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54金の薔薇の実験

「はっくしゅん!!」

「…やっぱりこうなると思っていました」

「大丈夫よ、大した事ないわ」

「鼻水出しながら言われても説得力無いですよ」


マリーに指摘されて慌てて鼻をかむ。くそぅ自分の体調を整えるのに、力を使えないのは痛いわね。まぁその為に守護者ガーディアンがいるのだけど、治癒が使える守護者ガーディアンがいないから意味ないのよね。まだ熱はないから、今日の仕事に支障はない。


「あまり無理はしないで下さいね。紗良様お薬飲まないんですから」

「はっ!そうだ薬を飲まされる所だったわ。大丈夫よ、くしゃみと鼻水だけだもの」

「風邪の初期症状ですけどね」


準備を終えて問題の地にいざ出発だ!この世界マスクが無いのは駄目ね。鼻をずるずるしていると、リハルト様に体調を崩している事がバレてしまった。


「おい、やはり風邪を引いてるではないか」

「大した事ないよ。それよりリハルト様は大丈夫?」

「あぁ、お前のおかげでな」

「そっか、良かった」

「良いものか。お前が風邪を引いたら困るのだ」


仕事はちゃんとやるから安心してと言えば、そうじゃないと怒られた。いいじゃん辛いの私なんだしさ。体鍛えた方がいいのかな?運動嫌いなのよね。馬車で揺られる事二時間。これで近いと思ってしまう感覚がこの世界に馴染んだ証拠よね。


「(何だ、翡翠ジェイドの時と同じじゃない)」


痩せ細りひび割れた大地が辺り一面に広がっていた。ラッケルタ侯爵が村長を呼びに行くと、痩せ細った老人が杖を突きながら出て来た。明らかに栄養が足りてない状態だった。


「すみませぬ、このようなお姿で神子様の前に立つなど恐れ多い…」

「頭を上げて下さい。苦しかったでしょう?もう大丈夫ですからね」

「おぉ、なんと慈悲深い…どうか、どうか宜しくお願いします。神子様」

「えぇ、安心してください」


私の目前に来た瞬間に、地面に頭を擦り付けて土下座をする村長に胸が痛かった。どうしてこうなるまで放っておいたのだろう?もっと早い段階なら村人達の苦しみも軽減されたかも知れないのに。私は無意識に右手を強く握り締めていた。


「ラッケルタ侯爵。この有様…まさか何もされてこなかったのですか?」

「い、いいえ神子様。納税の免除と多くはありませんが、食料などの施しをしてきました」

「それにしては、村人はかなり危険な状態ではないですか?」

「それは流行り病のせいで御座います。そうなってしまうと我々ではなす術がありません。そうですよね?ザック村長」

「流行り病?」

「えぇ…わが村の病はじわりと体を蝕んでいき、いずれ死に至る恐ろしい病ですのじゃ」


土地だけでなく病まで…。なんでそんな大事な事を隠していたんだろうか。限界まで知られたくなかったの?それとも、流行り病の地には神子は来ないとでも?ふざけんじゃないわよ、全部神子の力で直してやるんだから。


「この村の人口は何人程でしょうか?」

「30人程の小さな村ですが…」

「では病に罹っている者は何名になりますか?」

「半数程になります」

「おい、紗良まさか…」

「怪我が直せるなら病気も直せると判断しました。大丈夫ですわ、リハルト様。あれを使いましょう」


状況が分かっていないラッケルタ侯爵と村長をそっちのけに、ファルド様に例の物が入った箱を馬車から出して貰った。でもとりあえずこれを見られたらまずいので、リハルト様にラッケルタ侯爵達を任せて、人気ひとけのない場所へと移動した。ファルド様も護衛の為についてきた。


「これをどうやって使おうかな」

「地面に置いて祈りを捧げてみるとかでしょうか?」

「そうよね、やってみる」

「ではどうぞこれを」

「うん。…薔薇に宿る力よ、この地に癒しと実りを齎せ」


箱から金の薔薇を取り出してファルド様に手渡された。それを地面に触れさせながら祈りの言葉を捧げる。するとブワッと枯れた大地が瑞々しく生き返った。ただ一つ問題があって、雑草が背丈ほどにまで成長してしまった。


「力が強すぎた様ですね」

「…吃驚したわ。さ、守護者ガーディアンを探さなくちゃ。たしかこの村に祠があるはずなんだけど」

「草が邪魔で探せませんね」

「これは人に使うのは保留にしなきゃね」


前に鳥で実験した時はあまり力の込めてない薔薇を使用したから問題なかったのね。力を込めればいいってものでもないらしい。これはこれで収穫だわ。この状態で人に使ったらどうなるんだろう?…何だか取り返しのつかない事になりそうで怖い。


「紗良!どうなっている!?」

「神子様!大丈夫ですか?」

「少し力が強かっただけですわ。問題ありません。このまま守護者ガーディアンを探しに行きます」

「分かった。何かあれば呼んでくれ」

「分かりました」


この雑草のおかげで目隠しにはなるので紅玉コウギョク蒼玉ソウギョクを呼び出した。斬って進むのも面倒なので進む場所だけ燃やし、火が広がりそうになれば水で鎮火した。もの凄いコンビネーションだわ!


『ここだな』

「あったあった!はっくしゅん!うー鼻がムズムズする」

「昨夜に池に落ちるからですよ。池に落ちるなんて、神子の品格が損なわれて…」

「さ、さーて!呼び出しますか」


ファルド様のお説教が始まる前に、さっさと始める。祠の下の地面へと祈れば、粒子が消えるのと同時に、瑠璃色の髪と衣装を身に纏った守護者ガーディアンが現れた。


「こんにちは瑠璃ラピスラズリ。これをどうぞ」

『これは?……!な、なんと力が一瞬で戻ったぞ』

「その薔薇に私の力を沢山込めたの。いい考えでしょ?」

『信じられないが誠に素晴らしい力だ。礼を言う神子よ』

「ふふ、元気になって良かった。私はこれから村人の病を治しに行かなきゃいけないから、またね」

『流行り病か。神子程の力があれば可能だろう。我も行こう』


蒼玉ソウギョク紅玉コウギョクは消えて貰い、瑠璃ラピスラズリが治す所を見たいと言うので連れて行った。途中の雑草は瑠璃ラピスラズリがざっと消してくれた。力があればこれぐらいは楽勝らしい。あの薔薇最強なんじゃ…。


「リハルト様!」

「草が消えたのはその守護者ガーディアンの力か?」

『左様』

「リハルト王子、神子様。そ、その者は一体何なのだ!?」

「こちらはですね…」


驚くラッケルタ侯爵に守護者ガーディアンの説明をする。村長はこの地が戻った時に驚いて倒れたらしい。守護者ガーディアン見たら心臓止まっちゃうかもね。


「成る程、そういう事でしたか。一瞬で緑豊かな大地戻してしまうとは流石神子様。感謝申し上げます」

「私の役目ですから。それより病人を一箇所に集めて頂きたいのですが、村長は倒れてしまいましたからラッケルタ侯爵、村人にお願いして頂けますか?」

「今すぐに伝えて参ります」


恭しく頭を下げて村人達の家に入っていったので、その隙に鼻をかんどいた。私の女優根性よ頑張って!神子が風邪引いてるとかダサいからね。なるべくバレない様にしたい。


「くしゅん!」

「寒くないか?」

「ん、大丈夫」

『風邪とやらか?治せる守護者ガーディアンはおらんのか』

「いないから気合で治すわ」

『ならば病人には近寄らぬ事だな。自力で治せぬのでは話にならぬ。神子は人間と同じ様には治せぬからな』


つまり、瑠璃ラピスラズリ曰く金の薔薇を私に使っても病気は治らないそうだ。神子も万能じゃないわね。人間じゃないからだろうか?


「紗良様、薔薇が後一つありますから病人の治療は私がやります。花弁を分けて使用すれば問題ないと思いますので」

「大丈夫よ、私がやるわ」

「万が一紗良様が病に罹れば、誰も貴女の代わりは出来ません。貴女は貴重な神子なのです。判断を誤られてはいけません」

「そうだ、ファルドの言う通りだ。神子の存在は気軽に危険に身を投げうつほど軽くはないのだ。お前の力で何人も助かる人がいる。だけどお前が居なくなれば、それを見殺しにするのと何ら代わりはないのだぞ?もう少し自分を大事にしろ」


それでも私がやらなきゃと思うのは私のエゴだろうか?確かに人を救える力がある。だけど、それを天秤にかけて考える事が私には出来ない。誰かを危険に晒すくらいなら、私が危険な目にあった方がいい。だってそっちの方が後悔しないもの。


「でも、例えばこれが神子だけでなく、神人族には効かないのだとしたら?ファルド様でも危険だわ」

「ですが…」

『なら守護者ガーディアンを使えばいいだろう。病にも罹らぬしな』

「そっか!そうだよね。蒼玉ソウギョク、お願い出来る?」

『紗良が望むなら。花弁を一枚ずつ使えば良いんだよね?任せて』


蒼玉ソウギョクを呼び出して、金の薔薇を渡して懐に入れて貰った。村人に声を掛けてくれたラッケルタ侯爵が蒼玉ソウギョクに驚いたものの、何も聞いて来なかったので蒼玉ソウギョクと共に病人が集められた家に向かった。


「皆様、元気な方は外へお願い致しますわ」

「あの、一体何をされるのですか…?」

「病気が良くなる様に祈るのですわ」

「治るのですか!?」

「申し訳ありませんが、神子様が集中出来る様に外でお待ち下さい。誰も中を覗いてはいけませんよ」


ファルド様が心配そうな村人達に、近寄らない様に念を押した。後であの人達にも祈ってあげようと心に決めて中に入った。蒼玉ソウギョクは村人の前では一旦消えて、家に入ると姿を現した。脅かさない為の配慮だ。私は病人から離れて、口にハンカチを当てて様子を見守る。


「うぅ…」

「ママー、ママ何処ー?」

「ぐぅ、…苦しい」


流行り病に苦しむ村人達の体の上に、一枚ずつ金の薔薇の花弁を乗せていく。行き渡った所で蒼玉ソウギョクが見よう見まねで言葉を唱えた。


『病に苦しむ者達を粒子の力で病から開放したまえ』


その言葉に反応して、花弁から粒子が飛び出して病人の体に取り込まれた。うん、素晴らしいわね!すると魘されていた病人達が起き出す。やつれていた顔や体も心なしかふっくらしている気がする。ついでにこの場所の浄化をしといた。流行り病が何の病気か知らないけど、念の為ね。この隙に蒼玉ソウギョクは戻した。


「体が楽になった…」

「もしかして治ったの?」

「もう苦しくないぞ」

「一体何が…」

『見事なものだな。良いものを見せて貰ったし戻ろう。またな神子』

「えぇ、またね。瑠璃ラピスラズリ


何が起きているのかといった、困惑を隠せない村人達の視線が私に集まった。黒いフードを被り、ローズレイアの紋章が刺繍された黒のドレスを身の纏った私を訝しげに見ていたが、直ぐにある答えに辿り着いたのか床に頭を付けて五体投地の体勢になった。子供もその雰囲気を察してか、同じようにひれ伏した。あの、本当に止めてください…。


「皆様、顔を上げてください」

「しかし、我々のような者が神子様の前にいることすら許されないというのに…」

「そんなことありませんわ。人は皆平等ですよ、上も下もありませんわ」

「おぉ、神のようなお言葉…」

「まさしく神子様だ…。俺たち村人にも優しくていらっしゃる」


それでも顔を少し上げただけで姿勢は変わらない。中には涙を流して手を合わせている者もいる。困ったな、生き神になった気分だわ。そのなかで数人いる内の一人の子供と目が合ったので、その子の前に両膝をついて座った。


「み、神子様!こんな場所に膝をつくなんて!!」

「服が汚れてしまいます!」

「ふふ、構わないわ。ねぇ坊や、もう体は辛くはない?」

「うん!すっごい楽になったよ!!」

「そっか、良かったわ」

「ありがとう神子様!」


その子はとびっきりの笑顔でお礼を言ってくれて、それが何よりも嬉しかった。こうして民と直接触れ合う事が今まで殆どなかったから、なんだかホッコリとした気分になった。その子を筆頭に、口々に皆がお礼を言ってくれる。その騒ぎを聞きつけたリハルト様が入って来たので、他の村人達に入っていいと伝えた。


「あんたっ治ったのかい!?」

「あぁ、神子様が治してくれたんだ」

「ジュ二!良かった、良かったわ!」

「神子様!本当にありがとうございます!!なんとお礼を申し上げたらよいか…」

「ふふ、皆さんのその笑顔だけで充分ですわ」


改めてこの力が人の役に立っているの実感出来た。お礼を言われたくてやっている訳じゃないけど、やっぱり嬉しいものよね。そんな私の肩に手を置いて、リハルト様が小さな声で褒めてくれた。


「本当に、本当にありがとうございました!このご恩は一生忘れません」

「大げさですわ、村長さん。どうか皆さん、お体をご自愛なさって下さいね」

「神子様!」

「こら、ファン!!」

「なあに?ファン君」

「神子様はいつ王子様とけっこんするの!?」

「え?」


先程の男の子が駆け寄って来たと思ったら、そんな事を言われた。その子の母親が大慌てでファン君を捕まえて、頭を叩いて後ろに下がった。固まる私に、リハルト様が小さく笑いを零す。


「そう遠くないうちに、皆様に良いご報告が出来ればと思っております」


笑顔でそう言い放ったリハルト様の言葉に、村人達から歓声の声が上がった。おい、何を言ってくれちゃってんのよ!喜んでいる村人の手前否定することも出来ず、かといって肯定もせずに挨拶をして馬車に乗り込んだ。


「何勝手なこと言ってんのよ!」

「お前を手に入れる為なら手段は選ばんと決めたのだ。外堀から埋めていけば逃げられないだろう?」

「っ鬼!悪魔!」

「なんとでも言え」

「~~~なによっ、昨日は二人にデレデレしてたくせに!」

「しておらん。昨日言った事もう忘れたのか?」


そんなくさい台詞なんて忘れたわ!二人の美人に挟まれて、きゃっきゃうふふしてたじゃない!!巨乳押しつけられて嬉しくない男はいないんだから!と言えば「くだらん、偏見だ」と言われてしまった。悔しいがそう言われてしまうと何も言い返せない。


「大体何をそんなに怒っているのだ。妬いてるのか?」

「………え?」

「なんてな。お前がそんな事を…、どうした?」


そんな訳ないじゃんと言いたいのに、何故か顔が赤く反応するので両手で顔を覆った。え、この感情って焼きもちなの!?焼きもちと嫉妬ってどう違うの!?一緒よね!?まさか今までのモヤモヤも全部!?こ、これは由々しき事態だわ!どうしよう、ジョセフィーヌ!!?……待て待て待て!落ち着くのよ私!深呼吸よ深呼吸!!


「ふう…違うわ、絶対に違う!」

「顔を覆いながら言われてもな」

「お願いだから私に話しかけないで!」

「何故だ」

「なんでも!」


本当にどうしよう、私今までの人生の中で焼きもちを焼いた事ないのよね。これがそうなのかは分からないけど…。でも焼きもちを焼くって事は好きって事でしょう?好きって事は触れたいって思って…ん?触れたい?リハルト様に?


「…………」


思った事無いわね。触れたいと思う前にリハルト様が触れているもの。思った事はないけど、落ち着くと言うか安心するのは確かだ。逆に触れすぎて麻痺してるのかな?なんて事だ、これじゃ判断出来ないわね。なら次よ、好きならキスしたいものね?キス……んー、駄目だ。緊張するからしたくないわ。あれ?私やっぱり好きじゃないんじゃ…。そもそもここまで頭を悩ませる程、人を好きかどうか考えた事ないのよね。本当の恋をしてこなかったツケなのかな。


「(はぁ、難しいわね…)」


頭の中がごちゃごちゃしてて、熱が出そう。帰ったらジョセフィーヌに相談して見よう。ジョセフィーヌが言い出した事だし責任とって貰わなくちゃ。あぁでも、あの姉達とは会いたくないな。だってこんな話二人の前で出来ないものね。



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