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18初視察

今日はいよいよ視察の日。まぁ天変地異の起こった場所に赴き、様子を見て考えるって事だね。勿論、何とかなりそうなら、そのままやっちゃうけどね。


「準備は出来たか?」

「うん」


部屋から出てやって来たのは馬車の前。使用人や従者が、準備を終えたらしく、王子とファルド様の側で立ち並んでいた。馬車は白を基調としており、金色の装飾が上品に入っている。ローズレイア国の馬車である証に薔薇の紋章が刻まれていた。目立ち過ぎないけれど豪華な馬車に思わず胸が高鳴った。お姫様になった気分だ。


「では馬車に乗るぞ。ほら手を出せ」

「ありがと、リハルト様」


馬車の前でリハルト様が立ち、手を差し出してくれた。其処に手を重ねて馬車に乗り込む。その後リハルト様が乗り込み扉が閉められた。マリーとファルド様、護衛の者は別の馬車に乗るのだそう。

馬車の中も白色だが床には赤い絨毯が、腰掛ける場所には赤いクッションが敷かれていた。


「ここからどのぐらいで着くの?」

「半日ぐらいだな」

「そんなに?遠いのね」

「そうか?近い方だぞ」


半日も馬車に揺られるのかー。私乗り物酔いするタイプなんだけど、大丈夫かな?飛行機とかあれば早いんだけどね。馬車の中にはカーテンがあり、少し開けて外を見た。


「わ、人が沢山いる!皆こっちを見てるよ」

「閉めろ。手を振るな」

「なんで?」

「神子が乗ってると分かれば、騒ぎになる」

「そっか」


カーテンを元に戻して、座り直す。何だか外が騒がしくなって来た。神子様ー!とか呼ぶ声が聞こえるのは気の所為だよね?


「ほらみろ、言わんこっちゃない」

「だって人がいるとは、思わなかったし」

「城下町だからに決まってるだろ」

「城から出た事無いから分かんないもん」


ムスッとして着ている衣装を触る。薔薇の紋章が刺繍されている黒のドレスに、同じく紋章が入った丈の短いローブを羽織っている。勿論黒だけどね。その刺繍の部分をなぞり暇をつぶす。


「その服、気に入ったか?」

「え?うん、可愛い。これってローズレイアの紋章?」

「あぁそうだ」

「難点を強いて言えば、色が黒な事かな」

「仕方ないだろう、神子の色だからな。かわりに他の衣装は別の色にしてあるだろう」


そういえば、ドレスとか服は全てリハルト様が用意してくれてるんだっけ。リチェが一昨日言ってた気がする。忙しいくせにさ。


「私は着れたら何でもいいんだけど、リハルト様の用意してくれる服は全部好きだな」

「…そうか」

「あ、ねぇそっち側座ってもいい?」

「何故だ」

「進行方向と逆だと酔いそう…」


訝しげに見られたが、納得した様に横にずれてくれた。リハルト様があっち側に座ってくれてもいいんだけどな。

城下町を抜けたのか、人混みも無くなり平坦な道を馬車は走っていた。その変わらぬ景色を眺める事30分。何だか眠たくなってきた。ちらりと横に座るリハルト様を見ると、目が合った。


「どうした、酔ったのか?」

「ううん、眠たくなってきたの」

「お前は子供か」

「リハルト様よりは大人ですー」

「歳だけはな。眠たいなら寝ればいい。後一刻程で休憩がある筈だから、それまでならな」

「そうする」


うつらうつらとしながら瞼を閉じた。本当にこれじゃあ、私の方が子供だよね。でも睡眠欲には勝てないよ…。




☆ー☆ー☆ー☆ー☆




「リハルト様、ここら辺で休憩を……」

「いい、何も言うな。紗良が勝手に倒れてきたのだ」

「そうですか。では準備して参りますので、紗良様を起こして下さいね」


扉を開けたファルドの目は、俺の膝の上で寝ている紗良を見て止まった。何か言いたそうにしていたファルドを制止して、説明をすれば成る程と納得し、休憩の準備へと戻っていった。


「おい、起きろ紗良」

「んー…後五分」

「寝惚けてるのか?いいから起きろ」

「い、いひゃい」


中々起きない紗良の頬を抓ると、痛かったのかパッと目を開いた。抗議の為に目線を此方に持って来た所で、自分の様子がおかしい事に気付いた様だ。


「あれ?何でリハルト様の膝枕で…?」

「お前が倒れてきたのだ」

「そっか…お邪魔しました」

「おい、まだ寝惚けてるのか?」

「んー…大丈夫。頬っぺがヒリヒリするから起きた」

「それならいいが」


目を擦りボーッとしている紗良。本当に起きたのか?そう思っていると準備が出来たのか、マリーが呼びに来た。


「準備出来ましたので…って紗良様?もしかして寝てましたか?」

「あぁずっとな」

「うん」


馬車から降りてもまだボーッとしている紗良にマリーが紅茶を出した。眠気覚ましの紅茶だそうだ。これが無いと中々覚醒しないそうだ。


「ん、ちょっと覚めてきた」

「人の膝の上であんなに寝といて、まだ眠いのか」

「お陰様で爆睡出来ました」

「だろうな」


段々と目が覚めたのだろう、辺りを見回して川を見つけた途端、元気になった。


「川だ、綺麗!ねぇ、マリー入っていい?」

「駄目です、ってお待ち下さい!」


椅子から立ち上がり走って川まで行く紗良の後をマリーが慌てて追いかける。どこまでお転婆なのだ?あいつは…。溜め息を一つ落として、川に向かった。


「気持ちー!」

「もう、足だけですよ」

「はぁい」

「全く、服が汚れても知らんぞ」

「あ、マリー椅子持って来て」

「少々お待ち下さいね」


ドレスを捲り上げて川に足を突っ込んでいる紗良にそう言えば、マリーに椅子を持ってこさせて川沿いに置き、足をつけたまま座った紗良。…突拍子も無い事をする。


「これなら汚れないわ」

「そういう問題ではないのだが」

「こんなに冷たくて気持ちいいのに」

「分かったから戻るぞ」


川から離れて元の場所に戻る。暫く休憩した後、馬車に乗り込みまた進む。これを2回繰り返し目的の場所についた。やって来たのは城から半日の距離にある、キヌアスという村だ。どうやら最近ここで異変が起きているとの事で赴いたのだが。


「うわぁー、土地ガッサガサだ」

「想像以上に酷いな」


馬車から降りた地面は水分は無くひび割れていた。これでは農作業はまず無理だろう。暫くすると小さな建物から二人の男が出てきており、此方に向かって来ていた。村長と領主だろう。表情を作り近づいていった。


「この度は、わざわざこんな田舎にお越し頂いて恐縮です。私は領主のラリー・シンプトンで此方は…」

「キヌアス村の村長をしております、ジン・フォードと申します」

「話は大体聞いています。ですが長旅で疲れたので今日は詳しい話を教えて頂き、明日ゆっくり見させてもらうという事で如何でしょうか」

「勿論です!私の屋敷の方で準備を整えてありますので、今夜はそちらでお休みになって下さい」

「感謝します」


笑顔を浮かべて挨拶を交わす。その様子をローブのフードを被った状態でずっと俺を見ている紗良。移動する際、何故見ているのか聞いたら、「久々の王子様だから」とか意味の分からない事を言っていた。

領主と村長は神子に視線を向けるものの、声をかける事はしない。当然だ。そういう存在なのだからな。フードを被せたのも、安易に顔を見せない為だった。


「村長さんゲッソリしてたね」

「あの有様じゃ仕方あるまい。土地が枯れたら死活問題だ」

「そうだよね。これから冬になるのに…。いつからなんだろう」

「さあな。後で聞けるだろう」

「私も話してもいいの?」

「駄目だ。と言っても無駄なのだろう」


そう言えばその通りとでも言いたげに、にっこりと笑った紗良。領主の屋敷にはキヌアス村から馬車で四半刻程だ。広いとは言い難い部屋に案内された。まぁ領主の屋敷ならこんなものだろう。


「すみません、王子と神子様にお泊り頂くのにこんな屋敷で申し訳ないです」

「構いませんよ。お気になさらず」


その後、案内された場所はどうやら大広間の様だ。大きなテーブルに色とりどりの食事が用意されていた。隣にいた紗良からは小さく「こんなに食べれないよ」と聞こえてきた。それを無視して席に着き、会食をしながら話を聞く事になった。


「それでいつからあの様に?」

「はい、半年ほど前から徐々に地面が枯れていきました。雨もほとんど降らず、苦しい状態でして…」

「食料や水などはどうされているんですか?」

「はい、ギリギリの所で領主様が用意して下さいました」

「それがあの地だけが、あの様になっておりまして雨が降らない事だけが原因じゃないと思っております。なので神子様のお力を借りたいと文を出したのです」


半年か、一気にあの状態なら厳しいが、徐々にだったら仕方あるまい。ギリギリの所で神子の話を聞いての文か。使者に使いを出して状況を聞いては居たが、その時よりも酷くなっている様だ。


「明日、明るい時間にまた確認させて頂きます。神子の力で対応出来るものであれば、神子に。そうでなければ国からこの村に支給をさせて頂きたい」

「はい、ありがとうございます!!」

「恥ずかしながら、こちらではキヌアス村の民を抱えられるほどの余裕は、ありませんので凄く助かります!神子様明日は宜しくお願い致します」


ここの領主は民の事を気に掛けているな。いい事だ。てっきり紗良が何か話すものだと思っていたが、コクリと頷いただけで静かに食事をしていた。食事を終えて部屋に戻る。紗良は隣の部屋に案内されていた。


「疲れたな」

「今日は明日に備えて早めに休みましょう。念の為紗良様の部屋に腕の立つ侍女を付けております」

「ああ、分かった。そういえば食事のときの紗良、大人しかったな」

「そうですね、何かあったのでしょうか?」

「さぁな、眠たくなったとかだろう」

「ありえますね」


この話を紗良が聞いたら文句言うどころか頷きそうだな。それぐらい自由な奴だからな。明日、紗良がどこまで出来るか…万が一神子の力で対応出来なければ、他の場所もどうするか考えなくてはな。


「上手く行くといいですね」

「あぁ、ただイマイチ神子の力の使い方が分からないのがな…」

「そうですね、1000年も前ですと資料も限られてますからね」

「何故神子は突然滅んだのだろうな」

「…殺された、とかですかね」

「さぁな。ただ今の神子は何があっても守る」


前の神子はファルドが言った可能性もゼロではないだろう。神子が居なくなった1000年の間に壊滅した地もあるそうだ。この国ではないがな。人に寄り添って生きてきたのなら大事にされて居ただろうに…。


「なんにせよ、紗良に掛かっているのだ。俺らに出来る事をするまでだ」

「そうですね」


月が優しく枯れた大地を照らしているのを見て溜め息を吐いた。




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