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14薔薇ジャム

「マリー、厨房って借りれるかな?」

「今度は何をされるのですか?」

「ふふーん、内緒!」

「では諦めて下さい」


酷いよマリー!横暴だよ!!出来上がってからの、お楽しみにしたいんだよ!と言ったらワザとらしく溜め息を吐き、部屋を出ていった。


「マリーが一番、神子の扱い酷くない?」


神子様は〜とか何時も聞かされてるけど、マリーが一番雑に扱ってるよね?矛盾してない?


「紗良様、使用して良いそうです」

「ホント?ありがとうマリー」

「えぇ。ただ、内緒にしたいのは構いませんがお一人には出来ませんので。行きと帰りは騎士に、厨房は料理人が付きます」

「…はぁい。我慢します」

「其れではどうぞ、お気をつけて」


マリーと分かれて、部屋の前に居た騎士が挨拶した後、黙って付いてくる。ごめんなさい、お仕事邪魔しちゃって…と心の中で謝りながら庭園に向かった。ちなみに、騎士は兜は付けて無かった。兜まで付けるのは大事な日だけらしい。


「神子様、其方は厨房ではありません」

「先に此方に用事があるの」

「そうですか」


来たのは庭師の所。挨拶をして、日常会話を交わして薔薇を受け取った。部屋に飾る薔薇など、必要になるたびこうして貰いに来るのだ。


「いつもありがとう。エドガーさん」

「いやいや、神子様に使って頂いて花達も喜んでますよ」

「ふふ、ではまた」


薔薇を大事に抱えて厨房に向かった。騎士は厨房の扉の前で待つそうだ。鎧来て厨房の中に入るのは不衛生だからだそう。料理人の人に挨拶をして、必要な道具だけ貸して貰った。


「指示して頂ければ、我々がやりますよ?」

「ありがとう。でも大丈夫なので、皆さんはどうぞお仕事をなさって下さい」


そう言えば残念そうに離れて行った。ただ料理長らしき人は興味深々の様で、傍で見たいとの申告があったので許可した。


「え、まさか、それを使うんですか?」

「はい」


驚いてる料理長を放置して、持ってきた薔薇を手に持ち、付け根の部分を一枚一枚取り除いていく。


「手伝いますよ」

「え、でも…」

「量も多いですし、第一、今は暇ですから」

「俺も手伝います!」

「俺だって!」


皆さんが口々にそう言ってくれたので、お言葉に甘える事にした。料理人だけあって、手先が器用だ。私より繊細なんじゃないだろうか。


「洗って水気を切ったら、レモンの汁を加えるの」

「れもん?」

「…レモン無いの?」


大事な物が無いなんて!とションボリしてると、慌てて料理長がどんな物なのか聞いてきた。酸味があって、ビタミンが豊富な物です。っと説明したら今度はビタミンが分からないらしい。うぅ、困った。


「よく分かりませんが、酸味があるものでしたらここら辺の物がそうですよ。味見してみますか?」

「はい」


いくつかの果物?野菜?を手に取り丁寧に切り出された物を、口に運ぶ。


「っう、酸っぱいっ」

「だ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫、多分」


3つ目に手にした物を口に運んだ瞬間、あまりの酸っぱさに涙目になる。1つ目と2つ目が酸味は有るものの、弱めだったので油断してた…。水を貰い味を流す。それでも酸っぱさは残ってるが。


「これです!レモン」

「ハハ!これはロキという果物ですよ」

「じゃあ、ロキを使うわ」


緑色の丸い見た目に中は黄色といった果物で、中だけ見たらレモンだった。レモンも緑から黄色になるもんね。名称と形が違うだけだね。


「ロキを丸ごと絞ったら、薔薇をよく揉んでしんなりしたら絞るの」

「全然水切れてないですよ、ほら任せた任せた」


ギューと絞ってると、料理長達に笑われた。絞りが甘いってさ。だから絞ってもらうことにした。手が大きいから絞れる量も増えるし、力があるから水気もキチンと切れてる。なのに花弁が壊れてないから不思議。


「ロキの汁はそのまま使うから、置いといて。こっちの絞った薔薇に、水と砂糖を入れて鍋で煮るの。弱火で20分ほどね」

「20ぷん?ってどれぐらいですかね」

「んんー、あの時計のここからここまで」

「あぁ、四半刻より少し短いぐらいか」


四半刻より、20分のが少し短いってことは、30分ぐらいかな?四半刻=30分か。覚えにくいな。煮込んでいる間、食べ物の話になった。どんな食べ物が好きか、それはどういった作り方をするのか。根ほり葉ほり聞かれた。さすが料理人だわ、料理にはとても貪欲だった。そして皆さんとても話しやすかった。


「神子様、出来ましたよ」

「それじゃ、冷まして、冷めたらロキの汁を加えて、弱火で煮詰めてね」

「はい」

「これってジャムですよね?」

「うん、薔薇ジャムを作っているの!」

「薔薇でジャム…食べれるんですかい?」

「勿論」


興味深そうに煮詰めているジャムを見ている。まぁ、私が居た世界に無かったら、思いつかないけどね。水あめを別の鍋で作り一緒に煮詰めた。こうすることでジャムのとろみが出るのだ。果物で作る分にはいらないのだけどね。


「小瓶いくつか無いかな?」

「あぁ、おい持って来い」

「はい!」

「ありがとう」


味見をして満足していると、皆の視線を感じたので、笑って味見を促すと待ってました!と言わんばかりに鍋に集まった。


「うまい!」

「なんだか上品な味ですね」

「こりゃいい」


口々に褒めてくれた。こっちの人の味覚にあってよかった!それじゃあ仕上げといきましょうか。小瓶を煮沸消毒をして、綺麗に拭き取りジャムを詰めていく。キュッと蓋を締めて出来上がり!結構量が出来て、小瓶10個分ぐらいになった。


「出来た!皆さんありがとう」

「こちらこそお礼を言わないとな。楽しかったですよ神子様」

「あの、よかったらどうぞ!」

「え!?いいんですか?」

「皆さんのおかげで作業捗っちゃったし、思ったより量が出来たので、貰ってくれると嬉しいな」

「勿論です!」


にこっと笑ってそう言えば嬉しそうに貰ってくれた。料理に使ってくれるそうだ。凄く嬉しいので半分あげた。5個もあれば当分大丈夫よね。


「では皆さんまた!」

「またね神子様!」

「いつでも遊びに来てくださいね」

「また何か作るなら厨房貸しますから」

「ありがとう」


手を振って別れた。マリーに見られたら卒倒もんだけど、今いないし、大丈夫よね?部屋に送ってくれた騎士にも一つプレゼントしたら泣いて喜んでくれた。え…そんなに?皆さんでどうぞって言ったけど聞こえてたかな?


「ただいまマリー!」

「おかえりなさい紗良様」

「はい、マリー!」

「え?…ジャムですか?」

「そう、薔薇ジャムを作ったの!美味しいのよ。侍女の皆で良かったら食べてね」

「ありがとうございます!さっそく今日頂きますね」


心なしかマリーがウキウキしている様に見える。良かった、喜んでくれて。


「マリー、そのままお茶にしておいでよ。私はリハルト様の部屋に持って行くから」

「でも紗良様を一人には出来ません」

「大丈夫よ、そんなに離れて無いし。多分居座ると思うわ。何より感想聞きたいから!ね?」

「そうですか?ならお言葉に甘えさせて頂きます」


何時もならしつこく食い付いてくるのに、今日はやけにアッサリと引き下がった。うん、やっぱりウキウキしてたな。部屋の前で別れてリハルト様の部屋に向かった。


「ん?紗良一人か?」

「うん」

「また脱走ですか?」

「違いますよファルド様。プレゼント持って来たんです」

「プレゼント?」


二人の机の上にコトンと小瓶を置いた。


「ジャム?」

「さっき作ってきたの。薔薇ジャムなんだよ」

「…紗良が作ったのか?」

「そうだよ!お茶にしよ」

「ありがとうございます紗良様」

「いえ、口に合えばいいのですが」


リハルト様の侍女にお茶の準備をお願いした。なんか勢いでそう言っちゃったけど、いいよね?


「紗良様。一つ宜しいですか?」

「はい?」

「何故私に敬語でリハルト様には違うのですか?」

「あぁ、其れなら俺が言ったのだ」

「そうですか。なら私にもその様になさって下さい。立場が下なのに私だけに敬語では不自然です」

「え、そんな、急に言われても…」

「諦めろ紗良。確かにその通りだからな」


リハルト様だけじゃなく、ファルド様にもなんて無理だよ!でもそうだよね、王子にはタメ語で従者には敬語なんて違和感ありまくりよね。はぁ、慣れよね?頑張ろう。


「分かった。そうする」

「はい」


そう答えると、ふんわりとファルド様が微笑んだ。カァっと顔が熱くなった。普段笑わない人の笑顔って破壊力抜群だ!


「っ!」

「どうされたのですか?紗良様」

「な、なんでも、無いです!」

「……顔が赤いぞ」

「だ、だって、反則だよ…」

「はぁ、気にするなファルド」

「?」


リハルト様にはバレバレの様だ。ファルド様は良く分かって居ないようだった。イケメンの耐性があまり無いので気を付けて頂きたい。

侍女がお茶の準備をしてくれたので、紅茶に溶かして飲むと、凄く美味しかった。おやつのスコーンにも塗って食べた。


「ほう、美味いな。薔薇もジャムになるんだな」

「驚きですね」

「ふふ、良かった。厨房にいた皆が手伝ってくれたの。今度から食事にも出るかもね」

「良く思いつくな」

「私の世界にあるからね」


ここからまた販売の話になった。そういうの興味無いんだよねぇ。まぁ、それでこの国が潤うなら良いけどさ。てか王子が商売をするってどうなの?と聞いたら、これからの時代はそう変わって行くそうだ。むしろ王族がそういう事に手をつければ、貴族もそうなって行くのだそう。国のさらなる発展に繋がって行くのだとか。先を見据えてるんだなって思った。


「あ、じゃあ、今度街に出ていい?」

「駄目だ」

「えっ?何で?」

「神子様だからですよ」

「そっか。なら変装すればいいでしょ?」

「駄目に決まってるだろ」


神子だからとか、もう聞き飽きたよ。まだ市民には顔バレしてないから大丈夫なのに。


「………む」

「城から出れると思うなよ」

「……や、やだなぁ、そんな事しないよ」

「何だ今の間。ファルド、警備の強化を伝えておけ」

「分かりました。紗良様が消えれば大問題になりますからね。くれぐれも馬鹿な真似はなさらない様に」

「はい…」


二人に釘を刺されてしまった。あーあ、流石にファルド様に怒られたら立ち直れなくなりそうだから、我慢しよう。


「私も街に出たい」

「視察の事ですか?」

「うん、ずるいよ」

「あれは自国じゃなくて、他国に行ったのだが?」

「私も行きたい」

「あのな…遊びじゃないんだぞ」


呆れたように厳しい顔をしてそう言われてた。そんな事言われなくても分かってるよ。いつも思うけど、私、子供扱いされてない?


「失礼な。それぐらい分かるよ!街に出たいのは、この国の人の暮らしを知りたいからだし、他国に行きたいのは、私の力が役に立つ事があればと思ってだもの」

「それは立派な考えだと思いますが、他国に関しては国同士の問題ですので、簡単にはいきませんよ」

「神子を欲しがる国も多い。貴族ですら虎視眈々と狙ってるぞ」

「え…。え?」

「貴女が自覚が無くても、周りはそうは思ってくれませんよ」

「大体、面倒なことはしたくないのだろ?」

「そうだけど、困ってる人がいたら助けるよ?」


そんな…だからマリーはあんなに口を酸っぱくして言ってくるのか。軽くあしらってたよ。少しだけ反省だな。

確かに面倒な事はしたくない。でも、神子を渇望する程の事態があれば、手を差し出す優しさはあるつもり。それが、私の役目だと思うし。


「嫌でもやる羽目になるから安心しろ。それが分かったら、安易に脱走するなよ。俺の時間が取られる」

「頼んでないもん」

「…ファルド、紗良の部屋を今すぐ隣に移動させろ」

「はっ?ちょっ、ちょっと!」

「そうですね、その方が安心ですかね」


何か勝手に話が進んでるんだけど、嘘だよね?


「え、冗談だよね?」

「は?何か不都合でもあるか?元々、そういう予定だったんだ」

「えっ?な、なんで?」

「あの部屋は保護した時の部屋で、紗良様は神子様だと分かった時から部屋の移動は決定事項でした」

「だって今まであの部屋のままだったじゃない」

「部屋の準備もありましたので」


な、なんですとー!別にあのままでいいのに…。でもそれだと、警備が心配なんだそう。こっちだと王子がいる塔なのでより警備がより強固になっているそうだ。分かるけどさ…。城が大きくて分からないけど、王と王妃がいる塔と王子がいる塔と王女がいる塔…みたいな感じで別れているらしい。


「お前の好きなリチェも今より近くなるぞ」

「えっ!ホント!?」

「あぁ、良かったな」

「そ、それなら我慢するわ」

「顔がにやけてるぞ」


だってあのリチェル様が近くなるんだもん!嬉しいに決まってるじゃない。もう、天使の様な愛らしさなんだから!お食事会で初めて会った時は、膝から崩れるかと思ったんだから。


「でもリチェル様忙しそうだからなぁ」

「こないだリチェも似た様な事言ってたな」

「明日にでも遊びに行って来る」

「程々になさって下さいね」

「はーい」


ルンルンで部屋を出る。帰りは言わずもがな、騎士がついて来た。部屋に戻るとご機嫌なマリーが既にいて、お礼を言われた。今日一日は何でもOKが出る程だった。マリー、そんなにジャム好きだったんだ…。また作ったら、マリーに一番に持ってこようと決めた。



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