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リリーファレス国滞在六日目


「ほら、ドレス出来たよ」

「わぁ!綺麗なドレス!」

「靴なども揃えたから。これで良いだろう?リハルト」

「あぁ問題ない」

「ギリギリ間に合ったねー!」


目の前にはトルソーに着せられた黒のドレスがあった。ドレスには華やかな金の薔薇の装飾がデカデカとあり、ローズレイア国だという主張が激しいく、リリーファレスへの対抗心だろうか?と思ってしまった。だけど気品さを失わないあたりセンスの良さが伺える。腰部分には珍しくリボンが付いており、リハルト様に聞くとこないだのマーガレット様の服が似合っていたから偶にはと返ってきた。


「かわいー!これ着るの楽しみだな」

「喜んでくれて良かったよ」

「紗良様の大嫌いなコルセットを着けなきゃいけませんけどね」

「嫌なこと思い出させないでよ、マリー」

「ん?普段は着けてないのか?」

「うん、苦しいから」


何故普段着でも着用しなきゃいけないのか。窮屈すぎて嫌なんだよね。するとロレアスにウエストから腰にかけて触られた。大胆なセクハラですね?


「着けずにその細さか。素晴らしいね」

「ぬ、ぬぬ、ぬわー!!」

「ロレアス!覚悟は出来ているだろうな?」

「ちょっ!ま、待ってよ!剣を仕舞えって!!」

「こればかりはロレアス様が悪いかと」

「助けろよアルト!!」


リハルト様が剣を抜き、ロレアスに向けた。慌てたロレアスが諌めるも剣を仕舞う様子は一向にない。アルトーラスも静観を決め込んでいる。セクハラの代償はその身をもって償えばいいのだ。


「安心しろ。苦しまずに逝かせてやるからな」

「紗良リハルトを止めて!?」

「…もう。次やったら張り倒すからね?」

「ごめんなさい」

「リハルト様、もういいよ。ロレアスは馬鹿だから許してあげて?」

「え、酷くないか?」


まだ分かっていない様なので床に座らせて「ちょっと顔が良くて女に不自由してないからって、気安く触れて許されると思うなよ?」と説教すれば冷や汗を垂らしながら頷いてくれたのでニッコリと笑って解放してあげた。


「…焼き殺されるかと思った…」

「ロレアスは大げさね」

「ご自分で撒いた種ですよ」

「全くだ」


右手に紅玉コウギョクの力を借りて炎を出しただけじゃない。言って分からない奴は体に叩き込ませるしか無いからね。ロレアスから離れて一番安全であるファルド様の傍に移動した。


「紗良様も、もう少し警戒心が必要ですね」

「分かったか紗良?他の男に近づくなよ」

「そうする」

「悪かったよ。もうしないってば」


墓地でも人を担ぎあげるし、ロレアスはとことん私を女として見ていない。それは多分妹のローラル姫のせいだろう。どうにも同等の扱いを受けている様に感じるのだ。


「ローラル姫じゃないんだからね」

「同じぐらいに見えるだろう?」

「見えないわよ!?ローラル姫は12でしょう?倍ぐらい違うけど!?」

「はは、仕方ないだろう?俺にはそう見えるのだから」

「ロレアスは年増が好きだからな」

「え、そうなの?」

「誤解だよ!?」


慌ててロレアスが弁解をしていた。まさかの熟女キラーかと思えばそうではないらしい。でも年上の綺麗なお姉さんがタイプらしく、幼く見える私は対象外だそう。背伸びしたい年頃なのだろうな。


「ま、好みは人それぞれだもん。深くは聞かないよ」

「その憐れんだ目やめてくんない?」




☆ー☆ー☆ー☆




時間になりドレスに着替えて会場に入ると、眩しいくらいに華やかな飾り付けになっていた。そう言えば派手な国だったの忘れてたわ。


「目がチカチカするー」

「おい、神子として居るのだからな」

「分かってるって」


リハルト様にエスコートされながら階段を降りていると、一斉に注目を浴びた。騒ついていた会場が何かに見惚れる様に静まり返り、優雅な音楽だけが聴こえている。そんなに注目されると困るんだけど、神子の顔を作り階段を降りた所で微笑みながら軽く会釈をした。


「皆様、そんなに神子様を見られたら失礼ですよ?」

「バルドニア王子だわ…」

「あまり夜会には顔を出されないのに」

「今回は神子様がいらっしゃるって本当でしたのね?」

「これは美しいという言葉では足りませんな」

「彼の方はローズレイアのリハルト王子じゃなくて?」


バルドニア王子の言葉に静寂は打ち破られて一気に賑やかになった。チラチラと此方の様子を伺いながら、貴族達の会話が聞こえてくる。見世物じゃないんですけどね。


「神子様。そのドレス姿とてもお似合いですね」

「ありがとうございます。バルドニア王子」

「ゆっくりとお楽しみ下さい」

「えぇ」

「よければ私とダンスを…」

「すみません。紗良は私としか踊れませんので」

「私、あまり上手くないもので…」


バルドニア王子からのダンスの誘いをリハルト様が上手く誘導してくれたお陰で、逃れる事が出来た。その場から離れて近くの使用人から飲み物を貰い飲むとワインだった。そうよね、ジュースなんか置いてないわよね。


「どう見てもワインだろうが」

「ですよね…」

「待っていろ。代わりに他の物を貰ってくる」


そう言って私の持っていたワインを飲みながら離れていったリハルト様に、貴族の女性達がチャンスとばかりに群がっていった。そして此方も同じ様に男性ばかり集まってきていた。


「初めまして神子様。私はエドモンドと申します。お名前をお伺いしても宜しいですか?」

「私は貴方に一目で心を奪われてしまいました」

「ダンスを一緒に如何ですか?」

「飲み物を持って来ましょうか?」

「髪の毛一本まで美しいですね」


次々と男性が話しかけて来て、私が口を挟む隙がないぐらいだ。うぅ、怖いよー!人生の中でこんなに男性に囲まれた事無いんだけど!?リハルト様の方もきっと同じ状態なので助けは来ない。ここは神子の余裕な態度で乗り切ろう。


「初めましてまして皆様。わたくし、そんなに一度に聞き取れませんわ」

「すみません神子様」

「あぁ、声も素敵ですね。まるで小鳥の囀りの様です」

「リハルト王子とはどの様なご関係なのですか?」

「この国のワインは素晴らしいですよ」


誰かコイツラを退けてくれないだろうか?と困惑しながら話を聞いていると、グイッと誰かに腕を引っ張られた。顔を上げると女性から逃げて来たリハルト様だった。


「すまない、遅くなった」

「リハルト様!すみません皆様、私リハルト様と踊りますので失礼しますわ」


リハルト様の腕に抱き付いて貴族の人達に笑顔で会釈をしてその場を離れた。残念そうな顔をしていたが、リハルト様には何も言えない様で容易く逃げられた。助かった…。


「リハルト様のお陰で助かったわ」

「少し離れただけでこの有り様は凄いな」

「皆が喋るからどうすればいいか分からない…」

「無視をしろ」

「出来ないってば!」


そのままリハルト様に誘導される様に会場の真ん中に来てしまった。え?と思っていると「踊るのだろう?」と言われてしまった。確かに言ったけど、あれは逃げる口実だったのに…!


「ほら、始まるぞ」

「わっ…」


次の曲が始まりリハルト様の手が腰に回されたので、渋々体を委ねて曲に合わせて踊る。まぁ一曲は踊る予定だったけどさ…。


「目を合わせて笑え」

「近距離過ぎて無理」

「我儘を言うな。皆が見てる」

「はいはい、分かりましたよ」


今の私は神子様ですからね!微笑を浮かべてリハルト様に目線を合わせると、リハルト様も優しい笑顔を向けてくれた。照れそうになるのをグッと堪えた。


「リハルト様ってやっぱりモテるのね」

「は?お前もだろう」

「あれは神子に群がってるだけだよ」

「こっちもそうだ。王子の名に集まるのだ」

「将来は国王だもんね」


リハルト様と結婚出来れば将来は王妃の座だし、何よりも顔が良いので人気は高いに決まっている。今こうして踊っている間に女性からの恨みを買って居るんだろうな。怖…。


「他国の姫ならまだしも、他国の貴族と一緒になる事は無いけどな」

「まぁそうだよね。何の得もないもんね」

「あぁ」

「リハルト様はやっぱり結婚相手は損得で選ぶの?」

「いや、愛した人と結婚する」


私に言われた訳じゃないのに、王子様顔で目を見ながら言われたので一気に顔に熱が集まるのが分かった。そのまま目を合わせて居られず、逸らしてしまった。


「っ」

「顔が赤いぞ?」

「き、気のせいです!」

「なら目線を合わせろ」

「っ!リハルト様の馬鹿」

「お前が聞いてきたんだろうが。何故お前が顔を赤らめるのだ?」


意地悪そうな顔で覗き込まれる。近い!ただでさぇ近いのに、吐息が掛かりそうな程に近い。早く曲が終わってくれないかな!?私の心臓が持ちそうに無いんだけど!


「近いよ…リハルト様…」

「っそんな顔をするな」


照れた様にリハルト様の顔が少し離れた。そんな顔て言われても自分じゃ見れないんですけど。ただ恥ずかしさから、涙目なのは確かだ。


「あ、曲終わったよ」

「あ、あぁ」

「喉渇いちゃった」

「なら飲み物を貰ってくる」

「あ、待って…行かないで!」


離れたらまた絡まれるので其れだけは避けたい。どうしていいか分からないし、困ってしまう。そんな私の気持ちを汲んだのか離れずに一緒に飲み物を取りに移動してくれた。


「それ下さい」

「ばっ!待てそれは…」

「っ!」


グラスを手に取り一気に飲むと白ワインだった。思わず咳き込んでしまい、リハルト様が背中をさすってくれた。大体他国の夜会でワイン以外があるとは思えないのは私だけだろうか?


「大丈夫か?」

「ケホッ、うぅ…」

「顔が赤いぞ。水貰ってくるから此処で待ってろ」

「うん…」


ワインを一気飲みにしたらお酒が回り顔が火照る。リハルト様に連れてこられた場所はテラスで人も居らず、なによりも風が気持ち良かった。手摺に手をついてボーっとしていると横から声が聞こえた。


「おや?こんな所に美しい女性がいるとは」

「だ、誰?」

「これは失礼。俺はロキスロード・ジャン・トリーシア。地位は男爵だ。美しい貴女のお名前は?」

「え、えっと紗良ですわ」

「紗良か…いい名前だ。顔が赤いけど酔ったのか?」


テラスの隅から現れたのは赤茶髪のイケメンだった。男性なのに妖艶さがある。ロキスロードと名乗った男性は私の頬に手を当ててきた。


「大丈夫ですわ。離して下さらない?」

「そんな男を誘う様な目をしてるのにか?」

「そんな目をしてませんわ」

「してる。気付いてないのか?そんな顔で男を見たらいけないな」

「えっちょ…ん、んんー!?」


頬に当てられた手で顔を引き寄せられて、知らない男性にそのままキスをされてしまった。逃げようにも力じゃ敵わなくてされるがままだ。怖い、嫌だ、なのに逃げられない。男女の力の差を痛感する。


「やめっ…!」

「紗良?…っお前何をしている!!?」

ドガッ

「った!」

「大丈夫か紗良?」

「っ、リハルト様っ…」

「ロレアス!其奴を連れて行け!!目障りだ」

「あぁ。さぁ彼方へ、只では済みませんよ?」

「怖い怖い。分かったよ」


リハルト様が来てくれてロキスロードを思いっきり殴り飛ばした。何時の間にか居たロレアスにロキスロードは連れてかれてこの場を立ち去った。何だか安心したら泣いてしまった。


「すまない。俺がこんな場所に一人にした所為で」

「っひっく、急に、うぅ…」

「泣くな、彼奴の所為で涙を流すな」

「ごめっ、止まらな、くて…」

「っ、紗良」


リハルト様が優しく慰めてくれるも、涙は止まらなかった。キスの所為でと言うよりも、力が敵わなくてびくともしなかった力の差に恐怖があった。


「だ、大丈夫、だからっ」

「そんなに泣いているのにか?」

「びっ、吃驚した、だけ…なの」

「なら、忘れろ」


そう言うとリハルト様は私を強く抱き締めた。驚いて顔を上げるとリハルト様の青い目と視線が絡む。気づいたら目の前にどアップのリハルト様の顔があり、声を掛けようとしたら口を塞がれてしまった。


「リハ…んん、はぁ、…んぅ…」


先程と同じように、だけど相手が代わり、私はキスをされていた。何度も何度も角度を変えててキスをされる。苦しくて、悲しくて、だけど優しいその口付けに頭が真っ白になって力が抜ける。暫くしてゆっくりと離れた唇からは銀糸が伸びて消えた。思いがけない事に涙はいつの間にか止まっていた。何か言葉を発したいのに、何を言っていいのか分からない。そもそも私自身頭がぼんやりとしていて、混乱しているのに。


「…な、なん…」

「俺以外の男に唇を許すな」

「…え?」

「他の誰にも指一本触らせるな」

「えっと、リハルト様?」

「分かったか?」

「んっ…」


私の目を見つめて唇を親指でなぞられた。ゾクリとするその感覚に身じろぐも視線は反らせなかった。いつもと違うリハルト様に戸惑っていると、ロレアスが戻って来た事で解放された。


「まだ此処に居たか。彼はもうこの城には入れないから安心して。大丈夫か?」

「…う、ん」

「悪いがもう退場させてもらう」

「あぁ、済まなかった。それと、ありがとう助かったよ」

「あぁ。行くぞ紗良」

「う、うん」


リハルト様に促されて会場を出る。部屋に戻る道では一言も話さなかった。でも正直有り難かった。色んな事が頭の中でグチャグチャしていてこれ以上の情報が入る気がしなかったから。


「お帰りなさいませ。どうでしたか?夜会は」

「う、うん…。ちゃんと踊って来たよ」

「良かったですわ。さぁ着替えましょうね」


部屋につけばマリーが居たので、リハルト様と喋らずとも気まずくならない。別室で着替えをしていると、マリーが化粧が崩れているのに気付いた。


「あら?泣かれましたか?」

「あ、間違ってワイン飲んじゃって…」

「そうでしたか。なら湯浴みは明日にしましょう。倒れたら困りますから」

「大丈夫、入るよ」

「でしたらもう湯を張ってありますので、ゆっくり入って下さいね」


丁度ドレスを脱いだ所だったので、そのまま湯に浸かった。深く息を吐いて目を閉じ、唇に手を当てる。思い出されるのはリハルト様とのキスだ。お陰でロキスロードとの事は薄れてしまっている。


「その為に、かな…?」


きっとそうだ、そうなんだよ。忘れろって言ってたし、その為にしたんだ…。もっと他のやり方があったと思うのは私だけだろうか?それに彼とのキスは嫌だったけれど、リハルト様とは嫌じゃなかった。いつも一緒に居るからだろうか?それにリハルト様からしたらペットにキスをしたぐらいの感覚だよね?泣いていたから泣き止ませる為に、みたいな?


「ペット…」


チクリと刺す痛みに首を傾げながらお風呂を上がるのだった。明日は漸くローズレイアへと帰る日だ。早いとこ寝て忘れてしまおう。



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