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19名も無き声

不思議な夢を見た。誰かの声が聞こえる、苦しい、悲しい、寂しい、そんな感情が流れ込んでくる。神子を呼んでいるその声の主は見えない。


「どうかされたんですか?」

「ううん、大丈夫…。ただ声が聞こえるだけ」

「え!?それってまさか…幽霊じゃ…」

「馬鹿ねマリー、今は朝よ」

「そ、そうですよね。では何の声ですか?」

「分かんない」


夢だけじゃない、起きてからも微かに聞こえてくる。途切れ途切れで声も小さく、何を言っているか分からない。そもそも言葉じゃなくて泣き声だろうか?


「昨日の夜は大人しかったな。眠たかったのか?」

「あ、うん。フードあって良かったよ。目が半分閉じ掛かってたもん」

「相変わらずだな」


朝食を食べた後、馬車に乗りキヌアス村に向かっている。声が少しずつ大きくなって来た。昨日は聞こえなかったのに、やっぱりあの夢のせいなのかな。


「……」

「どうかしたのか?」

「え、ううん、何でもないよ」

「気になる事があるなら何でも言え」

「…声がするの…聞こえない?」

「声?何も聞こえないが…」

「呼んでるの…神子を、呼んでる」


目を閉じて声に耳を傾けてると、リハルト様に腕を掴まれた。驚いてリハルト様を見つめる。


「リハルト様?」

「どこにも行くなよ」

「え?」

「……何でもない」


聞き返すと、ハッとした様に手を離した。…変なリハルト様。行くところなんて他に無いのに。


「如何でしょうか、神子様」

「……こっち…」

「あ、おい紗良!」


キヌアス村に着いて声が大きくなったから声のする方が分かる。導かれる様に足を進めた。辿り着いたのは何も無い場所。ただひび割れた地面があるだけだ。


「私を呼んだのは貴方?」


声を掛けても返事は無い。諦めて地面に手を置き、祈りを捧げた。この大地が潤うように、と。額の印から粒子が飛び出し辺り一面に漂う。


「す、素晴らしい…」

「これが神子の力ですか」


粒子は地面に吸い込まれていき、みるみるうちに大地が潤っていった。粒子が消えた頃には雑草まで生い茂っていた。


「良かった…」

フラッ

「紗良!」

「少し、疲れただけです…」

「ありがとうございます紗良、ゆっくり休んで下さい」

「っリハ、ルト様…」

「何だ?どうかしたのかい?」


あの王子様スマイル来たー!支えられての近距離での王子は素敵過ぎる!しかも言葉遣いが猫被りバージョンなのよ?力抜けちゃうよ!ってそうじゃない…後ろに何か見えるの!


「あ…貴方が、私を呼んだのね…」

「?何の話だい?」

「後ろ…見えませんか?」

「後ろ?…何だアレは…」

「ひっ」

「ば、化物!?」


リハルト様の後ろに見えたのは、透き通った人型だった。思わずリハルト様にしがみついてしまった。襲われたら盾にしようと思って。あの様子なら村長と領主にも見えている様だ。


『…神子…神子…どこだ?…神子…』

「お前は誰だ?何故神子を探している」

『神子…神子…』

「私はここです」

『おぉ神子、何故ずっと来てくれ無かったんだい…』


透明の存在はリハルト様の声は聞こえないようだった。私が声をだせば、透明の存在リハルト様にしがみついている私の元に近寄り、手を伸ばして私の顔を包んだ。その拍子に被っていたフードも落ちる。


「私は神子でも、貴方の知っている神子では無いわ。だから教えて?貴方の事を」

『神子…違うのか…神子、神子、力を頂戴…』

「えっ…あ!」


透明の存在は私の額の印に口づけをした。口があるか見えないけど、多分口だと思う。すると力がみるみるうちに減って行くのが分かる。


「やっ、やめて!っ、あぁ」

「おい、やめろ!紗良から離れろ!!」

『あぁ、力が蘇る…。すまないな、力に飢えていたのだ…神子?』


力をかなり吸い取られた私は気を失ってしまった。透明の存在は私の力を得て、姿がハッキリしたのが最後に見た景色だった。




☆ー☆ー☆ー☆ー☆




「ん…、」

「あ、紗良様!」

「ん…あれ?マリー?」


私は確か大地に祈りを捧げて、元に戻って…あ、透明な人型が出て来たんだっけ…。確か力を吸い取られて…そうだ、気を失ったんだ。思い出したわ。


「もう三日も寝てたんですよ!」

「そんなに?」

「はい、リハルト様を呼んで来ますね」

「うん」


マリーが出て行って五分も経たない内に、リハルト様とファルド様が来た。


「紗良、大丈夫なのか!」

「リハルト様…大丈夫。寝たら回復したみたい」

「そうか、良かった」


ホッと笑ったリハルト様の笑顔がレアで、ほんのりと頬が染まってしまった。それを顔色が良くなったと思ったリハルト様は安心した様だ。


「あの透明の人型は、結局どうしたの?」

「あぁ、それがな…」

『神子!』

「え!?ちょっと…」


ドアを開けずしてスルリと入って来たのは綺麗な人だった。緑色の長髪に緑色の瞳で女性の様に美しく、着物を崩した様な物を来ていた。…その人にいきなり抱き着かれてフリーズした。だからイケメン慣れしてないんだってば!


『神子、神子、すまないね。良かった目が覚めて。何処か怪我してないか?』

「リハルト様、もしかして…って離れて下さい」

「あぁこいつがそうだ」

『こいつとは…小僧が生意気な口を聞きおって。お前なんか神子が居なければ、私なぞ見る事も出来ぬ存在なのに』

「紗良から力を奪っておいて、よく言えるな」


そのまま二人は言い合いを始めてしまった。全く話が掴めないんだけど、透明の人型が、この美青年でいいのね?何故ここに居るの?どんな存在なの?さっぱり分からないんだけど。


「…貴方は誰?名前はなんて言うの?」

『私の名は翡翠ジェイドだ。ここら一帯の土地を守護する者。守護者ガーディアンと呼ばれる存在だ』

翡翠ジェイドね。何故あの土地は枯れてしまっていたの?」

『私の力が枯渇していたからだ』

「どうして?」

『神子が来なくなったからだ。我々守護者ガーディアンは神子から祈りの力を貰うことで、土地を守っているのだ』


成る程、神子が天変地異をどうにかしていたと言う話と繋がるな。って事は、定期的に祈りを捧げに来なくちゃいけないのか。


「そうだったの…それで?私の力を得た貴方はどのぐらい大丈夫なの?」

『そうだな、かなり吸い取ってしまったから…。1000年はいけるな。ただ祈りの力を定期的に貰わなければ、また同じことの繰り返しだ』

「そんなにいけるのね。なら暫くはこの地は安心ね」

『いや、やっぱり一ヶ月に一度は来てくれ』

「え!?」


いやいや、言ってる事、変わりすぎだからね。まだ他にもこの様な場所があるみたいだし、無理だよ!あ、でもそっか…。夢の、声の主ならきっと…。


「残念だが、紗良はそんなに暇では無い」

『お前には聞いておらん』

翡翠ジェイド、貴方…寂しいのね?」

「は?」

『神子!そうなのだ!!この1000年、神子は来なかった。力も減る一方で…ずっとずっと苦しかったのだ』

「きゃっ、すぐ抱きつく…。ごめんね、翡翠ジェイド。1000年も一人で頑張ったね」


抱きついてくる翡翠ジェイドを抱き締めかえして、背中をポンポンと撫でる。子供をあやす母親のように。話をしていて分かったの。翡翠ジェイドは子供の様に純粋な存在で、神子をずっと待って居たのだと。誰にも知られず、一人で1000年も耐えたのは凄いと思う。


「まるで母親の様ですね」

「あぁ、普段の姿からは想像出来んな」

「紗良様は色んな顔がありますね」


私と翡翠ジェイドを見ながら、そんな会話があったなんて知る由もなかった。


「ねぇ、翡翠ジェイド。その祈りは神子じゃなきゃダメなの?」

『ダメだ!』

「本当に?」

『ぐ……力は弱いが、神子の力を媒体に人の祈りでも多少は大丈夫だ。たがやはり、神子に来て欲しい』

「うん、じゃあ一年に一度来るね」

「紗良!何を勝手に!?」

「リハルト様、私は1000年も一人ぼっちだったら、悲しみから憎しみに変わってもおかしく無いと思うんだ。でもこの子、翡翠ジェイドはずっと会いたいって純粋に待っていてくれたの。だからその想いに応えるのも、神子の仕事だと思うんだ」

『神子ー!』


だってこんなにも、私を渇望してくれてるもの。少しでも気持ちに答えて行きたいの。私が始めて、この世界で役に立つ事が出来たのだから。


『だが無理はしないでおくれ。一年が無理なら、二、三年に一度でも良いのだ。1000年に比べたら一瞬だからな』

「ありがとう翡翠ジェイド。それでね、神子の力を媒体に…って話なんだけど、その話を聞いてもいいかしら?」

『あぁ勿論だ!神子になら何だって話そう』

「ありがとう。リハルト様、翡翠ジェイドから話を聞いてその計画を進める事は出来たりするかな?」

「話の内容と費用などの事があるから、後々にはなるが可能だろう」

「そっか、ありがとうございます」


翡翠ジェイドに話を色々聞いた所、教会の様な祈りの場所を作り、神子の紋章を大きく刻み、そこに私が力を込めるのだそう。人々の祈りが紋章を通して翡翠ジェイドに行く様にと。成る程ね、画期的だわ。これなら万が一、神子がまた居なくなっても力を得られるのだ。


「何故、今までやって来なかったの?」

『分からぬが、これは初代神子しか知らぬ話なのだ。その頃はまだ簡易な建物しか作れなかったらしい。いずれ朽ちてしまうのなら、時が経って立派な建物が建てれる時代に建てようと思ったのでは無いかと、聞いた事がある』

「誰に聞いたの?」

『私の前の守護者ガーディアンだよ、神子』


守護者ガーディアンも代替わりがあるんだなぁ。守護者ガーディアンはそもそもどの様な存在なのか、それは教えてはくれ無かった。知らないのだそう。気付いた時にはそうだったらしい。


『基本的に代替わりはしないのだ。守護者ガーディアンは衰えを知らぬ存在なのだから』

「そう、なんだ…。なら何故、この地は代替わりをしたの?」

『……神子に…、恋をしてしまったからだよ』

「え?恋をするといけないの?」

『力が制御出来なくなり、暴走してしまうんだ。過去に一度、この地は誰も住めぬ地になったのだ。神子が見兼ねて、前の守護者ガーディアンを消して私がここの守護者ガーディアンになったのだ。消したと言っても私が吸収したに近いが』


消す──というか吸収だけど──のは新しい守護者ガーディアンで、でも新しい守護者ガーディアンを用意するのは神子なのか。なら、尚更知らなきゃいけないのに、翡翠ジェイドには分からないそうだ。


「神子は何故、居なくなってしまったの?」

『それは分からぬ。神子の居なくなった土地の守護者ガーディアンなら知っているかも知れぬがな。我々は自分達の地で起こった事しか分からぬのだよ』

「そっか…」

『今は神子がいるから、次に繋げて行けばいいのだよ』

「次に繋げてって…そもそも神子はどうやって現れるの?」

『簡単な事だ、子を成せば良い。人はそうやって命を紡いで行くのだろう?』

「子!?…あー、うんそうだよね」


そうか、神子の子は神子になるのか…。いや、考えていた答えなんだけどね、この世界で結婚相手なんか見つかるのかな?そりゃ神子だけど、元は異世界の人間だからな。難しそう…。


『ふむ、それなら彼奴あやつが良いのでは無いか?』

「ん?誰?て言うか私の心読んだ?」

『読んでない見えるのだ。彼奴あやつだ。黒髪の、神子の一族だろう?』

「ふ、ファルド様!?」

「なっ!」

『そうだ。私には及ばぬが、顔も悪く無い。まぁ神子の子なら何だって可愛いけどな』

「きゃー!」


そう言って頬同士を擦り擦りさせられた。ファルド様じゃ無くても神子の一族なら良いらしい。黒髪の子しか神子にはなれないからだそう。力の強弱はその子によるから関係ないが、別の種と混じれば、それだけ黒髪が産まれてくる確率が減るのだそう。理屈は良く分かるんだけどね。


「話も終わった事だ、戻るぞ」

「うん、まだ此処だけじゃないしね」

『帰ってしまうのか?私は寂しい…』

「また来るから、ね?」

『分かったよ。待っているからね』


村長と領主にはファルド様が話をしてくれたらしい。御礼を沢山言われたので、気にしないで下さいと言って、馬車に乗り込んだ。これからまた半日かけて城に戻らなきゃならないのだ。


「良かったね、何とかなって」

「あぁ」

「これなら、他の場所も何とかなりそうね」

「あぁ」

「……リハルト様?」

「あぁ…なんだ?」


何やらさっきから話しかけてるのに、上の空で話を全然聞いて居なかった。もしかして疲れてるのかな?私は三日も寝てたから元気だけど…。


「リハルト様、疲れてる?」

「あぁ、少しな」

「なら手を貸して?私の出番だね」

「いらん。また倒れられても困る」

「大丈夫。あれは急に沢山の力を取られたからだし、もう回復してるもの」

「いい、なら手を握っていてくれ。それだけでいい」

「手を繋ぐの?それだけでいいの?」

「あぁ」


まぁ迷惑掛けちゃったし、それぐらいなら全然いいけど。翡翠ジェイドのせいで抵抗ないしね。あんだけ抱き着かれたら慣れるわ。横に座っているリハルト様の手を握って流れる景色を見た。…思ったより大きい手に内心ドキッとしたのは内緒だ。


「すー、すー」

「結局寝るのか…」


今度は膝の上では無く、肩に寄りかかって寝てました。半日は私にしたら長いのよー!無事に一仕事を終えた安心感からも寝てしまったと言う事にしとこう。



何故かどんどん長くなる…。

リハルトは神子が、弟ルドルフの様にいなくなってしまうのが怖いのです。

トラウマの様なものですね。

翡翠は神子が好きすぎて仕方ないです。好きの種類としては、ペットの様な、母親の様な、子供の様な、好きです。親愛ですね。

神子以外はどうでもいいと思ってます。神子が神子だから好き。どの神子も好き。何となく伝わりますでしょうか

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