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68ジェンシャン国

「んんー…、やっと着いたわ」

「行くぞ」

「うん」


馬車の中で伸びをしてキリッと顔を引き締める。これからは神子として過ごす期間が長くなるから、私の中でスイッチを入れなければ。リハルト様が先に馬車から降りてエスコートされながら私も降りた。勿論いつものフード着用です。


「ようこそいらっしゃいました!神子様、リハルト王子」

「国王自らの出迎え、痛み入ります」

「いやいや、神子様に来て頂くので当然の事ですわい」

「神子。この方がジェンシャン国の国王、ザルド王だ」

「初めましてザルド王。神子の紗良と申します」


スカートの裾を少し上げて挨拶をすれば、満面の笑みで微笑むザルド王。国王自ら出迎えとは、それ程被害は申告なのだろうか。ふくよかで温厚そうな王様だった。王妃様は数年前に亡くなったと後でリハルト様から聞かされた。と言っても側室がいるので王妃争いが勃発中らしい。


「神子様、この国に来て頂き心から感謝申し上げる」

「困っている人を救うのが神子の務めですから」

「うむ、立派な志ですな。さぁ中へどうぞ。ローズレイアとは違って貧相ですがね」

「何を仰ります。充分立派な宮殿ではありませんか」


アラビアンな雰囲気の立派な宮殿で白の大理石が贅沢に使われていた。上の方は丸みを帯びており、鮮やかな青色に塗られていた。それがより白を綺麗に見せている。他の国とはテイストが違って見ていて面白かった。ジェンシャン国は南国なので気候も暖かくて海も近い。久しぶりに泳ぎたいなー!


「ふぅ、少し暑いね」

「気候が大分暖かいですからね。夏用のお召し物に変えられますか?」

「あ、でもまた夜は晩餐会に招かれてるのでしょう?ドレス着なきゃいけないのよね?」

「そうですね」

「…いいや、それまでシャツで過ごすから!」


どうせ誰も来ないだろうし、来てもリハルト様ぐらいだしね。こないだ恭平の服を作って貰う時にショートパンツの作成もお願いしたのよね〜。シャツにショートパンツとか楽過ぎて笑っちゃうわ。


「もう。ファルド様に叱られても知りませんからね」

「部屋から出なきゃ大丈夫よ」

コンコン

「どちら様でしょうか」

「恭平です」

「恭平様でしたか。どうぞ」


ファルドと同じような衣装を身に着けた恭平が入ってきた。従者としてきてるもんね。それにしても伊達眼鏡をつけているのだけど、似合わないわね。マシュマロはローズレイアでお留守番してるわ。レイリンとメイリンがお世話してくれてるから安心よね。


「何だよその恰好は。神子として来てんだろ」

「あんたも従者が神子にそんな口利いていいと思ってんの?」

「ぐっ…」

「いいのよ。後で着替えるから」

「それなんだけど早まりそうだから準備しとけってファルドが言ってたぞ」


そんな事言われても困るんですけど。もうこれで良くない?それかこの国の衣装持ってきて欲しいな。軽そうだし涼しそうだしさ。数人の使用人が入ってきて髪のセットや化粧を施してくれて下がっていった。後はドレス着るだけだしね。


「出たくない…」

「ですがせめて今日だけでも。神子の歓迎ですので我慢して下さい」

「我侭言うなよな」


暫くダラダラしてるとマリーに化粧と髪が崩れると注意されたので、大人しく時間を過ごしてから、黒のドレスに着替えた。恭平の勉強の進み具合を聞いたけど、結構ハイペースだったから覚えるのが大変なようだ。


「準備できたか?」

「リハルト様」

「そのドレスも似合うな」

「ありがとう。…ん?」

「なんだ?」


部屋に来たリハルト様からは嗅ぎ慣れない匂いがしたので、リハルト様に近付いて服の匂いを嗅いだ。戸惑うリハルト様を無視して考える。何の匂いか分からないけど女性が付けそうな香りだった。え、この時間に誰かと会ってたの?


「…………」

「おい、どうしたのだ?」

「誰と会ってたの?」

「よく分かったな…。リーシア姫だ。少し話をしたいと言われたからな」

「そう」


それだけでこんなに匂いが付くのかな?それともかなりキツメに香を付けてるのだろうか?むむむ…。リーシア姫と言えば前に城で見た人だわ。アジア系美人の女性だったわね。


「何もないぞ、お前が心配するような事は」

「え?」

「…違うのか?」

「あ、うんそうだけど…」

「俺がお前以外の女に揺らぐとでも?」


少し怒ったような表情のリハルト様は私の顔に手を当てて、そう聞いてきた。思うとも。だってリハルト様の周りにはいつだって綺麗な人ばっかりなんだもの。偶に思うんだよね、よくリハルト様は私を好きになったものだなって。私は、誇れるような物を何も持ってないから。


「姉ちゃんも妬くことあるんだな」

「は?」

「何だよ違うのか?」


そうかこのモヤモヤの正体はヤキモチか。リハルト様から他の女性の香りがするのが嫌なんだ…。自覚するとなんだか気恥ずかしくて顔に熱が集まる。ヤキモチとか妬いた事なかったけど、こんな気持ちになるんだね。心がザワザワするんだ。


「…っ」

チュッ

「可愛いな」

「いちゃついてるとこ悪いけど、そろそろ行かないと」

「あぁ。分かっている」


微笑むリハルト様に頬にキスされる。ヤキモチを私が妬いた事が嬉しいみたい。こっちはそんな穏やかな感じではいられなかったんですけどね。これだから恋愛は面倒臭い。自分の気持ちが落ち着かないからだ。


「神子様。この国一番の踊り子を用意したので、どうぞご覧ください」


ザルド王の側近の者がそう告げると綺麗どころの女性が数人入ってきて、演奏される曲に合わせて舞っていた。ひらひらと薄手の布が、踊りと曲に合わせて動く姿が美しかった。手足についている鈴がシャンシャンと鳴り、より音に動きがでる。踊り子の着ている衣装は、いつしか着せられたあの衣装だわ。


「紗良様。こちらをどうぞ」

「えぇ」


恭平から差し出される果実を手に取り齧ると、ピリッとした。その後に甘さが口の中に広がって美味しかった。軽い刺激のある果物に首を傾げていると、ザルド王が説明してくれた。


「ほっほっ!それはアーマスと言う果実じゃよ。少し癖はあるが美味だろう」

「はい。美味しいですわ」

「どれ?少しくれないか?」

「あ、リハルト様!」


私の持っていた食べかけの果実を食べたリハルト様。突然の事に持っていた果実を落としてしまった。…と思ったけど恭平がギリギリキャッチしてくれたようだ。リハルト様はしれっとした顔してるし、どういうつもりなのよ。


「ほう、そういう関係かね?」

「それはどうでしょうか」

「はぐらかすか、まぁよい。私は下がるが後は娘たちと楽しんでいってくれ」

「有難う御座いますザルド王」


側近の人と数名の女性と共に下がっていったザルド王。ん?娘たちって言った?折角いないと思ったらそういう事?別の扉からわらわらと女性が出てきた。えっ!?これ全部娘なの!!?


「ようこそジェンシャン国へ。リハルト王子、神子様」


10人以上はいるんじゃないかと思う。あっという間にリハルト様はハーレム状態だ。服装も薄着だし露出も激しい恰好で、べたべたとリハルト様の体に触れたり密着させたりしていた。数名の害のなさそうな姫と会話をして、さっさとこの場を去ることにした。


「紗良?」

「すみませんリハルト様。少し具合が悪いので失礼させて頂きますわ」

「なら私も戻ります」

「いえ、どうぞお楽しみ下さい」


にっこりと笑顔でそう言って恭平と共に部屋を出た。


「いいんですか?王子、置いてきて」

「いいのよ。リハルト様も楽しそうでしたから」

「そうですかね…。嫌そうに見えましたけど」

「そんなの知らないわよ。それにしても、あらかさまなもてなしだと思いませんか?」

「なら協力するのを辞めてしまえば良いのでは?」


部屋に向かう途中なので話し方は変えずに足早に歩いていたけど、恭平の言葉にぴたりと足を止めて振り返った。その手があるわね。何も必要としてるのはこの国に限った話じゃないのだから。


「それも一つですわね」

「あの、お待ち下さい!!」

「どちら様でしょうか」

「いいのよ、恭平。先程私と話していた小さな姫ですわ」


走って追いかけてきたのはまだ10、11ぐらいの子供の女の子だった。私の前に庇う様に立つ恭平をどけて、その子の前にしゃがんだ。その子は思いっきり頭を下げて私に謝った。


「申し訳ありません!!どうか神子様、ご機嫌をお直し下さい」

「貴女の所為ではないですわ。私は少し人に酔っただけですから」

「あの、ではチサドラの地を治して頂けますか!?」

「ごめんなさい。どこの地を癒すかは私は知らないの」

「そんな!」


話を聞いてみると、そのチサドラには大きな泉がありそこにはぬしが住んでいるのだとか。その泉がある日を境にドンドン水が減りとうとう枯れてしまったのだとか。ぬしも姿を消してしまい行方が分からないそうだ。


「友達だったんです!だから泉が戻ればきっとぬしも帰ってきてくれるはずなんです!!」

「姫なのにその生き物が友達なのか?」

「恭平!」

「本音を話せるのはその子だけなんです…。私トロイから上手く出来ないし…」


下を俯いてギュッと裾を掴んでいるその子の頭を撫でた。優しく微笑みかけて言葉を掛ける。その泉を癒すと約束すれば、嬉しそうにお礼を告げて去って行った。部屋に着いたので恭平に下がるように言って部屋に入った。


「…はぁ」

「お帰りなさい紗良様。お早いお戻りでしたね」

「うん。わらわらと姫がリハルト様に群がっていたから帰ってきたわ」

「え!?」

「とんだ歓迎方法ね」


マリーもそれは失礼な話ですねと怒ってくれたので、気持ちが少し楽になった。


「ありがとうマリー」

「いえ。ザルド王は紗良様の力がなければ地は回復しないという事を、あまり理解されて無いようですね」

「そうよね。あ、着替えるから手伝って」

「はい」


手伝って貰いながらアクセサリーや髪留めなどを外してから、ドレスを脱いだ。そのままシャワーを浴びようと思っていると、激しくドアが開いた。


「り、リハルト様!?」

「紗良…」


裸だったので慌ててマリーが布を一枚掛けてくれた。それに気付いてないのか、リハルト様は私を強く抱き締める。色々な匂いが混じって正直不快なんですけど。


「楽しんでたんじゃないの?」

「何度も言ってるだろう。お前しかいらない」

「…急に入って来てなによ…」

「やられた…」

「なにを?」


リハルト様の体は熱を帯びていて、布越しでも分かった。話を聞いていると薬を盛られたらしい。大変だ!と思っていると盛られた薬と言うのが媚薬らしい。


「はっ!?」

「取り敢えず逃げて来たのだが、薬が回って…」

「え、ど、どうしよう……っ、リハルト様!?」


そのままベッドへと運ばれて押し倒されてしまった。リハルト様の顔はこれまでにない程に色気があった。…ってそうじゃない!マリー!ファルドを呼んでぇ!!?


「すまない…抑えられそうにない…」

「っ、約束はどうなるの!?」

「関係ない」

「あるって!ファルドは何処?」

「置いてきた」


リハルト様が布を取ろうとしてるのを、必死で抵抗しているとファルドが到着した。良かった間に合った!


「ご無事でしたかリハルト様」

「私の心配もして!」

「紗良様もご無事の様で」

「ギリだけどね!何とかしてくれない!?」

「すみません。姫に吐かせたところ随分強力な媚薬だそうで、耐えるのは辛いかと。大目に見ますのでどうぞそのまま」


大目にって言われても、私全然関係ないし!そうだ!恭平なら治せるかも知れない!ってか私も出来るかも知れないけど、この状況じゃ無理!!


「すみません紗良様。恭平様はお眠りになられてました」

「恭平の馬鹿ー!ファルド、ちょっとリハルト様抑えて!」

「分かりました。リハルト様失礼します」


ファルドにリハルト様を羽交い締めにして頂き、布を巻き直して祈りの力を使う為に心を落ち着けた。祈りを捧げてリハルト様にキスをすると、効果あったのか少し落ち着いたみたい。


「リハルト様、気分はどう?」

「…あぁ、大丈夫だ」

「良かった!」

「…随分と官能的な恰好をしているな」

「リハルト様が着替え中に入って来たんでしょ!」


ニヤリと口の端を上げたリハルト様の視線から逃れる為、ベッドの布団で更に体を隠した。ファルドはもう自分の仕事は済んだとでも言うように部屋を出ていった。マリーもどさくさに紛れて居なかった。


「リハルト様、帰ろうローズレイアに」

「いいのか?苦しんでる守護者ガーディアンがいるのだぞ」

「ゔ…。それはそうだけど、この仕打ちはあんまりだわ。こんな事言いたくないけど、やりたくない…」


この国の為になる事をしたくない。悪いのは国で住まう人達は悪い訳じゃない。だけど、どうしても気に入らない。そんなやり方をしてくる人間が。


「お前がそう言うなら帰ろう」

「……いいの?」

「神子の力はお前にしか無い。無理強いする事は出来ないし、させるつもりもない。ましてや此方のが国はデカイからな。ザルド王はやり方を間違えたな」


リハルト様は私の髪を触りながらそう呟いた。リハルト様だけなら今日のやり方もいいかも知れない。でも媚薬とは言え、薬を盛るのは頂けない。


「でも一箇所だけ、行きたい場所があるの」

「何処だ?」

「チサドラって場所。小さなお姫様のお願いだから」

「チサドラ?あぁ、泉のあった場所か。昔一度だけ行った事がある。綺麗な場所だった」


その場所の水が枯れた事を説明すると、快諾してくれた。良かった。あの子の約束だけは守れそうで。


「じゃあ、そろそろ部屋に戻って…」

「そんな恰好をしてる紗良を放ってか?」

「シャワーを浴びるとこだったの!」

「そうか、それはいいタイミングで来たな」


私からしたら最悪なタイミングだけどね!?一瞬だけど裸見られたわけだし…。まだファルドが居なかったのが救いだけど。そして恭平は明日会ったら殴ろう。寝るの早すぎなんだって!


「もう。ダーヴィット様との約束は絶対だよ」

「…お前は父上と俺のどっちが好きなのだ」

「うーん…6:5でリハルト様!」

「全然嬉しくないな。何故そんな拮抗しているのだ!9:1で俺だろう」


そんな事言われてもダーヴィット様はドストライクだし。リハルト様が齢を重ねて大人の色香が出たら、それぐらいにはなるかも。


「大丈夫!リハルト様はこれからだもん」

「はぁ、まぁいい。ゆっくり休め」

「うん。お休みリハルト様」


パタリと閉まるドアを確認した後、シャワーを浴びた。髪を乾かして窓から見える景色を眺める。城とは違う雰囲気があって趣きがある。何度も来たいぐらいなんだけどな。


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