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外道が嗤う  作者: アタマ
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奴隷

 この国、ウィスナット王国は世界で最も歴史の深い国である。遡れば神話にまでその名が記されており、また現存する歴史書全てにおいてその名が途絶えることは無かった。

 王都ホルスタからいくつものびる街道により物流は盛んに行われ、気候も安定している為、非常に豊かな国である。

 その街道の中でも古く、今ではだれも使わない道に数台の馬車が走っていた。


「よくもまぁ、盗賊がこんな堂々と街道を進めるもんだ」


 その馬車の中で一番大きいものの中にリュベルは居た。

 村の襲撃から幾日かたった今、リュベルは檻につながれて過ごした。狭い以外は村より快適なのが何とも皮肉である。


「黙ってろ。自分の立場を考えやがれ、クソガキ」

「お頭もつれないねぇ」


 そう言って肩を竦めるリュベル。その様子に目の前の男、リュベルが住んでいた村を襲った盗賊の頭は溜息を吐いた。

 出会ったころからそうだったが、リュベルは何かと頭に話しかけてくる。馴れ馴れしいことこの上ない。

 それでも頭がリュベルに手を出さないのは、リュベルが魔力持ちだからだ。その事もリュベルも理解しているのか、手を出そうとしても嫌味な笑いを浮かべ、睨みつけてくる。こんな気持ちの悪い子供はさっさと売り払ってしまいたかった。


「で、目的地まであとどれ位あんの?」


 無視しようとしても気にせず話しかけてくるリュベル。頭は再度溜息を吐き、リュベルを睨みつける。


「おお、怖い怖い。で、どれ位あんの?」


 効果は無し、同じ質問を返してくるだけだった。

 どうしようもなさそうなので、頭は素直にリュベルの質問に答える。


「あと半日ぐらいだ。もう黙ってろ」

「ふぅん、半日、ね。あ、それまで暇だし、魔法教えてくれよ」


 やはり黙るつもりは無いらしい。流石に我慢の限界が来たのか、頭は呟く。


「『ブロー』」

「ぐえっ」


 リュベルが教えてほしいといった魔法をその身で体験させられる。突然の衝撃に妙な声を上げ床に倒れることになった。


「頑丈になりやがって……」


 頭は呆れた様子でリュベルを見る。実はこのやり取りは初めてではなく、もう何度も繰り返し行われていた。

 最初こそ受けるたびに気絶していたリュベルだったが、今となっては縛られた体をくねらせながら痛みに悶えているだけ。声にならないうめき声を上げるため、静かになるどころか余計に耳障りで仕方ない。


「頭~、変な音しましたが、またですか~?」


 御者をしている盗賊が笑いながら聞いてきた。頭は適当に返事をすると、うめき声をあげるリュベルは無視することに決め、前を向いて目を閉じる。

 目的地までまだ少しある。それまでリュベルと同じ馬車だと考えると気が重くなった。


「……別の馬車に乗せるべきだったか……」


 そう考えるが、すぐに頭を振り否定する。

 リュベルから目を離せばどうなるかわかったものではない。手下では対処出来そうにないうえ、折角の高額商品がダメになったら、それこそ大赤字である。

 たとえ馴れ馴れしくともここは我慢すべき。


「わかっちゃいるが、無理だろ、これは……」


 ついつい愚痴が漏れる。

 リュベルは痛みが引いてきたのか、床に伏せながらも口角を釣り上げ、笑う。


「ホント、その魔法教えてくれよ……」


 リュベルの呟きが聞こえなかったわけではないが、頭は無視する。

 リュベルもわかっていたので、気にせず思考に没頭することにした。

 ここ数日、何度も魔法を食らうことで自分の体内にある魔力ぐらいは簡単にわかるようにはなった。ただし、そこから先がわからない。頭のように『ブロー』と言ってはみたものの何も起きず、初めて魔力を使った時のように掌に魔力を集めてみても数秒で飛散するのみ。

 何かが足りないのか、それともやり方が違うのか、さっぱりわからない。


(小説やら漫画やらみたいにはいかない、か……。もう一回くらい食らっとくか?)


 リュベルが頭を怒らせて魔法を使わせるのは、このためである。と言っても、最初は馴れ馴れしくし過ぎてたまたま飛んできただけなので、かなり痛い思いをしたが。


(そうと決まれば、即実行、てね)


「ねぇ、頭……」

「頭~! 目的地に着きましたぜ~!」

「うっせーな、そこまで大声出すな」


 実行する前に目的地についてしまったらしい。リュベルの声は無駄に元気な御者の声にかき消されてしまった。

 馬車が止まり、頭が下りていく。残されたリュベルは一人檻の中で短く舌打ちをする。


「空気読めよ、ったく……。これじゃもう魔法覚える機会なんてないかもな……」


 こうして殺されずに捕まっているという事は、奴隷として売られるのだろう、とリュベルは考えていた。現に頭も何度も魔法を打ってきながら、死ぬような威力のものは一切なかったし、高額商品という言葉も聞いた。

 奴隷になれば魔法なんて覚えさせて貰えるわけがない。奴隷はただ働ければいいのだ、魔法なんて必要ない。

 何とか脱出できないものかと檻を叩いたり揺らしたりしてみるが、当然びくともしない。唯一ついている扉も鍵がかかている。近くに針金のようなものがあれば、ピッキングなりなんなり試し、無理やりにでも開けるが、そんなもの近くにはない。というよりあったならリュベルはすでに檻から脱出している。

 しばらく馬車の外を見ていたが、頭が戻ってくる様子はなく、ここから出られる算段も思いつかない。ただがむしゃらに檻を揺らしても無駄なので、リュベルはその場を離れ床に横になり眠ることにした。


(無駄は好きだけどこれじゃあね……。ホント、こういう時こそ魔法がほしいねぇ……)


 そう考えて目を閉じる。


「何寝てんだ、クソガキ。さっさと起きやがれ」


 目を閉じた瞬間だった。馬車が軽く揺れ、聞きなれた声が聞こえて来る。

 声のした方に寝ころんだまま目を向ければ、馬車の入り口に頭が立っていた。そこから檻に近づいてくると、その手に何か握られていることがわかる。


「さっさと起きろ、クソガキ」


 寝転がったままのリュベルに頭はもう一度言う。

 頭のいうことを無視し、リュベルは寝転がったまま口を開いた。


「やぁ、お頭。俺はいくらで売れたんだい? 分け前は8割で頼むよ。人生かかってんだから」


 開いた口から飛び出すのは相変わらずの軽口。リュベルのその様に頭は額に青筋を浮かべた。

 リュベルが口角を釣り上げながら再度口を開こうとしたが、その前に扉が開かれた。頭が持っていたのはこの檻のカギだったらしい。

 頭が目で出ろと言っていたので、リュベルはそれに従い立ち上がる。檻から出ればすぐさま手を取られ手錠をはめられた。


「さっさと出ろ」


 言葉少なめに頭が新しく命令してくる。リュベルは肩を竦め、歩き出す。

 勿論、口を開くのはやめはしない。


「こうやって素直に命令に従う俺。いや~、奴隷ぽくなってきた」

「……」


 リュベルの軽口を無視し、頭がリュベルの前を歩きだし、その後ろにリュベルが続く。


「で、俺を買ったのはどんな人?」

「……」

「何の目的で俺を買ったのさ? まさかの男色家とかじゃないよね?」

「……」

「ダメだ、こりゃ……」


 移動の間、何度も頭に話しかけるが、返答は帰ってこなかった。

 黙々と進んでいく頭の後ろを周囲に目を向けながら歩く。

 どうやらもう誰もいない廃村を奴隷市場として使っているらしい。所々に朽ちた家らしきものが見える。盗賊たちが整備したのか、必要最低限は整えてあった。


(下手すりゃ、村よりいいかも……)


 リュベルがいた村はそれぞれの家の周り以外、手付かずといった箇所が数える気が起きないほどあった。それに比べれば家が無い以外、ここの方が住みやすそうである。


(奴隷になった方が生活が豊かに、なんてね)


 移動中に何人か奴隷らしき人間とすれ違ったが、絶望したような顔をしていた。そんな中で平然ともの珍しそうに周囲を見渡すリュベルは完全に浮いており、奴隷商たちから奇異な目で見られている。

 リュベルもその事に気づいており、胸を張り堂々と歩く。おかげで余計に周囲から奇異な視線を集めた。

 リュベルが見世物になっていても、頭は無言で歩く。リュベルのことは気付いていても注意する気は無いらしい。

 しばらく歩くとそれなりに大きなテントテントが見えてくる。頭はそこに向かっているようで、その中にリュベルを買ったものがいるのだろう。


「あの中に俺のご主人様がいんのかい?」


 再度リュベルが頭に話しかけるが返答は無い。リュベルは軽く肩を竦め、テントを見る。自然と口角が吊り上がり、歪んだ笑顔を見せる。


(相手はどんなかな~。お貴族様? それとも、奴隷商人? 実に楽しみだ)


 頭がテントの中に入っていく。それに続きリュベルも中に入る。

 そこにいたのは、


「遅かったじゃないか。何してたんだい? で、その横のガキが被検体(商品)なのかい?」


 白衣を着たやせ形の研究者風の男だった。

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