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外道が嗤う  作者: アタマ
16/19

馬車への移動

一年ぶりに投稿……。

本当に申し訳ない……。

 リュベルが外に出ると二人は少し離れたところで待っていた。その事に気が付きリュベルは敢えてのんびりと歩いて向かう。


「遅い!」

「いや~、悪いね、動きづらいんだこの格好」


 声を荒げ怒鳴りつける男にリュベルはそう応える。

 未だ文句をぶつぶつと呟く男を無視し、男の隣に立つ男を見る。その顔に変化は無い。

 リュベルは肩を竦め、二人を通り過ぎて歩き出す。


「って、どこに行くっ!」

「あ、流石に気付いちゃう?」


 本当に逃げられるなんて考えていないが、反応が面白いのでどうしてもからかってしまう。笑いながら振り返ったその時だった。

 リュベルの目の前に炎が飛んできた。

 避ける暇などない。リュベルはその炎に包まれた。

 とはいえ大してリュベルはさほど焦っていなかった。火達磨にされた事は今回が初めてというわけじゃない。勿論この体では初めてではあるが。

 地面を転がって火を消す事もできるが、折角近くに加害者がいる。リュベルのとる行動は一つ。


「なっ!」


 反応は一つだけ。その事に若干残念に思いながら貴族、と思わせ隣に立つ男に体当たりをかます。完全に油断していた男は火達磨(リュベル)を抱え込むことになった。

 火が男の来ている白衣に燃え移る。顔を真っ青に染めてあわてる男を見て、リュベルの口元が歪む。


「うるさい、黙れ」


 しかし、貴族の反応は変わらない。相変わらずの無表情でリュベルに向けて新しい魔法を使う。

 リュベルの足元の地面が蠢き、盛り上がるようにリュベルに覆いかぶさる。勿論男も巻き添えになり、リュベルと共に土に埋もれることとなった。


「プハッ! ああ、驚いた」


 リュベルは手を縛られていながらも、器用に土の中から這い出てくる。土で汚れた顔は相も変わらず嫌な笑顔を浮かべていた。

 しかし、リュベルと違い巻き添えを食らった男はなかなか出てこない。弱冠土が動いているのが確認出来るので生きてはいるようだ。


「あ~あ、ありゃ出てくんのに時間が掛かりそうだ」


 リュベルはそう呟き、地面から立ち上がり貴族の元まで歩いていく。すぐ目の前まで行き着くと貴族を見上げ笑顔を向けた。


「で、お次は何が飛び出すの?」


 そう呟いてくるリュベルを貴族は感情のない瞳で一瞬見るが、すぐに視線を戻し歩き出した。

 リュベルはその様子に肩をすくめながら、その後に続く。歩きながら未だ土から出られずにもがいている男に大声で声をかける。


「おーい、置いていくぞー!」


 その声が届いたのか、土が先ほどよりも激しく動き出した。しかし抜け出てくる気配はない。もう暫く男は土の中から出られないだろう。

 そんな男とリュベルのやり取りを無視し、貴族はどんどん先に進んでいく。


「ねぇ、目的地は何処なのさ」


 貴族からの返事はない。


「豪邸だったり? 俺、結構良い暮らし出来たり?」


 貴族は全く反応を示さない。


「……はぁ、ダメだこりゃ……」


 リュベルは肩を竦め、話し掛けるのを止める。ただし、止めたのは話し掛ける事だけ。反応が無いなら別の手を使うまで。

 リュベルは貴族の隣に並ぶとその顔を見上げる。貴族はリュベルに興味がないのか、無表情のまま固まって動く気配がない。


(俺に興味がない……? なら何で俺を買ったりなんかしたんだ? 意味が分からん……)


 そう思いながらリュベルは行動に出る。

 気づかれないようにそっと足を貴族の前に出す。古典的な嫌がらせではあるが、手を縛られている以上これが一番やり易い。


(手が使えれば浣腸をお見舞いするんだけど……)


 そんなことを考えていたのがいけなかったのか、足は貴族に簡単に避けられた。

 更におまけまで付いてくる。


「おっ? って、グエ!」


 出した足にいつの間にかロープのような物が巻き付いていた。そしてそれは貴族の手まで伸びている。貴族は歩を止めてはいない。リュベルがバランスを崩し、転倒するのは必然だった。

 貴族は転倒したリュベルを見ることもなく進んでいく。結果、リュベルは引き摺られることとなった。


「あーあ、本当に奴隷の扱いが悪いことで……。訴えるぞー……」


 そんな状況でも軽口は止めない。何度も痛い目に遭いながらリュベルはそのまま引き摺られていった。


「にしても、あんた結構怪力だね。痩せ細っているとはいえ、ガキ一人平気で引き摺っといて何ともないなんて、もしかして化け物?」


 そう問い掛けても返事は返ってこない。

 リュベルは溜め息を吐いてされるがままに引き摺られる。

 その後も適当に貴族に話し掛けるが、相変わらず反応は無い。段々と現状に飽きてきて貴族に悪戯を仕掛けようとするが、全て潰されてしまった。

 左右に転がり他の通行人の邪魔をしようと思えば地面に細かい棘が出来、身体を起こし貴族の足に体当たりをかまそうと思えば泥の塊が顔面に飛んでくる。

 泥だらけになりながらリュベルは一旦悪戯を止め、先程から起きている不自然な出来事について考える。


(どう考えても魔法だよな……。非力な奴隷にどんだけ使うんだっつうの……)


 非力な奴隷は買主に悪戯しよう等考えないがそれは棚の上に置いておく。


(にしても、いつまで歩くんだよ。かなりの距離移動したぞ……)


 貴族は未だ歩き続けている。目的地にはまだ着かないようだ。

 この奴隷市場はかなり大きいようで、先程から見える景色も変わらない。ずっとテントが続いている。前を見ようにも今となっては体を起こそうとした瞬間に魔法が飛んでくるので、確認のしようも無い。

 仕方ないので、返事がないのを知っていながらも貴族に話し掛けることにする。


「ねぇ、まだ着かな……」

「立て」


 話しかけた瞬間貴族は足を止め、驚くことにリュベルの問いに返事を返してきた。目を見開きながらリュベルは言われた通りに立ち上がる。

 どうやら市場の端まで着いたようだ。目の前に馬車が何台も止まっている。


「これ、解いてよ」


 未だ足に繋がれたままのロープに目を向けながらリュベルが文句を言う。

 貴族はやはり反応せず止めていた足を動かした。

 ロープは未だ繋がれたまま。仕方がないので貴族の後に続いて歩く。少し歩くと一つの馬車の前で貴族は立ち止った。他の物と比べ如何にも貴族の乗り物といった感じだ。見ただけで相当な金額が注ぎ込まれているのが分かる。

 馬車には御者らしき男が一人、フードを深く被っている為、口元以外顔が見えないのが一人、入口に立っていた。


「ご~かだねぇ、これに乗るの? いやぁ、いいね、まるで貴族になったみたいだ」


 立場を全く気にしないリュベルの言葉に、馬車に乗っていた御者らしき男が顔をしかめる。

 貴族はと言えば、まるで聞こえていないかのように馬車に歩く。

 フードの人物が無言で貴族に頭を下げる。貴族が馬車に乗り込むまでそのままでいたが、貴族が馬車内に消えると、リュベルに視線を移した。

 いつの間にかロープはフードの人物の手にある。リュベルがそのことに気が付き口笛を吹く。その態度が気に入らなかったのか、フードの人物はロープを軽く引っ張った。

 多少バランスが崩れるも、倒れずに済んだリュベルは、口角を吊り上げ嗤う。フードの人物はその表情に怯んだのか、半歩後ずさった。その様子を見てリュベルは更に笑みを深める。


(貴族と違って、反応有り、と。面白い反応してくれっかなぁ……)


 リュベルが一歩近づく。フードの人物の肩が軽く跳ねる。その反応に気を良くしたリュベルはそのままゆっくりと歩を進めようとした。


「早くしろ」


 貴族が馬車から声を掛けてきたことにより、フードの人物は正気に戻ったのか、手にしたロープを強く引っ張る。今度も倒れることはなかったが、リュベルの顔が不機嫌で歪む。

 片足を引っ張られた状態で馬車を睨むが、貴族は何もしてこなかった。

 リュベルは軽く舌打ちをし、今度は未だロープを引っ張っているフードの人物を睨みつける。先程の様に露骨な態度は出さなかったが、唯一見えている口元は悔しげに歪んでるのが見えた。


「はぁ……、な~んか、興醒めだなぁ……。で、いつまで引っ張ってんの? 歩けないんだけど」


 リュベルが睨みつけるのを止め、溜息を吐きながらそう言うとフードの人物の口元が更に歪む。それでもこのままでは意味がないと理解したのか、ロープを引っ張るのを止める。

 リュベルは再度溜息を吐き、フードの人物まで数歩前まで近づく。


「どこに乗ればいいの? 流石にこんな薄汚い奴隷の餓鬼が、こ~んなとてもとても偉そうな御貴族様の馬車に乗れるわけないし、さっさと案内してよ」


 その言葉を聞いたフードの人物は肩を震わせている。どうやら怒りを抑えているようだ。普段なら更に煽る所だが、興が醒めたリュベルはそうしなかった。


「……奴隷風情がっ……!」


 意外と高い声でフードの人物が呟く。その後リュベルに背を向け歩き出した。リュベルもその後ろをついて歩く。貴族の物とは比べ物にならない、盗賊共と変わらないレベルの馬車に着くまでリュベルは一切喋らなかった。

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