29積雪
今日もいつもと同じように起きて、顔を洗って朝の紅茶を目覚まし代わりに頂き、着替えようと立ち上がりふと窓の外を見る。
「!ま、マリー!!」
「何ですか?」
「見てみて!凄い、辺り一面真っ白!!」
「積もったみたいですね」
「軽い!反応が軽いよマリー!」
「そう言われましても…。そもそも紗良様は寒いの苦手じゃないですか」
「それとこれは別なのよ」
結構積もってるんじゃないかな?ドレスの下に入念に着込んでから、ドレスを着て上着を羽織る。先日ルーナスさんに貰った耳あてを着けて準備万端だ!
「ちょ、ちょっと紗良様!まさか外に行かれるおつもりですか?」
「見て分かんない?」
「お体が冷えてまた風邪を引かれては困ります!」
「大丈夫だって!体を動かせばいいんだから!ほら、マリーも外に出る準備をして」
マリーを追い出す様に準備をさせに行き、戻るまで外の雪を眺める。そこそこの積雪量があるけれど、流石にかまくらは無理かな?一度作ってみたかったんだけど。そんな事を考えていると、準備を終えたマリーが戻ってきたので部屋から外に出た。
「うわぁー!マリー、結構積もってるね!!」
「そうですね。さぁ戻りましょう」
「まだ来たばっかりじゃない。何言ってるの?」
厚さ50センチ程の雪にダイブしたら後ろからマリーの慌てた声がする。そのまま引っ張り起こされて、体に付いた雪を払いながら文句を言われた。マリーがいてくれて良かった。自分で起き上がるの厳しかったかも知れない。
「見てマリー!私の姿が残ったよ」
「あら本当ですね」
「フカフカで気持ちいいよ?ほら」
「えっ、ぎゃ~!!」
バフッ
「あははは!どう?いいでしょ?」
不意打ちでマリーを突き飛ばすと、見事な形で倒れこんだ。それを笑いながら起こすと物凄い笑顔なマリーがいた。これはヤバイやつだ。怒る前にマリーは必ず笑顔になるのだ。
「さ~ら~さ~ま~!」
「きゃーーー!」
「こら!待ちなさい!」
先手必勝!逃げるが勝ちよ!マリーに捕まる前に雪の中をズボズボ進んでいく。あんなに嫌がってたマリーも怒りで気にせず雪の中に入ってくる。これ凄く面白い!
「ぎゃっ」
「わっ当たった!」
「痛いです紗良様」
「雪玉だもん。ほらっ」
「やりましたね!もう許しませんよ!」
「きゃあ!酷い、2発連続はずるいわ」
ボスボスと雪玉を当てあいながらも移動する事30分。流石に疲れて来た。雪の上に仰向けで倒れこんで休憩していたら、料理長達がやってきた。何でも声が聞こえてきたらしい。雪まみれの私達を料理人達の休憩室に慌てて連れていってくれて、暖かい飲み物を出してくれた。
「温まる~」
「神子様、早く着替えた方がいいですよ。服が濡れたまんまだと風邪を引くぜ?」
「体動かしてたから平気よ!」
「もう戻りましょうよ紗良様!」
「えー、まだ雪だるま作ってないのに」
「なんですか?雪だるまって?」
興味深々で聞いてくる料理長達。これはしめたと思って、暖炉で濡れた服を乾かしながら雪だるまの説明と、ついでにかまくらの説明もしといた。すると面白そうだという事で付き合ってくれる事になった。本当は手袋が欲しいんだけど…無いのでウェルディの地で覚えた水を弾く力を皆の服に祈った。うん、便利な力だ。魔法と変わらないんじゃないかと思えてきたよ。
「でもサボってたら怒られないの?」
「今は暇ですからね」
「最悪怒られたら神子様のせいにさせてもらいますわ」
「がははは、そりゃいいな」
「うん、私が責任を持つよ!行こう皆」
「冗談ですよ。ちゃんと怒られます」
「なら私も一緒に怒られてあげるね!」
皆で笑いながら外にでて、作成を始める。かまくらチームと雪だるまチームの二班に分かれて作業を始めた。私は雪だるまチームだ。マリーにはかまくらチームでの指示係をお願いした。場所は以前迷い込んだ、南の塔の近くにある中庭だ。騎士の鍛錬が出来る程広くて、障害物もない。それに雪で使用してないのでうってつけなのだ。
「こうやって、ちょっとずつ転がして行くの」
「ほぉ、これを二つ作ればいいんですね」
「うん、一つは少し小さめにしてね?上に乗っけるから」
「了解っす」
雪だるま班に指示をして、かまくら班の様子を見に行くとひたすら雪をスコップなどでかけて固くして大きくしている所だった。これ時間かかりそうだなぁ、よしその間に何個か雪だるまを作ろう!
「神子様!こんなもんですか?」
「でかーーー!!あはは!でかすぎだよ!」
「ありゃ?どうしましょう?」
「頭をその上に乗っけられる大きさにすれば、問題ないよ!」
「こんな感じですか?」
「あははは!ちっさ!バランス悪いよー!」
「わははは、お前そりゃないわ!」
大爆笑の雪だるま班はその後も何個か作り、ようやく理想のバランスの雪だるまが出来た。惚れ惚れしちゃうくらい完璧だと言えば、皆満足げな顔をしていた。手が空いたのでかまくら班の元に行き、皆で手伝うことにした。
「どんな感じ?」
「まだまだです、結構大変ですね。かまくらと言うものは」
「そのようだね。こっちは理想の雪だるまが出来たから手伝うよ」
「なんですか理想の雪だるまって…コワっ!紗良様、あんなにいたら怖いですよ」
「ちょっと作りすぎちゃったの」
全部で10体の雪だるまが綺麗に並んでる姿は圧巻だ。うん、夜に見たら少し怖いかも…。ちゃんと木の実とか枝で顔もあるので、1体だけなら可愛かったかも。
「あれが料理長で、あっちがリハルト様。あ、あれがマリーね!その隣が私で…」
「モデルがいるんですね、あの雪だるま達…」
「うん、そうやって見れば可愛いでしょ?」
「えぇ少しだけ」
かまくら作成に時間を掛けていると、いつの間にか騎士の方々も騒ぎを聞きつけて、手伝ってくれることになった。騎士の人達は力があり、あっと言う間に私の背丈を超える塊になった。人材って大事だな。
「これからどうするんですか?」
「あ、ロイド君だ!初日ぶり!隊長さんもいるっ」
「どうも神子様!お久しぶりです」
「どうも。神子様だったとはあの時は失礼しました」
「気にしないで!この山の中身を均等にくり抜いていくのよ」
金髪の癒し系ロイド君と赤髪の隊長さんは、この世界に来た時に初めて見た人だった。隊長なのにこんな事してていいのか聞いたら、騎士はもっと上の人達がいるのだそう。まぁ、それで今日は休みなんだって。
「おぉ早い早い!いいなぁ、いい感じに引き締まった筋肉。理想だよね」
「紗良様、変態の様な発言はやめて下さい」
「えー、分かんないかなぁ?ムキムキじゃなくて、無駄のない筋肉の美しさが…。細いけど筋肉があるのってドキッとしない?」
「私はムキムキのゴリゴリの方が好きです」
「…趣味悪いよ、マリー」
想像したら青ざめてしまった。騎士たちがその話に聞き耳を立てていた事など知らずに、サクサクと中の雪が掘り出されるのを見ていた。途中、料理長達が暖かいスープなどを出してくれて、休憩しながら作業を開始する事三時間。だいぶ形になってきた!
「外と同じように円形状に、そう均等に!」
「こんな感じですか?」
「うん、凄い!初めて作ったけど凄いよ!」
「え、初めてですか?」
「私の住んでた所は、そんなに積もらなかったから、作ってみたかったのよね」
「雪だるまもですか?」
「雪だるまはあるけど、すっごく小さいのしか作った事ないんだ。こんなに大きいのは初めてなの」
マリーが成る程といった様に頷いている。大人数でこうやって騒ぐのも悪くないなって思った。向こうでは狭く深くの友人関係だったから、大人数でワイワイってやった事ないんだよね。だから今日は凄く楽しかった。
「出来ました!どうですか?」
「完璧!流石騎士だね!」
「いやぁ、ははは」
「この中に入ってご飯食べたりとか、暖まったりするんだって!」
「入れて三人とかですね」
「もっと大きいのは人力じゃ無理だよ。この大きさも人力で良く出来たと思うよ?」
皆で完成を喜び騒いでいると、遠くから響く声で此方を注意する声が聞こえた。
「お前達、何をしている!」
「やべ、ファルド様だ」
「ファルド様?どうして此処にいるんだろう」
此方へ近付いてくるファルド様に駆け寄ると、全てを理解したらしい。理解力高すぎなんですけど。
「何処にいるかと思えば、こんな場所で遊んでいたのですか?」
「見て見てー!あっちが雪だるまでね、これがファルド様なの」
「この様な雪の塊が私ですか?」
「うん、この顔そっくりでしょ?」
「はぁ」
「こっちがリハルト様で、こっちが私なの」
興味のなさそうな返事をするファルド様に、一つ一つ説明していく。かまくらも如何に時間と労力を掛けたのかを説明して、此処まで完成させた喜びを伝えた。
「…神子様って怖いもの知らずだよな」
「神子様だから許されるんじゃないか?」
「マイペースな人ですから、紗良様は」
「大変だな、侍女も」
「えぇ」
マリーや騎士、料理長達がそんな話をしてる間に私は全てを伝えきって満足していた。
「そういう話はリハルト様にして下さい」
「ん?だってファルド様にも話したかったから」
「私に話しても面白くありませんよ」
「ふふっ私は満足したからいいの!」
「そうですか。遊びは終わりですよ、紗良様」
「はぁい。皆ありがとね!楽しかったー!」
皆に手を振って戻る道を歩いていく。雪だるまとかまくらは溶けるまで置いといてくれる様だ。ファルド様って意外と優しいんだよね。
「どうしてファルド様があの場所に?」
「紗良様の部屋に伺ったのですが、いらっしゃらなかったので」
「そうなんだ。何だったの?」
「ルーナス様からお荷物が来てましたからお届けに」
「えっ?ルーナスさんから?なんだろうな」
「リハルト様のお部屋にありますので、湯あみと着替えを済ましてから来てくださいね」
何でお風呂に入るんだろうと思ったら、体が冷えているからだそうだ。確かにそうかも。でもお風呂入ったら寝てしまいそうだな。それにしても置いといてくれればいいのに…、と言えばリハルト様が探しに行けと言ったらしい。
「紗良様は目を離すと何をしでかすか分かりませんから」
「…怒ってます?ファルド様」
「いえこの寒い中、紗良様を探すことに時間を取られた事など気にしておりません」
めっちゃ気にしてるじゃない!怖いよー、ファルド様って顔色変えずにチクチク言ってくるのよね。今度なにか差し入れを持って行こう…。こないだファルド様は辛い物が好きだという情報を入手したからね!
「ごめんなさい。今度から報告してから行きますね」
「そうして頂けると助かります」
マリーはさっきから一言も喋らない。何故なら怒られたくないからだ。流石にファルド様には私も怒られたくないですけどね!?しかし責任は私にあるので話かけるしかなかった。沈黙が気まずいのが一番の理由だけど。
「紅玉の場所にはいつ頃向かうの?」
「冬の間は積雪で移動が出来ませんから、雪が溶けた春頃になるかと」
「春かぁ」
「どうかされましたか?」
「ううん、紅玉の元に行くの少し怖いなって」
「私がお守りしますから安心して下さい」
「ファルド様が入れば百人力だね」
ファルド様は剣の腕が一番強いって話だし、そこは心配してないんだけど。呪いってのが怖いんだよね。でも、行かなくちゃいけないんだよな…。そんな話を終えて、入浴を済まして新しい服に着替えるとリハルト様の部屋に向かった。
トントン
「紗良です」
「入れ」
「失礼します。ルーナスさんから荷物来たんだって?」
「あぁ、そこに置いてある箱だ」
テーブルの上に小さな箱があった。大きさからして服じゃないと思うんだけどなぁ。リハルト様に中を見たか聞いたら、見てないそうだ。
「わぁ、手袋だ!もっと早く欲しかったなぁ」
「そのモコモコしているのが手袋なのか?」
「執事の人がしてる様な物じゃないよ。防寒用の手袋なの」
「また珍妙な物を…」
「あれ?まだなんか入ってる」
「今度は何だ?」
「あの時の耳だ…なんで?」
ルーナスさんの店で試着した黒のミニドレスのセットで付いていた猫耳だった。実は黒ドレスはお買い上げしたのだが、耳は置いて行ったのだった。頭を悩ませていると手紙が入っていた。
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紗良へ
あんたが欲しがっていた物の試作が出来たからあげるわ。
それと、やっぱりあのドレスにはこれが必要だと思うの。
貴女の魅力が最大限に増すわよ?これであの王子を、
メロメロにしちゃいなさい!なんなら、今度それで私の
店に来てもいいわよ?可愛がってあげるわ子猫ちゃん。
貴女の注文ならいつでも受け付けてあげるから注文して
きなさいね。じゃあねん小娘。
ルーナス
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「ふふ、相変わらずねルーナスさんは」
「燃やせ、そんな気色悪い手紙」
「駄目だよー、人が書いてくれた手紙だもん」
「で?耳ってなんなのだ」
「ん?これ」
入っていた黒猫の耳を頭に付けたら、盛大にむせた。この世界の人には見なれない物だもんね。気持ち分かるよ、私もこの歳で付けるのキツイもん。黒髪なら誰でもいいのだけどと、ファルド様を見たら嫌な予感がしたのか顔を背けられた。…ですよね。
「変な物を送ってくるなと返信しとけ」
「そんな事書かないよ。今度リチェにつけて貰おうっと」
「絶対に付けないと思うぞ」
「そうかな?凄く似合うと思うんだけど」
「分かったから早くそれを取れ」
「はぁい。マリー付ける?」
「つけません」
頭から外して箱にしまった。ルーナスさんが付けるのが一番似合うと思うんだけどな…。メイド服でこれつけてお店に顔出したら喜びそうだな、あの人なら。
「あ、そうだ!今日皆でね雪だるまとかまくら作ったんだよ」
「寒がりのお前が外に出るなんてな」
「雪が積もったなら話は別なの」
「都合のいい頭だな」
「うっさい。それで皆の雪だるまがいてね、リハルト様もいるんだよ」
「その雪だるまと言うのは何なのだ」
紙と羽ペンを借りて雪だるまの絵とかまくらの絵を書いて説明したら、子供の遊びだなと一蹴りされた。かまくらに関しては大人が人寄せのイベントで作るのにな。
「リハルト様も一緒にやったら楽しいよ?」
「俺はお前と違って忙しいのだ」
「はいはい、王子だもんね」
「なんだその返事は。大体この雪の中遊んで、また風邪引いても知らんぞ」
「引かなきゃいいんだよ」
「また苦い薬を飲まされたいのか?」
「えー、なんかリハルト様に呑まされたらしいけど覚えてないのよね」
「…は?」
「熱で記憶が飛んじゃったみたい」
その言葉に固まるリハルト様。その様子に私とファルド様は首を傾げて、マリーは何故か顔が強張っている。いやホント、何があったのか教えてほしいわ。
「はぁ、もう部屋に戻れ。お前と話していると疲れる」
「リハルト様、私だってそんな言い方されたら傷つくよ」
「そんなやわなハートしてないだろう」
「してますよ!酷い、私をなんだと思ってるんだ」
「手の掛かる子供だな」
「もうリハルト様なんか不能にしてやるー!」
「やめろ」
去り際に負け台詞を吐いて自分の部屋に戻った。ベッドに倒れこんで枕に顔を埋めて叫び、ストレス発散しているとマリーに咎められた。今度からレディとは何たるかを講師を呼んで叩きこまれるそうだ。そんなの私には必要ない!と言えば、もう決まった事なのでと言われてしまった。
「マリーの馬鹿ぁ!」
「冬の間は暇なので良かったじゃないですか」
「よくないよ!姫とかならまだしも、私神子だもん。必要ないよ」
「ありますよ」
結局この日は寝るまでイライラしていた。
息抜きの小話を。




