい」


すみません、本当に反省してます。でも明日に備えて早く休みたかっただけで、決して口だけの反省じゃないんです!!!


「薔薇一つで足りると思ったのですが、間違いだったようですね」

「うん。お蔭でかなり力を取られたわ」

「フラついてたもんな。王子の言う姉ちゃんの無茶がどんな意味なのか、凄いよく分かったわ」

「失礼ね。私にしてはあれでも最良の選択をしたのよ。あんたが居なかったら私の力を注いでたのに……って、その、ジョウダンデス」


げ、凄い怖い顔でリハルト様が見てるー!!!もう恭平の所為で言わなくていい事まで言っちゃったじゃない!!(自業自得)くそぅ、どうしようと頭をフル回転させた。あ、そうだわ!


「ねぇ、メッセージ届いた?」

「めっせーじ?」

「あっと、伝言」

「…あぁ、あの蝶か。聞いたら消えたがな」

「ちゃんと届いたんだな、アレ」


これでまた新しい力の使い方を覚えたわ。蝶にしたのは、何となく綺麗かなって思ったから。それに小さいしね。大きな物だと更に力がいるから大変だし。


「リハルト様に心配ないって伝えたかったのよね。届いて良かった」

「より心配になったがな」

「はは、姉ちゃんってば器用だよな。まぁそんだけの力があるって事だろうけど。でもそれだけに凄ぇ不安定だ」

「は?何よ偉そうに」

「力があるから無理をするんだよ。過信しすぎるのも良くないと俺は思うけどな。無限にある訳じゃねぇんだろ?」


恭平のくせに一丁前な事言うじゃない。でもそれは間違いだわ。力があってもなくても、きっと行動は変わらないから。私に出来るギリギリのところまでやるだけだもの。それにそれが私の仕事だから。私以外出来ないし、神子は凄い存在じゃなきゃいけないと思う。皆神子は何でも出来ると思ってる節があるから、出来ないとか、やり直しますとかじゃ落胆されてしまうんだ。それは何だか許せないんだよね。


「私は私に出来る事をしてるだけだよ。自分の限界をちゃんと知ってるわ。無理をしてるつもりもない」

「はぁ?無理してんじゃん!!あんな場面で簡単に覚悟しちゃう程、姉ちゃんは麻痺してんだよ!」


麻痺ねぇ…。そうなのかな?別にあれは何とかなるって思ってたからなんだけど。物事はなるようにしかならないってのが私の持論なのよね。


「紗良は自分に無頓着すぎる。もう少し自分を大事にしてくれ」

「自分を大事に?それってどうすればいいの?」

「…分からない振りか?」

「え?ううん、本当に分からないの。私は自分に甘いつもりだし、大事にって言われてもどうすればいいか分からないんだけど…」


それを聞いたリハルト様が額を覆って、深く長い溜め息を吐いた。私は私のやりたい様にやってるだけだもの。だけどそれは自分を大事にしてるとは違うらしい。いつも無茶して!とか怒られるからね。なら何が正しいのか教えて欲しい。


「お前の命は他の誰よりも重いのだ。優先するのは他人じゃなく、自分にしてくれ」

「命に重いも軽いもないと思うけど…」

「少なくともお前にはある」

「…うーん。取り敢えず分かった」

「なんだ取り敢えずって。理解をしろ」


理解はしてるよ。この力は私にしか使えないから命は重いのでしょう?でもだからといって、力のない者の命が軽いとはならないと思う。優劣を、順位を付けることが馬鹿げている。この力で救える人がいるのなら身を削るのだって苦にならないし、それが力を持つ者の役目だと思うのだけど、この考えすら驕りなのかも。


「分かった分かった。そろそろ限界なので寝ます。お休みなさい!」


話を締め切ってベッドに潜り込んだ。急に恐ろしい睡魔が来たので、目を閉じた瞬間に意識を手放した。今から寝て力が戻るといいんだけどな。



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