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109.脱走劇

中にはいつの間に準備したのか、長いテーブルに沢山の豪華な料理が並んでいる。そこには何人もの人が座っており、こちらを見て何やらヒソヒソと話をしているではないか。

嫌な感じだと思っているとマグオートが近付いて恭しく頭を下げる。エスコートをしてくれようとしたのを断り、案内された席に着いた。

勿論その間も視線はこちらに集中していて、今すぐ帰りたい気分に駆られる。


「マグオート、そいつが神子か?」

「そうですよレイブン王子。先程お話しさせて頂いた、本物の神子様で御座います」

「へぇ」


目の前に座っているのは紺の髪の王子、レイブン王子と言うらしい。不躾にジロジロと物色する様に私を見る。それが不愉快だったので、にこりと微笑めば頬を紅く染めたので勝ったと思った。何の勝負かは分からないけど。


「女性にそのような視線を向けるものではありませんよ、レイブン」

「うるせぇ。お前に言われる筋合いはねぇんだよ」

「私がいつどのようにその様な視線を、女性に向かわせたと?」

「あーもう口煩いなお前は!」

「おやめ下さい御二方。神子様の御前ですよ」


マグオートに諫められたもう1人は、トラヴィスと同じ淡水色の長い髪で、中性的な顔立ちの王子だった。…ドレス着れそうだなと思ったのは内緒ね。

遅れてトラヴィスが入ってきて私の衣装に驚いた顔をしたけど、すぐに元の表情に戻った。人が揃ったところでテーブルに並べられた料理とは別の食事が運ばれてきた。


「どうだ、美味いだろう。一流の料理人だからな」

「えぇ、とっても美味しいですわ。初めて食べる物ばかりで新鮮ですわね」

「そうでしょう、国が違えば料理も変わりますからね」


王子の会話に付き合わされながら食事を終える。その間、トラヴィスは一言も口を開くことはなかった。二人の王子もトラヴィスに話を振ることもなく、さもそこには誰もいません状態で話をしていた。私も同じ瞳の色なのに、神子ならよくてトラヴィスは駄目って絶対変だ。


「ご馳走様でした。それでは失礼させて頂きますわ…ね?」


席を立ち扉に向かおうとすると、扉は使用人によって塞がれており、マグオートが細い目を更に細くさせてニッコリとこちらに笑顔を向けている。え?何?返しませんよ的な!?まさかここでそんな手を取られるとは思ってなかったんだけど…。

だから紅玉は部屋で待たされてるのね…。いると不都合だから…。


「まだ終わってはおりませんよ。神子様にはこの中から次なる王を選んで頂きたいのです」

「…え?王を?」

「はい。陛下は神子様が選んだ者を次なる王にすると申し上げられました」

「私が?この国に無関係ですわよ」

「いいえ神子様。無関係では御座いませんよ」


マグオートの言葉に首を傾げる。王と話したから無関係ではないって事?いやでも政治のことなんてサッパリだけどな。ローズレイアでも分からないのに、この国の事なんて猶更分からないよ!それにトラヴィスはともかく他の二人の事なんて知らないよ…。


「神子様が選んだお方と夫婦めおとになって頂くのですから」


もの凄くいい笑顔でなんか言ってるんですけど!!?困惑している私にマグオートは「さあ!」と畳みかけてくる。二人の王子もここぞとばかりにアピールをしてきて、私の反論しようとする声がかき消される。

他の観衆は微笑ましい光景を見るような顔つきで話にならないので、どうにかして抜け出す事を考えていると、この部屋に入って初めてトラヴィスが口を開いた。


「私を選べ、神子」

「え…?」

「は?何言ってんだ?お前なんか誰も選ばねぇよ」

「そうですよ。気味の悪いその姿でよくもまぁ、神子様の前に出られるものですね」


二人の王子がトラヴィスに詰め寄るも、それを強く押し返した。初めての反撃なのか、その行動に茫然とする二人を押しのけて私の手を掴むトラヴィス。


「私を王にすると言え。お前を守ってやる」


私の目をまっすぐ見つめるその姿には力強さがあった。初めて会った時のように自分の目を隠す事も、目を反らすこともない。自分に向けられる黒い感情も跳ね除けてしまえる強さが、今のトラヴィスにはあった。


「あ、貴方を王に選ぶわ…」


勢いと強さに負けてそう口走ってしまう程に、トラヴィスは堂々としていて格好良かった。

私の言葉にトラヴィスがニッと笑い、そのまま私の手を引いて扉に向って走り出した。靴が脱げそうになったけど、何とか持ち直して一緒に走る。慌てる使用人に止まろうともせず、トラヴィスは突っ込んでいく。流石にヤバいと思ったのか、使用人達は勢いに負けてドアから離れた。


「どけ!神子にぶつかるぞ!扉を開けろ!!」

「扉を開けてはなりませんよ!!」


後ろからマグオートの声が聞こえるが無視で。扉に手がかかろうとしたところで紅玉がタイミングよくドアを開けてくれた。ナイス!紅玉と心で突っ込みを入れて、あの部屋から出ることに成功した。


「はぁはぁ、お前は逃げろ、後は私がどうにかするから」

「でも、また酷い事言われるんじゃ…」

「約束したからな。神に誓って悪いようにはしないと」

「…神様なんて信じてないくせに」

「はは、神子様はもうやめたのか?」


うっかりいつもの話し方に戻ってしまった私に嬉しそうに笑った。何だかトラヴィスは色々と吹っ切れたみたいで明るくなった気がするな。


「ごめんね黙ってて」

「いい、気にするな。私が出会ったのは神子でも聖女でもなく、紗良という一人の女性だからな」

「トラヴィス…」

「っと。追手が来てるな。お前の従者を借りるぞ!俺が囮になるから先に逃げるんだ。安心しろ、従者も後でちゃんと返してやる」


そういって近くの部屋からシーツを持ちだして、自分で被ると紅玉を連れて追手に姿を見せるようにして逃げて行った。…紅玉、言葉分からないけど大丈夫かな?簡単には説明したから大丈夫だと思うけど。


「おっとこうしちゃいられない、逃げなくちゃ」


ぼうっと突っ立ってると見つかるからね!一人で出口を探して走っていると、使用人の一人に見つかった。そしたらそいつが「見つけたぞーーー!」と大声で叫ぶものだから、奥からぞろぞろと人が出て来て追いかけっこが始まった。


「ほぼ、一直線、なんてぇ」


息切れしながら重たいドレスを持ち上げて走る。泣き言を言いながら角を曲がり、回想前の冒頭に戻ると言う訳。


「紅玉はまだトラヴィスと走ってるみたいね」

『そんな事より自分の心配したら?』

「今考えてるの!」

『窓から逃げる?ここ一階だし…と思ったけど、外にもいるね』


そうなると、この部屋が見つかったらジ・エンドって事ね。靴もヒールだったので脱ぎ捨てて、ドレスも脱ぎ中のコルセットになる。これもパニエとかついて邪魔なんだけどね。流石にこれを脱ぐと痴女になってしまうので、やらないけど。


『その姿でも十分痴女だけどね。リハルトが見たらなんて言うかな』

「大丈夫よ。見られることないもん」

『僕が言うから大丈夫だよ、紗良』


語尾にハートマークでもつきそうなトーンで蒼玉が言い放った。やめてくれ!と思ったけど、もう会うことないんだからと頭を横に振った。パッと服出せたら楽なんだけどな。


「あ、蒼玉のその衣貸してよ。手を離さなきゃ大丈夫なんだし」

『いいけど、絶対に手を離したら駄目だよ?神子が痴女だって知れ渡る事になるんだからね』

「死んでも離しません!!」


そんな噂が広まったら困るので、何があっても離さないと強く握る。そんな私を可笑しそうに笑ってから蒼玉は私の中に消えていった。扉を少し開けて外の様子を伺うと、誰も居なかったので別の部屋へと逃げ込んだ。


「お、ここは…」


逃げ込んだ先は使用人の部屋らしき場所で、女性が暮らしてる様子が伺えた。一部屋に二人で住んでるのねと、どうでもいい情報を頭に入れながら勝手にクローゼットを開ける。すると目当ての洋服を見つけた。


「ビンゴ!メイド服見っけ」

『まさかそれ着るの?…でも今の格好に比べたらマシかな』


なにやらグチグチち呟いている蒼玉。元が王子だからこういうとこは煩いのよね。私が良いって言ったらいいのに。部屋の主のスペアのメイド服を見つけてそれを身に纏う。この城のメイド服は髪を纏める帽子があるので後姿ならば黒髪だとばれないので逃げやすそうだ。ふふ、コスプレ上等だわ!!


再びこっそりと部屋を出て外の様子を伺いながら少しづつ人気の少ない裏側に近づいていく。


「ちょっと貴女!」

「は、はいいぃぃぃ!!!!」


突然、後ろから女性の声がかかり体が硬直する。ヤバい!バレた?と心臓がバクバクなる状態で次の言葉を待つ。


「ねぇアンディが居ないのよ。見なかったかしら?」

「あ、あちらの方に行かれたのを見ましたわ」

「そう、あっちね」


咄嗟に嘘をついて指を差すと、その場を離れる足音が聞こえたので走って逃げた。


「あ、そうそう…あれ?居ない」


そんな声を物陰に隠れながら聞き、ギリギリセーフとほっと息を吐いた。城の裏側に回ってダリアを呼ぼうと決めて、紅玉にもう戻っていいよと伝えた。勿論、荷物を忘れずに取りに行ってと伝えて。

あそこにお金やら着替えやら入ってるからね!ないと困るのよ!!


『ダリアはすぐこれそう?』

「うん、多分5分程で来そう」

『5分って…すぐってことでいいんだよね?』

「そうだよ」


中々私の世界の単位に慣れないらしく、ザックリとした回答が返ってきた。まぁすぐだよね、5分って。この世界の時間は細かく分類されてないから困る。うーん、全て終わったら浸透させてみようかな。今よりも便利になると思うけど。


『待たせたな。荷物持ってきたぞ』

「有難う紅玉」


ドサリと私に荷物を渡す紅玉は、この格好については完全にスルーらしい。トラヴィスは大丈夫かを聞いたら「問題ない」とだけ返ってきた。


『伝言を預かってきた』

「え、なんて?」

『「次来たときは王として歓迎しよう」だと』

「王としてか…。ふふ、楽しみだね」


どうやら紅玉に話が通じなくて、公用語に戻してくれたらしい。だからこそ紅玉が伝言を預かってこれたんだね。トラヴィスはいい王になれると思うな。ううん、なるんだよね!気持ちばかりの祝福を祈り、迎えに来たダリアの背に乗って城から離れた。


「一晩宿とって、次の国へ行こっか」

守護者ガーディアンはいいのか?』

「良くないけど場所聞きそびれちゃったし、見つかっても困るからやめとく」

『紗良にしてはいい判断だね』

「それ褒めてる?」

『はは、勿論だよ』


だんだん小さくなっていく城を横目に、蒼玉にジト目を向ける。流石の私も、褒められてないことぐらい分かってるよ!蒼玉はただただ笑顔で私を見ているだけで、悪びれる様子もなかった。


「あ…国の名前を聞くの忘れちゃった」


記憶を辿るように思い出す。ローブを取ったトラヴィスの服の刺繍を。城の紋章を。ゆっくりと、頭にかかってる靄を取り除くように…。するとぼんやりと見えてきたのは、盛り上がった真ん中を軸に左右対称に大きさの違う花だ。


「そうだ!胡蝶蘭だ!!」

『胡蝶蘭ならファレノブシス国だよ』

「ファレノブシス…」


今度地図を見る機会があったら確認してみようと、心のノートにその名前を記した。一日経ったら忘れそうだから、宿でちゃんとメモにもとりました!!トラヴィスの名と一緒に。



トラヴィス編、これで終わりです。

予想外に長くなってしまった&考えてた話と全く変わってしまいました。なーぜーだー。

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