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外道が嗤う  作者: アタマ
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朝食風景

 翌日、この日のリュベルの行動はここ数日と違っていた。いつもは父の後ろについていき、畑で文字を覚えるために本を読んでいるが、今日はそうしなかった。ついて行こうにも、リュベルよりも先に父親が畑に出てしまったのでついて行けなかったのである。

 元々今日はついて行く気の無かったリュベルにとっては好都合だった。父の後ろ姿は見送り、自分はゆっくりとほかの家よりも倍くらい、しかし、転生前に比べると質素すぎる朝食を食べる。なぜか母親がにこにこ笑っており、その隣の兄弟たちには睨まれている。兄弟たちは順調に村人たちに毒されて来ているようだ。

 そんな家族にリュベルは笑いかける。その顔を見て母親はさらに喜び、兄弟たちは顔を真っ青に染め上げた。


「大丈夫? お兄ちゃんたち」


 顔色の悪い兄弟たちの心配する素振りを見せる中、リュベルは歓喜のあまり、自らの子供たちの変化に気づかない母親に目をやる。どうやら、リュベルが自分に対して笑った事しか認識していないようだ。いい笑顔、とはお世辞にも言えなかったはずなのに、ここまで歓喜するとは。リュベルはため息を吐いた。


(この女は自分の都合のいいようにしか物事を見れないタイプか……)


 そんな事を考えながら、今度は兄弟たちに目を向ける。そこには急いで朝食を口に詰め込む姿があった。中には喉を詰まらせ、半泣きになりながらでも詰め込む者もいる。自然と笑みがこぼれた。その顔を見て、さらに肩を震わせる兄弟たちは実に滑稽である。


(普通はこうなるんだがなぁ……)


 再度ため息をつき、今度は目の前の朝食を見る。主食は何らかの豆、味、形共に枝豆に似ているが、色は茶色で一回りほど小さい。これをスプーンですくって食べる。副菜には名称のわからない緑一色のサラダ。これだけである。この村にはパンを焼く技術すらないようだった。初めてこの食事を見たときは、あまりの酷さに流石のリュベルも唖然としていた。

 それでも豆を口に運び、食事を進める。リュベルが食べ終わる前に何人かの兄弟が朝食を済ませ、挨拶もなしに席を立つ。この世界には食前と食後の挨拶は無いらしい。母親も注意せずに笑いながら、逃げるように出ていく兄弟を見送る。リュベルを除いた子供がいなくなり、母親は口を開いた。


「ほんとに元気ね。そんなに急いで遊びに行きたいなんて」


 母親にはそう見えたらしい。何とも空気の読めない母親であった。

 そんな母親を見てリュベルは思う。一番つまらない人種だ、と。何より騙し安すぎる。こちらとあちらの都合が合えば、簡単に填められるし操れる。それよりも苦労が何も報われない父親の方が何倍も面白い。

 ゆっくりと食べていてので、時間はかかったが、漸く朝食を終えたリュベルは席を立つ。ここで一応、今後の為に母親に声をかけておく。


「おいしかったよ、お母さん」


 これにより、母親のリュベルに対する好感度が上昇したのは間違いないだろう。現に先程とは比べ物にならないくらい、歓喜している。

 この家でもうすることの無いリュベルは家の外に出ようとする。そこで母親に止められた。


「いってらっしゃい。あまり遅くならないようにね」


 ありきたりの言葉にリュベルは声だけ元気に返事し、内心母親のつまらなさにうんざりしていた。外に出たことでそれから解放されたリュベルは、敷地内から出ていく。目的は買った喧嘩の下準備。考えるだけでも笑みがこぼれてくる。


「さぁて、楽しむとしますか!」


 今度こそ心から元気よく、家族に見せた歪んだ笑顔を浮かべながら、リュベルは村の中を歩き始めた。

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