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24鈍感には無理な話

約20日振りぐらいにローズレイア城に帰還する事が出来た。久しぶりの我が家だー!こっちの世界の家は此処しか無いから我が家で良いよね。


「んはー!ただいま、ローズレイア」


馬車から降りて伸びをする。そんな私をリハルト様が呆れた様に見ていた。


「今回は随分長旅だったな」

「お疲れ様でした。リハルト様」

「あぁ、お疲れ様」


笑顔でそう言えば、笑顔で返ってきた。眩しすぎて鼻血が出そうです。いつもこうやって笑ってたらいいのに。…でもそうすると私の心臓が持たないや。


「ずっと馬車だったから身体痛い〜」

「…ずっと寝てただろ」

「だって起きてると酔うんだよね」

「身動き取れない俺の気持ちになってくれ」

「リハルト様が反対側座ってくれれば良いんだよ?」

「何故俺が動かねばならないんだ」


真顔でそう言われてしまった。何て冷たい王子なんだ。でもそれなら私が倒れ掛かっても文句言えないよね?と返せば「そうだな。我慢する」だって。


「でもリハルト様もたまに、私にもたれ掛かってる時あるのよ」

「覚えていないな」

「じゃあ、今度馬車にベッド取り付けようよ。そしたらリハルト様にもたれ掛かからなくて済むし、良く眠れるし」

「何故馬車で寝心地を追求するのだ」


馬車降りてすぐの場所でそんなやり取りをしていると、ファルド様に怒られた。


「こんな場所で立ち止まっていないで早く部屋に戻って下さい。使用人達が片付けられません」

「わ、皆さんゴメンなさい!マリー行こう」

「はい」

「リハルト様も報告が先ですよ」

「分かっている」


周りに目を向けると、使用人達は何故か温かい目で此方を見ていた。仲良いな的な感じで見られていたんだろうか…。皆に謝り、マリーと共にその場を離れた。


「微笑ましい光景でしたよ」

「え、そう?」

「はい。皆その様に見ておりました」

「…気をつけるわ」

「え!?何故ですか?」

「だってリハルト様、婚約者がいるんでしょう?」


立ち止まって後ろを振り向けば、マリーが驚いた顔をして私を見つめていた。何をそんなに驚いているんだろうか?


「どちらでそんなお話を?」

「どちらって…王子にもなれば普通いるんでしょ?産まれた時から相手が居ても不思議じゃないよ」

「そうですが…」

「まぁ中には王位継承権を放棄してまで、一般人と結婚する王族もいるみたいだけどね」

「…紗良様は、リハルト様の事をどう思われてるのですか?」


その質問の答えを考えながら、向きを変えて歩き出す。通路の真ん中で立ち止まったら邪魔だもんね。でも何もこんな外通路で聞かなくたっていいのに。


「どうって…。意地悪だけど優しい所はあるし、心配性だし、大人ぶってるけど子供っぽいとこもあって、んー…面倒見のいいお兄さんでもあり、弟でもあるみたいな?」

「………はぁ。紗良様に聞いた私が馬鹿でした」

「何なのよ聞いといて。失礼しちゃうわ」

「紗良様、お身体が冷えますので戻りましょう」

「だから何だったのよー」


結局色々誤魔化された気がするんだけど…。まぁいいか。何だか長旅で疲れちゃったし、久々に薔薇ジャムを入れた紅茶を飲もう。




☆ー☆ー☆ー☆ー☆




「…そうか、御苦労だったな」

「はい」

「新たな件といい、神子には苦労させてしまうが代わりの居ない存在だからな。無理しない様にしっかりと見張っているんだぞ。神子が倒れてしまえば、他の国や貴族なども黙っておらんからな」

「心得ております」


父である国王にウェルディの地で起きた事の報告をする。比較的穏やかな性格であるが、厳しい人でもある。王としては「政治的価値のある神子」として見ているのだが、個人としては紗良を娘の様に思っている様だ。


「他の者なんぞに、神子をくれてやるつもりなどないのだ。その為にお前に任せたのだからな。しかし、お前は何をやっているのだ。早く手に入れぬか」

「それは、王としてでしょうか?それとも父としての御言葉でしょうか?」

「両方だ。お前もいい歳なのだから、そろそろ婚約者を決めねばならん。ラッケルタ侯爵が痺れを切らして近々娘のジョセフィーヌを送りつけると申しておるぞ」

「お断りした筈です」

「正式な婚約者が決定して居ないのに断られても納得出来ぬそうだ。奴も娘が可愛いのだろう、そう簡単に諦めたりはせん」


正式な婚約者が~…とかよくもヌケヌケと言えたものだな。大体、婚約者候補の一人であっただけで婚約者に決まった事などない。それを断ったからと言って、ラッケルタ侯爵のその様な行動は如何なものかと思うがな。ジョセフィーヌは確かに美しく、頭も良い。だが候補の娘は皆そうだ。何かに秀でている訳でも、興味のある話をされる訳でもない。誰がなっても差異は無いと思ってしまう程度なのだ。


「そこで一つ父として提案が有るのだが」

「父としてですか?」

「そうだ。聞くか?」

「はい」

「神子を婚約者として発表するのだ」

「…は?」

「場を固めてしまえば、後は気持ちだけだ。時間を掛ければ鈍くても、お前ならいつかは振り向かせることが出来るだろう」

「それは…紗良を騙してと言う事でしょうか?」


それで紗良は納得するだろうか。確かに他の誰かに渡すつもりは微塵もない。だが、その様な真似して手に入れたくは無い。


「騙すのでは無い、協力という形にするのだ。お前は卑怯な真似だと思うかも知れんが、そうじゃ無い。欲しい物を手に入れる為の手段・・だ」

「ですが私にはその様な真似は出来ません」

「頭の固い男だな。仕方ない、一年やろう。一年以内に何とかしてみるんだな。出来なかった場合は先程の手段か、別の者との婚姻を進める」

「…分かりました。努力します」

「ふむ、黒髪の孫も悪くないな」


些か気の早い言葉が最後に聞こえた気もしないが、聞こえない振りをしてその場を下がった。単に紗良を本当の自分の娘にしたいだけなのだろう。紗良は俺と同じ様に薔薇やジャムなどを父上達にも差し入れしている様だ。母上なんか紗良に洋服のプレゼントをしているぐらいだ。実の子供である自分達よりも紗良には甘い顔をしているのだ。


「父上と母上も虜にして、何を目指してるんだアイツは」


いや、分かってる。偶々そうなっただけで、紗良はそんなつもりは無いのだ。喜んでくれたらいいなー!とかそんな気持ちでしか居らぬから、余計に気に入られるのだろう。料理人や庭師、使用人達までも取り込まれているのだから。


「婚約、か…」


守護者ガーディアンである翡翠ジェイドとやらが、同じ黒髪のファルドを結婚相手に勧めていたが、勿論ファルドにやるつもりも無い。大体、紗良にベタベタと触っていけ好かないのだ。琥珀アンバーも紗良の唇を奪ってどう言うつもりなのだ。守護者ガーディアンでなければ速攻叩き切っている。そうやって守護者ガーディアン達の事でイライラしながらも歩を進めていると前から紗良が歩いて来た。


「あれ?リハルト様だ。なんか黒いよ?」

「何がだ」

「なんかオーラみたいな?ねぇマリー」

「私にはよくわかりませんわ」


俺の背後を何やら手でパッパと払っている紗良。神子になるとその、オーラと言うものが見えるのだろうか。一度部屋に戻って着替えたのだろう。黒いドレスではなく、白のドレスを着ていた。白は白で悪くないな。


「報告終わったの?」

「たった今な。それは何を持ってるのだ?」

「ん?これ?」


紗良が差し出したのは丸型の硝子の瓶に入れられた乾燥した花だった。何なのか聞けば、ポプリもどきと言われた。また何か作ったのか。


「ほら、ほんのりと花のいい香りがするでしょう?」

「あぁ、本当だな」

「でしょっ?部屋に飾るんだー」

「帰って来たばかりなのに元気だな」

「ダーヴィット様に何か言われたの?」

「…何故だ?」

「だって険しい顔してるから。綺麗な顔が台無しだよ」


男に言う台詞では無いがな。そんな顔をしていたのか…気を付けなければ。紗良は俺の真似なのか眉間に皺を寄せてマリーに見せて笑っていたから背後から手を伸ばし、顎に手を当て上を向かせた。


「ち、近い!」

「綺麗な顔なんだろう?近くで見せてやる」

「っ、近距離は、ちょっと…」


顔を赤らめて目を逸らす紗良に満足して手を離した。こんな事ばかりしているから、意地悪とか言われるのだな。案の定、何やら言いながら逃げていった。


「少しやり過ぎたか」


ほんの少し口の端が上がる。今の関係は案外気に入っているのだ。紗良が望んだ平凡な日常をな。だが、俺は王子で紗良は神子だから、周りは待ってはくれないだろう。ならば時間が許す間はこうしていたい。




☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆




部屋に戻り、棚の上に持っていた硝子の器を置いた。実はウェルディに行く前に庭師のエドガーさんに頼んで薔薇を乾燥させて貰っていたのだ。本当は精油が欲しいけど、用意出来ないので生の薔薇を混ぜて使う事にした。そうする事で薔薇の香りを楽しむのだ。衣装がしまってあるクローゼットに置いて服に臭いを移しても良い。


「枯れた花と生花を混ぜる…生と死の融合ね」

「表現が斬新過ぎますよ。外では言わないで下さいね」

「はぁい」


まぁ生花を混ぜるとあんまり持たないんだけど、試作品だから問題無いかな。精油を作りたいけど、作り方など知らないので自分なりのやり方で楽しむ事にした。


「あ、そういえばさ」

「何でしょう?」

「服を自分でデザインして作れたりしない?」

「何か着たいデザインでもあるのですか?」

「うん、部屋着と言うか寝間着に欲しいの」

「そうですねぇ、リハルト様に相談されてみたら如何でしょうか?」


うーん、却下されそうなんだよね。Tシャツにショートパンツが欲しいのだけど、こっちではそんな服装しないから着ていたら怒られそうだ。何時でも部屋から出られる服装って疲れるんだよね。


「…やっぱりいいや。却下されそう」

「え?良いのですか?」

「うん。諦める」


いつか仕立て屋の人と知りあって、内密に作って貰うんだ。細やかな私の野望が一つ出来た。一番は町に出て探しに行くのがベストだけど、許可が降りないので夢のまた夢なのだ。


「あ!シャツでいいや」

「え!?紗良様の衣装でその様な物はありませんよ」

「…リハルト様の所から失敬してくる」

「絶対ダメですよ!」

「じゃあお願いしてくるわ」

「きっと無理ですよ」


ー30分後ー


「ただいまマリー」

「どうでしたか?」

「ジャーン!」

「え!下さったんですか!?」

「うん、ファルド様が」

「え!?ファルド様のシャツなのですか!?」

「ううん、リハルト様の」


驚くマリーをよそにホクホクしながらシャツをベッドに置いた。男性用だしこれ一枚で寝間着に出来る。でも良いのかな?白いシャツの襟の部分にはローズレイアの紋章が刻まれている。リハルト様が普段着ているシャツだった。


「よくファルド様が下さいましたね」

「なんかリハルト様の侍女に言って持って来て貰ったのよね。もう着回して着なくなったって言ってたけど、勝手にいいのかな?」

「ファルド様に何て言ったのですか?」

「寝間着に着たいのでいらないシャツを下さいって」


リハルト様が居なかったのでファルド様の部屋に赴き、そう伝えたのだ。怪訝な顔をされると思ってたが、ファルド様は少し考えた後に了承してくれたのだ。リハルト様の侍女を捕まえて、シャツを持って来てくれたって訳だ。


「ファルド様のでも良かったのに」

「リハルト様のシャツと言われた訳では無いのですか?」

「うん。誰のでも良かったから」

「…そうですか。ですが、シャツ一枚で寝るなんて言語道断ですよ」

「いいじゃん、楽なんだもん」


夜になり、お風呂にゆっくり浸かった後、夕方に貰ったシャツに腕を通した。うん、丁度良い!程よく着古してあるので柔らかく、動き易い。満足して脱衣室から出ると何故かリハルト様が居た。ソファに腰掛けてマリーの用意したお茶を優雅に飲んでいた。何時ものキッチリした服装では無く、シャツにズボンといった簡易な服装だった。


「どうしてリハルト様がいるの?」

「お前、…なんて格好をして居るのだ」

「紗良様!普段の寝間着を着てください」

「えー、楽なのに」

「本当に寝間着にして居るとは。まぁ構わんが、その格好で人に会うなよ」


寝間着以外に何に使用すると言うのだろう。大体、夜に女性の部屋を訪ねる人に言われたくない。マリーに促されて渋々いつもの寝間着用のワンピースに着替えた。


「もう寝るつもりだったから。シャツならもう返さないよ?気に入っちゃったもの」

「あぁ、もうよい」

「そう?じゃあ何?」

「祈りをくれ、少し疲れた」

「良いけど、リハルト様がそう言うの初めてだね」


まぁでも、戻って来てから忙しく動いていたみたいだし、流石のリハルト様でもシンドイんだろうな。リハルト様の隣に腰掛けて祈る。疲労回復に役立つのは便利よね。


「助かった。礼を言う」

「うん…。ねぇ、私に出来る事ない?」

「大丈夫だ」

「私は、リハルト様の負担になってない?」

「それは無い。これは俺が決めた事だ」


そこには、強い意志が瞳に現れており、何を言っても変わらないだろう。掴んでいた腕を上げてまた祈った。私に出来る事はこれだけだから。


「リハルト様のやりたい事が全て上手くいきます様に」

「出血大サービスな祈りだな」

「リハルト様だけだよ」

「そうか。それは役得だな」


余程疲れているのか、力無く笑ったリハルト様。やっぱりちょっと効果が弱い気がするな。…よし、あの方法でいこう。…恥ずかしいけど!


「リハルト様、額にキスして下さい」

「は?な、何を…」

「印の所ね」

「……それは…」

「いいから、早く」

翡翠ジェイドがやっていた事だろう?大丈夫だ、先程ので充分だ」


手で頭を離されてしまった。ち、覚えてたか。実験の兼ね合いもあったんだけどな。こうなりゃ強行手段だ!リハルト様を捕まえるとマリーに告げる。


「マリー!リハルト様を抑えてて!」

「え!で、出来ませんよ!」

「おい、やめろ」

「大丈夫!実験も兼ねてるから」

「大丈夫じゃないだろうソレ」

「もー慣れてるでしょ!」

「お前の中の俺の印象は如何なっているのだ」


呆れながら私を引き離すリハルト様。マリーが手伝ってくれないから、試せなかったじゃないか。マリーをジロリと睨むと目を逸らされた。


「え?お手の物でしょ?額だよ?」

「怒っていいか?」

「何でよー」

「男に容易く引っ付くな」

「何を今更。馬車で何回リハルト様を枕にした事か」

「偉そうに言うな」


腰に手を当ててフンと言えば溜め息を吐かれた。もう兄弟の様な関係なんだからと言えば、リハルト様の表情が険しくなった。え?と思ってると、腕を引かれて頬にキスをされた。


「……え?な、な…」

「お前と兄弟になった覚えは無い」

「た、例えじゃない!そ、そ、それに、頬じゃなくて額だってば…」

「知ったことか」


頬に手を当て口をパクパクしている私を尻目に、リハルト様は部屋を出て行った。…何が起きてこうなったのか…。誰か私に分かる様に説明して下さい。


「…紗良様って馬鹿ですよね」

「何でよ…」

「リハルト様を怒らすのがお上手ですね」

「え?怒ったの?」

「そうですよ。理由はご自分でお考え下さい。お休みなさい紗良様」


部屋に一人残されて考えてみるものの、全く分からなかった。…なんか今日一日長かった気がするな。


「はぁ、寝よ」


シャツに着替えてベッドに潜り込んだ。考えても分からない事は、考えなくても問題無いよね。色々忘れて寝てしまおう。




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