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『現在』 密室殺人

 

 放課後コトリと一緒に下校していると、

「一郎、付き合って」

 といわれた。


「どこに?」


「うーん。ちょっと考えたいことあるんだよね」


「じゃあ、何か飲みながらにするか」


「うん」


「それじゃ、スタバかタリーズにでも行くか」

 僕らの定番の場所だった。


「それでいいよ」


「でも考えたいことって、やっぱり昨日見た新聞記事の件か?」


「……」

 コトリは無言で頷いた。


「そうか」

 またその件かとため息をつきたくなったが、なんとか我慢した。


 歩きながら何処のコーヒーショップに行こうか考えていた。

 少し考えた結果、駅前にスタバがあるのでそこに行くことにする。

 広くて落ち着いた雰囲気だし、あそこならそんなに混んでないと思う。

 ソファもあるし、ゆっくりしていても、しゃべっていても文句をいわれることがないので僕たちが考え事をするにはうってつけだ


 話しながら歩いていると、大きなビルの一階に店舗を構えるスタバが見えてきた。


「何飲む?」

 この間はコトリに注文してもらったので、今日は僕が注文をとってくることにする。


「じゃあ、キャラメルフラペチーノ。私は席とっておくね」

 といってコトリは店の奥に歩いていった。


 注文した商品を受け取るためのカウンターの前に立っていると、レジで注文した商品を作ってくれているお姉さんが見えた。

 やがてそのお姉さんに呼ばれ、注文したコーヒーが出てきた。

 コーヒーをトレーにのせコトリの座る席へ移動する。


 ガラス越しに外の景色が見える席だった。

 外の景色といっても道路とビルしか見えないが……

 ひとりがけのゆったりしたソファーがふたつ、四角いテーブルに向かい合うように置いてある。


 いきなりだが僕は頭がよくない。

 だからコトリの考え事に付き合っていても、アドバイスできることなど何もない。

 それなのになんでこんな所にまできて、一緒に事件の話をするかというと……

 実はたいした意味はないのだ。

 コトリがただ単に、考え事をする時は聞き手がいた方がいい。

 と、いうから付き合っているだけ。

 事件が起きるたびに、なぜか僕が付き合わせられるのだが、きっとこのような不気味な趣味に付き合う奴がいないせいなのだろう。


「で、何を考えたいんだ?」

 ソファーに腰を下ろしながらそう尋ねた。


「なんで私のところに、あの新聞記事の事件を大熊刑事が持ってきたのかを考えたい」

 そんなに気になるなら本人に聞けばいいじゃないかと思うが口には出さなかった。


「そうだな……」

 僕はたいして頭を使う気はなかったのだが、一応、右手をあごにあて考えているふりをする。


「きっと殺人事件の可能性があるんだと思う」


「そうだな」

 コトリは推理小説のトリックマニアだ。

 トリックといえば、いかにして人に気づかれないように人を殺すかの方法だ(あくまで個人的意見だが)

 そんな人殺しの方法のマニアに聞きに来ることといえば、やはりどうすれば人を殺すことができるかの方法だろう。


「それで今日は昨日の新聞記事に書いてあったことを殺人事件と仮定して話をしたい」


「なるほど」

 といって僕はコーヒーを飲んだ。

 今日頼んだのはカフェミストだ。

 スチームされたミルクの口当たりがふんわりしておいしかった。


「私の話をちゃんと聞いてる?」

 目が笑っていない笑顔が僕に向けられた。


「もちろん」

 適当な返事をする。


「ほんとに?」


「ほんとに」

 何度か首をゆっくり縦に振り頷いた。


 コトリはジトっとした視線をこちらに向けながら、

「まあ、いいや。で、あの新聞記事を殺人事件とした場合におかしな所がでてくるんだよ」

 という。


「ああ、ドアにチェーンロックがかかってた点だろ」

 ドアにチェーンロックがかかっていたのもあくまで仮定の話だが……


「その通り」

 事件現場はマンションの最上階だ。

 マンションという以上、玄関のドアは一枚だと考えるのが普通だし、最上階というからには外側からの窓からの出入りは基本的に不可能と考えるのが普通だろう。

 そうなると、自ずと出口はひとつしかなくなる。

 玄関だ。

 

「殺人事件とするからには被害者の他に犯人がいなくてはいけない。犯人がいるってことは、犯行後は必ず玄関から出て行かなくちゃいけなくなるよな」


「うん。そうすると、玄関にチェーンロックがかかっていることが説明できない。あれは内側からはロックできるけど……ドアの外側からロックするのは不可能だ」

 犯人が玄関から出て行ったのであれば、チェーンロックすることができない。


「……簡単な密室殺人」

 と僕がいうと、コトリは目を瞑り無言で首を二回横に振った。


「完璧な密室殺人だよ」

 といった後に「ただし、犯人が窓や屋根裏の通路から出ていってなければの話だけどね」と付け加える。


「でも、チェーンロックがかかっているだけだろ?」

 たいしたことには思えない。


「うん。でもそれが重要だと思うんだよね。犯人がいて、出入り口がひとつしかないのに、ドアにはチェーンロックがかかっていたという事柄が」


「被害者が犯人から逃れるために自分でドアにチェーンロックをかけたとも考えられるんじゃないか?」

 もしも犯人が合鍵を持っていたら、再び部屋の中に入られないようにチェーンロックをかけるだろう。


「一郎、被害者の胸に包丁が刺さってたのを覚えている? そんな状態で動き回ったら、そこらじゅう血だらけになるから……もちろんチェーンロックも血だらけになるだろうから、そうしようとしたことがわかると思うんだよね」

 とコトリは苦笑する。

 チェーンロック周辺が血だらけになっていれば、警察も自殺ではなく他殺として捜査しているはずだ。


「確かに……じゃあ、犯行後チェーンロックが下ろされた状態で玄関近くの押入れに犯人が隠れていたってのはどうだ?」

 そうすれば、誰かがチェーンロックを壊した隙に見つからないように隠れて犯行現場を去ることができる。


「他の誰かがチェーンロックを壊して部屋に入る際に、隠れていた物入れから隙を見て出て、逃げ出すってこと?」


「……」

 僕いはコーヒーを飲むのを止め頷いた。


「警察に見つかるリスクがあるし、被害者の知り合いがいつドアを開けるかも予想できない。あまり現実的じゃないね」


「そうか」


「まあ、いいや。それじゃあ、とりあえずこれまでの話をまとめてみると――犯人は被害者である鈴木アスカの胸を包丁で刺し、マンション最上階の部屋の唯一の出入り口である玄関から出て行ったと考えられる。けれども、玄関のドアの内側からチェーンロックがかけられていた。そのことは、玄関から犯人が出て行ったとする仮定と矛盾する。なぜならドアのチェーンロックは外側からかけることができないから」



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