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33双子は好みが似るらしい

ファルド様が出ていってしまってから10分程の沈黙が続く中、漸くリハルト様が口を開いた。良かった寝てしまうとこだったわ。


「俺は、お前が強くなるのが怖いのだ」

「…え、怖い?」

「一人で行動出来るようになったお前は、いつしか俺から離れていくのだろう?」

「離れてくなんて、大げさな…」

「そしてまた、俺を一人にするのだ…」

「…リハルト様」

「笑っていいぞ、こんな情けない俺を」


いつものリハルト様はおらず、目の前にいるのは弱弱しい男性が一人。膝の上で手を組んで目線をずっと床に向けている。らしくない、だけどこれが本当のリハルト様なのかも知れない。私は立ち上がり前にリハルト様がしてくれたように、リハルト様の前にしゃがみ込み手を重ねた。


「笑わないよ。それにリハルト様は一人じゃない!リチェもいるし、ダーヴィット様やマーガレット様、ファルド様だっているんだよ?」

「お前は?」

「勿論いるよ。強くなってリハルト様を護ってあげるね!それがルドルフの願いでもあるの」

「ルドルフの?」


ルドルフはこの国を護りたいと言った。でもそれ以上にリハルト様を護ってあげたいんだよね。だって自分の半身であり、兄弟である。それにね、リハルト様の弱さを知ってるから側に居たいんだって。守護者ガーディアンとしては駄目かもしれないけど、私はそれを叶えてあげたいんだ。


「それに、私ここから出ていくつもりもないの」

「……本当に?」

「出てけって言われても、出て行かないんだから。だって此処は凄く居心地がいいんだもん。前に言ったでしょ?皆がいてくだらない日常が私の幸せだって」

「あぁ、あの恥ずかしいやつな」

「失礼な!リハルト様が聞いたんだからね」

「はいはい」


いつものリハルト様が戻ってきた。やっぱりこっちの方がいいな。なんか落ち着くもの。立ち上がろうとしたらリハルト様にそのまま引き込まれた。一瞬なにが起こったか分からなかったが、気付くと強く抱きしめられていた。


「え、セクハラだよ」

「なんだそれは」

「えっと…犯罪です」

「そうか」

「…なので離して下さい」

「断る」


うーん、どうしようかな…。ルドルフを呼ぶべきか否か。ファルド様は出て行ってしまったし、マリーは最初から居ないし。考えても状況は変わらないしリハルト様は離してくれないし。最近こんなんばっかだから慣れてきちゃったな。


「今日のリハルト様は変だわ」

「そうだな」

「あ、認めた。ふふ、今日は私のがお姉さんみたい」

「…俺は男だ。分かってんのか?」

「…お、おぉぅ…」


体が離されてリハルト様と視線が絡む。離れたといっても腰に腕はまわったままだ。そんな風に言われるなんて思ってもいなくて、思わず変な声が出てしまい「色気のない奴だな」と笑われてしまった。だってリハルト様の事女性として見た事なんて無いのに。


「確かにリハルト様は凄く綺麗だけど、ちゃんと男性に見えるよ?」

「はぁ、お前は馬鹿なのか?それとも馬鹿な振りをしているのか?」

「え、そういう事ではないの?」

「…お前、恋愛したことあるのか?」

「失礼だなさっきから。ありますよー!」

「ならなぜ気づかん」

「…?言ってる意味がちょっと…」


本気で意味分かんない。恋愛うんぬんより、そもそもリハルト様は私の事なんて眼中にないだろうに何故そんな事を言われるのかさっぱり。私としても目の保養にしか思ってないし…。そりゃ格好いいよ?でもこんな美形と付き合えるなんて微塵も思ってないし、憧れたりはするけど釣り合わないし。…え?もしかしてリハルト様って私の事……ってないよね。うん無いな。


「リハルト様っていつも女性にこんな事してるの?」

「だからお前の中の俺の印象は如何なっているのだ!」

「イケメンは大体遊んでます」

「いけめん?」

「格好いい人の事だけど」

「お前は俺の事そう思うのか?」

「思うので離して下さい」


何故そんな事を聞くのだろうか。ハッ!まさかリハルト様は自分がイケメンだと思っていないとか!?それはヤバイ…世の中の男性を敵に回したわね。でも沢山の女性を相手にしてたら気づきそうなものだけど。


「はぁ、お前の事が今一わからんな」

「分からなくて大丈夫。私もリハルト様の事よく分からないので」

「思っている事を伝えているだろう」

「回りくどくてよく分かんないって言ってるじゃん」

「理解しようとしろ。お前だけだ、そんな事言ってるのは」

「えー、だってどうせ私の事馬鹿にしてるだけでしょ?」

「何故そうなるのだ」


盛大な溜め息と共に解放された。良かった、近距離のリハルト様ってキツイのよね。いくら耐性が付いてきたとは言え間近はやっぱり緊張しちゃうよね。そこら辺の女性なら卒倒しちゃうよ。


「ルドルフもそうだけど、気軽に女性に抱き着いたら駄目なんだからね」

「お前、前に俺を押し倒しておいてよく言えたな」

「あれは実験の一環です」

「…。おいまさか、毎晩ルドルフと一緒に寝てるのか?」

「そんな卑猥な言い方しないでよ!寝てるっていうか、気付いたらいる」

「…はぁ、おいルドルフを呼べ」

「さっき言い合いしてたのに?」


別にいいのに。守護者ガーディアンなんだし、お風呂には入って来ない様に命令してあるしと言えば、怖い顔で見られたので小さく悲鳴をあげて顔を背けた。


「ひー、ルドルフ!」

『なに?リハルトに襲われたの?』

「そんなわけないだろう。お前じゃないのだから」

『え、人聞きが悪いなぁ。僕がいつ何をしたのさ』

「紗良のベッドで毎晩寝ているそうだな」

『護ってるんだよ。夜に怪しい奴が来ないように』

「ベッドに入る必要はないだろう」


二人が並ぶと凄い見応えがあるんだけど、会話の内容がなぁ…。ていうかこの双子本当に仲良かったの?とてもそういう風には見えないんだけど。


「双子と言うのは大変ですね」

「わ、ファルド様!ルドルフの事知ってるの?」

「はい」

「昔は仲良かったみたいなのに」

「好みも似るのでしょうね」

「え?なんの話?」

「いえ、此方の話です」


気付くと背後にファルド様がいて、二人を呆れたように見ていた。だけど微かに嬉しそうに見えるのは気の所為ではないだろう。ファルド様がいつから王子に仕えてるか知らないけど、この表情を見るに昔からいたのだろうな。


「リハルト様、仮にも人前ですよ。御自分に相応しい言動をなさって下さい」

「げ、ファルド。いつの間に戻って来たのだ」

「先程です。蒼玉ソウギョク様も紗良様に恥をかかせない振る舞いをなさって下さい。困るのは紗良様ですから」

『昔から変わらないなファルドは。気をつけるよ』

「流石ファルド様!助かりました」

「紗良様はもう少し自覚された方が宜しいかと」

「なにを?」

「御自分が美しい女性である事を」


突然そんな事言われても、私にはそうは思えないんだから仕方ないじゃないか。それにこの騒ぎと関係ない気がするその言葉に、腕を組み唸っていると溜め息混じりにファルド様が近付いて来た。この国の人達って溜め息を吐きすぎだと思うのよね。


「私でも気を抜けば貴女に心を奪われそうですよ」

「ーーーっ!」


手を顎に掛けられて上に上げられると、ファルド様の黒い瞳と目が合った。こ、これが噂の顎クイ…!?そこら辺の王子よりレベル高いんですけど!?駄目だ、鼻血出そうなくらいクラッときた。そしてきっと今は顔が真っ赤だろう。


「ファルド!」

『ファルド!』


二人同時にファルド様から思いっきり剥がされた。うん、息ぴったりね。二人から睨まれたファルド様は相変わらず無表情で、何を考えているか分からなかった。


「真実を言っただけです。さぁ早く仕事をなさって下さい。もう充分休憩されたでしょう」

「あ、私戻るね」

『そうだね、行こう紗良』

蒼玉ソウギョク様は此方に。まだ話は終わっておりません」

『…え』


血の気の引いた顔をしている蒼玉ソウギョクを残してそっと部屋を出た。良かった、あれ以上は耐えられる自信がなかった。ファルド様の、黒の瞳の奥にある情熱的な物を見てしまった気がして私はドキドキする心臓を抑えるので必死だった。


「世間の女性が憧れる仕草は、並みの心臓じゃ破壊力が強すぎるわ…」


誰か私に何事にも動じない鋼の心臓を下さい。それかせめて砕けない腰を下さい…!実は部屋を出た後に力が抜けて床に座り込んでいたのだ。人通りが少ない場所で良かった。その後他の侍女が通りかかり、慌てて此方に来たのでマリーを呼んでもらった。


「紗良様!どうされたのですか!?」

「うぅ…腰が抜けたぁー」

「えぇ!?何があったらそうなるのですか?」

「ファルド様が…」

ガチャ

「何ですか?騒がしいですね」

「申し訳ありませんファルド様。すぐに移動しますので…」


マリーに事情を説明しようとするとドアが開けられて、ファルド様が顔を出した。扉の前で座り込んでいる私を見て何か考える仕草をした後に口を開いた。


「この様な場所に座り込んでどうされたのですか?…あぁ、私に運んで欲しいのですか?」

「ち、違います!」

「そうですか。そんな床に座られてはお身体冷えてしまいますよ」

「大丈夫です!すぐ移動するので!!」

「そうして下さい。では失礼します」


パタリと閉められたドアを見て、安堵の溜め息を吐いた。ファルド様、絶対面白がってる…!だってニヤリと笑いながら言われたもん!!力一杯拒否した時にはもう既に興味なさそうな顔をしてたけど。全然読めない人だ。


「さぁマリー、私を運んで!」

「無理ですよ!」

「やっぱり?なら肩貸して」

「もう、仕方有りませんね」


何とかして部屋に戻り椅子に腰掛ける。腰が抜けるとか人生で初めてだったわ。マリーに説明したら凄い笑われた。解せぬ。


「紗良様はすぐ忘れてしまいますからね」

「ジョセフィーヌさんぐらい綺麗だったら、自覚出来るんだけどさ」

「紗良様の方が綺麗ですわ!」

「…マリー、それは幾らなんでもないよ。あの透明感!遠くから見ても分かる上品な佇まい!見る者全てが溜め息をついてしまう程の美貌よ?勝てないわ」


あの人に勝てる人など存在するのだろうか。いても守護者ガーディアンの様な人外の者だろう。あ、でもリハルト様も隣にいて負けてなかったな。


「リハルト様がジョセフィーヌさんと結婚してくれたらなぁ。仲良くなって毎日眺めれるのに」

「下心のある中年男性の様な事を言わないで下さい。それとリハルト様の前で絶対今の話をしないで下さいよ」

「え、どうして?」

「どうしてもです!いいですね?」

「はぁい」


着ていた服をポイポイっと脱いで、ルーナスさんに作って貰った上下モコモコの部屋着に着替えた。もう誰にも会うつもりがないからね。マリーはドレスをテキパキと片付けてくれた。この衣装についてはもう諦めてるようだ。


「はぁ最高だわ。このぬくもり、動きやすいシルエット!ルーナスさんは私の神様だ」

「大げさですね。その変わったお召し物は前の世界では普通だったのですよね?」

「そうよ。でもこっちじゃ変な目で見られるから、これを再現してくれるルーナスさんの腕が素晴らしいわ」

「それはそうですね」

「はぁ、お城に住んでくれないかな。シェトルテまでは少し距離があるからな」

「ご自分のお店があるので無理ですよ。紗良様専用のお召し物を作って下さるって素晴らしい事なのですからね?無理を言ってはいけませんよ」

「はぁい」


頼んだ服を作ってくれるのはいいんだけどさ、一度会ってからというもの変なオプションがついてくるようになった。今着ている部屋着でも、フードがついておりなんと猫耳までも付いている。頼んでないし、これじゃあキグルミになってしまうんだけど…。


「ねぇ、ルーナスさんて私の年齢分かってるのかな?」

「それを見る限り知らないかと思いますが、知っていたとしても気にされるような方ではありませんわ」

「そうよね」

「でも、紗良様に似合っていますよ」

「…マリー着てみる?」

「遠慮します」


即答で断られた。どうやらルーナスさんの中では私は黒猫のイメージしか無いようで、さりげなく刺繍が入っていたりする事もしばしばある。大体は中に着る物だったり、部屋で着る物だから問題はないんだけどさ。


「ルーナスさんのが似合うと思わない?」

「そ、そうですか?」

「うん。男性だけど綺麗だし」

「確かに。女性の方々から人気ありそうですのに…」

「心は女性だからね~。神子の仕事無くなったらやっとってくれないかな」

「安心して下さい。なくなりませんので」

「そうかなぁ」


私が目指すのは神子がいらない世界なんだけどな。そりゃ、土地を治める事が神子の仕事じゃないんだろうけどさ。自分の子供がっその役目を背負わざる負えないのは違う気がするんだよね。まぁその前に結婚出来るかどうかの問題があるんだけどね。


「マリーもいつか結婚しちゃうんでしょ?」

「しませんよ」

「えっ!?」

「この歳だともう行き遅れですしね」

「そんな事ないよ!まだまだ子供だって産めるわよ?」

「興味はありますが、働く方が性にあっていますので。それに紗良様の侍女は私でなければ務まりませんからね」

「マリーの幸せを優先してほしいけどな」


気持ちは嬉しいけどな。ぽつりと零すとマリーはもの凄い笑顔で「私は今凄く幸せです」と言ってくれた。毎日良くも悪くも退屈しないし、食べたことのない物もたまに食べれるからだそうだ。どんだけ食い意地張ってるんだろう…。


「それに、紗良様のお子様の面倒を見るのも私の楽しみなんです」

「はい?」

「紗良様に似たらお転婆になりそうですしね」

「ま、まってマリー。結婚してもついてくるつもり?」

「ついてくるというか、お世話係は変わりませんのよ?」

「いやいや、それってこの城に限るよね?他の所に嫁いだら無理でしょう?」

「それはないですけど、まぁもしそうなる事があってもご一緒します」


聞き捨てならない話が入っていた気がするけど、マリーがそんな思いでいてくれたなんて、ちょっと感動しちゃった。これからも食べ物を貢いでいこうと心に決めた。


「まぁそんな予定も今の所、微塵もないのが悲しいとこよね」

「そんな事ありませんよ。幸せは身近なとこにあるものです」


時折、マリーやリチェが何か企んでそうで怖いと感じる紗良だった。



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