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128.導き

「…やっぱり小さな街では大してなかったわね。うーん、ダリアでひとっ飛びして大きい街に行くしかないか」

「俺も行くからな」

「はいはい」


一人で行くとかまだ何も言ってないのに、食い気味に言われたので適当に返事を返す。

離れると守護者ガーディアンが消えてしまうので、レムはカイトに任せて宝石探しにこの辺で大きいと言われてる街へと移動した。


「なぁ姉ちゃん。ここ…大きいか?」

「しっ!ローズレイアと比べたら駄目よ」


…が、想像していた規模ではなく、恭平が怪訝そうに聞いてきたので、周りの人に聞こえる前にシャットダウンをした。

超大国に住んでいたら麻痺するのも仕方ない。

だけど先程までいた街よりかは遥かに大きいのだから望みはあるはず!と恭平に言い聞かせて宝石を扱っている店を探し歩いた。


「残念だがこれに近い物はうちのような店では扱えない。他を当たってくれ」


何処に行っても同じような台詞ばかりで、いい加減聞き飽きたわ。

だから逆に尋ねることにした。このクラスの石を扱ってる店はないかと。


「もっとデカい街ならあるかも知れないが…あ、いや、1つあるかも知れん」

「それはどこ?」

「しかしオススメはしないな。奴は変わり者でね…。気に入った客にしか物は売らんのだ。だが持ってる物は確かな物ばかりだよ」

「構わないわ。そこ教えてちょうだい!」


乗り気のしない店主から聞き出し、町の最南端にあるというその店へと足を運んだ。


「「………」」


目の前には黒を基調とした重厚感溢れる色合いに、歪な曲線を描く建物があった。それはさながら時空に飲み込まれそうな歪みで、見ていると目眩がしそうだった。


「ねぇ、これこの世界の技術で可能って凄くない?」

「確かにな。つか中どうなってるんだ?中もぐにゃぐにゃとか生活出来ねぇだろ」

「中は案外普通かもよ?」


というかそうであって欲しいな。中も不安定だと酔いそうだもの。

歪なドアをノックしてから開けると、リンと小気味よい音が鳴る。澄んだ美しい音色だわ。


「鈴…ではないわね」

「んん?あぁ、ドアのやつか」

「そう、凄く綺麗よね。何が鳴ってるのかしら」


ドアに取り付けられたそれもまた不思議な形をしており、どんな仕組みで何が音を出してるのかが分からなかった。


「「カラナシ」さ」

「カラナシ?」

「そう、カラナシさ。いらっしゃい。お客さん」


聞き慣れないカラナシという物に頭を悩ませていると同時に、今の声の人物は誰だろうと気付く。

「いらっしゃい」の言葉に振り返れば、そこには赤毛の眼鏡をかけた男性がいた。

変わり者と聞いていたけれど、パッと見はそんなことない。何方かと言えば人が良さそうだ。


「貴方がここオーナーかしら?」

「おーなーとは?」

「あ、ごめんなさい。店主かしら?」


思わず出てしまう横文字を言い直し聞けば、男は「違う違う。僕じゃないよ」と顔の前で手を横に振りながら笑った。


「僕はただの慈善事業でいるだけさ。お客さんは何をお探しに来たんだい?ここに足を運ぶと言うことは、街では満足出来なかったんだろう?」

「そうそう、良く分かるな!街の人に聞いたんだよ。ここならこの石に近いものがあるってな」

「それは光栄な話だね」


恭平が懐から巾着に入れた石を大事そうに取り出して見せると、男は顔色を少し変えた。


「…君達に売れる物はないよ。帰ってくれないか」

「は!?何でだよ急に!」


その手のひら返した態度に恭平が逆ギレして叫ぶ。

急に冷たい表情になり理由を述べることなく、押し出されそうになる。


「まっ待って、話を聞いて!」

「話?必要ないね。それを見れば分かるさ」


その言葉にカチンときた私は彼の手を振り払い睨みつけた。この人には下手に出て話をする必要がないと判断したからだ。


「何が分かると言うのかしら。貴方にはこの石について何一つだって分かりはしないわ!これが私達にとってどれだけ大切な物なのか、その眼鏡では見抜くことも出来ないのね」


ふん、と腕を組みながらそう言い切る私に恭平が賛同の意を込めて力強くうなづいた。

眼鏡の男はムッとして言い返そうと口を開いた時、別の人物の声が部屋の奥から聞こえてきた。


「煩い。騒ぐなベルドロス」

「しかしブルーライズ!」

「お前の目は節穴か?」

「うぐっ」


奥からした声とやり取りを交わす眼鏡、ベルドロスの後からニュっと顔を出したのは、全身フサフサの毛で覆われた小柄な人間…ではなく、フクロウだった。


「あの鳥…喋ってるぞ」

「喋るフクロウ?しかもあの人を一喝出来るってことは店主かしら?」

「は?鳥が店主とか笑える…んな!?」


口を滑らした恭平にフクロウが物凄いスピードで羽根を投げると、頬を掠めて壁にカカカッと突き刺さった。

刺さらなくて良かったねと言えば、口を引き攣らせながらうるせぇと言われた。


「私は人間だ。呪いでこの様な姿になっているだけだ」

「まぁ、それは可哀想に」

「…見事な棒読みだね。ブルーライズはちゃんと人間だったよ。ほら、あそこに写真があるだろ。あれがブルーライズさ」


色褪せた写真が額縁に飾られている。

そこに写っていたのは黒っぽい長い髪の男性だった。そして背後には今目の前にいるフクロウの姿もあった。


「えーっと、フクロウ殺した呪いか?」

「小僧死にたいようだな」

「冗談に決まってんだろ!やだなーもー」


羽を構えるブルーライズに、冷や汗かきながらヘラヘラと笑う恭平の頭をペシっと叩く。

そんな訳ないじゃない。だって写真の男とフクロウには同じ青いリボンが付いていた。そして今のブルーライズの首にもまだそれは付いている。


「大事にしてたのよ。自分と同じ物を与える程に」


だけど何故今はフクロウの姿なのかとか、どんな呪いなのかは知らない。だけどフクロウは家族だったんじゃないかなって思ったの。


「ふん。その石を見せてみろ」

「いいけど…落とすなよ」

「あぁ。そこに置け」


小さなクッション付きの台座に石を載せると、ブルーライズは元々丸い目をさらに丸くしながら、それをいろんな角度からじっと見つめる。

決して触れることなく、ただ眺めるだけだった。


「やはりな。外側には傷は一切ない。全て内側からヒビが入ったものだ。…まぁ、寿命というものだろう」

「石にも寿命があるのかい?しかしこんな石の状態初めて見たな…。あっと…、先程はすまなかったね。僕は物を大事に扱わない奴は嫌いなんだ」

「いえ…。こちらもカッとなって大人気なかったわ」


ごめんなさいと謝罪すれば、何故か首を傾げられた。

つられて首を傾げれば、「随分大人びた事を言うね。まだ子供だろう?」と。

その言葉に今度は私の口がひくついた。ちょっと久々だわ、この感じ。顔を隠していると少女に思われるのよね。


「とっくの昔に成人したわよ」

「「!?」」

「子供がこんな物探しにこないだろうよ」


フードを外してニッコリと微笑む。こう見えてもれっきとした淑女なんだから!


「ふむ。私の石達にも引けを取らないな」

「これはまぁ…世の男が放っておかないですね」

「そんなことよりも本題に入ろうぜ!この石に見合う物はここにあるのか?」


姉ちゃんの美しさに見とれる2人に話を変えなければと、本題を切り出した。

嫁に…とかなかったらうぜぇからな。そんなんで揉めてる時間はない。


「勿論だ」

「じゃあ!」

「だがそれはどうする。捨てるのか」

「いいえ。本当はこの石を直したかったんだけど、私達にはどうする事も出来なくて…。それでも代わりを探さなきゃ駄目になってしまう場所があるの」

「頼む、ブルーライズ」


俺らだって変わりが欲しくて探してるんじゃない。探さざるを得なかったんだ。

どうにか出来るならここには来てなかったんだから。


「いいだろう。ベルドロス」

「分かったよ。今持ってくるから待ってて」


やれやれといった様子で立ち上がり、赤毛を揺らしながらベルドロスは奥の部屋からベルベットの敷物の上に置かれた宝石を5種類運んできてくれた。


「わぁ、どれも綺麗…」


赤、青、黄、紫、緑の宝石は眩いばかりの光を放っていた。瑞々しい生気あふれるような特級の品だった。

思わずため息が出ちゃうわね。ローズレイアですらここまでの品はなかなかお目にかかれないよ。


「どれも申し分ない物だ」

「えぇ。素晴らしいわ」

「姉ちゃん、どれ選んでも間違いなさそうだ。核が存在してる」

「本当!?それならこの青い石がいいわ。天藍石ラズライトと同じ色の」


素敵な石にはきっと魂が宿るのね。それとも大事にされてきたから宿るのだろうか。


「ベルドロス。包んでやれ」

「了解。素敵な出会いに感謝だね」


ベルドロスは石を柔らかい布に包んで箱にしまってくれた。「大事にしてね」と慈しむように言われた。

傍に置いておく事はできないけど、この子は沢山の人を救う子になります。この子を苦しませるような事はしませんという意味を込めて「勿論」と返した。


「お金だけどこれぐらいあれば足りるのかしら」

「「「!!!???」」」


ドンと袋半分程の金貨を出せば、恭平に怒られた。


「馬鹿か!詳しくは流石に分かんねぇけど、これ城建てれるぞ!!」

「だってこれ凄くいい物じゃない。お金で価値を付けるのも幅かられるわ」


恭平はこの世界で働いてた事があるから、これがどれぐらいの価値があるのかは、私より分かるみたい。

これでも前に注意されてから、考えて出してるのよ?


「小僧の言う通りだ。その金銭感覚は何処ぞの姫か?」

「いえ、神子です」

「そうか神子か……は?神子だと!?」

「ブルーライズ!これも石のお導きだ!」


何で招待ばらすんだよ…と頭を抱える恭平に「つい」と答えると睨まれた。

でも喜んでるよと言えば、仕事増やすなだってさ。仕事するのどうせ私じゃん。


「神子ならばこの姿治せるか!?」

「え?可愛いじゃんフクロウ。その姿のままいて欲しいけど…」

「ね、姉ちゃん…」


それは流石に可哀想だろ。ブルーライズもちょっと考える素振りしちゃってるぞ。

そこで先に正気に戻ったのが、ベルドロスだ。


「神子様お願いします!彼は長年この姿で生きてきんだ。元の姿に戻る事を夢に見ながら」

「頼む神子殿」

「やってみるけど、呪いとかよく分からないから治る見込みあるか分からないわよ?」

「それでもよい。今更だ」


頷くブルーライズ。喋るフクロウ可愛かったのにー。なんてね。元は人なら戻りたいよね。


「ちょっと失礼するわね」


ひょいとフクロウを抱き締めて祈る。

この呪いの仕組みが全く分からないから、いつものように力を使う。ブルーライズに力を注げば、少しずつ彼の過去も見えてきた。


かなり古い呪いの様でもう効果が薄くなってきたせいもあり、割とすんなりと粒子が行き渡った。

「呪いよ解けろ」と呟けば、ブルーライズの体が光り宙に浮く。


そして人型になり光が収まると、そこには肖像画と同じ人間のブルーライズの姿があった。


「も、戻ったのか…?」

「ブルーライズ!何年ぶりだろうお前の姿を見るのは!!」

「苦しいぞベルドロス」

「我慢してくれ!嬉しいんだよ」


喜びあう2人に良かったと拍手すれば、気恥しそうにブルーライズが頭を下げた。


「何とお礼してよいか…。本当に神子だったのだな。助かった、有難う」

「いえ。こちらも助かったので」

「その石はお礼だ。貰っていってくれ」

「わぁ、ありがとう!」


いい仕事だったでしょ?と恭平に得意気に言えば、今回はなと返ってきた。素直じゃないんだからー。


「…もうフクロウはいないのね」

「あぁ。ようやくこいつを土に還してやれる」

「愛のある呪いだったのね」

「…そうだな。お陰で寂しくなかった」


呪いを解く中で見えてきたのは、優しい呪いだったって事。ただ思ったより強くて消えるのに時間がかかっていたってところかな。


「それじゃあ、石は有難く貰っていくわ。本当にありがとう」

「こちらこそ。困ったら来るといい。力になろう」

「えぇ。あ、そうだ1つだけ聞いてもいいかしら?」

「なんだ?」


ドアについてるカラナシを指さす。


「どうやって音がなってるの?」

「ははっ、それはね来客が鳴らすんだよ」


ベルドロスが笑いながら教えてくれた。


「綺麗な音を鳴らす人ほど、魂が綺麗なのさ」

「そんなの迷信だろ」

「そうでもないさ。実際に神子様が来た時はとても綺麗な音が鳴っただろう?」

「とても不思議な物なのね」


カラナシって名前だけど無いのは中で音を奏でる鈴の方なんだね。いつか手に入ったら欲しいなぁ。


「餞別にやろう。音が悪いものには近づくな。良くない事を運んでくる」

「そうなんだ。ありがとうブルーライズ!さようなら」


ヒラヒラと手を振り店を後にする。

カラナシをダリアの上で眺めた後、大事にしまった。


「不思議な物に出会うと楽しいわね」

「そうか?確かに面白いけどな」

「私、この世界が好きよ」

「なんだよ急に…」


なんとなくそう思っただけだよ。

愛しいこの世界を救いたいと思うのは傲慢だろうな。


前にいた世界では得られなかった物が沢山ある。

それが嬉しくて、かけがえがなくて。


守りたいと思うんだ。


さて!天藍石ラズライトの最後の仕事をしますか!




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