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外道が嗤う  作者: アタマ
9/19

目の前

 盗賊が来る。



 そんな話が広まって、はや三日。リュベルは今日も暇を持て余していた。


「読み違い、か?」


 そう呟くも、返答など帰ってくるわけもなく、悲しくなるだけだった。

 現在リュベルは父親の畑仕事を眺めている。相も変わらず、村人からの陰口は止まらない。ただただ、ため息が出るだけである。

 しかし、今日は少し違っていた。


「本当に、盗賊なんて来るのか」


 そんな言葉がリュベルの鼓膜を震わせる。すぐにその声が聞こえた方に顔を向けると、男が一人こちらを睨みつけていた。

 ほかにいないか確かめるため、リュベルは周囲を見渡すが、どうやらこの男一人だけのようだ。隠れられそうなものも近くになく、誰かが聞き耳を立てている様子もない。

 足音が聞こえたので男に顔を戻すと、男が耕した場所を無視し、父親に掴み掛ろうとしていた。自然と口から笑いが漏れそうになるが、何とか抑えたリュベルは心配そうな顔を作り、様子を観察する。


「お前の女が言ったんだろ、本当なのか」


 抑揚のない平らな声で男は父親に言う。その言葉に掴み掛られている父親以上にリュベルは驚いた。何せこの村はリュベルの母親を祀り上げている。その母親に対して女呼ばわりとは、流石に顔がにやけるのを止められなかった。

 驚いて固まっている父親に関係なく、男は自分の言いたい事ばかり言うだけで、そこから話が進展しない。流石にリュベルが少しちょっかいを出そうとしたところで、新たな変化がやってきた。


「あの女は嘘を言ったのか」

「盗賊なんているのか」


 再度そんな声が聞こえてリュベルは声がした方を見る。そこにはそれなりの数の村人が集まっていた。ざっと見て二十人弱、この村の事を考えると酷く珍しい光景がリュベルの目の前に広がっている。

 その村人も男と同じように父親に近づくと、これまた同じように言いたい事だけを言う。そんな光景を見て、リュベルはにやけが止まらなくなる。


(盗賊は読み違いだったが、これはこれで面白いことになった!)


 リュベルは村人に囲まれている父親を放置し、自分の家へと走り出す。その途中何度か村人に捕まりそうになったので、隠れながら、と言っても姿が見えなくなるだけで追うのをやめるため、簡単に逃げれたが、家へと急いだ。

 家に着くと予想通りパニックになっていた。家の前に父親以上の数の村人が詰めかけている。


「爆弾でもあったらなぁ」


 そんな物騒な事を呟きながら、村人たちに近づく。最初こそ隠れながらだったが、普通にしていても気が付かれないのがわかり、堂々と近づいていく。

 ある程度近づき、村人たちの声が聞こえる所で止まる。やはりというべきか、言っていることは父親の方に来た村人と同じである。

 ただ少し、村の老いぼれ共が違う事を言っていたが。


「盗賊は来るのか」

「魔力はどうした」


 大きく分ければこの二つが村人の言っていることである。

 老いぼれ共は村の風習が大事なのか、その事しか言わず、逆に若い連中は盗賊の事ばかり言う。そこに相手の言葉を聞くという意思は感じられない。完全に一方通行だった。


「本当に、人間かよ……。これじゃマスコミの方が断然マシってもんだ……」


 リュベルの口からそんな言葉が漏れるが、すぐにかき消される。数分そのまま様子を見ていたが、変化がなさそうなのを見て、リュベルは再度溜息を吐いた。しかしすぐに口を歪め、いつもの笑顔(歪んだ笑顔)を見せる。

 そして家に背を向けると、来る時とは逆にゆっくりと歩きだした。向かうは村の端、前に盗賊の足跡を見つけた場所。あの後から一度も行っていない。もしリュベルの読み違いなら盗賊はここには来ないことになる。つまらないが、仕方がなかったと諦めることにする。


(にしても、わかっちゃいたが変な村人だことで……)


 村の端に向かいながらリュベルはそんな事を考える。思い出すのは先程の光景。あまりにも人間味が無かった。寧ろゲームのNPCがバグを起こし、同じ行動、言動しかしなくなったと言われた方が納得できる。

 この村は外とのつながりが無いどころか、実際は村内のつながりもほとんどない。子供たちの遊びを見てわかる通り、ただ集まっているだけなのだ。住める場所があってたまたま人が集まったから、村みたいになった、それがこの村の実態である。

 そんな村故に村人間での会話もほとんどない。精々あったら挨拶するだけ。例外としていつの間にか風習になっていた魔力を持つ者を崇めるというのがあるが、それも他より少し多い位のもの。

 リュベルが今までそのことに気づかなかったのは、なぜかこの村で生まれたのにまともな父親とばかり行動していたからというのと、ほとんど周りに目を向けていなかったからである。


(ま、どうでもいいか)


 しかし、リュベルは気にしなかった。この村がどうなろうと知ったことではない。今はとにかく村の端に向かうことの方が大事だった。


「なぁんかないかな?」


 そう呟くも当たり前だが返事は無い。家の前の騒がしさが嘘みたいに静かだった。

 リュベルがゆっくりと周囲を見渡す。特に前回来た時と変化はなく、踏んだ草が少し立ち上がっているくらいだ。


「なんもない、か……。こりゃ残念……」


 肩をすくめ、軽いノリでそう呟くが、実際残念だと思っている。折角面白くなりそうだと思ったのに、この程度の騒ぎで終わってしまった。これはこれで面白かったが、残念なものは残念である。

 そのままリュベルは村の方に引き返す。それを確認した影が山へと音も出さずにかけていく。

 宴はこれから始まる。

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