101.雪原の守護者
広大な大地には一面に雪景色が広がっている。私の視界に入るのは、白一色だ。そんな中にワンピース一枚でいる私だけど、不思議と寒さは感じない。何故ならここは精神世界だから。
「んん、なんか久し振りかも」
このところバタバタしてたのもあるし、荒れた地の近くで睡眠を取る事も少なかったのもあり、こちらの世界は久々だなぁ。雪を見てると去年皆で雪だるまとか作ったのを思い出す。…皆怒ってるかな?
『人の世界に勝手に足を踏み入れたと思えば、何一人で落ち込んでんの?』
「あ、ごめんなさい。居たの気付かなかったわ」
『そりゃ今現れたからね、当然でしょ。で?あんた誰?』
「私は神子だよ。貴方は?」
『ふーん、神子ねぇ。オレは天青石』
雪景色に馴染みのよさそうな綺麗な青灰色の髪を、邪魔なのか後ろで高く縛っている。それが動くたびに揺れて私の目を惹いた。性格や話し方は別として天青石を見ていると無性に泣きたくなった。全てを受け入れてくれそうな不思議な雰囲気がそうさせているのかも知れない。
「宜しくね!天青石」
『宜しくするつもりはないけどさ、泣きたいなら泣けば?迷惑だけど』
「え?いや、別に大丈夫だよ?」
『でもあんたの心は泣きたがってる』
私の心が見えるのだろうか?確かにその通りだけど、どうぞ泣いて下さいと言われて泣ける人間は居ないと思うんだけど。でも心が泣きたがってるか…。沢山泣いたのに、私の心はどんだけ泣くつもりなんだろう。
「本当に大丈夫だよ。もう泣かないって決めたから」
『あっそう、別にいいけど。随分とまぁ痛めつけたもんだな』
「えっと…何を?」
『心に決まってんだろ。ひび割れて少しの衝撃でも砕けそうだな』
表情も変えずに短く笑った天青石。笑い事じゃないよね?その状態って。守護者の中にはこうやって心が見える者もいるんだね。そう言えば呪術師のドロシーさん(リールさんのお師匠さん)も人の心が色で見えるんだって恭平が言ってたっけ?
「それってどうすれば治るの?」
『時間が経つのを待つか、そうなった理由の問題を解決するかだな。でも時間が経つのを待っても多少は回復するけど中は傷が残ったままになる』
「へぇ、そうなんだ!」
私は時間が経つのを待つしか選択肢はないから、選べはしないんだけどね。でも時間が解決してくれるとか言うけど、あながち間違いではないんだね。人間誰しも心に傷を負って生きてるもんだしね(って私は勝手に思ってる)!
『…心が壊れたらどうなるか知ってんの?』
「え?知らないけど…。壊れるつもりないし」
『自信持てる程あんたの心は強くないけどな。ま、オレには関係ないからいいけど』
「えーと…、よく分かんないけどもう行ってもいいかな?あんまりここで長居してる時間ないんだよね」
心が壊れたらどうなるか教えてくれそうにないし、何かを含んだ言い方されても察する能力が乏しい私の前では無意味だしね。朝起きない私を見たクリストが慌てるのは確実だろうからそれは避けたいので帰る事を伝えると、まるで犬を追い払うかのようにシッシッとやられた。傷付くんですけど…。
「起きたら現実世界で貴方に会いに行くから、話はまたそこでね」
『勝手に来て勝手に帰ってまた来るのか。迷惑な客だな』
「ふふ、ごめんね。でも貴方の助けになりたいの!また後でね」
不機嫌な天青石に手を振って精神世界の世界を後にした。浮上する意識に合せて目を開ければ、丁度朝になったところらしくクリストが慌てる事態は免れたみたい。暫くボーっとしていると部屋をノックする音が聞えた。クリストだ。
「おはようございます紗良様」
「おはようクリスト」
「お早いお目覚めですね」
今日も眩しい程の笑顔のクリストが簡単な食事を持って部屋に入って来る。そこらへんで食べるからいいよと言っても神子だから駄目なんだってさ。そして神子様呼びだとバレちゃうから紗良と呼んでもらう事にしたのだ。神子の使いでって言ってんのに神子様とか呼ばれたら意味ないからね。
「うん、ちょっと夢を見たら目が覚めちゃってね」
「どのような夢を見られたのです?」
「綺麗な雪景色の夢だよ。深々と積もる雪が印象的だったかな」
「雪ですか、いいですね。こちらでは降っても積もりませんからさぞかし綺麗な景色なのでしょうね」
ジェンシャン国はローズレイアと隣国と言っても、そこそこ距離があり気候的に温暖な地域になるので雪もあまり降らないし、降っても積もらないんだって!あんなに綺麗なのに勿体無いよねー。
「ローズレイアも結構積もるから、今度遊びに来てみたら?」
「そうですね。紗良様がお戻りになられる時にご一緒します」
「も、戻らないよ!誤解招く言い方した私が悪いんだけど、言葉の綾だから!」
「分かっておりますよ。ですが今日行かれる場所では雪が降っているそうですので、そこで見れそうですからお気遣いなく」
おっと、精神世界だけじゃなくて現実も雪降ってんだ。クリストは行く場所の情報が頭に入っているので、防寒着もきちんと持って来てくれたようだ。
「陛下のお話聞いておられましたか?」
「聞いてた聞いてた!」
「二回続けて返事をされる時は大抵聞いてない人の方が多いのですよ」
「う…、いいじゃない。どんな場所でもやる事は一緒なんだから」
もうファルドみたいな嫌味を言うのは止めて欲しいな。結局大地や守護者に力を与えるだけなんだから、そこがどんな風になっていても関係ないんだよね。あ、海だけは別だけどね!範囲分からな過ぎて怖いもん。
「さぁ行きましょう。少々歩きますが大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫よ」
朝食と着替えを済まして宿を後にした。ここまで乗って来た馬車はあるけど、目立ちたくないので別の場所に待機してもらってるのよね。宿も有力者の屋敷を~とか言われたけどそれも断った。ひたすら質素でいいんでと言ったのでこうなったのよね。その事についてカシュアにもクリストにも不満げな顔をされたけど、知ったこっちゃない。これぐらいの方が性にあってるから。
「話には聞いてましたけれど、ここまでとは思いませんでした」
シャンティローゼンという村に来たんだけど精神世界で見たのと同じような光景が広がっていた。寒さで体を摩る私にクリストが持って来ていた上着を掛けてくれた。しまった、ローズレイアから毛布も持ってこれば良かった。もう少ししたら季節が冬になるから寒さを凌げないかも知れない。
「凄い!かなり積もってるのね」
「積もっているのは90トル程でしょうか。ここまで積もると村人からしたら脅威ですね」
「え、どうして?」
「家屋が重みで倒壊するからですよ」
「あ、そっか。雪かきしなきゃいけないのね」
雪が積もる事がない地域からしたら対処法が分からないのも困りもんだよね。そしてこの積雪量じゃ自由に動けない。道らしき場所は作られてるけど降る量も多いものだから短時間で雪が多い被っていく。これ長靴がいるやつだ!
「昨日早馬を出してますから村長には話が行っておりますので、一先ずそちらに行きましょう。このままでは紗良様が体を冷やされてしまいますから」
「ううん、誰も外にいない方が好都合なの。勝手に直して勝手に帰ろう」
「ですがお話を聞かれなくても宜しいのですか?」
「問題ないよ。やる事は一緒だって言ったでしょ?」
それならとクリストが引き下がってくれた。待ってる村長さんには申し訳ないけど、事後報告で問題ないしね。唯一の問題はこの雪の中、守護者の元に行けるかなんだけど…。
「先に雪を消す事は出来ないのですか?前は氷に覆われた場所を先に解決させたと伺っておりますけど」
「でもそれしちゃうと村人が出て来ちゃうでしょ?そうなると面倒だから守護者を探して力を与えた方が、私の使用する力も抑えられるって事に気付いたんだよね」
今頃?って感じなんだけどさ、守護者に力が戻ればそれぐらい容易いと言ってたのを今さっき思い出したのよね。そしたら二重に力を使わなくてもいいから非常に助かるんだ。
「ではこの雪の中をどうやって探すおつもりで?」
「簡単だよ。私にも守護者がいるからその力を使うのよ」
その言葉に驚いた素振りを見せるクリストに、これ言っていいやつだっけ?と思ったが、もう言ってしまった事は取り消せない。それにもうローズレイアにいるわけじゃないからいいよね?
セレスタイトはツン属性です。デレはありません。
1トル=1㎝なので、90トルとは90cmの事です。1mは1ログですね。あんまり出て来ないので忘れそうです。




