思い違い
翌日、リュベルは父親についていかずに久しぶりに村中を探することにした。
と言っても、やはりというかなんというか。大して面白いものがあるわけではないし、いるわけではない。結局、父親を笑うという暇つぶし以下のさらにその下を行くものばかりだった。
「どうしたものかねぇ。やることもない、反応もつまらない」
溜息と共にそんなボヤキがリュベルの口から洩れる。周りを見てもいつもと変わらず、熱い視線を向けてくる村人たちのみ。知能が低いのか、馬鹿なのか、決まった反応しかしない村人にリュベルは最早構う気も失せていた。
村人たちの視線を無視し、リュベルは村の端の方に向かう。理由は特に無い。ただ何となく足を向けていた。
村の端と言ってもそこにあるのは壁も屋根もないぼろぼろの家の残骸と、これまたぼろぼろの木の柵のみである。もう何年放置してあるのかはわからないが、少なくともリュベルが初めて村の端に来た時から、誰一人訪れてはいないはず。
さらに言えば、ここから外に出る人間はいないはず。だというのに。
「なぁんで、こんな所に足跡があんのかね、しかも外側からのだし……」
鬱蒼と蠅茂る草をかき分け、一本の獣道が出来ていた。翌々見ればその道は山まで続いている。
自然とリュベルの口元がつり上がる。
「面白いことになりそうだ!」
珍しく大きな声を上げ、村の方に駆け出すリュベル。勿論態とである。獣道の先の木のそばに人影が見えていたから、それが何のためにここまで来ていたか、検討がついていたから。
ただただ、気づかぬ振りをして村に急ぐ。その顔は今までになく、喜びに満ちていた。
(早く来てくれよ、盗賊さん……!)
リュベルが村に戻るのを確認し、男は木の陰から出てくる。その顔は若干歪んでいた。
原因は勿論リュベル。気付いていない素振りをしていたが、男に通用しなかった。そもそも、あんな下手くそな演技、気づかぬ方がおかしい。
「一応、お頭に報告するか。ガキにしては何か不気味だったし……」
男はそう呟くと、溜息を吐いて山の方に駆け出す。今まで誰も来なかったが故に、見張り最後となる今日も無事終わると思って、気が抜けていた。
別段、気付かれたとしても今日行動する事は変わらないが、何にしても報告だけはする必要がある。見張りがバレた事にお頭がどんな反応を示すか、男は気が気でなかった。
「まぁ、成るようにしかならねぇか」
再度溜息を吐き、ちらりと後ろを見る。何となく、誰かに見られている気がした。
男は軽く頭を振ると、前を向き走ることに専念した。
恐らく気のせいだろう。実際あそこにはもう誰もいない。とにかくお頭が居る洞窟に急ぐ。
「あのガキについて、しっかり報告しねぇとな」
その顔はリュベルに見つかった時の歪んだ顔ではない。ただ真剣な顔で真っ直ぐに向かっていった。
村の端から中央まで戻ってきたリュベル。考えるは先程見た盗賊について。態と大声を出し、何かに気付いた素振りを見せておいた。
(これでどんな反応するか、楽しみだ)
はっきり言って、リュベルは自分が警戒されていることに気付いていない。転生前の状態ならば、恐らく相手の考え位簡単に言い当てただろう。
しかし、今ここにいるのは何も無い村で5年近く生きてきたリュベルだ。つまらない反応しかしない村人たちの所為で、完全に勘が鈍ってしまった。
故にリュベルが考えている以上に彼の望む展開になるのだが。
(さて、これからどうするか……)
周りを見ればそれが仕事だと言うように、リュベルを睨みつけてくる村人たち。他に何かすればいいのに、と思わなくもないが言う必要もないので放置。
ふとここで大声を上げ、盗賊の事を知らせてもいいが、狼少年扱いで終わるのは目に見えている。むしろ教えない方が愉しそうなので、この案は無し。
また、だからと言ってこのまま何もしないのはつまらない。父親だけにそっと教えてみようか、そう思ったが何故かしっくりこない。この案もなし。
「何するかねぇ……」
声に出し呟いてみるが、何も浮かばない。自然と歩みは遅くなり、余計に周囲の視線の的になる。普段なら気にも留めない事ではあるが、今回ばかりはその視線が集中の邪魔になってしょうがない。
ちらりと周りを見ても変わりないいつもの光景。生まれてからずっと吐いてきた溜息がまた漏れた。
早くこの村から出ていきたい、そうは思うが何分リュベルはまだ幼い。小説のように子供の時から膨大な魔力や行き過ぎた力があるわけがなく、ただ漠然と毎日を過ごすしかない。何か娯楽があればいいが、それすらない為、暇で暇で仕方がなかった。
だんだんと考えがずれてきていることに気づいたリュベルは、軽く頭を振って再度周囲を見る。いつの間にか足は止まっていた。それなのに視線を感じないのはどういうわけか。答えは簡単だった。
「なんだ、家に着いたのか」
適当に歩いていたが勝手に家に向かって足が動いたようだ。母親の関係か、この家の周りはあまり人が寄ってこない。近所付き合いは大丈夫なのかと思わなくはないが、これ以上に酷いものもたくさんあるので今更突っ込んだりはしない。
このままでは埒が明かないので、一旦家に入ることにする。
しかし、家の扉まであと少しというところで、
「っ! ああ、こうすれば!」
そこでふと思いついた。
今まで全く役に立たなかった自分の生まれ。この村のかなり変わった風習。これを利用すれば面白いことになる。
リュベルは急いで家の扉を開ける。その先には驚いた顔をした母親がいた。
にやける顔を抑え込み、あどけない笑顔を母親に向ける。
「お母さん、面白いモノ見つけた!」
一年ぶりです。
言い訳みたいですが、書く気が無かったわけではありません。
言葉が、言葉が出てこない……!
おかげで酷いことになっていますが、大目に見てください。