48告白
「久しぶりねぇ子猫ちゃん」
「ルーナスさん!」
「月の光」の主人であるルーナスさんが、今日はシェトルテからお城に遊びに来てくれたのです!久しぶりに会うルーナスさんは相変わらず綺麗でした。男性なのに女性顔負けだわ。
「おい、引っ付くな」
「いいじゃない。再会の抱擁なんだから。王子もしてあげましょうか?」
「いらん」
「つれないわねぇ。さあこんな男ほっといて行きましょう」
「うん。私の部屋はこっちよ」
私の部屋に案内してマリーにお茶を入れて貰った。ルーナスさんがお菓子の差し入れをくれたので、それも頂きながら会話を楽しんだ。
「それで?あんたの方はどうなのよ」
「ん?私は特に…」
「ふぅん、それにしてはあの王子、更に過保護になったじゃない」
「そうかな?」
「気付いてないのぉ?麻痺してるのねぇ」
過保護なのは前からな気がするけど、毎日の様にいるから悪化してるのか分からないな。ルーナスさんがそう言うのならそうなのかも知れない。
「なんでだろう?」
「あんた本当に分からないのぉ?それとも気づかない振り?」
「…分かんないよ」
「あら、なんかあったんでしょ?」
「え、どうして!?」
「顔に書いてあるわよ」
思わず両手で顔を抑えると、にんまりと不敵に笑ったルーナスさんと目があった。しまった、騙された!!慌てて何にもないと誤魔化すものの、時既に遅し。洗いざらい吐かされてしまった。オネェのパワー恐るべし!
「暫く会わない内に、面白い事になってるじゃない」
「全然面白くないんですけど」
「あんたって本当に鈍いのねぇ。侍女のあなたもそう思わなぁい?」
「とっても思いますわ!」
「うぅ、マリーまで…」
「とりあえず、その思い込みはやめなさい?」
やめろって言われても、リハルト様が私を好きになる筈なんてないのに…。もしかして私の事を!?なんて浮かれた日には、自惚れんなボケって突っ込みが入るわよ?
「でも、本当にありえないし」
「あんたはどう思ってるのよ。好きなんでしょう?」
「好きだけど、それは人としてだもの」
「そーゆうのいらないわ。触れたいとか、自分だけの物にしたいとか無いの?」
「な…いよ、うん、ない」
「その間が怪しいわね」
もうそれ以上突っ込まないでくれえぇぇぇ!!私はこれ以上考えたくないし、蓋をしたいのに!なんで皆はそこを掘り下げようとするの?ロレアスの時もそうだ。このままでいいじゃない、今のままが一番幸せなのに。
「とにかくないの!」
「なら抱き締められたらどんな気持ちになるのかしら」
「え?抱きしめられたら?…落ち着くけど、兄弟みたいなものだし」
「ふぅん。ドキドキしないのぉ?」
「そ、そりゃするよ。だってあんなに格好良いのよ?誰だってするでしょう?」
「私は兄弟にドキドキしないわね。好きな男にしかしないわ」
そりゃ、兄弟じゃないし、ルーナスさんと私じゃ違うもの。だってファルド様が笑ったら、私ドキドキするもの。基本イケメンの耐性がないから、耐性のあるルーナスさんとは同じにはなれないよ…。
「私は違うの」
「まぁいいわ。で?キスされた時はどう思ったの?」
「…吃驚した…けど…」
「けど嫌じゃなかった?」
「…う、ん」
「ならその男爵の艶男とは?」
「物凄い嫌だった」
なら答えは出てるじゃない、っとルーナスさんが言うものの納得出来なかった。だって男爵の人は初対面だし、いくらイケメンだって嫌なもんは嫌。そう言うと呆れた様にルーナスさんが、なら私とキスしても嫌じゃないのよね?と聞いてきたので、思わずお茶を吹いてしまった。
「ななな、何言ってるの!?」
「だってあんたの言ってる事ってそうでしょう?初対面じゃないし、美形だし、文句ないでしょう?」
「そ、そういう問題じゃないと思うんだけど…」
「ものは試しじゃない」
「む、無理無理!リハルト様に怒られるもん!!」
「付き合ってないのだから関係ないじゃない」
そう言われてみるとそうなんだけどさ。なんでリハルト様のいう事を大人しく聞いてるんだろう。お世話になってるから?怖いから?見捨てられたくないから?…あーもう、自分の事なのに、分かんないよ!!
「…そう、だけど…」
「もうじれったくてイライラするわねぇ。あんたのとこの王子なにしてんのよ」
「申し訳御座いません。我々も同じ気持ちで御座います」
「でしょうねぇ。分かったわ!紗良、私と付き合いましょう」
「はぁ!?なんで?突拍子もないよ!」
「面白そうだからに決まってるじゃない」
「却下します!」
ルーナスさんとなんて付き合えないよ。第一オネェで女性に興味ないじゃない!なのに、私なら男に戻れるってどういう事ですか!?全然嬉しくないけどね?マリーも困惑顔だし、誰もルーナスさんについていけないわ。
「ほら決まりねぇ。ささ、行きましょう」
「そんな勝手に…。それに行くってどこに?」
「決まってるでしょう?王子のと・こ・ろ」
ハートマークを飛ばしてウインクをするルーナスさん。いやいやいや、怒られるから!とばっちり食らうの私なんだけど!?引きずられる様にしてリハルト様の部屋に来てしまった。こんな時に限って隣の部屋なんだから…。
バン!
「今お時間大丈夫かしら?」
「大丈夫じゃない。忙しい」
「そ?ならいいわ。私紗良と付き合う事にしたから」
「ちょっむごごごっ」
ガシャン
「なっ…」
反論しようとしたら、ルーナスさんに手で口を塞がれてしまって言葉を話すことが出来ない。リハルト様は驚きからか、インクの小瓶を倒してしまっていた。ファルド様がインクまみれの書類を見て、頭を抱えたのは言うまでもない。
「そ、そもそも、お前は女に興味ないのだろう」
「そうよ?でも紗良は別だもの」
「ちっ、紗良本当なのか?」
「むごごー!」
「紗良の口から手を離せ」
「やだ怖い。でも今は私の彼女だからどうしようと私の勝手でしょう?」
リハルト様がとても冷たい目をしてルーナスさんを睨んでいた。そして王子様なのに舌打ちをした…。これはあの夜会の時と同じ目だ。そもそもなんでリハルト様は今怒ってるのだろう?ルーナスさんが私の口を塞いでるから?付き合うと言ったから?
「紗良を離せと言っているだろう」
「嫌よ、貴方の物じゃないんだし」
「そいつは俺のだ!」
「あらやだぁ。本音が出てるわよ?」
「っ!なんなんだ一体。なにがしたいのだお前は」
しまったという顔をしたリハルト様は椅子に座り直し、溜め息を吐いて顔を押さえた。俺のだってどういう意味だろうか?もしかして皆が言う様にリハルト様は私の事が好きなの?それとも所有物としての言葉?ちゃんと言ってくれなきゃ分からないよ。
「面白そうだったから、参加しただけよ。あまりにも不憫だったものだから」
「不憫とか言うな」
「でも一つだけ教えてあげるわ。想いは口にしなきゃ伝わらないわよ?」
「分かっている」
「ほら、ちゃんと聞きなさいよ。私は帰るから。私達お別れよ」
漸く解放されて、新鮮な空気が入ってくる。その設定は最後まで守るのね…。頭を撫でてルーナスさんは出ていった。え、私この部屋に残されたんですけど。ちゃんと聞きなさいってこの状況で?無理だよ、ファルド様もいるし…ってこっそりと出ていかないで!?カムバック!!
「紗良」
「な、なに?」
「…何故逃げる」
「な、なんとなく?」
リハルト様が立ち上がってこちらに近付いて来るので、それと同じだけ後ろに下がった。そうしていると壁に背中が当たり、それ以上後ろに下がれなくなってしまった。
「あ…」
ドン
「もう逃げれないぞ」
「っ」
壁を背にリハルト様は両手をつき、逃げれなくなってしまった。こ、これが噂の壁ドンですか!?両手つくのも壁ドンに入りますか!?とかよく分からない事を頭の中でリピートしていた。正直テンパッてます。
「紗良、俺の目を見ろ」
「っむ、無理…」
「無理じゃない。見ろ」
「うぅ…」
渋々顔を上げると、リハルト様と目があった。もうやだ、近いんだもん!
「好きだ。他の誰でもない、お前が好きだ」
「ーーーっ!」
真剣な顔をして紡がれた言葉は、愛の告白だった。その言葉のあまりの衝撃に力が抜けて、座り込んでしまう。顔が一気に赤くなる。心臓が壊れるんじゃないかぐらいバクバクと音を立てている。私の目線に合わせてリハルト様が下にしゃがんだ。
「お前は?俺の事好きか?」
少し赤くなった頬のまま、少しだけ心配そうに聞き返してくる。リハルト様は私の息の根を止めるつもりですか?っていうかこれ現実なの?もしかして夢なんじゃないのかな。…なんてそんな訳ないよね。告白中に夢?とか聞かれたら、私なら張り倒すわ。
「き、嫌いじゃ、ない…」
「…なら好きって事だな」
「っ、ち、違っ…く、ないけど、違う」
「何だそれは。俺の気持ちを弄んで楽しいか?」
「そ、そうじゃないの。わ、分かんないの…」
どこか拗ねた様な顔で私の髪を触っている。弄んでる訳じゃないんだけど、曖昧な答えじゃ、そう思われても仕方ないよね。でも、寝耳に水と言うか、想像してなかった事だから、急に言われても困る。いや、告白はいつだって急なんだけども…!
「分からないだと?」
コクコク
「ぱ、ぱにっくで…」
「…気付いてないのお前だけだからな」
「え!?そうなの?」
「あぁ。だから鈍いとか言われるのだ」
そういう事だったのか。それは言われても仕方がないのかも知れない。そもそも私はこんなに鈍いタイプじゃなかったのだけど、有り得ないって気持ちが強かったから気付かなかったのかも。
「その、ごめんなさい。知らずに、無神経な事を結構言ったかも」
「そうだな。だが、仕方あるまい。お前の気持ちが俺になかったのだから」
「…だ、だって、リハルト様が私を、その、好きなんて想像出来なくて…」
「何故だ」
「格好良いし、王子だし、モテるし、周りに綺麗なひとが沢山いるし、私じゃ釣り合わないし…」
リハルト様が私を好きにならない理由を述べてるのだけど…。何だかこれじゃあまるで私がリハルト様を好きで諦めていた理由に聞こえない!?いやいや、違うからね?違うんです本当に。
「…お前、本当は俺の事好きだろう」
「ち、違う!」
「全力で否定するな。少し、傷付く」
「あ、ごめん」
何時もの堂々としたリハルト様の面影はなく、普通の男の子みたいだった。照れたり、拗ねたり、シュンとしたりと新鮮な感じだわ。可愛いと言ったら怒られるかな?
「言わせたからには、覚悟するんだな」
「私が言わせたんじゃなくて、ルーナスさんだよ。それに覚悟って何の?」
「流れで分からんか?」
「………さっぱり」
それを聞いたリハルト様がニヤリと笑って私の右手をとって、手の甲に口付けを落とした。ビクッとして手を引こうにも強く持たれていて動かない。
「!?」
「言っただろう?手放すつもりはないと」
「手を!?」
「違う!馬鹿なのかお前は!」
だって今の状況で言うから…。前になんか言っていた気がするけど、思い出せないな。うーんと頭を捻っていると、手を引っ張られて立ち上がらされた。
「わわ!」
「俺に惚れさせてやる」
「っ、な、何言って…」
「逃げれると思うなよ?」
「だ、誰か助けてえぇぇぇ!!」
リハルト様に抱き締められながら叫ぶも、誰も来てくれなかった。皆何処行ったんだよー!そしてここぞとばかりに触らないで頂きたい!!
「っ変態!」
「男は皆そんなものだ」
「真顔で言うなー!」
「いいだろう?いずれ俺の物になるのだ」
「ならない!」
抱擁から抜け出して、イケメンだからって何でも許されると思うなよ!と捨て台詞を吐いて部屋から飛び出すと、ファルド様やマリー、リハルト様の侍女、そして何故か料理長までいる。
「…皆、何してんの?」
「ごほん。さぁ皆さん、仕事に戻って下さい」
「「「はい!」」」
「ぬ、盗み聞き!?」
「違いますよ。聞こえて来たのです」
しれっとファルド様から返ってきたけど、同じ事だからね!?料理長に限っては何故この場所にいるのか、10文字以内で説明して欲しい所だけど。
「良かった良かった!リハルト様なら間違いなく、幸せにしてくれるさ!」
「何の話?私、受けてないけど」
「いや、俺には分かってますよ神子様。照れてるんだよな!」
「違っ!」
「腕が鳴るぜー!」
料理長には何やら勘違いしたまま、戻っていった。ファルド様とリハルト様の侍女は何事もなかった様に、部屋に入って行ったのでマリーと二人取り残された。
「…何だか疲れちゃったわ」
「部屋に戻りましょうか」
部屋に戻り、行儀が悪いけどソファに横たわった。案の定マリーに注意されたけど、そんなの無視だ。靴も脱ぎ捨てた。
「もう部屋から出ない」
「それは出来ませんわ」
「ルーナスさんの所為だ…」
「良いではありませんか。リハルト様のお気持ちを知りたかったのですよね?」
「…知らなきゃよかった。今まで通りじゃ駄目なの?」
「時間は進んでいくのですよ。どちらにせよ、今のまま未来に進んで行く事はありませんわ」
物凄く正論だわ。確かにどんなつもりか知りたかった。だけど聞いた今は、聞かなきゃよかったと思っている。変化しようとしている状況に頭が痛い。まずは自分の気持ちをハッキリさせなくちゃ、どうにもならない。
「そんな単純な話じゃないのよね…」
「はい?」
「独り言だから気にしないで」
仕方ない。なるようになるよね?いつもの癖で面倒な事は考えない様にした。紅玉と蒼玉が頭の中で何か言っているのも無視して目を閉じた。今は誰の言葉も聞きたくないから。
「…料理長のバカ」
その後の食事はいつもより、少し豪華でした。勿論美味しく頂きましたけどね?というかこれって、ダーヴィット様達の食事も豪華になっているんじゃ…。誤解されるじゃんかー!!なんなんだよこの城は!リハルト様の味方しかいないのかよー!!?
「マリー、私本気でこの部屋から出られないかも」
「何を馬鹿な事を仰られてるんですか?大丈夫です、でれますから」
「だって皆リハルト様側じゃない!」
「それは当然ですよ。この国の王子なのですから」
「…私他国に行ってくる」
「他国でも同じようになりますよ?だって紗良様は神子様ですから」
ですよね。はぁ、こんな日はあちらの世界に遊びに行こう。最近少しコツが掴めて来たので、自分から精神世界に入れる様になった。もっとコントロールが出来る様になれば、離れた場所の守護者にも会えるのだとか。
「紅水晶-!」
『神子?』
「ここはいつ来ても薔薇が満開なのね」
『なんだ、現実逃避か』
「私の傷を抉らないで下さい」
『この薔薇の様に愛される。何がいけない?』
桃色のくりんとした大きな目で私を覗き込む紅水晶。いけないんじゃなくて、恥ずかしいだけなのよね。周りからもそういう風な目で見られる事も耐えられない。今まで通りの振る舞いが出来なくなるもの。
「リハルト様の気持ちも知らないで、膝枕とか馬鹿じゃないの?って前の自分に言いたいわ」
『そんなの今更』
「そうだけど…」
『金の薔薇。凄く綺麗ね』
「急に話変わるのね。でしょ?丹精込めて力を注いだもの」
『頂戴。一つ』
そう言われてもここに持ち込むのってどうすればいいんだろうと、考えていると一本の薔薇を手渡された。え?今ここで?と聞けば頷く紅水晶。
「ここでは加減が出来ないから、力を使うのは危険だって聞いたんだけど…」
『…欲しいの。駄目?』
「っやるわ!紅水晶の為なら死んだっていい!」
『死んだら困る』
こんな可愛い子に上目使いでおねだりされたら、断れないに決まってるじゃない。まぁ最悪何日か眠るだけだし、構わないよね?薔薇に力を送ると一瞬で真紅の薔薇が金の薔薇に変わった。加減という問題じゃないよこれ。そしてこの世界では疲労感が出ないから、危険なのだと分かった。本来ならもうヘロヘロなぐらいの力を薔薇に持ってかれたのに、全然余裕だもの。
『凄い、綺麗』
「紅水晶が喜んでくれたなら良かった」
『神子。これはいつか神子を助ける』
「え?」
『見て』
紅水晶が手に持っていた金の薔薇に、口づけを落とすと金から黒へと薔薇の色が変化した。なんだか毒々しく見えるのは私だけ?
『崇高なる漆黒の薔薇は、たった一つで穢れた地を浄化させる事が出来る』
「え、ならそれを使えば私じゃなくてもいいの?」
『そう』
「金から黒にはどうすればいいの?」
『命の欠片を吹き込む』
「…それって寿命が縮むんじゃ…」
頭を縦に動かした紅水晶に冷や汗が出た。この子可愛い顔して怖い事を言う。絶対にやらないと心に決めた。まぁそれ程の力があるって事を教えてくれたんだよね。
「あ、そろそろ戻らなきゃ」
『またね神子』
「またね紅水晶。たまにはこっちにも遊びに来てね」
『分かった』
現実の世界に戻ったのは良かったけど、案の定、丸二日も寝込む羽目になりました。精神世界で力を使うのは気を付けなくちゃね。事情を聞いたリハルト様にも怒られましたとも。少し疲れた顔のリハルト様を見て、この人私のせいで早死にするんじゃないかと思ってしまった。これからはもう少し考えて行動しよう。
「聞いているのか?」
「うん。ごめんねリハルト様」
「…はぁ、お前が無事ならそれでいい」
何だかんだ許してしまうリハルト様は甘いと思う。もっとぎこちなくなるかと思ってたけど、普通に接する事が出来てよかった。この五分後には悲鳴をあげる事になるのは知る由もなかった。
「っ!マリー、助けてーーーー!」
「すみません。無理です」
「心配させたお前が悪いんだからな」
どうしよう…紗良にとっても、私にとっても予想外の状況です…。オネェパワースゲー




