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外道が嗤う  作者: アタマ
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望んでいた事態

 騒ぎは夜になっても終わらなかった。リュベルが村の端から帰ってきても、家の前にはたくさんの村人が騒いでおり、未だに終わる気配が無い。

 リュベルはそれを少し半れたところに腰掛け、ただつまらなそうに眺めていた。


(これからどうするかねぇ)


 考えるは今後のこと。最初こそ今の状態を面白いと感じたが、その後なんも進展が無いとなれば、新しく何か投石しなければならない。

 いろいろ考えたが、結局は今と同じ状態に行き着く未来しか見えず、リュベルは溜息を吐く。せめてもう少しまともな人間がいればいいが、そのまともな人間が嫌われ者の父親しかいないのでは、何の役にも立たない。完全に行き詰っていた。

 それでもこのままここに座っていてもなんも進展しないことは目に見えている。重い腰を上げ、ゆっくりと父親のいる畑を目指し歩き始める。

 ふと空を見れば日もだいぶ沈み、ちらほらと星が見え始める。あと数分すれば完全に暗くなり、前も見えなくなるだろ。


「それまでにあれは終わるのかねぇ……」


 そうリュベルが呟いて、少し後のことだった。



 現状を言えば、村は火の海になった。

 盗賊がやってくる、というのは嘘ではなく、言葉足らずだっただけ。村人もリュベルもすぐやってくるものだと思い込んでしまった。それだけのこと。


「は、はは」


 畑近くのいつもの道。リュベルの乾いた声が漏れる。

 望んでいた事態、それに気づいたリュベルは一目散に走り出す。目指すのは父親のもと。この村で唯一まともな彼なら村人(有耶無耶共)より観察が楽しそうだ。そう考え、走る。その顔はもうどうしようもなく、歪んだ楽しそうな笑顔だった。


「流石に予想外ってもんだよ、お父さん」


 畑につき、リュベルは一瞬固まった。その目の前に広がる光景に完全に笑みを隠せない。


「リュベル、か……。何しに来た……」


 父親がリュベルに向けてそういう。小さな声の上に荒れた呼吸のせいで聞き取りにくい筈が、リュベルの耳に不思議と心地よく響いた。

 リュベルは足元に転がる置物を踏みつけながら、父親に駆け寄る。


「お父さん、村にね盗賊が来たんだ。家に火をつけた。とてもすごいことになってるんだよ」


 そう父親に告げ、リュベルは父の顔を見る。その顔を見て血のつながりを確信した。父の顔もリュベルと同様、歪んだ楽しそうな笑みを浮かべていた。


「そう、だな……。これだけじゃぁ、物足りない、物足りないんだ……」

「盗賊は今頃村の広場あたりにいると思うよ? どうする?」


 リュベルは適当にそう父親に告げる。もちろん本当にそこに盗賊がいる保証はない。ただ、この本性丸出しの父親に目的を与えたかった。

 父親は汚れた鍬を肩に担ぐと、リュベルの頭を片手でなでる。その目線は村の方角を見て逸らさない。遠くから見ればひどく絵になっている光景だが、実際はそんな優しく、素晴らしいものではない。

 父親がリュベルから離れ、置物をわざと踏みつけながら動き出す。初めはゆっくり、段々と速く。それでいて置物はしっかりと踏みつけ。


「かっこいい、最高の父親だよ、お父(殺人鬼)さん」


 リュベルも地面に横たわる村人の死体を踏みつけながら父の後を追う。しかしながら子供と大人とでは歩幅は全く違うため、すぐに父親乗せは見えなくなってしまった。

 別に初めから父親の行動を見たいわけでもないので、リュベルはあわてず騒がず、ゆっくりとした歩調で広場に向かう。その途中何人かの村人とすれ違ったが、全員が全員茫然と立ち尽くすのみ。死体は無いので、父親は別のルートを使っているのだろうと、リュベルは気にすることなく広場に歩を進める。

 そんな村人たちを尻目に広場近くまで来ると、何人かの村人が捕まっているのが見えてきた。その中には見知った顔がある。また、捕まった村人を見張っているのか、知らない顔が、と言っても村人全員の顔を知っているわけではないが、一人いることを確認できた。


「あれは、なんだ俺の家族か……」


 それはリュベルの兄弟のようだ。それも他の村人同様茫然としていて動きは無い。抵抗の一つもしていないようである。


(少し、様子見と行きますか)


 リュベルはそう考えると、ぎりぎり見える広場の様子が見える家の陰に隠れる。

 男は見張り役なのか、しきりに顔をあちこちに向けている。ただ適当に周囲を見渡しているだけに見えたが、よく観察すると何度かリュベルの方に顔を向けているのに気が付いた。


(ばれてる? それにしても……)


 男の様子はどことなくわざとらしさがある。それに気が付いているなら仲間を呼ぶなりすればいい。そうでなくとも子供であるリュベルを捕まえるのは全く苦にはならないだろう。見張りにしてもこの様子の村人を見れば、その必要もなさそうだと考えられる。

 では、何故行動しないのか。


「坊主、かくれんぼは楽しいかい?」


 そんな声がリュベルの後ろから聞こえてきた。ゆっくりと振り返れば、そこには盗賊らしき男が立っていた。

 思わず笑ってしまいそうなことだが、盗賊の身なりはこの村人の誰よりもいい。簡単に区別がついた。

 リュベルは肩をすくめ、盗賊に向けて笑いかける。


「かくれんぼをやるんだったら、鬼役の方がいいんだけども。それと最近の盗賊は身なりに気を使うのかい?」

「そうか、それは残念だったな。ちなみに俺たちが綺麗なわけじゃあない。お前らが汚すぎるんだ」

「それは反論できない。こりゃ参ったね」


 ついでにおどけてみるが、軽く流されてしまった。

 そのまま手をつかまれ、リュベルもめでたく広場の村人の仲間入りを果たす。周りを見ると、集められた村人の傾向がわかってきた。どうやら働き盛りの若い男と男女両方の子供を中心に集めているようだ。そこに女は確認できない。

 その後も待てども待てども女は来ない。疑問に思ったリュベルは見張りの盗賊に聞く事にした。


「あんたら、もしかして男色家なのかい? 村の若い女どもが見当たらないけれども」


 そういうと面倒臭そうに見張りは振り返る。眉間にしわを寄せ、明らかに不機嫌そうである。


「なわけあるか、クソガキ。標準以下過ぎる女集めても売れねぇし、こちらも願い下げなんだよ」


 そういうと盗賊は見張りに戻る。と言ってもただ立っているだけで全く意味などないが。

 リュベルは盗賊の言葉に納得し、今度は自分の様子に目を向ける。手が背中に回された状態で縛られているが、他にこれといった拘束は無い。と、ここで気が付く。

 他の村人は拘束すらされず、リュベルと少し離れた位置で放置状態、盗賊はそんな村人よりリュベルの近くに立っている。

 これではまるで。


「お前用の見張りなんだよ、俺は。今気づいたか?」


 盗賊はリュベルを見ずにそう呟く。

 流石のリュベルも少し驚き顔に出るが、すぐにいつもの笑顔に戻し盗賊に問いかける。


「何時から俺に目を付けてた?」

「お前が俺らの痕跡を見つけた時から」


 間髪入れずに盗賊が答える。今度はすぐに表情を戻せなかった。


(予想外だな、ばれてたなんて。前世じゃこんなことなかったのに)


 そんな自分に呆れてくる。そして今度は口から笑いが漏れだした。

 転生してはや5年、漸く面白い事態になった。そう思うと笑いが止まらなくなる。リュベルは周りなぞ気にせず大声で笑い始めた。


「何だよ、急に笑い出して?」


 怪訝そうに、盗賊が再度リュベルの方に顔を向ける。それでもリュベルの笑いは依然として止まらない。その間盗賊はリュベルの方に顔を向けて逸らさなかった。

 少し経ち、リュベルの笑いは収まり始める。それを見て再度盗賊がリュベルに話しかける。


「で、どうしたんだ?」

「いやいや、可笑しくて可笑しくて」


 まだまだ。


「何がだ?」

「すべてが」


 あと少し。


「すべて、というと?」

「自分の馬鹿さ加減に、今置かれた状況、それに……」


 たどり着く。


「あんた、俺に気を取られすぎ。背後注意だ」


 盗賊の後ろには見失った父親が素敵な(血まみれの)姿で立っていた。

 盗賊もそこで気が付いたのか、後ろを振り向くが、少し遅い。父親は手に持った鍬をすでに振り下ろしていた。


「さあ、殺っちゃいなよ、お父(殺人鬼)さん」

盗賊とリュベルの会話が一番楽だったり。

やっぱり更新速度はあまり上げられませんでした。読んでいる方がいたら、本当に申し訳ない……。

これからも何とか頑張っていこうと思います。もう一年なんて開けない……。

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