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外道が嗤う  作者: アタマ
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リュベルという少年

 男は畑に向けて歩いていた。いつもなら後ろにやけに不気味な一番末の息子がついて歩くが、今日は置いてきた。逃げてきた。

 未だに男の耳から、昨日の息子の笑い声が離れない。もはやトラウマと言っていい程だった。この村で最も『普通』と言っていい男には、あの息子の存在は恐怖以外の何物でもない。なぜ、あんな子供が生まれてきたのか、甚だ疑問である。


「くそっ」


 男は小さく悪態をつく。そして息子、リュベルが生まれた後を少し思い出す。それこそ、幼い頃からこちらのいう事を理解している節はあった。それなら賢い子止まりであったのだが、リュベルはそれを通り過ぎ、こちらの心情までも察しているようだった。

 自らの妻に悪態をついているのを見られた時の不気味な笑顔、今も変わらないあの笑顔を生れて数か月の赤ん坊がした時は、目の錯覚だと思い込もうとした程である。実際、息子はこちらの心情を理解していたのだろう、と男は考えている。

 また、言葉や文字を覚えるのも早かった。村の大人たちでも読めない者の方が多いのに、今のリュベルは簡単な物ならすぐに読んでしまう。流石に難しい物は男に聞いてくるが、それも時間の問題だろう。既に聞いてくることも減ってきている。


「ん、着いたか……」


 そんな息子の事を考えながら歩いていた所為か、危うく自分の畑を通り過ぎる所だった。

 担いできた鍬を構え、作業を進めていくが、ふといつもリュベルが座っている場所に目が行く。一度手を休め、今度は村の広場の方に目を向ける。広場は大半の村の子供たちの遊び場になっていて、大人は畑仕事に出ていたり、家事をしていたりで広場にいることはまず無い。そこには子供たちしかいないと言っていいだろう。


「やっぱり、あいつは可笑しい……」


 そんな独り言が自然と洩れる。なぜかいつも自分のそばにいる息子、何時懐かれたのか、そんな疑問を抱くが。


(まぁ、どうせ本を読みたいとか、勉強熱心なだけだろう、な)


 そう思うことにして考えないことにした。実際は男の現状を楽しんでいるのだが、それに男は気付かない、というよりは、そんな考えに至る前に考えるのを放棄した。

 そして止まっていた腕を動かし、畑仕事を再開した。しながらも考えるのは不気味な息子、しかも思い浮かぶ顔はあの笑顔なので、振り払うように仕事に集中する。


(そういえば、この村の飯を見た顔、なんか変だったな……)


 もうどうしても思い浮かぶ息子の顔を振り払うのをやめ、比較的に精神的に害がないことを考えることにした。そして、思い出したのはこの村特有と言っていい程、酷い食事を初めて見た時の息子の顔を思い出す。あの唖然とした顔を見て、逆にこの息子がこんな顔できるのか、とこちらが驚いたものである。

 よくよく考えてみれば、あの顔をこの村以外の料理を知らなければ出来ない顔である。リュベルの異常性ばかり目に言って考え付かなかったが、今思うと明らかに可笑しい事で、生まれて直ぐの子供が見せる顔ではない。

 はっきり言ってこの村は、他の村、最悪かなり貧しいと言われている西の辺境にある、自称港町より遅れている事間違いなしだろう。その町でも主食をパンである筈。豆は無い。この村でパンを知っているのは男と、おそらくリュベルだけだろう。男はリュベルにパンの話をしたことは無い。ならどこで豆以外の主食を知ったのか。


「まさか、前世の記憶がある……?」


 極稀に前世の記憶を持って生まれるという話を本で読んだ事がある。実はこれは意外と常識であるのだが、辺境の村、ましてやこんな遅れている村では知りようもなかった。


「まさか、な」


 そんなことが自分の息子にあるはずがない、と直ぐに頭を振る。この事は忘れ、できるだけ不気味な息子の事を考えないようにしようと、努力しながら畑仕事を続ける事にした。


 少しいつもと違う一日だったが、帰りに昨日同様に罵声を浴びて帰る日常が終わるのは、あと少し先である。

ちなみに、両親、兄弟共に名前を出す予定はありません。村人も同様。

今更ながら、ご感想・ご評価お待ちしております。辛口でも構いません。たぶん落ち込むでしょうが、書くことはやめません。

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