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13わだかまり

あれから一週間経った。こないだ夜会で貴族の方々への御披露目があった。リハルト様に言われた通り、薔薇をドレスに着けて出席したら狙い通りそれが貴族の娘達に受けて飛ぶ様に薔薇が売れているのだそう。マリーからそう報告を受けた。


「…そっかぁ」

「何だか最近お元気無いですね」

「え、大丈夫だよ!全然大丈夫!!」

「答えになってませんけどね」


私はいつも通り元気なのさ。勉強だって、レッスンだってちゃんと毎日してるし。貴族の娘達からの手紙にも目を通してる。返事は面倒だから、しないけれど。なんであんなに大量に来たのか…。夜会のせいだな。平民へのお披露目は無く、知らせるだけらしい。安全面を考えての事だそうだ。


「マリー、散歩行って来ていい?」

「仕方ありませんね。行きましょうか」

「ううん、一人で行きたい」

「駄目です。紗良様の存在をこの国の貴族達は知っております。万が一の事があったら…!」

「心配性ね、マリーは。大丈夫よ!」

「紗良様!?」


部屋から出て走り去る。こうしなきゃ一人になれないし。後ろの方からマリーの声が聞こえるけど、無視だな。


「ハァハァ、大体、城に騎士が居るんだから大丈夫でしょ」


息を整えて辺りを見回す。よし、マリーは上手く撒いたな。よし、ぶらぶらしよーっと。部屋の外で長時間、一人っきりになるのって初めてかも!


「ん?騎士が一杯いる」


ふと中庭を見ると騎士が大勢居て何かしていた。鍛錬かな?どうやらいつの間にか南の塔の周辺に来ていたらしい。


「こんにちは。お疲れ様です」

「えっ?わぁ神子様!?」

「な、神子様、何故この様な場所に?」

「ふふ、散歩です」

「お一人ですか!?侍女は…」

「撒いて来ました」

「ま、撒いて?」

「はい。すみません、お邪魔して。ではまた」


騒めく騎士達に挨拶をしてその場を離れてた。鍛錬の邪魔しちゃ悪いし、騒いでるとマリーに捕まるかも知れないからね。あ、皆さんの鍛錬が捗るようにお祈りしておこう。


「次はどこ行こうかなぁ」


ふんふん~♪、と鼻歌を歌いながら、散歩という名の脱走は続くのだった。




☆ー☆ー☆ー☆




「は?悪い、もう一度頼む」

「はい、紗良様が脱走しました!」

「脱走とは面白い事をなさる」

「感心してる場合か!ファルド」


紗良に付けた侍女、マリーが慌てて入って来たと思えば、脱走しただと!?何をしてるんだアイツは…。


「最近お元気が無かった理由が、脱走した原因かと」

「何?その理由とは何だ」

「それが、分からないのです…。あ、でも一週間前の夜が一番様子がおかしかったです」

「一週間前の夜?」


何かあったか?………もしかしてアレか?いや、変な事は言ってない筈だが。こないだの夜会では、普通だったし…、いや、少しよそよそしかったな。緊張しているからだと思ってたが。そう言えば、夜会以来会って居ないな。四日程か。


「はぁ、理由は分からないが俺が探しに行く」

「すみませんリハルト様。まさか走って逃げられるとは思わず…!」

「走って逃げたのか。とことん、面白い奴だ」

「リハルト様、仕事が溜まっていますが」

「戻ったらやる。紗良の捕獲が先だろう、神子なのだから」


溜め息を吐き、立ち上がる。紗良は目立つからな。必ず誰かの目に留まっているだろう。そう思っていたのだが、使用人や騎士達に紗良を見なかったか尋ねるも、ハズレばかりだった。


「今日は見てませんねぇ」

「そうか」


庭師にも尋ねたが居なかった。それよりも「今日は」ってどう言う事だ?良く来ているのだろうか。


「薔薇好きだからな、紗良は」


あの薔薇を見に纏った姿は見事だった。あの場に居た全員が息を飲んだ程、綺麗だった。白く透き通った肌に、黒く艶のある髪。桃色の唇からは甘く凛とした声が紡ぎだされる。目を奪われるとは、こういう事を言うのだろうな。


「どこにいるんだ」


一週間前の夜と言えば、紗良が押し掛けて来た時だ。願いを聞かれて、お前には叶えられる願いでは無いと答えた日だ。多分その事を怒っているのだろうな。そんなことを考えながら、騎士たちが鍛錬している場に足を踏み入れた。


「おい、神子を見なかったか?」

「リハルト様!?」

「神子様でしたら半刻ぐらい前に此方に来ました」

「何処へ向かった?」

「わかりませんが、あちら側に歩いて行かれました」

「そうか、分かった」


半刻だとこの周辺にはもう居ないな。大体、この場所来たことないだろう。何故こんな場所に居るのだ?あぁ、走って逃げて来たらこの場所だったって事ならあり得るな。


「神子様でしたら、何やら歌を歌いながら歩いてるのを見ましたよ」

「歌?」

「はい、多分誰にも見られて無いと思われてたのでしょう」

「それでどっちに?」

「あちらへ」


使用人の指差した方へ歩みを進める。まるで宝物探しの様だな。その後、何人かに尋ねてやっと紗良が居るであろう場所まで来た。


「結局最初の庭園ではないか」


そう、紗良がほんの少し前に薔薇のある庭園に行くのを見かけたそうだ。それなら、ずっと待っていれば良かったな。

歩を進めて行くと、紗良を発見した。初めて見た時と同じ様に倒れていた。


「っ紗良!?」

「…え?」


思わず駆け寄ると、紗良は驚き、目を開けて俺を見ていた。何で俺が此処に居るのか考えているようだ。


「はぁ、何をしていた」

「えっと、寝てました」

「こんな場所でか?」

「私が倒れていた場所ですから、寝てたら帰れるかなって」

「帰るのか?」

「っ痛い、です」


思わず紗良の腕を持つ手に、力が入ってたみたいだ。紗良の痛がる声で、慌てて力を弱めた。この細い腕を折ってしまう所だった。


「帰れませんよ、此処に来た方法も分からないのですから」


俺から目線を外し空を見上げている紗良は、寂しそうに見えた。帰る方法が分かれば帰るのか?なんて聞いたら頷くのだろうな。


「そうか。マリーが心配していたぞ」

「マリーは大袈裟なのです。それに、一人になりたい時もあります」

「…俺のせいか?」

「え?」

「あの日の事を、怒っているのだろう?」


すると紗良は驚いた顔をした後、首を横に振った。では、何で怒っているのだ?他に何かあっただろうか?と考えていると紗良が申し訳なさそうに口を開いた。


「自分が、少し嫌になっただけです」

「何故?」

「何でも叶えられると驕っていた事に気付きました。大した力も無いのに…」

「そんな事は無い。自分で言ってただろう。気持ちを込めて祈ることで、初めて意味があるのだと。そんな事が言える者が驕っている筈が無い」

「いいえ、リハルト様の願いを叶えられる物だと思った私がいけないのです」


瞳を伏せ、服をギュッ掴み唇を強く結んでいる紗良。まさかあの言葉で苦しめるとは思わなかった。


「あれは…そんな大した事では無い」

「え?」

「だから忘れろ」

「大した事ではないのなら、教えてください」

「…………嫌だ」

「……分かりました。無理に聞き出したい訳じゃ無いので。気分を害されたんじゃないかと思っていただけなので、そうじゃなくて良かったです」


そう言って安心した様に笑っている。


「ふふっ」

「…なんだ」

「いえ、駄目ではなく、嫌なんですね」

「それがどうした」

「子供の様な言い方だなって思っただけです」


クスクスと笑われて居心地が悪い。しまったな、つい本音が出た。これが別の人間だったらファルドにチクチクと言われる羽目になっただろうな。いつも立ち振る舞いには五月蝿いからな。紗良の前だけなら文句は言われないのだが。


「お前はいつも子供の様ではないか」

「私は良いんですよ。気にしませんから」

「ここでは良いが外では慎めよ」

「ふふ、リハルト様もまだまだ子供ですね」

「どういう意味だ。お前にだけは言われたくない。そもそも俺より年上とか認めてないからな」

「あら。認める、認めないじゃなくて事実です」


悪戯っ子の様な笑みで畳み掛けてくる紗良。少しムキになってしまったな。王子の振る舞いとしては駄目だが、そもそも紗良は俺を王子として見てないから無効だろう。


「そうだな。ほら戻るぞ、手を出せ」

「あ、それ凄く王子様っぽいです!」

「王子だ」

「そうでした。ありがとうございます」


差し出した手に、紗良の手が重なり立ち上がらせる為に引っ張る。思ったよりも軽く、勢いあまって胸に埋まる様になってしまった。


「わっ、思ったより力があるんですね。ビックリしました」

「すまない、少し強かったようだ」

「リハルト様が謝るなんて…明日は雨でしょうか?」

「…もう一度地べたに対面するか?」

「や、やだぁ〜冗談ですよ」


慌てて俺から離れて手を横に振り、拒否をしている。最初に比べて崩した話し方をしてくれるようになったのは、慣れてきたからだろうか。


「おい、俺にもマリーの様に話せ」

「む、無理ですよ!」

「何故だ」

「リハルト様が王子だからですよ。マリーにも最初断ったんですが、神子は侍女に敬語で話さないものです!って無理矢理今の状態ですし」

「神子のが上だからな。構わん」

「構いますよー!」


全力で断ってくる紗良に如何したものかと考えていると、ふと思いついた。


「願いだ」

「え?」

「願いを叶えてくれるのだろう?なら、それが願いだ」

「なっ!なな、何言ってるんですか!?私の力、関係無いじゃないですか!」

「何だ。嘘だったのか」

「っっ!」


そう呟くと、悔しそうに唇を噛み締めて此方を睨んできた。面白くなり口の端が上がる。何か葛藤するような顔をした後、渋々といった様子で承諾をしてくれた。


「くっ、分かりました!嘘はつきたくありません。でも、一つだけ条件があります」

「なんだ」

「他の人の前では敬語を使わせて頂きます」

「まぁ、それは仕方あるまい」

「でもファルド様に怒られませんか?」

「お前なら大丈夫だろう」


神子には誰にも逆らえない。そんな存在なのだから。国中が欲しがって止まないだろう。既に話が回っているのか、神子との面会話が腐る程来ているからな。

敬語が無くなるのは明日からだそうだ。今日急には無理と断固拒否された。そう難しくは無いと思うがな。


「手放すつもりは無いからな」


一人、部屋に戻る途中で言葉が溢れた。誰にも聞かれる事なく空気に溶けていった。



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