125.魂の叫び
途中更新すみません(^_^;)忙しくて中々更新出来ないことをお詫び申し上げます
「世界は私が思う程美しいものでは無かった」
誰かがそう呟いた。暗闇に光が差すような凛とした女性の声が。落胆を顕にした声色だった。
「守護者を置いたのは失敗だったわね。愚かな人間どもは争いを止めることはない。大地は血と憎しみで汚れていくばかり」
嘆かわしいと溜め息を吐く女性を慰めるかのように、別の今度は男性の声がした。
「俺等より劣る種族だからもう少しだけ長い目で見たらどうだ。守護者にも浄化の力は備わっているんだしよ」
「いいえ、もう充分見てきたじゃない!北西の最果て地を思い出してみなさいよ。木々は枯れ大地は荒れ果て守護者も消えたじゃない!救いようのない者だと判断をしたのよレジーナは」
男性の言葉に意見するように可愛らしい声の女性が憤慨しながらそう言い放った。
「(レジーナ…?どこかで)」
暗闇の中からぼんやりと光る明かりからそんな会話が聞こえてきている。聞き覚えのある名前に私は考え込む。どこで聞いたかな?あれはそう…リリーファレスの墓場でだったような…。
「(たしか守護者が私を見てレジーナって…。あ!!)」
思い出した!レジーナとは初代の神子の名前だわ!会話の内容といい、間違いないと思う。
でも何故初代神子が私の夢に現れたのかな。会ったこともないのに…。
そう、ここは夢の中。力を使って寝込む時は必ずと言っていい程に、精神世界か夢を見る。
それにどんな意味や繋がりがあるのかは知らないんだけどね。
「人間達は変わることはない。だからと言って守護者達を見捨てる訳にはいかないでしょう?生み出した責任は私が負うわ。お前達は私に付き合う必要はない。好きに生きなさい」
レジーナの決断を下した言葉が耳に入ってきた。会話は尚も続いていて、私は声だけじゃなくて姿を見れないかとその光に近づいた。
手で触れると光は大きくなり辺りを明るく照らし出してくれた。
見渡す限り茶色1色の枯れた大地に黒髪の人が5人集まっている。異国風の黒い衣装を身に纏う彼らは美形揃いで、そこに立っているだけで絵になる。
なかでも一際美しいのはレジーナと呼ばれた初代神子だった。陶器のような白い肌に腰まで伸びた艶のある漆黒の髪、見る者を魅了する黒曜石のような強い瞳、ふっくらとした血色の良い唇が動く度に凛とした光のような声が紡ぎ出される。
「(私となんて似ても似つかないよ…)」
この世の生き物ではないような儚さがありながら、威厳と神々しさが備わっている彼女はまさしく神子と呼ばれるに相応しかった。
「好きにと言われても人には馴染めないよ。住む世界が違い過ぎるからね。僕らは共にいるべきだと思う。皆の能力は必要不可欠だから」
中性的だけど一人称からするに男性がそう提案すると、他の者達も賛同するように頷いた。
黒の一族は変わり者ばかりと聞いたけどこの人達はそうでもなさそうだ。それぞれ力があるみたいだけどそれはどんな力なのかな?
「そう、ではここを根城とするわ。リーファ頼める?」
「勿論よ!さぁ皆起きて!私達の家を作るのよ」
リーファと呼ばれた女性は小さな粒を地面に巻いたかと思うとそれに声をかける。
そして手を翳し金の粒子が舞うと粒から芽がニョキニョキと這い出たかと思うと、ぐんぐんと成長していきあっという間に背の高い葉が青々と生い茂る立派な大木へと成長した。
「いつ見ても見事なもんだな」
「当然よ。この力で私に適う者はいないんだから」
男性が感嘆とした声をあげると、リーファと呼ばれた女性は胸に手を当てて誇らしげに返していた。
大木の数は5本。それが複雑に絡み合い上部の方には人が住めそうな家のような物が出来ていた。ご丁寧にドアまでついていて、あの場所から中に入れるみたい。
「(どうやってあの高さまで登るのかな?それにここだけ木が生えてるの不自然だと思うけど…)」
私と同じ事を思ったのか中性的な男性がどうやって中に入るのかを問うと、リーファは別の種を手に持ち大木に触れると再び金の粒子が舞った。
するとポポポポンとポップコーンが弾けるような音と共にしっかりとしたキノコが下から上へと螺旋階段のように現れた。
めちゃくちゃ可愛いんだけど!こんなメルヘンな家に住みたい!!…っと、これは夢だって。何羨ましがってるんだ私は…。
「美味しそうなキノコね」
「ちょっとレジーナ…。食べないでよ?これは階段なんだから」
「…冗談よ」
バツが悪そうに苦笑いするレジーナはちょっと意外だった。見た目と話し方のイメージだと、冗談を言ったり笑ったりしなさそうなのよね。
思ったよりもレジーナな気さくな人なのかも。
「それよりコレどうにかならないの?」
この場所だけ森がポツンとある異様な光景に、中性的な男性が何も無い周りの場所を見渡しながら呟くと、リーファは気分を害したのか頬をリスのように膨らませた。
「こういう時こそ俺の出番だろう?リーファ普通の木を何本か頼む」
「そうだったわね!出したわ。後宜しくねアグリ」
リーファは種類の異なる木を数本生み出し、それにアグリと呼ばれた男性が左手を触れた。すると粒子と共に右手側に同じ木が現れた。
木目から枝の生え方まで瓜二つのそれは、まるでコピーしたかのようだった。
それを大木を囲むようにして、範囲を広げながら木を量産していく。1本ずつでなくても何本か纏めて増やす事が出来るらしい。何とも便利な力だなって感心していると、あっという間にかなり広い森と化した。
「これぐらいあれば自然に見えるだろう。後はまた今度気が向いたらやっておく」
「リーファ、疲れてるとこ悪いけど果樹も頼むわね」
「レジーナの頼みなら何本だって出しちゃう!それに私達の食料でもあるものね」
レジーナにハートでも飛ばしそうな勢いで笑顔で了承するリーファに、中性的な男性が「じゃなきゃキノコがなくなるよ」と先程の件をもちだして笑った。
「食べないわよ。解毒しなきゃならないもの」
「ん?ってことは毒持ちか。果樹も毒物混ぜたら燃やすからね」
「あら、毒は同時に薬になりうるのよ。貴方が勝手に食べなきゃ大丈夫でしょ。ローン」
そんなやりとりに仲良いなとほっこりしたけれど、今まで話に参加したのはレジーナ含めて4人だけなんだよね。
全部で5人なんだけど1人だけフードを被っている為、顔もよく見えないし声も発しない。ただ髪がチラリと見えるので黒髪だと分かるだけだった。
「2人は放っておいて俺達は中に入るとしようか」
「そうね」
アグリが先にキノコの階段を登り、レジーナが後に続こうとするとスっとフードの人が割り込んだ。
そして1段登ってからレジーナに手を差し伸べた。その時に私の目線はいつの間にかレジーナの目線で見ていて、フードの人の顔が見えた。
「っ、嘘…」
息を呑む程に美しい男性だった。だけど驚いたのはそこじゃないの。私はこの顔を知っているのだから。
「ありがとうクロイツ」
レジーナがニコリと笑えばクロイツもまた穏やかな表情を見せる。2人に羽が生えていたらそれはまるで天界にいると錯覚させられるような光景だった。
感動と同時に泣きたいような衝動に駆られる。なんとも言えないこの気持ちの名前を誰か教えて。
この気持ちは知っている人に似てるから湧いてくるんじゃなくて、心の底から、魂から来てる気がする。
「クロイツ…」
よく分からないけど大事な名前だと思って心に刻んだ。
何故なら呼ぶだけで心が暖かくなって幸福感が満たしてくれる。あの人の傍に駆け寄って顔をうずめたい!そんな想いで一杯になる。
「待って、行かないで!」
クロイツはレジーナの手を引きながら上に上がって行き、中に入り扉が閉められた。その瞬間に思わず声を上げてしまった。
「クロイツ…戻ってきて…」
消えゆく景色と崩れ落ちて顔を塞ぐ私。
絶望感と孤独が押し寄せてくる。辺りはいつの間にかただの真っ暗な空間に戻ってしまった。
嗚呼、泣いているのは誰?言葉を発しているのは誰?ねぇ、誰がクロイツの名前を呼んでいるの?
「わ、た…し」
そう、私だ。これがどんな意味を持つのか私はまだ知らない。ううん…これは夢だ。何の意味もないただの夢…。
そろそろ起きなくちゃ。きっと蒼玉が心配してるはずだから。




