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『現在』 私は警察が嫌いだ


 放課後、陽が傾き教室内を赤く照らす。

 閉め切られたガラスの向こうから、部活動を行う生徒達の声が耳に入ってきた。


 僕は友人と話をしていた。

 すると教室の天井にぶら下げらたスピーカーからゴトッという重々しい音が聞こえた。

 次の瞬間、スピーカーから人の話す声が聞こえる。


『――小鳥遊コトリさん、小鳥遊コトリさん。至急、職員室まで来てください』

 

 この放送が二回繰り返された。


「ん? コトリ何かやったのか?」

 僕は話していた友人にそういった。


「最悪だ」

 彼女はがっくり肩を落として、ため息をつく。


「いきなり職員室に呼び出されるのなんてよっぽどだな」

 僕が半分からかう様にいう。

 なにか悪いことをして先生に呼び出しを喰らったのだなと思っていた。

 

 すると彼女の口から信じられないような言葉が出てきた。

 

「一郎もいっしょにきて」


「は? なんで僕まで職員室に行かなきゃならないんだ……」

 用があっても行きたくないくらいの場所なのに、用がないのに行く意味がわからない。


「私は一郎と違って悪いことしてないし。先生たちに呼び出されるような用事が今の時間にあるとも思えない。きっとまた彼らだよ」


「彼らって……また警察か」

 

 僕の言葉を聞いて彼女はびっくりした顔をする。

 一間おいて人差し指を口に当てて「しーっ」という。


 おそらく他の生徒に『警察』という言葉を聞かれたくないのだろう。

 

 どのような理由であれ、警察がいち生徒を尋ねてくる話を誰かに聞かれたら、なにかしらの噂になるのは間違いない。

 彼女はなるべく目立ちたくないのだ。

 だから警察のことを『彼ら』という。


「恐らく」


「じゃあ、どうする?」


「家にいれば居留守を使わせてもらうけど……職員室に呼ばれたら行くしかない」

 そう言うとコトリは天井を見上げ、大きくため息をついた。


「僕はいっしょに行くことはできるが、全く役に立たないぜ」


「ついてきてくれるだけでいい」


 コトリは沈痛な面持ちだ。

 僕らは職員室へと向かうことにした。

 警察が彼女のところへ来るのには理由があった。




「私は探偵じゃない」

 というのがコトリの口癖だった。


 なぜそのようなセリフが口癖になったのかというと、警察との関係にあった。


 その話をするにはこの学校で起こった信じられないような殺人事件までさかのぼらなければならない。

 しっかり説明すると長くなってしまうので、かいつまんで説明すると――


 それは密室殺人だった。


 事件が起こった当時は、いち生徒の自殺と思われていた事件だ。

 

 ある日、この近所で有名だった不良が視聴覚室で首吊って死んでいるところが発見される。

 視聴覚室は校舎の三階にあり、部屋の入口である廊下側のドアは二枚とも鍵がかかった状態だった。

 メインキーは職員室できちんと保管されており、スペアキーは死んでいた生徒のポケットに入っていた。

 つまり普通に考えれば、部屋は死んだ生徒以外は誰も出入りできるはずがない状態だったのだ。

 

 警察は生徒の自殺だと考えた。

 

 けれども、コトリの考えは違った。

 残された証拠品や、現場の状況から殺人事件だと考え一から事件を警察と調べなおした。


 調べた結果、この事件は殺人事件だった。

 殺された不良にいじめられていた生徒三人が共謀して起こした密室殺人だった。

 

 コトリの殺人トリックに対して異常ともいえる解析能力が役にたったのだ。

 

 そしてその能力が警察に評価され、その後の数々の捜査に協力してきた。

 でも、そのせいでコトリは警察が嫌いになった。


 彼女が警察に協力している時に、僕がよく聞かされたセリフがある。


 まずは、

「彼らがやっているのは、事件の解明じゃなくて――処理だ。自分の都合のいい事実ばかりをつなげたがる」

 次に、

「自分に意見を聞きにくるくせに、彼らは全く話を聞かない」

 最後に、

「警察にとって都合のいい事実しか聞いてくれない」

 というもの。


 彼女の目に警察という組織は、悪を倒すための清廉潔白な組織ではなく、事件という業務を事務的に処理する一企業として映ったのだろう。

 つまりコトリは警察に幻滅したということになる。

 理想と現実は違ったのだ。




「失礼します」

 職員室に入るときのお決まりの文句をいって中に入る。


 部屋の中に入ると、先生たちがそれぞれ自分の机に座っていた。

 残務処理や、明日の授業の用意をしているのだろう。


 そして、視線を職員室の奥にある応接スペースに向けると、スーツ姿で座っている男性の姿が目に入ってきた。

 その男性はコトリに気づくと、さわやかな笑顔をしながらこちらに歩いてきた。


 僕はその男の人に「ども」と挨拶をした。

 彼も手をあげて挨拶に答えた。


 大熊という名前の刑事だ。

 大きい熊と書く苗字のわりには、体の線が細い。

 たしか三十代前半の年齢だが、実際はそれより若く見える。


「やあ、コトリちゃん。忙しいところ悪いね」


「そのコトリちゃんって止めてもらえます」


 彼女の機嫌はすこぶる悪かった。

 きっともう捜査に協力したくないのだろう。


 その様子を見て、大熊という刑事は頭をかきかわいた笑いを浮かべる。


「ごめんごめん、つい……」


「……」

 コトリは何もいわない。


「でさ、ちょっと聞いてもらいたい話しがあるんだ」


「二度と話は聞かないといったはずです」

 そっぽを向き、刑事とは目を合わせようともしない。


「そうはいってもね。ちょっと困った事件が起こっ……」

 コトリは刑事の言葉を途中で右の手のひらでさえぎる。


「私は探偵じゃない」


「まいったね」

 といって刑事は大きくため息をつくと、

「わかったよ。今日の所はこれで失礼することにしよう」

 と話した。


 コトリの態度が素っ気ないことから、話かけても無駄だと判断したのだろう。


「何回きても同じことですよ」

 とコトリはいったが刑事は「また来るよ」といって職員室を出ていった。


 それを見て僕は、

「あんなに素っ気ない態度でよかったのかよ? せっかく来たのに」

 という。


「だれも来てくれなんて頼んでないよ」


「それはそうだけどさ」


「…………」

 

 むくれている。

 これ以上は何も話さないほうがいいと思った。


 コトリと一緒に下校したが、その日はずっと機嫌が悪かった。



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