62波乱の幕開け?
「ね、どうかな?似合う?」
「あぁ、とても良く似合っている」
「ルーナスさんとレイニーさんが誕生日プレゼントにくれたのよ!」
リハルト様の前でくるりと鮮やかな青のドレス姿で回った。同じ色のヘッドアクセも着けていつもとは違った雰囲気になっている。髪も初めてアップにしてもらったんだー!
「今日はこれで出ていいでしょ?もう着ちゃったし」
「駄目だ。黒のドレスを用意してある」
「え、じゃあリハルト様が着替えさせてくれるの?」
「何でそうなる」
「だってもうマリーとかに下がっていいよって言っちゃったもの。時間もないし、どうする?」
首を傾げて悪戯気に微笑めば、黒のドレスに着替えるのを諦めてくれた。代わりに腰を引き寄せられて、手首にキスされた。エロイ仕草止めてください。
「お前を脱がせてもいいが、時間がないからな」
「ちょっとそれ違う意味じゃ…」
「そうだが?…俺があげたネックレスはどうした?」
「しまってあるよ」
「しまったら意味無いだろう」
「そうだけど、シンプルだから普段の時に着けようかなって。今日はドレスだもの」
そう言えば不服そうな顔をされた。昨日の夜に誕生日プレゼントとして、前から欲しがっていたシンプルなネックレスをくれたのよね。だけど華やかなドレスには逆に寂しくなっちゃうから、今は別の派手なサファイアが入ったネックレスを身に付けている。
「…そうだな。そのドレスには合わんな」
「レイシアさん達も来て欲しかったな」
「忙しい身だから仕方あるまい」
「そうだよね…」
「俺が居れば充分だろう?」
「それとこれは別です」
不敵な笑みのリハルト様からスルリと抜け出してドアの方へ向かった。二日目のパーティーももう始まってるので、そろそろ行かなきゃいけないのだ。
「行くか」
「うん」
リハルト様にエスコートされながら会場へと足を踏み入れた。丁度リチェが誰かとダンスを踊っていたので、それを見ながらリハルト様と話していると、ルーナスさんが此方に来てくれた。
「あらぁ!青も似合うじゃなぁい」
「黒以外のドレスだと何だか新鮮ですわ」
「たまにはいいわよね」
「レイニーさんは一緒じゃありませんの?」
「部屋に引き込もってるわ。あの子、人混み好きじゃないのよねぇ」
なんか意外だな。レイニーさんは人混みとか、そんなの気にしなさそうなのに。昨日は頑張って出てくれたのかな?そしたら嬉しいな。
「そうは見えないがな」
「そうでしょう?」
「紗良様!」
「リチェ!ダンスお疲れ様!」
「昨日はあんまり話せなかったから、今日は話せそうで良かったですわ」
ダンスを終えたリチェと話していると、リハルト様とルーナスさんも二人で話を初めてしまった。側にいるから変な人は寄って来ないよね?
「そうそう、あの子から目を離すと横から攫われてしまうわよ」
「昨日の事を言ってるのか?」
「そうよ。あの艶男、紗良の事本気よ?」
「何で分かる?」
「私、人の色恋には敏感なのよ。目を見れば一発で分かるわ。あの子鈍いけど本気な目には弱いのよ」
ルーナスは横目で紗良をチラリと見た。今はリチェと楽しそうに話している。例えそうだったとしても、紗良は俺を好きだと言ってくれた。他の誰でもない俺を。だけど昨日の様子だとドラゴニスと関わらせるのは
、得策ではないとも思う。
「ちゃんと繋ぎ止めておきなさいよ。体は縛れても心は自由なのだから」
「そんな事分かっている。パッと出てきた奴に攫われてたまるか」
「まぁそうよね。でも一つだけ覚えておきなさい。幼少期に愛に飢えてる子程、自分に向けられる愛には貪欲なのよ」
そう言い残して紗良に挨拶をした後、ルーナスはこの場を離れていった。それは紗良の事か?愛を与えられずに育った様には見えないがな。ただ結婚に良いイメージを持ってないあたり、円満ではなかった事は分かるが…。
「ルーナスさんと何をお話しされてたのですか?」
「紗良、お前の子供時代…」
「久しぶりですねリハルト王子」
「…ドラゴニス王子。そうだね。元気だったかい?」
紗良に聞こうとした所で、ドラゴニスという邪魔が入った。胡散臭い笑顔を浮かべてるコイツは昔から好きではない。紗良を見れば顔を少し強張らせて、俺の腕に手を回していた。リチェは少し前に別の人の元へ行ってしまった様だ。
「お知り合いですの?」
「えぇ。同じ学園で学んだ級友ですよ」
「ロレアス王子と同じく?」
「そうだよ。何か用かい?ドラゴニス王子」
「昨日は挨拶出来ませんでしたから。ご挨拶にと思いましてね」
白々しい、紗良に近付きたいだけではないか。今だって視線は紗良に向けているのだから。昨日の事で警戒されているから、俺をダシに近付いたのだろう。気に食わん奴だ。
「それはわざわざ有難いね。紗良、あっちにジョセフィーヌ嬢が居たよ。会いたがっていただろう?」
「えっ?本当だわ。少し行ってきますね。失礼しますドラゴニス王子」
「えぇ、また」
ドラゴニスから遠ざける為にジョセフィーヌ嬢の元に紗良を向かわせた。その後ろ姿を笑顔で見送っている。悪いな、お前の思惑通りにはいかせない。
「神子様は随分リハルト王子に気を許していらっしゃるんですね」
「あぁ、いつも一緒に居るからね」
「羨ましいです。私の国に現れて居たら状況は違ったと思いませんか?」
「愚問だね。神子はローズレイアに現れた。それは覆しようのない事実だからね」
笑顔を張り付けてそう返せば、向こうも笑顔で「そうですね」と答えた。確かに状況が違えばお前の物になって居たかも知れない。だがそんな仮定の話をしても仕方あるまい。現に紗良はこの国にいて、俺を好いてくれているのだから。
「あぁ、それと紗良にあまりちょっかいをかけないで頂きたい」
「何故です?」
「それはその内分かるさ。それじゃあ、失礼するよ」
来月の俺の誕生祭でな。ドラゴニスが小さく何かを呟いた気がしたが、音楽に呑み込まれて聞こえなかった。まぁ聞くつもりも無いがな。歩いていると女が寄って来るが、上手く交わしながら紗良の元へ向かった。
「あ、リハルト様が此方に向かって来ますわ」
「本当だわ。お話が終わったみたいね」
「また聞かせて下さいね、お二人のお話しを」
「もぅ、からかわないで下さい。ジョセフィーヌ」
「ふふ、だって紗良が可愛いんですもの」
今日も綺麗なジョセフィーヌと別れて此方に来るリハルト様と合流しようとすると、すぐ人に囲まれてしまった。うーん、私の分身が欲しいわね。
「誕生日おめでとう御座います神子様」
「昨日のドレスも見事でしたけれど、今日も素晴らしいですわね」
「ドラゴニス王子とお知り合いでして?」
「何を食べたらその様に美しくいれますの?」
「リハルト王子とは普段どの様なお話しを?」
沢山の女性が集まっていて誰が誰だか分からない。何処かの国の姫で、昨日挨拶して来た人もいるけれど全然思い出せなかった。そして色んな香りが混ざって気分が悪くなってくる。この世界に香水程強い物はないけれど、匂いに敏感だから香り系は駄目なのよね…。ほんのりぐらいなら耐えられるんだけどさ。
「あぁ、こんな所に居た」
「ロレアス王子」
「きゃあ、ロレアス王子だわ!」
「今日も素敵ですわね」
「ロレアス王子、私と一曲踊って頂けませんか?」
「あ、狡いですわ!私も!」
女性の群れの中に平然と入ってくるロレアス。そんなロレアスに色めき立つ女性達。そう言えばロレアスも大国の王子だったっけ。忘れてたけど二枚目だし、バルドニア王子よりも人気がありそうだわ。
「君達はまた今度ね。神子を借りて行くよ」
そのままバルコニーに連れて行って貰い、新鮮な空気を吸う事が出来た。ロレアスのお陰でリハルト様とも合流出来た。
「助かったわ、ロレアス」
「大丈夫?気分悪そうだったから。それにしても、紗良が一人になると人だかりが凄いね」
「なんかもうあそこまで迅速に囲まれると恐怖を感じるわ」
「ほら、飲み物」
「ありがとうリハルト様」
リハルト様から受け取ったのはワインに見立てたジュースだ。特別に用意して貰ったのよね。ワインが飲めないって結構致命的だしさ。それに、神子が水ばっかり飲んでるのってイメージ良くないしね。お蔭でロレアスにはますます子供扱いされるのだけど。
「ロレアスも人気あるのね、知らなかったわ」
「そうかい?普通だと思うけど」
「この中だったらどんな人が好みなの?」
「そうだなぁ、あそこの濃い青のドレスを着ている人とかかな」
「ん?わ、凄く大人っぽい人!…え?人妻じゃ…」
「いやいや、好みの話だよ。別に人妻に手を出す訳じゃないし」
何言ってんの?みたいな目で見られてしまった。そうだよね、ロレアスはそんな人道外れた事しないもんね。そんなタイプには見えないし。
「どうだかな」
「え…最低ねロレアス」
「誤解だって!止めろよリハルト!」
ロレアスが必死でリハルト様に食い下がるも、笑って流して訂正はしない。何だかリハルト様が楽しそうで良かったな。さっきは難しい顔してたもの。
「ふふ」
「笑ってんなよ紗良」
「い、いひゃい」
「おい、赤くなるだろうが」
違う意味で笑ってたのに、ロレアスに頬を摘まれてしまった。ヒリヒリする頬を摩りながら睨むと、キョトンとした顔をしていた。え?何で?
「あれ?可愛くなった?」
「そんなんで誤魔化さないでよ」
「はは、ゴメンゴメン。じゃあ頬にキスしてあげようか?」
「いりません!」
「仲いいなお前ら」
リハルト様が拗ねた様に言ったので、ロレアスと顔を見合わせた後に発した言葉が被ってしまった。
「「妬いちゃう?」」
「…揃って言うな」
「ロレアスは私の事ローラル姫と同じ扱いだもの。失礼な話よ?」
「今日みたいに粧し込んでれば淑女には見えるけどね」
「お前は目が可笑しいのだな」
「え?酷くない?」
まぁ友人としては有難いんだけどね。飾らない姿で接してくれるし、私を神子として見ないし。子供扱いは止めて欲しいけどね。
「そろそろ戻らねばな」
「そうだね、主役が居なくちゃ話にならないしね」
「はぁい。もう少ししたら退場していいよね?」
「まだそんなに時間経ってないよね?」
「こういう場って苦手だわ」
神子に切り替えてバルコニーから出れば、ざっと周りの視線を集めた。リハルト様とロレアスが居るとより目を引くんだよね。特に女性の。お邪魔虫で御免なさいって気分だわ。
☆ー☆ー☆ー☆ー☆
夜部屋で寛いでいるとマリーが少し困った顔をしながら、部屋に入って来たのでどうしたのか聞くと、恐る恐るカードを差し出してきた。
「どうしたの?それ」
「はい…。手渡されたのです。紗良様に必ず渡す様にと。従者の方から…」
「もったいぶらずに教えてよ。誰の従者?」
「その、ドラゴニス王子からです…」
「……」
マリーの様子からしてリハルト様は知らないだろう。本来なら必ず言うマリーだけど、きっと脅されたのかも知れない。ここが大国だとしても、マリーはただの侍女だもの他国の王族には逆らえないのかも知れない。…まさかね、ただのカードじゃない。考え過ぎだわ。疲れてるのかも知れない。
「中を見られますか?」
「うん、貸して」
「はい…」
二つ折りのカードを受け取り、中を開くとこの世界の文字が書いてあった。もはや見慣れてしまった文字だ。私の世界の文字が今では懐かしく感じる。だけど気を付けないと前の文字を書いてしまうので、長年染み付いた物はそう簡単には変わらないと嬉しくも思う。
「なんて書いてあるのですか?」
「見てないの?」
「はい。中は見ない様にと言われましたので」
「大した事ないわ。昨日の事についての謝罪の内容よ」
そう笑顔で言えば安心した様にホッと息をついたマリー。本当は少し違うのだけど、マリーに心配させたくないしね。私の事だから自分で何とかするわ。マリーにはもう休むと伝えて下がってもらった。
「時間前に寝ちゃいそうだわ」
それから二時間後、皆が寝静まったであろう深夜に私は寝巻から簡易なワンピースに着替えて部屋を抜け出した。念のため蒼玉に寝床に入ってもらい、カモフラージュもしてきた。
次話に続きます




