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『現在』 密室殺人

「次に考えたいのは……」

 コトリは人差し指をぴしっと立てた。


「なんだ?」

 僕はコーヒーに口をつけながらその姿を見る。


「今話した事件が、どうすれば殺人事件になるかを考えたい」


「なんだか頭がこんがらがりそうだ」

 今までは、事件を殺人事件と仮定して話していた。

 これからは、この事件をどうすれば殺人事件とすることができるかを話す。

 ややこしくて僕の頭はパンクしそうになった。


「そうかな?」

 コトリはきょとんとした顔になる。


「そうだよ。つまり警察が殺人事件の可能性があるというのなら、その判断基準はなにか? というのを考えたいんだな」


「うん。私に事件を持ってきた時点で殺人事件の可能性があると思うんだけど――なんで警察が殺人事件だと考えてるかを知りたいんだ」


「もう警察に直接聞けよ」


「いやだ」

 予想通りの答えだった。

 コトリは警察が嫌いだ。


「ドアにチェーンロックが本当にかかっていたとすれば、自殺の可能性が高いと思うんだけどな」

 犯行後、犯人が玄関から出て、チェーンロックをかけるのは不可能だ。


「今は自殺の線は考えないでおこう。あくまで他殺と考えたい」

 といって、右手を僕の方にかざす。

 僕は手でOKのサインを出した。

「単純に考えたら……不自然な死に方だったんだろうな」


「うん。新聞には胸に包丁が刺さっていたとだけ書いてあった」


「他に不自然な点があったのかもしれないな……」


「犯人しかわからないような情報は、わざと公開しない時があるからね」

 警察は情報を隠すことがある。

 犯人しか知りえないような情報は、尋問で犯人を問いただす際に役に立つことがあるからだ。

 犯人しか知りえないような情報を容疑者が知っていれば、犯人だと特定できる。


「そんなのどうしようもないぜ」

 警察が隠しているような情報など知りようがない。


「そうだね。だから、今回は包丁に焦点を当てて考えてみたい」


「わかった」


「おそらく包丁が不自然なかたちで胸に刺さっていたんじゃないかな?」


「不自然なかたち……」

 考えたがわからなかった。


「例えば……例えばだよ。背中からブスっとやられていたとか」

 コトリは包丁を持っているかのような身振り手振りでそう話す。


「背中から刺されていたら明らかに他殺だよ」

 自分の背中を包丁でさして死ぬのはちょっと無理があると思う。


「だから例えばって話だって」

 とコトリは苦笑した。


「うん」


「パッと見たら自殺に見えるけど……良く見たら他殺だったって死に方が理想なんだよね」


「理想って……」

 他の誰かが聞いていたら、ゾッとするような会話だ。


「理想というか、パズルのピースがぴったり当てはまるというか……」

 コトリはそう話しながら、天井に設置されたシャンデリアの辺りを見ている。

 視線は宙をさ迷っていた。


「……」


「…………」


 しばらく二人とも無言で過ごしていた。

 

 コトリは目を閉じ腕を組んで何か考えている。

 一分ほどたった後、急にハッとしたように立ち上がり、次の瞬間にはソファーの上に仰向けになった。

 仰向けといっても、ひとりがけのソファーなので体はV字になっている。

 真正面から見ると、コトリの体がすっぽりソファーにはさまっているようにも見えた。


「何をしているんだ?」


「死んだ人間の状態を再現しようと思って」

 といって自分の胸に自分で包丁を刺す身振り手振りをする。


「こんな所で止めなさい」

 他のお客さんの迷惑になる。

 店のスタッフにも怒られかねない。


 コトリは「はーい」と返事をすると体を普通のソファーに座る姿勢に戻した。


「包丁の刃が長かったんじゃないのか?」


「うーん。一郎もやっぱりそう思う?」

 刃が長ければ長いほど、自分の胸につきたてることが困難になる。

 極端な話し自分の腕の長さより刃が長くなれば、自分で自分のことを刺すことができない。


「自分で刺すことができない包丁が胸に刺さっていたら、おかしいって話になるよな」


「うん。後もうひとつ考えられるのが……」


「なんだ?」


「包丁が胸を貫通してたとか」


「貫通……?」


「ちょっとした疑問なんだけど、包丁くらいで自分のことを貫いたりできるのかなって思ったの……切れ味の鋭い日本刀とかならわかるけど」


「たしかに」

 自分で自分のことを刺すのだ、激痛が走るだろう。

 それにもかかわらず、切れ味の鈍い刃物で体を貫けるとは思えない。

 包丁の種類にもよるだろうが、包丁が体を貫通していたら不自然だといえる。


「おかしいよね。でもこれは今の時点で考えてもちょっとわからないかも」

 といってコトリは両手を合わせ上に向け背伸びをした。

 確かに彼女のいうとおり、今もっている新聞の情報だけではこれ以上考えても何もわからないだろう。


「今までの話をまとめると――被害者の胸には自殺とは考えられないような状態で包丁が刺さっていた。ということはこの事件は殺人事件だと考えられる。が、唯一の逃走経路であるドアにチェーンロックがかかっていたため犯人がどうやって逃げたかがわからない」


「そういうことになるね」



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