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124.砂色の使者

カンザンス山脈の中腹はかなり荒れた天候と、ゴツゴツとした凹凸の激しい道により、先に進むのは難航していた。


「いくら近道だからってこれじゃあもう一つのルート行った方が良かったんじゃないのかよ」


ぶつくさと雪が吹き荒れる中、文句を言いながら進む。

ここまで進んだら引き返す事も出来ないから文句言ったって仕方ないんだけどよ。


「キュ!」

「どうした?マロ」


馬車の中でマロが窓を見ながらピクリと反応する。

そして落ち着きなくパタパタと窓の前を飛び回り外に出たそうに暴れている。


「何か感じてるんスかね」

「多分な。その何かが分からないけど」

「キュー!キュー!」

「あ、おい。落ち着けってマロ」


マロの鳴き声が騒がしくなり大人しくさせようと捕まえようとしていたら、ドンっと何かが落ちたような轟音がした。


「!?」

「何か来たようっスね」


轟音と振動のせいで馬車が止まる。カイトが剣に手をかけながら馬車の扉を開けると、マロが俺の手から抜け出して外に出て行っていった。


「あ、おい!」


慌ててカイトに続いて吹雪の中に飛び出すと、真っ白で何も見えない。

だけども目を細めてマロを探すと、何やら巨大な影が見えた。何だよ…あれ…。化物か!?


「恭平止まるっす」

「カイト!マロはどこに…」

「あの影の元に。あれは…なんすかね」


カイトも見えないのか目を凝らしている。

マロがあの影に向かった?攻撃しにか?…いや、そんな感じじゃねぇな。確かに興奮はしていたけど、どちらかと言えば歓喜のような…。


「もしかしたら…」


カイトが制止する声を無視してザッザッと深い雪を踏み鳴らしながら影へと向かって行く。

暫くして後ろから複数の足跡が聞こえてきたのは、カイトや王子達だろうか。


寒さに耐えながら影に近づくと、そいつは雪と同じように真っ白な巨大な生き物だった――――そう、マロの母親である狐竜獣ジャスマーだ。


「キュイー」


母親と戯れている所を邪魔してマロを呼ぶと、嬉しそうにパタパタと飛んできた。それにより俺がいる事に気づいた母親と目が合う。うぉ、何回見てもデケーな。

ゆっくりと俺の前へ顔を近づけたかと思うと、頬をベロンと舐められた。び、ビックリさせんなよな…。食われるかと思った…。


「恭平!大丈夫っすか」

「あぁ大丈夫だ。やっぱりマロの母親だった」


追い付いてきたカイトに返事をすれば、初めて見る大人の狐竜獣ジャスマーの大きさに驚いている。

そりゃこんなデカイの来たら誰だって怖いよな。って、んん?コイツがここにいるって事はまさか姉ちゃんがいるんじゃ?

ハッとして顔をあげて狐竜獣ジャスマーの背中に目を凝らせると小さな人影が見えた。


「姉ちゃんか?」

「おや、ご帰宅っすか?」

「分かんねぇけど、誰かいるのは間違いない」


じっと人影を見てると狐竜獣ジャスマーはその場に伏せ、背中の人物を降ろす為の体制になる。

だけど見えてきたのは姉ちゃんではなく、防寒着を着込んだ小さな女の子だった。


「あんた誰だ?姉ちゃんは?」


俺が声を掛けると少女はビクリと肩を揺らしながら、恐る恐るこっちへ降りてきた。そんな怯えなくてもいいけどな。俺が怖い人みたいじゃねーか。


「何事だ?」

「王子。降りてきたのか?」

「あぁ、何やら音がしたのでな。それで?何故ここに狐竜獣ジャスマーがいるのだ」

「…紗良様はいらっしゃらないようですね」


カイトと俺、王子とファルドの視線が少女に注がれる。答えはきっとこの子が持っているはずだからな。


「っ」


少女はその視線が怖いのか、狐竜獣ジャスマーにしがみつきながら目を伏せる。どうやら怖がらせてしまったらしい。


「あー…怖がらなくて大丈夫。俺たちはただ姉ちゃんが乗ってた狐竜獣ジャスマーに乗って、ここへ来た理由を知りたいだけだから」

「姉ちゃんって…もしかして貴方が恭平?」

「あぁ、俺が恭平だ」


姉ちゃんから俺の名前を聞いたのか?俺が本人だと名乗ればパタパタと俺の傍に来て両手を握ってくる。

その行動に驚いていると「わたしと来てっ」と切羽詰まったような表情で訴えかけてきた。


「おい。紗良はどうしたのだ」

「あ、お姉ちゃんは眠ってて…酷い怪我を…」


王子が割り込んで少女に尋ねると、少し怯えながらも姉ちゃんの事を話し出した…かと思えば見る見るうちに瞳に涙を貯めて俺の手を握っていた手に力が入る。

おいおい、マジで大丈夫かよ。姉ちゃん無茶ばっかすんなよな!


「なっ…。紗良に何があった!」

「リハルト様落ち着いて下さい。焦る気持ちは分かりますが相手は子供です。此処ではお身体が冷えますからとりあえず馬車へ移動致しましょう」

「そうだな。声を荒げてすまなかった」


ファルドの言葉に落ち着きを取り戻した王子は少女に謝まり、少女もそれに頷く。

本当に王子は姉ちゃんの事が好きだよな。あの時だって連れて帰れるチャンスだったのに、本音が聞けたからって姉ちゃんを行かせてさ。無理矢理連れ帰ってもまた逃げるだろうけど、王子は姉ちゃんの意思を尊重させたんだ。これ以上嫌われたくないからな。


「悪いけど詳しく聞かせてくれねぇと一緒には行けない。話してくれるよな?」

「……分かった。話したら来てくれる?」

「あぁ。約束する」

「恭平勝手に返事したらダメっすよ」


カイトがヤレヤレといった態度で俺を注意するけど知ったこっちゃねぇ。俺がどうするかは俺が決める事だからな!


「そしたらカイトも来ればいいんだよ」

「それもそうっすね」

「何を勝手な事を言っているのだ。早く行くぞ」


王子に促され王子の乗っていたデカイ馬車に5人で乗り込む。それ以上は狭くなるので状況が分かっている俺達で話が聞ければ充分だ。

少女は俺にピッタリと張り付いている。姉ちゃんの弟だから懐かれたのか、他の3人が怖いのかは分かんねぇけどな。


「わたしの名前はレムリア。お姉ちゃんはレムって呼んでる」


名前が分からないと不便だから聞けばそう答えた。

なんで姉ちゃんといるかと言えば、雪山で死にそうな所を助けて貰ったそうだ。


「紗良がやりがちな事だな」

「ですね。それで先程の話ですが、紗良様は怪我をされたのですか?」

「…うん。すごく酷い怪我で…治らないかもって…っ」


そこまで言って泣き出してしまったから頭を撫でてやると、少し落ち着いたのか再び話し始めた。

レムリアはどうやら怪我をした理由までは知らないみたいだ。でも守護者ガーディアンという単語で俺達はその怪我の原因が分かった。

事件に巻き込まれた訳じゃなくて守護者ガーディアン絡みか。俺を連れて行きたい理由も怪我を治す為だな。


「蒼玉が居ながら何故そんな事に…。それで?紗良が恭平を連れてこいと言ったのか?」

「ううん、蒼玉さんが。ローズレイアって国に行けば恭平さんがいるはずだからって…。あれ?ここがローズレイア?」

「いや、ここはただの雪山だ。我々がここに居るのは紗良には言わないでくれ」

「どうして?」

「どうしてもだ」


王子がそう言えばそれ以上は聞いちゃダメだと悟ったのか、それとも王子が怖いのかそれ以上聞くことはなかった。

蒼玉なら俺が来てるって知ってる筈だけど…いや、王子達と話してる隙に俺が治したから知らないかもな。直接会ってねぇし。

でも風邪直したの俺なんだけど…まぁいいか。てかなんでここが分かったんだ?ってこの子が知るはずねぇよな。


「姉ちゃんは知ってるのか?俺を連れていくこと」

「…お姉ちゃんは眠ってたから知らないと思う」

「まぁそうっすよね。飛び出しといて怪我をしたから助けて下さいって性格でもないっすからね。神子様は」

「全くだな」


ケラケラとカイトが笑いながらそう言い放つと王子も同意した。皆姉ちゃんの性格を良く分かってるよな。だってそれぐらい長くいたもんな、ローズレイアに。


「はは、姉ちゃん意地っ張りだからな。怪我直すついでに文句の一つぐらい言いに行くか」

「頼んだぞ恭平」

「俺に治せない怪我はないから安心しろよ王子」

「なら俺もついて行くっす」


さっきのを真に受けたのかカイトがそう言い出したら、レムリアは困ったような顔をした。そりゃそうだよな。蒼玉は俺を連れてこいって言ったけど、他の誰かを連れて来て良いとも悪いとも言ってねぇからな。


「いや俺1人で行く。狐竜獣ジャスマーに乗ってく以上は危険はないだろうし。それにカイトは王子の護衛だろ?」

「恭平の護衛でもあるっすけどね。こう言ってますけどどうします?」

「恭平、カイトを連れていけ。万が一何かあれば助けにはなる」

「あーもう、分かったよ」


困惑するレムリアを連れてカイトと共に狐竜獣ジャスマーの元に戻り話しかけた。言葉分かんねぇけど伝わるのはマロで知ってるからな。


「俺らを姉ちゃんのとこ連れてってくれ」

「キュイ」

「乗ったらしがみつかないと、飛ばされちゃうからよ」


狐竜獣ジャスマーが1人ずつ咥えて背中に放り投げる。随分乱暴な乗せ方だな…。大人の狐竜獣ジャスマーの毛はマロに比べて少し固く感じたけど、それでも柔らかく暖かかった。


レムリアの言葉を受けて俺とカイトはしっかり捕まっると、狐竜獣ジャスマーが吹雪の中空へと飛び立つ。ちゃっかりとマロも俺の懐に入ってきてた。


「っっっ、さ、さみぃ!!!」

「鍛錬と思えば耐えれるっすよ」

「耐えれるか!後1時間もしたら凍え死ぬぞ!」

「ダリア暖かいから大丈夫」


弱音を吐く俺にレムリアが見本を見せるように、狐竜獣ジャスマーの背中に寝そべる形でしがみついていた。

それを真似すればさっきよりも長く耐えれそうにはなった。気持ち暖かいような気がするぜ。


「風の抵抗もこれなら減るっすね」

「それでも寒いけどな…」

「男は泣き言言わないっすよー」


言わせてくれよと思いながら、いつ終わるか分からない寒さにひたすら耐えた。

これも含めて姉ちゃんに文句言ってやろうと心に決めてな。

どんな怪我かは知らねぇけど、治ったら自分で治せない癖に無茶すんなって説教してやる。王子達の代わりにな。




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