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50サタナリア学園

ここは何処の国からも干渉を受けない中立国家であるジュンリタ国。学問に力を入れており、学者なども多く集まる王都シャラには、他国から人が集まるサタナリア学園が存在している。多岐にわたり優秀な人材を生み出している学園の一室で、私は沢山の王子に囲まれてます。


「(何でこんな事に…)」


実はこの学園の最上階に位置する一室では、各国の国王逹が集まり、会議をしているのだ。そう言うと聞こえはいいが、ダーヴィット様曰く女性の集まりの様にドロドロしたものが渦巻いているらしい。その例えどうなんですか?


「お初にお目にかかります。ルードニア国の第一王子、カイン・ジーン・ルードニアです。ルードニア国の事はご存知ですか?」

「すみません、勉強不足でして…良かったら教えて頂けますか?」

「勿論ですとも!神子様がいらっしゃるローズレイア国からは遠いですからね。知らなくとも仕方ありません。ルードニアではですね…」


はぁ、これで何人目かしら。聞いた事がない国ばかり。目の前にいるカイン王子がベラベラと国の事を教えてくれるも、頭に入ってこなかった。そして途中から如何に自分が素晴らしいかの話に変わったので、笑顔が引き攣りそうだった。後にまだ何人も控えているというのに…。


「初めまして。ハイドランジア国第三王子、ドラゴニス・カルデア・ハイドランジアと申します。お会い出来た事を嬉しく思います」

「ハイドランジア…?どこかで…あ、紫陽花」

「くす、それは国花ですよ」

「すみません。花で覚えてしまったので」


各国の王子が挨拶に来る中、一際目を引いたのはドラゴニス王子だった。珍しい滅紫けしむらさき色の髪で背も一際高く、顔立ちも整っていた。多分年下だと思うのだけど大人の色気が凄まじい。リハルト様で鍛えられたイケメン耐性も打ち破られそうな破格の美丈夫だった。


「いえ、神子様に覚えて頂けるだけで光栄ですね」

「あの、一つ質問しても良いでしょうか?」

「一つと言わず、いくらでもどうぞ?」


一部屋に集められているものの、順番に挨拶に来るのだけど、知っている国が出てきた所で、何故だか少し安心してしまった。名前しか知らないんだけどね!そこでドラゴニス王子に質問をしていいか尋ねると、ニッコリと微笑んでくれた。


「これは、何の集まりでしょうか?」

「…ご存知無いのですか?」

「はい。急にこの部屋に案内されたものですから」

「そうでしたか。これはお見合いの様なものですよ」

「…え?」

「誰か気になる方は居ましたか?まだでしたら、私が立候補させて頂きます」


右手を取り恭しく手の甲にキスをされる。ひーーー!!平常心、平常心よ紗良!私は今神子なんだから失態は曝けだせないのよ!!内心で悲鳴を上げて、表情を無理矢理作り出した。


「ふふ、有難う御座います。心に留めておきますね」


心の中で深く溜め息を吐いた。色香がヤバすぎてクラクラしちゃうわ。神子としてじゃなかったら、腰を抜かしていても可笑しくはない。自分の容姿に絶対の自信を持っている人だから、見せ方を知っている。あれで落ちない女は居ないだろう。


「こんにちわ神子様。お久しぶりですという程でもありませんね」

「あら、バルドニア王子も来ていらしたのですね」

「えぇ、神子様にお会いできると伺ったものですから」

「私はこの様な集まりなのは知らなくて…」

「そうなのですか?ダーヴィット王は何かお考えがあっての事だろうか…」


バルドニア王子と談笑していると、次の王子が近づいて来た。誰かと思っているとオレンジの髪が目に入った。その王子とはロレアスだった。


「どうも神子様。なんか凄い事になってるな」

「そうなのヤバ…ゴホン、えぇ、知らない間にこんな事になってまして…」

「はは、神子様も大変だね」

「ロレアス、割り込んで来るな」

「仕方ないだろ。後ろつっかえてるんだから」

「む、そうか」


納得したのかバルドニア王子が名残惜しそうに下がった。ロレアスが可笑しそうに私を見てニヤニヤしていた。


「そうやってると神子様に見えるな」

「お褒め頂き有難う御座います、ロレアス王子」

「それ続けるんだ。リハルト居ないけど、知ってるの?」

「知らないと思いますわ」

「だろうね。知ったら怒りそうだよね」

「怖いですわね」


一応他の誰かに話を聞かれたらマズイので、神子の話し方を崩さないでロレアスと話す。どうやら前回の会議でこの話が決まっていたらしい。ダーヴィット様が忘れてたって事はないよね?其れとも敢えて?


「まぁ、また近いうちに行くよ。リチェル姫の誕生会には行けなかったけど、紗良のは行くからさ」

「用事があったのですか?」

「外せない用事でね。後で会うと思うけど、リハルトに宜しくね」

「はい」


ロレアスと別れると、次の王子がやって来た。もう知り合いは居ないので後は耐えるしかない。一旦休憩の制度はないの?


「私はユーカリア国第一王子の…」

「ライラック国から…」

「サルビニアス国第五王子…」

「私は…」


その後も続く王子達の自己紹介にゲンナリしながらも、笑顔で接すること二時間。聞いてないよ、ダーヴィット様。だからリハルト様は会議に連れてかれたんですね。にしても何でお見合いになってるのよ?神子が貴重な存在だから!?


「お疲れ様です紗良様」

「………ない」

「はい?」

「聞いて無いわよ!お見合いってどういう事!?」

「わ、私に言われましても…!」


マリーをガクガクと揺さぶりながら聞くも、マリーにも知らされてなかった事らしい。乱れた服を直しながら紅茶を用意してくれた。


「男男男男男男!男ばっかり!!女の子に合わせろよー!!」

「紗良様の中には中年男性でも入ってるんですか?」

「入ってないわよ。もうやだ、帰りたい」


シクシクとソファに横たわりクッションを抱き締めた。もう男は暫く見たくない。リチェもこんな感じ何だろうか…。リチェやリハルト様の苦悩が少し分かった気がする。


「それはそうと、誰かいい人いらっしゃいましたか?」

「マリーはリハルト様押しでしょ。そんなの聞いてどうすんの」

「それとこれは別でございます」

「特に居ないわ。いっぱいいすぎて覚えてないもの。そう言えばロレアス達もいたわ」

「王子ですものね」

「あ、でも一人ヤバい人居た」


ハイドランジア国のドラゴニス王子の話をマリーにした。マリーも噂話程度に聞いた事があるそうで、見た事はないらしい。


「ドラゴニス王子の笑顔だけで女性は腰を抜かしてしまうのだとか」

「…あながち噂も間違ってないわね」

「大丈夫でしたか?」

「気合いで乗り切ったわ…」

「さすが紗良様」


だってあそこで腰を抜かしてしまったら神子の威厳がね、なくなっちゃいますから。そんな失態をファルド様に知られでもしたらと考えるだけで、背筋が凍る。なんか最近にファルド様って私にも容赦がないのよね。リハルト様曰く、身内の様に思っているのだろうとの事だった。ファルド様の怖さを考えたら、他人扱いで良いですと言いたい。


「会議は後どれぐらいで終わるの?」

「予定ではもう終わる筈なのですが、押してるみたいですね」


ペイッと靴とドレスを脱いで簡易な服に着替えた。ドレスを着せられ、化粧を更に施されてあの場所に放り込まれたのだ。てっきり会議の場だと思ったらこの仕打ちだよ。


「紗良様、着替えるの早いですよ」

「窮屈なんだもん。靴もドレスも。良いでしょう?今日の仕事は終わったんだから」

「せめて神子様のドレスにお着替え下さい」

「やだ、どうせ帰るの明日なんだし。もう誰にも会いたくない」


この学園の凄い所はこうして各国の王が集まり会議が出来る塔があり、その大きさは小国の城の規模がある。なのでかなりの人数を収容でき、尚且つ豪華な客室まで用意されている。学生達のいる建物とは別なので鉢合わせる事もない。


コンコン

「はい。リハルト様!お疲れ様です。陛下はお部屋にお戻りですか?」

「あぁ、紗良に謝っといてくれって言われたが何かあったのか?…おい、寛ぎ過ぎだろう」


ソファに寝そべってるから、そう言われても仕方ないけど今日は本当に疲れたから許して欲しい。ちなみにファルド様は、ローズレイア城でお留守番です。万が一に備えて残ってます。


ボソ

「…確信犯か…」

「なんだ?」

「ううん、何でもない」


言ったら面倒な事になりそうなので、止めといた。愛しのダーヴィット様が責められるのは見たくないもの。着替えておいて正解だったかも。


「ん?化粧濃くないか?」

「え、そ、そんな事ないよ。ねぇマリー」

「はい、気の所為だと思います」


珍しくマリーも合わせてくれたので納得してくれたみたい。ホッと一息ついていると、リハルト様が近付いて来た。ソファに座りたいのかと思って起き上がると、リハルト様の手が私の顔に当てられた。


「やはり濃くなっている」

「き、気の所為だよ。リハルト様疲れたでしょ?座ったら?」

「何を隠している?」

「り、リハルト様?ち、近いです…」

「言え。言わねばこのままキスをするぞ」


少しでも動けば唇が触れてしまう距離まで詰められてるので、洗いざらい吐いた。リハルト様に言うなとはダーヴィット様には言われてないから、大丈夫だよね?


「…変だと思ったのだ。お前を連れてくるなんて」

「私も知らなかったの。行ったらその会場だったから…」

「それで?」

「うん?」

「俺よりも良い男は居たのか?」


何言ってるんだろうこの人。何故そんな自信満々で言えるんだろうか。いや、そりゃイケメンだからね。分かるよ?でも、リハルト様よりイケメン見つけたんだから。


「一人凄い格好良い人が居たわ」

「ほう。誰だ?」

「ハイドランジア国のドラゴニス王子」

「…あいつが来ているのか。お前はああいうのが好みなのか?」

「うーん、格好良いとは思うけど好みじゃないかな」


あの人の隣に居たらあの色気にやられて死にそうだしね。それに浮気されそうだし、結婚相手には向かないと思う。あの人は、遠くから眺めてるのが一番だわ。


「なら好みの男を教えろ」

「っいません!」

「俺ではなかったのか?」

「それは体の話です!!」

「紗良様、それでは違う意味に聞こえますよ」

「あ、と、とにかく、私に触らないでっ」


リハルト様が私に触れると、そこが熱を持って私の心を蝕むの。今までは平気だったのに、あの件以降は嫌でも意識してしまう。いつだって私に向ける表情は優しいけど、それが恋慕から来るものだと知ってしまえば、顔を背けるしかない。その真っ直ぐな想いを私は受け止め切れないから。


「それは俺に死ねと言っているのか?」

「し、死ぬの?」

「好きな女に触れたいと思うのは普通だろう?」

「っ!そ、そういうこと、言わないで!!」

「何故だ?俺はお前が好きだと言った筈だ」

「だ、だって…、どんな顔していいか、分かんないんだもん…」


一気に真っ赤になる顔を見られないように背ける。今までにそんなに強い想いをぶつけられた事がない。普通に「好きだよ」とかそれぐらいの物で、こんなにも積極的に愛をぶつけてくる人は漫画の中だけの話だと思っていた。読んでいる分には楽しかったけれど、いざ自分がその身になると戸惑ってしまう。


「っお前が俺に落ちるどころか、俺がお前の深みに嵌っていく…」

「どういう…?」

「お前が可愛すぎて困るという話だ」

「ななな、は、恥ずかしい人!」

「遠まわしだと伝わらないからな」


そ、それは否定できないけど…。助けを求めるようにマリーを見ると、ニコニコと此方の様子を伺っているだけで何もしてくれない。この遣り取りを見られているのも恥ずかしいのだけれど。


「大体人前で言うことじゃないわ」

「二人っきりならいいのか?」

「だ、駄目!」

「なら良いではないか」


こんな状況にもう耐えられないのでソファーから抜け出して、リハルト様から離れた。これはもうお帰り頂こう。今日は精神的に疲れたのでもう休みたいのだ。


「リハルト様そろそろお部屋に戻ったら?今日のお仕事は終わったんでしょ」

「そうだが俺がいると不都合でもあるのか」

「ある!もう休みたいもの」

「まだ寝るには早いだろう」

「仮眠よ仮眠」


グイグイとリハルト様を押し出して扉を閉めた。


「ふぅ」

「リハルト様になんて事を!?」

「だって耐えられないんだもん」

「紗良様も満更ではない反応に見えましたけど」

「あれは戸惑ってるだけなの!」

「紗良様知ってますか?戸惑うって事は好きって事ですよ?」


マリーがにんまりと私の顔を見ながらそう言った。そんな話知りませんけど!?「好きと認めてしまったらどうですか?」と好き勝手言ってくれるじゃない。私がどんなに否定してもマリーは笑っているだけだった。


「その否定すらも、好きだと言っているようにしか聞こえませんよ」

「だからそうじゃないって!」

「はいはい。そういう事にしておきましょうね」




☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆




「あれ?紗良いないの?」

「先程部屋を追い出された」

「はは、リハルトがね。それで言ったんだろ?どうだったんだ?」

「分からないと言われた」

「自分の気持ちが?まぁ、そうだろうね。あの感じだと」


ロレアスが部屋に訪れて色々と聞き出してくる。紗良とは仲が良いから何か助言をくれるといいのだが。今までの女の扱いじゃ紗良は振り向いてはくれぬからな。


「じゃあさ、引いてみたら?」

「は?」

「押しに弱いタイプだと思うけど、意固地になりやすいタイプでもあるからね」

「…それはあるかもな」

「押して駄目なら引いてみろって言うしさ。いい案だろう?それに夜は特別に、夜会が開かれるんだろう?」


普段の集まりではないのだが、神子の結婚相手にと各国が躍起になっており、異例の夜会がここで開かれる。部屋に戻る前に、父上に見合いの件を含めて聞き出したのだ。紗良のあの様子だとそれすらも知らない様だがな。


「そのようだな」

「過保護は止めて突き放して見たら?」

「…出来ると思うか?」

「無理だろうね。でも状況を変えたいのだろう?」


今のままでもいいのだが、ロレアスの言う通り最近は意固地になっているように見える。このままだと莫大な時間が掛かってしまい、約束の期限には間に合わなくなる。


「分かった。やってみよう」

「そうこないと!いやしかし、紗良が来てからリハルトは人間らしくなったよね」

「…そうだな。自分でもそう思う」

「初めて会った時なんて完璧すぎて人間じゃないのかと思ってた」

「なんだそれ」

「俺は今のリハルトの方が好きだな」


ロレアスは学友だが、正直あまり興味がなかった。だが何かと声を掛けてくる奴で、気付くといつも隣にいた。その頃の俺は完璧であろうとして、誰にも心を許さなかったのだが、それをこいつは気づいたのだ。


回想

「ねぇ、そんなんで疲れない?」

「何がだい?」

「ここは城じゃないんだから、もっと肩の力を抜いたら?」

「…は?」

「完璧すぎてキモい」

「キモ…!?」

回想終了


まぁ正直な話、こいつに気を使うのが馬鹿らしくなったというか、自分を出してもいいんだなと思ったのだがな。キモいと言われてその後暴言を吐いたのは、消し去りたい黒歴史だな。


「お前は今も昔も変わらず、ふざけた奴だな」

「これが俺だからね」


その台詞に呆れながらも、こいつはこのまま変わらずにいて欲しいと思った。



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