【過去】 幽霊
自分の思っていることがうまく言葉にできなくてもどかしい瞬間がある。
コンビニで買ってきたカラアゲ弁当をレンジで温めながらそんなことを考えていた。
今日は家に両親がいない。
一泊二日で箱根に温泉旅行に行ってしまったのだ。
だから、ご飯の用意は自分でしなくてはならなかった。
外食してもよかったのだが、なんとなく面倒くさかったのでコンビニで済ませることにした。
弁当と同じくコンビニで購入したペットボトルのお茶をレジ袋から取り出しテーブルの上に乗せる。
「あなたのこと殺してあげようか?」
というミキの言葉が頭から離れないと思っていると、レンジから温め完了を意味するチーンという音が聞こえた。
きっと冗談でいった言葉に違いない。
けれども、すさまじいインパクトだった。
自分の中の『死』という概念がぐにゃりと曲がった気がした。
ボクは死ぬのが怖い。
一般的な人間と同じだ。
なんで死ぬのが怖いんだ? と聞かれたら困ってしまう。
どうせ生きている価値のない人間なのだから死ぬのなんて怖くないだろう。
などといわれても返答に困ってしまう。
まあ、そう思っていても面と向かってそういう人間もいないだろうが……
なんにせよ、人間の本能として死ぬのが――やはり怖いのだ。
ボクはカラアゲ弁当を包装しているビニールを手でむしりとる。
そのビニールが手にからまって少し熱い。
ビニールを取り終えると、弁当のフタを開けテーブルの上に置いた。
死ぬのは怖いが、あの瞬間思ったことがある。
ミキが「殺してあげようか?」といった瞬間だ。
自分は意味のある死が欲しいと思った。
今のボクには輝ける未来がない。
輝けるどころか普通の未来もままならないだろう。
お先真っ暗だ。
正直なところ、このままぼんやりとした――まともな社会人になれない、というような不安を抱えながら歳を重ねていくのが怖くてたまらない。
何もできず無駄に老いていくのなら死んだ方がいいのかもしれないと感じた。
どうしようもない考え方だ。
そんなどうしようもない考えを頭の中から追い払うために、カラアゲ弁当に箸をつけた。
が、やけにしょっぱいタレのついた鳥のカラアゲを食べながら、もしボクが死んだら後のことはどうなるのだろうと考えてしまう。
死という言葉が頭から離れない。
悲しいことに、ボクのために悲しんでくれる人の顔が思いつかなかった。
例え家族さえも僕の死を悲しんでくれない、ボクのいなくなったことについてなんとも思わないという確信があった。
なんとなく家族の気持ちがわかる。
ボクも同じ気持ちだから――
ボクはボクの家族が明日いなくなってもなんとも思わないだろう。
今までいた人が、この世界からいなくなったと思うだけだ。
それを考えると家族という言葉が重く感じられた。
家族は大事だという意味ではない……
大事でなくても相互依存しないといけないという意味でだ。
お互いに何の存在価値を見いだせなくても、一緒にいなくてはいけない。
血のつながりがあるからお互いに責任が生じる。
長男が働かないでずっとブラブラしていても、食事と住む場所を提供しないといけないし、ボクが親になんの思い入れがなくても食事と住む場所を提供されないといけない。
そのように無駄な関係、どっちかが断って止めにしてしまえばいいのに惰性で続けている。
そんなことを考えていると、自分の存在価値がさらにわからなくなった。
何のために生きているのだろう。
ペットボトルのお茶を飲みながらそんなことを考えていた。
上着のポケットに入っていた安物のデジカメを取り出し、中の画像データーを参照する。
ミキの写真があった。
最初に会った時に隠し撮りした写真だ。
プリントアウトはしていない。
彼女の写真はこれ一枚しか持っていなかった。
頼めば写真を撮らせてくれる約束であったが、なかなか頼めずにいた。
なんとなく気恥ずかしいのだ。
そして自分が彼女にいうほど、いい写真を撮れるという自信が無かった。
まるっきり素人の腕前である、いい写真など撮れるはずがない。
自分が撮った写真を見せればミキはがっかりしてしまうかもしれない。
それが怖かった。
その写真を見ながら彼女に殺されればボクは救われるのだろうか……なんてことを考えていた。




