騒ぎの始まり
※1/18 終わりの部分変更
あれから一年。リュベルは4歳となり、今日もいつもの日常である。
つまらない村に変化などない。ただあの噂を広めたことを村人に怒られ、母親に庇われる。そしてそのことについてまた怒られ、の繰り返し。変わったと言えば、少し母親の信仰が落ちたことである。少しは噂が効いてきたようだ。
それよりも、とリュベルは思う。
(いつになったら、魔力測るんだ?)
この年になっても未だその話は出てこない。自分の兄弟たちはとうの昔に終えているようで、話題には上がらない。また、母親信仰が続いていることから、魔力を持っていない事がわかる。最近では顔を合わせる機会もめっきりと減ってきているので、聞こうにも聞けないのが現状だった。リュベルを避けるように動いていることから、一年前の事が相当効いたらしい。
つまらないと思いながら、畑で働く父の姿を見る。この姿も一年前から変わらない。溜息を吐きたくなる程、今の現状は変わらなかった。
(何とかならないかねぇ?)
今日もこの後、帰宅中にいちゃもんを付けられ、母親に庇われて終わる。流石に溜息を吐いた。
変化があったのは翌日である。最初は村人。いつもと同じく、父親の後ろをついて歩き、畑に向かっている途中。村人たちが呟いていた。
「そういえば、そろそろ、か」
「まずないだろ、あのガキは」
そんな会話が耳に入って来た。その事にリュベルは首を傾げる。そろそろとは何のことか、まずないというのはどういうことか。リュベルの疑問は尽きなかった。
疑問の答えは父親が持っていた。リュベルが聞く前に父親が口を開く。
「そうか、もうすぐお前も魔力測定の時期か」
その言葉を聞き、リュベルは父親の顔を見る。その顔は心底どうでもいいと語っていた。時折思うが、この父親は子供に対し、酷く無関心である。関わるのはリュベル位のもので、他の兄弟と話しているのを見たことが無い。
そんな父親だが、リュベルの事は少し気になるようで、顔を少し向ける。表情は変わっていない。そして表情と同じく、どうでもよさそうにリュベルに問いかけた。
「気になるか?」
「うん!」
元気に答えるリュベルに、そうかと短く応え、父親は先に進む。その後に続くリュベルは満面の笑顔|《歪んだ笑顔》。それに気が付いたからか、それとも興味ないのか、父親は振り向くことは無い。前を向いたままさらに話を始める。
「5歳の誕生日だ。覚えておけ」
「わかった!」
元気に返事をするリュベルを連れ、父親はいつもの道を歩いていく。
心なしか、少し空気が重い気がしたが、おそらく後ろのリュベルのせいだろう。気にしていたらこちらが持たないので、無視することに決めた。
その予想は正しく、未だに笑顔のままのリュベルは村人にかなりの勢いで引かれていた。それに気づかないリュベルではないが、今はすごく機嫌がいい。父親がリュベルを無視したように、リュベルも村人を無視した。
転生して4年、ここでようやくリュベルに人生の転機が訪れる。
日が傾き、空が赤くなり始めた頃、村から少し離れた山の中腹、そこにある洞窟に男たちが集まっていた。村に近いと言っても、村人ではない。あの村の住人は村から出ることは無いからだ。ざっと数えて10人近くいる男たちは、お世辞にも綺麗とは言えない格好をしている。寧ろ汚いと言える。
まだ明るいとはいえ、洞窟の中は薄暗い。たき火をし、その火を囲って男たちは酒を飲み、肉を食らう。騒ぎ声が洞窟に反響し、洞窟の外にも響き渡るが、男たちは気にしない。村人に気づかれないことを知っているからだ。何日もこの山に潜伏しているが、だれ一人、村から出てこない。可笑しなことではあるが、男たちには都合がよかった。
そんな宴会ムードの中、一人の男が洞窟の中に入ってくる。そして男たちの中で一番偉そうに座っている男に近寄った。
「酷いですよ~、お頭。俺のこと待ってくれてもいいじゃないすか~」
そういうが、顔はにやけている為、説得力は無い。お頭と呼ばれた男も、大声を出して笑う。
「いや~、悪い悪い。どうも浮かれちまってな~。あいつらを抑えられなかったわ」
「お頭がおっぱじめたんでしょうが~!」
男の一人がお頭にそう突っ込むと、全員がつられて笑う。酔っている所為か、男たちの顔は赤く、無駄にテンションが高い。その後も意味もなく笑い続けた。
しばらく経って、お頭が笑うのをやめ、入って来た男を見る。顔は先程と同じくにやけてはいるが、決してふざけた様子は無い。何かを企んでいる表情だ。
「……村の様子は?」
お頭が静かにそう呟く。さほど大きな声でなかったにも拘らず、水を打ったように男たちは笑うのをやめた。
全員が入って来た男に顔を向ける。その顔はお頭と同じ表情である。
注目を集めている男が口を開く。今から言うことは別段大したことではない。しかしそれがここにいる全員が喜ぶことだと知っている。毎日伝えてきたことを今日もまた報告した。
「変化なし。山に近づくどころか、村から出ても来ません」
数秒静寂が続く。誰も何も喋らない。そんな空気が漂うが、やはり数秒、そんな空気はすぐに崩れてた。
「くくっ……」
誰かの抑えたようなのような笑い声が聞こえた途端、男たちの方が震えだした。次の瞬間、大声で笑い出した。
「マジかよっ! 普通に考えてありえないだろっ、普通!」
「こんな愉快な村は初めてだ! 笑いがとまんねぇよ!」
「臨時収入きたっ!」
男たちは騒ぎ始める。しかしそれは長く続かなかった。
「うるせぇ! 静かにしやがれっ!」
お頭の一声、それにより男たちは笑うのをやめた。その顔はもうにやけてはいない。真剣な表情で、お頭を見ていた。
男たちを一瞥して、お頭は口を開く。静かに、それでいて力強く、真剣な表情で話し始めた。
「いいか、てめぇら。今回は予想外の仕事だ。臨時収入に浮かれるのは良いが、ミスだけは絶対にすんなよ。した奴はその場で殺す」
物騒な事を言うが、誰一人反論の声を上げない。変わらず真剣な表情でお頭を見ていた。
その表情を見たお頭は、無言で頷くと話を再開した。
「確かにこの村は外に出てこない。その所為か地図にも載ってねぇ。ひ弱そうな村人だけだと油断すんじゃねぇぞ。色々と理解不能な村だからな」
一度話を区切り、深呼吸をするお頭。顔を伏せ、大分間を開ける。十秒近くそうしていたが、ついに顔を上げる。その顔は先程の真剣な顔ではなかった。
「ただし、仕事は明日の夜中、今夜は朝まで騒ぐぞ!」
そういうな否や、男たち全員が雄たけびを上げる。その顔をにやけ、さっきまでの真剣な顔はどこへやら、酒ビン片手に宴会を再開した。
何時の間にやら日はすっかりと沈み、あたりは完全に暗くなっている。洞窟から漏れる光は村からも確認することは出来るが、一人を除いて気づくことは無かった。
「あんま騒ぐと、村人に気づかれんぞ~!」
一人の男がそういうが、誰一人耳を貸さない。言った本人もすぐに騒ぎ始めた。
騒ぎは続く。男たち、盗賊は朝まで宴会を続け、夜までぐっすりと眠る。明日の夜まで騒ぎは続く。
転生して5年、漸くリュベルの物語は進む。今はただ、何もない村で悶々としながら眠っている。彼のつまらない日常は終わり、始まるのはリュベルが望む、リュベルが自らがしたいことをする日常。
彼はただ、思うが儘に生き、思うが儘に人を陥れる。それが出来るまで、あと少し。
どんだけ遅れれば気が済むんだ……。
展開も更新もかなり遅い上に、駄文だとは……。
もっと頑張っていきたいと思います! 読んでくれている人がいれば、これからもよろしくお願いします!