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102.ホットスープ

「紅玉お願い」

『雪なら燃え広がらなくていいな』

「そうだね。あっちの方から声が聞こえるからそっちに向かって宜しくね」


炎で雪を溶かしていく紅玉にただただ驚くクリスト。まぁ急に何処からか現れたら驚くよね。ただクリストは仕事の出来る人間だからか、根掘り葉掘り聞いてくるような事はなかった。


「成る程。紗良様がお一人で大丈夫と言えるのは守護者ガーディアンがいるからでしたか」

「うん。本当に一人だと色々危ないよね」

「はい。紗良様のような性格の方が何にも巻き込まれず旅をする方が無理ですからね」


サラっとディスられた気がするんだけど気のせいかな?まぁその通りで身にしみて分かったんだけどさ。紅玉と蒼玉の存在には感謝だよね。


「ん?これって何?」

「あぁ、これでしたら食糧庫ですよ」

「あ!食糧庫なんだ!綺麗な建物だから分からなかったわ」


簡易な作りながら壁には色とりどりのガラス片が埋め込まれていて、光に当たればもっと綺麗なんだろうなと思った。雪なのが残念だね。


「綺麗…ですか?ただの食糧庫ですよ?」

「え?このガラスが綺麗でしょ?」

「宝石の方が綺麗ですよね?」

「それはそうだけど、これも綺麗だよ」


私がガラス片を綺麗だと言うのがクリストには不可解らしい。神子だからそんな物には靡かないという固定概念なのかな?それともずっと姫達に支えてたせいでそう思っちゃったのかな?


「目が肥える事は悪い事じゃないし、感性は人それぞれだけど、私は純粋に綺麗だと思ったから綺麗だって言っただけだよ」

『神子はそこらへんの王族や貴族の型には嵌らないぞ』

「そのようですね。失礼しました紗良様」


軽く頭を下げるクリスト。一々大袈裟よね、クリストって。別に謝らなくていいのにさ。

食糧庫を通り過ぎて小さな泉が現れた。と言っても雪でまみれて見えなかったので、その上を歩いたら落ちて発見したという間抜けな話なんだけどね。


「ギャーー!!!冷たい!死ぬ!!!」

「紗良様!!早くお手を!!」

『蒼玉、出番だぞ』

『全く紗良は仕方ないなぁ』


氷水の中でバシャバシャと暴れる私を蒼玉が抱え上げて救出してくれた。し、心臓が止まるかと思うぐらい冷たかった!!鼻水を垂らしながら急いで力を使い、服についた水を飛ばした。


「紗良様!私の上着もお使い下さい!」

「あ、ありがとう…。マジで死ぬ…寒いよー」


水を飛ばしたから濡れてはないけど、芯から冷えた体の所為で震えが止まらない。


「紗良様一度村長の家にお邪魔しましょう。このままではお風邪を引かれてしまいますので!」

「ゔゔん、このままやる…」

「鼻垂らしたままでは説得力ありませんよ。ちょっと失礼しますね」


私を抱き上げたクリストは文句を言わせずに村長の家を訪ねた。鼻水を垂らした私には拒否権はないそうです。話を聞いた村長は慌てて毛布を掛けてくれて、暖かいスープを出してくれた。


「口に合わねぇかも知れんが…」

「ありがとうございます」


スープを口に含むとオニオンスープに近い味が口の中に広がって、喉を通り胃に入ると体がジンワリと暖かくなった。あぁ…ほっこりする…。


「先に話してくれたらこんな事にはならねかったんだけどなぁ」

「申し訳ありません。ですが神子様の使いですから、あまり人に見られたくないそうですのでそこは御配慮願いたいのです」

「まぁ他に落ちそうな場所はあそこしかねぇんで、大丈夫だと思うけんどな。にしても神子様の使いの方とは…見た事ねぇぐらい綺麗だなぁ。神様かと思ったなぁ」


そう言って村長さんは私に手を合わせてナムナム言い始めたので慌てて止めた。生き神じゃなく普通の人なので止めて欲しい。神子じゃなく神子の使いの立場でも扱いが変わらない気がするなぁ。


「スープご馳走様でした。続きをさせて頂きますのでこの場で待機をお願いしますね」

「宜しくおねげぇしますだ」


毛布を返して村長家を後にする。クリストはもう少し暖まった方がと煩かったけど無視した。気を使わせるのも申し訳ないのよねー。


「それにしても神子様の使いなのですから、神子様としての振る舞いでなくともよかったのでは?」

「癖だから気にしないで。なんか染み付いちゃたのよね」


ザクザクと雪の中、先を歩く紗良様はとても強い方だと思う。神子という重圧が嫌になる時はないのだろうか?同じ年頃の女性達は嫁ぎ子をもうけているのに対して、自分は守護者ガーディアンを助ける為に自身を危険に晒してでも救おうとされる。そこには偽善の言葉すらなくて、純粋な愛が存在しているように感じますね。これが神子という存在なのですね。


「(愚痴の一つ吐いたところで誰も責めたりはしないんですよ、紗良様)」


どこかで完璧であろうとしているのが見え隠れする。きっと自分でも気付いてない程に無意識に。それはきっと周りの人からしたら心配でしょうね。

もし自分が神子か一般人かを選べたとしたら、神子は遠慮したいですね。紗良様を見ていたら到底自分には出来そうにありませんから。内心そんな事を考えながら笑顔を貼り付けたまま、先程の泉まで来た。


「ここらへんから声が聞こえるからここでやるね」

「分かりました」


泉に手を触れた状態で紗良様が何やら呟くと黄金の粒子が漂い始めました。紗良様が綺麗だと仰ったガラス片の何十倍も綺麗なその光景に見惚れてしまう。紗良様の顔付きも神子様そのもので、粒子のおかげで紗良様の美しさをより引き立てていますね。


「素晴らしい光景ですね。ここまで心が動かされるのは初めてです」

「………」

「紗良様?」

『残念だが力を使ってる時は声は届かないぞ』


紅玉様が再び現れて私の目をじっと見つめながらそう仰いました。切れ長でスッと伸びた目に高い鼻にバランスの取れたお顔立ち。自分も悪くない方、いやとてもいい方だと思ってはいるけれど紅玉様には敵わない。陛下は私の顔を褒めて下さいますが、上には上がいるものです。


「貴方のそのお姿で紗良様は靡かないのであれば、リハルト王子はどれ程の容姿をお持ちなのでしょう?」

『おい、心の声が出てるぞ』

「いえ、聞いているのです」

『知らん、俺に聞くな。男の容姿を褒める趣味はない』


気持ち悪い事を聞くなと返されてしまった。リハルト王子の噂は耳にする事は多いですが、実際に拝見した事がないんですよね。噂通りなら完璧と比喩されるお方でお目にかかった事がない程の容姿端麗だと聞きますけど、噂はあくまで噂。ただ紗良様と婚約までされたお方ならば噂はあながち嘘ではないのでしょう。


『…お前がどう足掻こうが神子は手に入らんぞ』

「紅玉様は冗談がお好きなのですね。そんな気持ちなんて一欠片も抱いておりませんのでご安心を」

『ならいいが』

「ーーーーおいで、天青石セレスタイト


泉に力を注いで天青石セレスタイトを呼び出す。すると迷惑そうな顔をした天青石セレスタイトが現れて、小言を言われた。


『なんだ。こないだの迷惑な客か』

「正確には今日の朝だけどね」

『時間の流れが違うのを加味してくれる?』

「あ、そっか。なら天青石セレスタイトからしたら何日ぶりになるの?」

『…ていうか、あんた何しに来たの?』


どうでもいいだろと言わんばかりにため息を吐かれてしまった。なんだよもー。日常会話ぐらい付き合ってくれてもいいのにね。まぁでもあんまりのんびりしてると村人が出てきちゃうかも知れないし、本題に入りますか。


「私は貴方に力を与えに来たんだよ」

『力を?あんた神にでもなったつもり?』

「神ではないけど、力が少なくなってしまったからこの地が荒れてるのよね?なら私が天青石セレスタイトに力を分ければ問題解決になるんだよ」


そう言えば何やら考え込む素振りをした天青石セレスタイト。もしかして天青石セレスタイトはそのことを知らないとか?うーん、今までに知らなかった守護者ガーディアンがいなかったから驚きだけど、そういうこともあるのかな?


『で?その方法って何?』

「ゆっくり時間をかけて貴方に力を注ぐか、口から一気に力を送り込むかの二択だね」

「つまりそれって接吻ですか?」

「うん、そうなるね」

「え、いいのですか?」


クリストの言葉に首を傾げる。いいのって何が?と聞けば、守護者ガーディアンと言えども婚約者のある身で男性にキスしてもいいのかどうからしい。…心がパックリ割れるような質問はしないで頂きたい。


「………」

「紗良様?」

『なら前者一択だな。それとあんたの質問はそいつの心を抉ったな。まぁオレには関係ないけど』

「え?も、申し訳ありません!そんなつもりでは…」

「ふふ…いいの。気にしないで」


慌てるクリストに支えられながら、崩れ落ちていた身と気持ちを立て直して天青石セレスタイトに向き直った。


「私もできれば前者一択なんだけど、時間がないから後者でもいい?私が嫌なら紅玉でもいいけど」

『何勝手に言ってるんだ?俺は絶対に嫌だ』

『オレも嫌だ』

「もーわがまま言わないでよ。力がなくて辛いんでしょ?諦めたら楽になるんだから!ね?」


まるでいけない薬物を進めてるような言葉だけど、そんな物には死んでも手を出さないのでご安心を!明日は別の場所に行かなきゃいけないから時間はかけれないので、強引にやるしかないか。にしても守護者ガーディアンでもキスに抵抗ある人いるんだね。


『…仕方ないから我慢してやる』

「勘違いしないで欲しいんだけど、したくてしてる訳じゃないからね?」

『どうでもいいから早く終わらせてよ』

「…はいはい、分かりましたよ」


ブーたれながら天青石セレスタイトに近づいて口から力を送り込んだ。スルスルっと乾いた大地に水がしみ込んでいくような速さで力が抜けていくのが分かる。あと少し、もう少しかなって思っていると紅玉に引き離されてしまった。


『自分の力量を見誤るなと何度言ったら分かる?』

「もうちょっとで止めようと思ってたよ!」

『限界値を探るな。適度に切り上げろ』

「…はーい」


紅玉に怒られちゃったよーと泣き真似するとクリストが慰めてくれた。それがさらに紅玉を怒らせたようでもう知らんと消えてしまった。そんなに怒るとは思わなかったな。反省ポーズをクリストの肩を借りてやっていると(クリストは首を傾げている)、地面に見えていた雪が消えた。


『ふーん、悪くない』

「ある程度力が戻ったみたいで良かった」

『取りあえず感謝しとく』

「素直じゃないわね。雪消してくれてありがとう」

『オレの土地だから当然だし』


懐かない猫が多少懐いたような錯覚に陥ったけど、気の所為かな?どっちかというとうざがられてるもんね、私。あれ?何だか涙が…。


「紗良様。村人達が出てきてしまっているようですから、早い所村長の元へ報告に行きましょうか」

「そうだね。じゃあね天青石セレスタイト

『そうだ、いい事教えてやる。心が壊れた奴がいたら拾い集めてやればいい。あんたの力を使って』

「えーと…?」

『…馬鹿はサッサと去って欲しいもんだ』


そう言った天青石セレスタイトに文句を言ってやろうと思ったけど、サッサと姿を消したので言えなかった。言い逃げは卑怯だよ。ていうか心が壊れた人なんて見ただけじゃ私には分かんないんですけどね!?まぁ、私の力はそういう使い方も出来ると教えてくれたのかな?その後サクッと村長に報告して、馬車を置いてある場所まで歩いて乗り込んだ。


「もう、ダメ、かも…」

「お疲れ様です。どうぞ着くまでお休みください」

「そうする…ね」


座った瞬間に力が抜けて早々と意識を飛ばした。久しぶりに前の世界の夢を見た。誰が現れるでもなく、満開に咲く桜を一人でずっと見てるの。その桜があまりにも綺麗で天青石セレスタイトを見た時と同じように、無性に泣きたくなったそんな夢だった。



遅くなりすみません。

特に何もないのに、ある日突然叫び出したくなるような、泣きたくなるような日があります。

あれは一体なんなのか自分でも分かりません。

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