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21止まない雨

前回のお勤めが上手くいったので、今回は少し遠目の場所に向かっています。あれからもう一ヶ月経ち、そろそろ秋が終わろうとしている。何か早いなぁ。王子の仕事の兼ね合いもあるので、中々すぐ次の地へ…とは行かないのだ。


「ねぇ、私はこれが仕事だからいいんだけど、リハルト様は違うでしょ?そろそろ神子のお仕事隊作ってよ」

「なんだ、その締まりのない名前は。そこに属するのは嫌だ」

「名前なんて何でも良いじゃない。別にリハルト様が属するわけじゃ無いし」

「俺以外に誰がお前を抑えられると言うのだ」

「大丈夫!ちゃんとやるから」

「お前の大丈夫が一番信用出来ない」


っま!失礼しちゃうわ。まぁ、リハルト様が心配するのも分かるんだけどね。神子を欲しがる者は国内、国外問わずかなりいる訳で。遠征中に馬車が襲われることもありうるし、それで攫われたりしたら大問題だ。だからこそ王であるダーヴィット様が許可している訳なんだけど…。


「リハルト様が第一王子じゃなければ私もここまで気にしないよ」

「確かに俺はいずれローズレイアの王になる。でも今じゃない。父上もまだ若いしな」

「だけど、ずっとこのままっていう訳にはいかないでしょ?」

「そうだが、それは今考えることじゃない。最初はお前が足を運ばなきゃならんが、あの計画が実行されていけば、紗良が赴く必要も少なくなるだろう」

「そうだけど…それじゃあ、守護者ガーディアンが可哀想だよ。翡翠ジェイドを見たでしょう?神子をあんなに待っていたのよ?」


気の遠くなる様な時間を誰とも話さず、誰にも知られず、ひっそりと待ち続ける。何年間に一度でも良い、彼らが喜ぶのなら私の時間を全部あげたって良い。


「あいつとは時間の流れが違うだろう?お前が神子であると同時に、一人の紗良と言う人間なんだ」

「そんな事わかってるよ」

「分かってない。その気持ちは紗良としてか?神子としてか?」

「私は紗良でもあるけど、神子でもあるもの。二つ合わせて私じゃないの?」

「分からないなら分けろ。紗良としての自分と神子としての自分を」

「…リハルト様の言うことは、私には難しい」


分けるとか、そんな器用なこと出来ないよ。どっちも私で、この考えも両方の私からじゃないの?リハルト様は難しい顔をして私を見ていた。真剣に考えろってことでしょ?そういう時は何時もこの表情をするんだから。


「それぞれにとって譲れない物を決めるんだ。そのどちらを優先するのかをな。でないといざという時に動けなくなるぞ」

「…うん、考えてみる。リハルト様はそうやって生きてきたの?」

「あぁそうだ」

「そっか…王子も大変だね」

「そうだな。紗良と共にこうして動くのは俺の譲れない部分だ」


俺ってことは、王子じゃなくてリハルト様としてって事だよね?そう考えればいいのか。神子として譲れない物はまだ分からないけど。紗良として譲れない物か…何があるかな?紗良として……そっか!簡単な事だ。


「私は……、リハルト様がいて、ファルド様がいて、マリーやリチェがいて、毎日皆と一緒に笑っていたいし何気ない日常を過ごしていきたい。ずっとは無理かもしれない。でも、可能な限りは一緒に居たい。暇でいい。怒られてもいい。少なくても紗良はそれで幸せなの」

「……そうか。恥ずかしい奴だな」

「む…リハルト様が考えろって言ったんでしょー」

「考えろとは言ったが、別に言えとは言ってない」

「だって考えてると口にでるんだもん!ってちょっと、笑わないでよ!!」

「いや、だって、ははっ。馬鹿だな紗良は」


久しぶりに見た、リハルト様が大笑いしてるところ。馬鹿にされてるのに、そんな顔されたら怒れないじゃない。でもこっちが本当のリハルト様なんだよね。


「もう!仕方ないから、リハルト様が笑える様に馬鹿のままでいるわ」

「それはそれで困るな」

「神子は頭いいキャラでやるから!」

「ははっ、発言が馬鹿っぽいな」

「もう、笑い過ぎ」


今日のリハルト様は変だ。でも、こっちの方が好きだな。飾らないと言うか何も気にしないで、ありのままの姿でいるの。皆が王子として見るなら私はただのリハルト様として見よう。私の事を紗良として見てくれるのだから。


「お久しぶりですねウェルディ侯爵」

「遠方からすまないねリハルト王子。この通りずっと雨さ。もうすぐ四ヶ月になる」

「そんなにですか?一度も止まずに?」

「そうだ。ずっと降り続けている。降らないのも問題だが、降りすぎるのも考え物だな」

「確かに。洪水や土砂崩れなどの災害はどうですか?」

「各地である様だが、まだ対応出来る範囲だ。これ以上長引けば分からんがね」


今はここヴェルディの地に来ており、ヴェルディ侯爵のお屋敷にいる。こないだの領主の屋敷とは比べ物にならないくらい大きい。内装は少し派手だが許容範囲かな。高そうな壺や絵画に骨董品などが多く飾られていた。侯爵になるとお金もかなり持っているのだろう。ちなみに城から片道三日もかかった。


「紗良、こちらウェルディ侯爵だ。昔はよく城にいらしてたんだ」

「やぁ初めまして神子様。ここウェルディの地を治めるヴァントレス・ライノリア・コルフェットです。お顔を見せて頂けますかな?神子様」

「初めましてウェルディ侯爵。神子をしております紗良と申します」


フードをとり挨拶をする。名前をなんて呼ぼうか迷ったが王子と同じ呼び方にすることにした。王子の幼少期を知ると言うウェルディ侯爵は、茶色掛かった金髪に薄茶の瞳で顎髭を生やしたとても優しそうなおじ様でした。見た目は少し怖そうだけど、笑うと雰囲気が優しく変わった。


「これはこれは。随分綺麗な御嬢さんを捕まえたな。私も後、数十年若かったらな」

「ご冗談を。いまでも若くいらっしゃるじゃないですか」

「いやいや、もう老いぼれだよ」


見たところまだ40代ぐらいに見えるけどな。侯爵ってことは貴族の中じゃ一番上だったはず。だから城にも来ていて王子とも知り合いなのかな?良く分からなくて大半聞き流してたからな…。ちょっと反省。


「さぁ今日は疲れただろう。食事を用意してある。そちらの話も聞かせておくれ」

「ではお言葉に甘えさせて頂きます」


キヌアスの地でもそうだったけど、食事をしながら情報交換するのが主流なのかな?今はまだ守護者ガーディアンの声は聞こえてこない。二人の会話に耳を傾けて、お肉を口に運んだ。お腹一杯になった私は豪華な食事を終えて部屋に戻る。


「雨でじめじめするね」

「こうも降り続いてしまうと、どうしようもありませんね」

「洗濯物とか乾かないよね」

「えぇ、大変でしょうね」


ガラス越しに降り続ける雨をマリーと会話しながら、ずっと見ていた。この分の雨は、キヌアスの様に別の場所から取ってるのかな?それとも、守護者ガーディアンの力でこうなっているのだろうか。もしかしてここの守護者ガーディアンは力は有るのかも知れない。雨を降らせ続けるって力を使いそうだし…。はぁ、まだまだ知らないことが多すぎるわ。


「これでまた一つ情報が入ればいいんだけど」

「そうですねぇ。キヌアスとは逆ですものね」

「うん、私は知らないことが多いから。神子として動く為にも知らなきゃいけないんだ」

「無理はなさらないで下さいね」

「大丈夫だって!私はリハルト様と違って頑張りすぎないから」

「そうでしたね。嫌になると脱走しますもんね」


えぇ、すいませんね。煮詰まったりすると一人で外の空気が吸いたくなるのよね。お腹も膨れて眠たくなったので明日に備えて、雨音を子守唄に早めに眠る事にした。






☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆






またあの時と同じように夢を見た。真っ白な空間に一人、誰かが立っていた。前回と違ったのは姿も見えて、会話も出来た事だ。


『神子、待っていたわ』

「貴方は誰?」

『私を忘れてしまったの?』

「いいえ、私は前の神子では無いの」

『そうなの、私はこの地の守護者ガーディアン。名前は琥珀アンバー

琥珀アンバー…」


琥珀アンバーと名乗った守護者ガーディアンは暗闇の中でも輝きそうな、黄金色の髪と瞳を持っている。長い髪は後ろに束ねており、肌も陶器のように白くて透明感がある。翡翠ジェイドと同じ様な着物を着ており、胸元が露わになっている。私にその豊満なバストを少し分けて欲しい…。


『久しぶりだわ名を呼ばれるのは。そういえば前の神子は亡くなったんだった。今思いだしたわぁ』

「どのように前の神子は亡くなったの?」

『あらぁ、知らないの?』

「私はこの世界の人間じゃないの。それに前の神子はもう1000年も前なの」

『1000年…、もうそんなに経ったのね』

琥珀アンバーは力の枯渇は無いの?」

『人が多い場所だと昔の名残がちゃんと残ってたりするものよ。私ぐらいになると上手く力を補えるのよ』

「なら神子の力は不要なの?」

『いいえ。神子の力はとても我らにとって必要な物よ。人から力を補ったとしても自我を失わないだけで、この地を支えるのはまた別問題なのだから』


何だ結局は力が必要なんじゃないか。琥珀アンバー翡翠ジェイドから聞いた方法でも大丈夫か聞いてみたら、紋章を通す事で神子の祈りに変わるから問題は無さそうだった。それにしても人の祈りだけでは自我を保つ事しか出来ないんだ…。力が無くなるのは苦しいらしく、自分の存在を保つのに精一杯で他の事に力を使えないから、荒れていくのだそう。翡翠ジェイドが典型的な例だ。


「ならこの地はどうして雨がずっと降っているの?」

『私の力が弱くなっているからよ。この雨はね、隣の地で眠る紅玉コウギョクが起こしているのよ』

紅玉コウギョク?何故そんな事をするの?」

『泣いているのよ神子を思って。神子の力を感じているのね』

「眠っているのは何故?」

『さあ、分からないわ』

「ねぇ、神子はどうして滅びてしまったの?最後の神子の話を聞かせて?」


沢山の質問をする私に、琥珀アンバーは少し困ったようにクスリと笑った。「一度に同時は無理よ」と言われてしまった。琥珀アンバーは何かを考えるそぶりをした後、私に尋ねた。


『いいの?ここは精神世界。現実あちらとは時間の流れが違うわ』

「夢だと思ってた…」

『似たような物ね。現実あちらではもう四日も経っているわよ』

「そんなに!?大変、皆心配しちゃうわ」

『ならこの話はまたかしらね』

「現実の世界で力をあげる。だから向こうで話してくれる?」

『そうねぇ…。今力をくれるならいいわ』

「ここでも可能なの?」

『ふふ、なぁんにも知らないのね。出来るわよ。でもお勧めはしないわね』


何故かと聞くと、こちらの世界での力の受け渡しは加減が出来ないから危険なんだそう。下手したら命を落とすらしい。え?ここで頂戴って言ったよね…?


『長い間待っていたのだから、少し意地悪しただけ』

「私のせいじゃないのに…」

『いいわ、あちらで会いましょう?そしたらお話してあげるわ』

「ありがとう琥珀アンバー、待たせてしまってごめんね」

『いいのよ、大きな木の下にいるわ。起こして頂戴』

「うん、すぐ行くね」


琥珀アンバーが優しく微笑んだ瞬間、真っ白な世界は闇に呑まれた。あぁ、現実世界に帰って来たんだ…目を開けなくちゃ、皆心配してるもの。そう思うのに、瞼が重たくて開かない。あぁだめだ、意識が沈む…眠たい…な。


「紗良様、早く目を覚まして下さいね」


マリーの悲しそうな声を聞きながら、結局その日はそのまま眠ってしまった。起きたのは、眠りについた日から一週間のことだった。



あれ?終わらなかった…。すみません次に持ち越します。

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