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113.誰かの為じゃなく

軽快な音楽が辺りを包んで、街並みを優しく見せてくれる。周辺はお祭り騒ぎで人々は音楽に合わせて楽しそうに踊っていた。

雪山から少し離れた国、ハイペリカムの王都であるルピカに今は来ているのだ。本当は田舎の方で守護者ガーディアンを探そうと思っていたけど、レムがどこの村に居たか分からないから(言いたがらなかった)、行った事がないという王都に来たんだよね。


そしたら今は建国祭らしく、王都中がお祭り騒ぎだった。


「お姉ちゃん、あれは何?」


レムが興味津々に、だけど恥ずかしそうに屋台に並べられた物を指さしながら上目遣いで私に尋ねてくる。それがもう可愛すぎて!道のど真ん中じゃなかったら、抱きしめてたよ!!


「すみませんそれってどんな食べ物ですか?」

「おや、嬢ちゃん知らないのかい?こいつはねぇプルトスっていってな!祭りの日の定番のお菓子さ!!これを食べなきゃ祭りが始まらねぇってんだい!」

「じゃあ、それを二つ下さい」

「まいど!!」


屋台のお兄さんに声を掛けてプルトスを二つ貰い、一つはレムに渡す。するとレムは目を輝かせて嬉しそうにパクリと口に運ぶと「美味しい!」と表情を綻ばせていた。

プルトスはパンケーキを丸くしたような物で、ほんのりと甘くて優しい味がした。レムと二人でホクホクと食べていると、中に固いものが入っていたので出すと小さな丸いカプセルのような物が出てきた。


「なんだろうこれ」

「その中に何が入ってるの?」

「開けてみるね」

「…ほうせき?」


カプセルのような物を開けると、中から緑の宝石がコロンと出てきた。形は不思議なお花型でとっても可愛い。でもなんでこんな物が?と思って先ほどの店主に聞けば、驚いた顔をした後にニッコリと笑って大声で叫んだ。


「出たぞーーーーー!!今年の女神様だ!!」

「え、え?」


すると周辺にいた人が私の手にした石を見て大歓声があがる。


「おぉ!!あんたラッキーだな!」

「いいなぁ女神様~。あたし狙ってたのに」

「凄いじゃないか!おめでとう!!」

「今年は実物見れてよかったわぁ!」


訳が分からない私とレムはパニック状態で、周辺の人に呆気に取られる。レムは怖いのか、私のワンピースを不安そうにギュッと握っていた。


「あの、女神様って?」

「そうか嬢ちゃんはよそから来たんだっけな!毎年、プルトスの中には一個だけ当たりが入ってんだよ!」

「そうそう、それでその当たりを引いた人は運が強いから今年も無事に過ごせるようにって女神様になって皆に祝福を送るんだよ!私も若い頃にやったんだよ」


店主の説明におばさんが割り込んできて、そう説明してくれた。祝福って何をするのかと聞けば、女神様の衣装に着替えてここの特産品である白い花「リリウム」という小さな花を配るんだとか。

楽しそうだけど、そこまで聞いてあることに思い当たる。着替えたら顔丸見えになってしまうってことに!ここには見たところ黒髪の人は一人もいないし…。どうしようと思ったところで、レムと目が合った。


「ささ、嬢ちゃん。着替えなきゃね」

「あの、これ私じゃなくてこの子なんです」

「え?」

「ありゃ、そうだったのかい!今年は小さな女神様だね!」


私を別場所に連れて行こうとするおばさんにそう言えば、おばさんは私から手を離してレムを連れて行った。レムは不安そうに、そして少し恨めしそうに連れてかれた。後で謝ろうと心の中で手を合わせた。


「この石はどうすれば…?」

「あぁ、それはもっときな!お守りになるんだよ」

「お守りに?」

「そうさ、それはこの国の守護石だからね!持ってる人を守ってくれるよ」


陽の光にキラキラと輝く花形の緑の石を、レムに後であげようと無くさないように鞄にしまった。そのまま祭りの話を聞いてると、おばさんの後ろから機嫌悪そうにレムが着替えて出てきた。


「どうだい、可愛いだろう?」

「レム素敵ね!似合ってるよ!!」

「お姉ちゃん私を売ったでしょ…」

「違うよ!レムに楽しんでもらおうと思って」


レムの前にしゃがんでそう言えば恨み言を吐かれたので、レムの為だよと言えば、多少不満は残ったものの納得してくれたようだった。

レムはリリウムの花を髪と一緒に編み込んであり、衣装も白で統一されていて雪の精みたいで可愛かった。ただ少し可哀想なのは、雪の降るこの時期にしては薄着だったっていうことだ。


「じゃ、お姉ちゃんに一番最初の幸福を」


そう言ってフードの中の私の髪に花をスッと挿してくれた。それを覗き込んで嬉しそうに笑ったレムが可愛すぎて思いっきり抱きしめた。


「もう!可愛いわね」

「く、くるしい…」

「ははは、仲がいい姉妹だね」

「えぇ、自慢の妹です」


おばさんや周りの人の温かい視線にそう答えると、レムの頬が少し赤く染まった。照れちゃって可愛いんだから!


「女神様、私にも花をくれるかな?」

「あ、はい」

「俺も!」

「私も頂戴な!」


レムが人に囲まれだしたのでそっとその場を離れる。人気のない路地に回り、紅玉を呼び出してレムを宜しくねと言ってその場を離れる。生活用品とかレムの物とか買いたいしね!


「よいしょっと…沢山買いすぎちゃったかな」


両手に大量の荷物を抱えてよろよろしながら今日泊まる予定の宿に向かってると、急にふわっと荷物が軽くなった。え?っと思って見ると蒼玉が姿を現して持ってくれたみたい。ていうか、いつの間に紅玉に教えてもらったんだろう。

蒼玉はいつもの着物じゃなくて、紅玉のようなシャツにパンツといった簡易な服装に防寒用のコートまで着ていた。どこから見ても人間に見える仕様になっている。


『持つ量考えて買いなよね』

「レムの物見てたらとまらなくなっちゃって!」

『本当に紗良は自分の物を買わないよね。いつも人の物ばかりで』

「私は今の物で十分だから」


そう言えばやれやれと言った様子でごそっとポケットから小包を出して私の空いた手に乗せてくれた。可愛らしくラッピングまでされている。


「え…?」

『紗良の代わりに僕が選んだんだ』

「いつの間に?」

『少し前からね。気付かなかったでしょ?』


レムの物を選ぶのに夢中で全然気づかなかったや。促されて小包を開けてみると、中には髪飾りが入っていた。深紅のバラが横に四つ並んだ髪飾り。初めて蒼玉と会った時も薔薇に囲まれてたっけ。

懐かしいな。紅水晶ローズウォーツも元気にしてるだろうか。薔薇に囲まれて幸せだった時間だ。


「ありがとう。大事にするね」

『喜んでくれて嬉しいよ。僕のお金じゃないけどね』

「ううん、これは皆で手にしたお金だもの。それにその気持ちが嬉しいんだよ」


今はずっとフードを被ってるからこれをお披露目するのはもう少し先になりそうだね。でも勿体なくて使えないなぁ。ずっと飾っておきたいぐらいに嬉しかったの。


「お姉ちゃん!!」

「あ、レム。お疲れさ……っと!」


宿の手前でレムと紅玉に出くわしたので、レムに労いの言葉をかけるとタックルされてしまった。どうしたんだろうと思ってレムを引き離そうとしても、全然離れてくれなくて…。困ったように紅玉を見れば、やれやれといった表情で溜息を吐いた。


『置いてかれたと思ったんだろう』

「え?…そうなの?レム」


レムはギュウっと私に抱き着いたまま、頭をコクリと動かした。置いていく気なら紅玉を派遣したりしないんだけどな。でも一言言った方がよかったかもね。


「ごめんねレム。買い物に行ってたの。言えば良かったね」

「………」

「あのね、レムの物を沢山買ったのよ。一緒に見てくれる?」


その言葉にレムはようやく顔を上げて私をじっと見つめて言ったの。「わたし、物なんていらない。だから勝手にいなくならないで」と。何があったかは詳しくは分からないけど、レムは一人になるのが怖いようだった。

だからごめんねと言ってレムを抱きしめてあげた。暫くしてレムが落ち着いたのを確認して宿に荷物を置いて食事を取った。その後に再び宿に戻り、レムに買ってあげた洋服とかを出して見せながら押し付けた。だってこんなに貰えないとか言うんだもん。


「でも全部レムのサイズだし、私着れないし…。捨てるの勿体ないでしょ?」

「…。お姉ちゃんありがとう…」


しょんぼりした顔で言えば、レムはおずおずと洋服を手に取ってお礼を言った。嫌だったのかな?って思ったけど、チラ見した時に嬉しそうに服を抱きしめてたから、照れ隠しだったのかも。

レムの荷物入れる用の鞄も買ったから、それに服とかを入れてあげた。せっけんとかの生活用品は私の荷物に入ってるからね!


「お姉ちゃんはどうして顔を隠すの?神子様の顔は皆知らないでしょ?」

「皆が皆、知らない訳じゃないの。それに黒髪の人間って珍しいみたいだから、なるべく目立ちたくないんだよね」

「そうなんだ…。こんなに綺麗なのに隠すなんて勿体ないね」


良くも悪くも目を惹くみたいだから、やっぱり姿を隠してた方が都合がいいんだよね。ただでさえ色々と巻き込まれるし…。私の人生は波乱万丈なルートしかないのか!?もっとのんびり暮らせる人生が良かったな。


「ねぇねぇ、お祭り楽しかった?」

「…沢山の人に囲まれて怖かった。でも、皆良くしてくれて楽しかった」

「そっか。良かった」


レムの髪に編み込んであったリリウムの花をもう読まない本に挟んで重しを置く。するとレムが不思議そうな顔をしてじっと見てきたので、押し花にするんだよって教えてあげた。


「押し花?」

「うん。こうやって水分を取っておくとね、形を残したまま保存できるんだよ。色は変わっちゃうけどね」

「へぇ。お姉ちゃんって物知りなんだね」

「ふふ、そんなことないよ。この世界の事は知らないことだらけだから」


「この世界」の言葉にレムが反応したから、私がここに来る前の世界の話をした。異世界から急に来た事。神子だった事。守護者ガーディアンの事。リハルト様の事を省いて簡単に説明した。

ただ白銀の神子の事は話すのを止めた。怖がらせちゃうといけないし、今はまだその話をすべきじゃないと思ったから。時期がくれば話をしようとは思ってるけどね。


「じゃぁ、お姉ちゃんも一人ぼっちになったんだね」

「そうだね。この世界に来たときは一人ぼっちだったね」


しみじみと思い出すように言えば、レムが頭をよしよしと撫でてくれた。


「怖かったね」

「…そうだね。一人は怖い。誰も私の名前を知らない世界なんて、存在してないのと一緒だもの」

「わたしも一人になってそう思ったの。でもお姉ちゃんが来てくれたから、レムって呼んでくれるから、もう怖くないよ」


その気持ち凄く分かるよ。皆が私の名前を憶えて呼んでくれて、あぁ私はここに存在してるんだって感じられたから。でも神子様呼びは少し寂しかったりもしたけど、神子は私しかいないしまぁいっかって割り切ったけどね。


「レムは私にしたら妹みたいな存在だから。大丈夫、置いて行ったりしないよ」

「約束だよ?」

「うん、約束」


小指を絡めてレムと約束した。私の方がレムより長生きするし、レムを置いていく事はないと思う。だから破ることのない約束として交わした。恋愛感情と違って移ろいゆくものでもないしね。出来ない約束はしたくない。守れなかった時にお互いが辛くなるだけだから。






☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆






夜眠れなくて隣のベットで眠るお姉ちゃんを見ると、すやすやと眠ってるのが分かった。寒いのか布団をグルグル巻きにしているのが、なんだか可笑しい。神子様なのにね。

今日は楽しかった。普段着ないような服を着て、知らない人にお花を配る。女神様になって祝福を与える行事らしい。本当はお姉ちゃんが当たったのに、わたしって事にされたのはびっくりしたけど。


『どうしたの?寝れない?』


体を起こしてぼんやりとしていると、急に声がした。聞えてきた方に顔を向けると、お姉ちゃんのベットに腰かけた蒼玉さんがこちらを見ていた。

いつの間に現れたんだろう。守護者ガーディアンといって不思議な存在で、お姉ちゃんの中から出入り自由なんだって。いまいち理解出来ないけど。


「うん、なんだか興奮しちゃってるみたい。昼間のお祭りの所為かも」

『そっか。それはいい眠れない理由だね』

「それになんだか夢を見てるみたいで…。寝たら終わってしまう気がして」


お姉ちゃんと出会ったこと事態が夢で、私はまだ雪山にいて。今日の事は全部夢だったって思ったら、もうそれこそ死ぬしかなくて。生きたいと思えたのに、死を迎えるのはとても怖い。


『心配しないでいいよ。これは現実だから。寝て起きても僕らはいるよ』

「そうだといいな」

『そうだよ。大丈夫』


蒼玉さんは穏やかでとても優しい人だ。そしてお姉ちゃんが大好きで、お姉ちゃんの身を一番案じてる人だと思う。愛しいって言葉が一番合うような感じ。

紅玉さんはちょっと怖い。でも悪い人じゃなさそう。人にぶつからないように、さりげなく誘導してくれたから。そんな二人に守られてるからお姉ちゃんは安心して旅が出来るんだろうな。


「ねぇ、蒼玉さんから見てお姉ちゃんってどんな人?」

『紗良かい?そうだな…目が離せない人かな』

「目が離せない?」

『紗良はすぐ無茶をするからね。僕がいないとダメなんだ』


そう言う蒼玉さんはとても幸せそうだ。他にもお姉ちゃんがどれだけ危なっかしいかの話を教えてくれた。それを聞いた感想としては、わたしもしっかりしてお姉ちゃんを守ってあげなくちゃって思った。


『僕の妹のほうが紗良よりもしっかりしてるんだよ』

「妹…?守護者ガーディアンって兄弟とかいるの?」

『あ…。僕と紅玉は特殊でね。僕にはいるんだよ』

「そうなんだ」


ほんの少し表情が陰ったので、そうしようと思ってわたしもお兄ちゃんの話をする事にした。


「わたしにはお兄ちゃんがいたの」

『いたって事は今はもういないのかい?』

「…うん。一番わたしを可愛がってくれたの』


お兄ちゃんだけど時には親友のように、時には先生のような存在だった。両親に代わって面倒を見てくれたのはお兄ちゃんで大好きだった。この世界中の誰よりも。


「お兄ちゃんは物知りでね色んな事を教えてくれたの」


私もお母さんのようにあまり体が強くなかったから、お兄ちゃんが学校で教わった事を私に話してくれた。字の書き方も、読み方も生きるのに必要な事を沢山教えて貰った。お陰で本を読むのは大好きになったし、難しい本でも読めるようになった。


『いいお兄さんだったんだね』

「うん!お兄ちゃんは自分で働いたお金でわたしに本をくれたの」

『本?どんな?』

「ウサギと狐のお話の絵本なの。ウサギは狐の為に命を捧げるんだよ。でもその理由が自分の生き方を考えさせてくれるの」


素直で馬鹿なウサギだけど、心はとても綺麗だった。自分とは違うからこそ惹かれたのかも。人って自分にない物に憧れたりするでしょ?わたしもウサギのように笑顔で死を迎えられるような生き方をしたいって、思ったんだよね。


「ウサギのように誰かの為に命をかけて死にたいって思った」


お兄ちゃんは私を命をかけて守ってくれた。わたしを守れて良かったと笑いながら逝ってしまった。絵本の中のウサギのように誰かの為に死んでいった。

そしてわたしは残された狐側になった。絵本と違うのは私に戻る場所なんてなかったということ。


『僕はね、守護者ガーディアンになって気付いたんだ。誰かの為に死ぬって自分勝手だったんだって』

「え…?」

『だって残された人の気持ちを全く考えてないでしょ?』


そう聞かれて「確かに」って思った。ウサギもお兄ちゃんも満足したように死んでったけど、狐も私も寂しさが残った。本当はわたしの為に死なないで欲しかった。それよりもかっこ悪くてもいいから必死で生きて欲しかったんだ。


「うん、うん…。嬉しくなんてないの…。寂しいだけで、わたしにそんな価値なんてなくて…」


ポロポロって涙が出てくる。気付きたくなかった。でも気付けて良かった。わたしもそうなるところだったかも知れないから。そうやって死んで満足なのは自分だけで、相手にとっては「自分の所為で」って負担になっちゃうんだよね。


『だからレムは自分の為に一生懸命生きたほうがいいよ。誰かの為に生きるって物凄く大変だから』


蒼玉さんはそう言いながらお姉ちゃんの顔を見つめた。その言葉はわたしじゃなくてお姉ちゃんに向けられているのかも。このまま一緒に過ごしていけば、その言葉の意味も分かるかな?


「ありがとう蒼玉さん」

『どう致しまして。さぁ、もう寝ないと明日起きれなくなるよ』

「寝れそうかも」

『おやすみレム』


「おやすみ」と返して布団に潜り込む。他愛ない挨拶がこんなにも愛しいって初めて知った。失くしてから分かることって沢山あるんだね。どうか明日はお姉ちゃんの「おはよう」が聴けますように。



ウサギと狐のお話はミルティナの大好きな絵本と同じです。ソリテュートとビアンコのお話を再び読みたい方は89話にありますので、ご覧くださいませ。

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