立ちはだかるもの(彼方)
ω 四月二十四日(火)12:43 ω
それは昼休みのこと。
弁当だけじゃ足りなくて購買にパンを買いに行った時だ。数人の人だかり越しに残っているパンの種類を確認していたら、
「青海くん」
って控えめな声で話しかけられた。
振り向くと、そこには女子二人がいた。一年一組の斉藤さんと谷山さん。
「二人もなんか買うの?」
一応聞いてみたけど、たぶん違う。
時間的な違和感もあるけど、二人の表情がちょっと真剣というか、普段より強張ってる気がした。
とはいえ、何かを相談される程仲良くなった訳でもないし、告白とかそーいう感じなら携帯で約束するだろうしね。
道端で遇ったから、ついでに話しかけちゃえ。でもちょっと話しづらいな。
そんな感じ。
当てずっぽうだけど。
「ううん。そういうわけじゃないんだけど……」
互いの顔を窺う二人。こっちに向き直ったと思ったら、斉藤さんが誤魔化す感じで笑顔を浮かべた。あ、メロンパンなくなってる!
「青海くん、白水さんたちと部活始めたってホント?」
あー、成程ね。悠に直、司だもんね。そりゃ噂も広まるか。
「うん。本当だよ。悠も司も一緒」
知ってるだろうけど、万が一ってこともあるしね。直と二人で何かしてる、なんて噂が広まったら色々まずいし。……って、さっき“たち”って言ったっけ? 余計だったかな。
「あ、やっぱりそうなんだ!」
なんか喜ばれた。
「部活って五人必要なのに四人だけなんでしょ!? 何してる部活なの!?」
おおう、なんかすっごい食いつき。っていうかやばい。もうフルーツサンドみたいな不人気商品とかチョココロネみたいな大量入荷商品しかないじゃんか!
「皆すっごい噂してるんだよー? 学校の依頼を裏から解決してくとか!」
「夜の学校に現れる怪物と戦ってるとか!」
それ何てラノベ?
そこはかとなく漂う中二臭がすごいんですが……。
「いやー、がっかりさせて悪いんだけども、全然普通の部活だよ?」
これでがっかりして興味を無くしてくれないかなーとか思ったけどダメでした。
あかん、むしろ何か納得させないと引いてくれなさそうな目をしている……!
「えっと……」
うーん……あんまり他言するなって悠に言われてたけど、一応作った設定もこーいう時のためにあるんだよね!
「オレらの部活、解消部って言ってね?」
初めはきょとんとしてた二人だけど、(嘘の)説明を聞いていくうちに顔が綻んで行った。
うん。嫌な予感がする。
「そっかー……悩み、解消してくれるんだー……」
まるで胸の内に刻むように反芻しながら、二人はお互いに視線を投げかける。
と思った瞬間。
「邪魔してごめんね青海くん!」
「私たちもう行くから!」
見事な連携で去り際のセリフを言って、教室のある西棟へ走って行きましたとさ。
「走ると危ないよー……」
スカートめくれちゃうよー、と続ける前に二人の姿は曲がり角に消えていきました。
どうしよう。何か、取り返しのつかないことをしてしまった気がする。
「……」
視線を感じて購買を見ると、うちのクラスの女子、一寸八分さんが感情の篭らない目でオレを見てた。各クラス一名の購買部(正しくは委員会)で、今日は当番だったらしい。
「え、えっと……何か残ってる?」
「……」
ケースの片側を持ち上げ傾けて、中身を見やすくしてくれる一寸八分さん。いや、まぁ何も残ってないのは十分見えてたんだ。一応悪あがきで聞いてみただけなんだ……くそう。
「……はい」
と思ったら、一寸八分さんは後ろの棚にあった二種類のパン、メロンパンと野菜サンドをパッドの上に置いた。
「え、でもこれ、一寸八分さんのじゃないの?」
「いいよ」
微笑む一寸八分さんに後光が差したように見えた。
「神!? あなたは神ですか!?」
「二割増しで売ってあげる」
「鬼! あんた人の皮を被った鬼だ!」
「うふふふふ」
笑う表情は、なんというか、すごく無邪気だ。
一寸八分恵莉。
何度か話したけど、この子本当に何考えてるかわかんない。
「嘘。代わりに質問に答えてくれたら普通に売ってあげる」
「どんと来い!」
なんてね。別に質問に答えるくらい、無償でいいのに。
「男子って、痩せてる子の方が好きなの?」
知らん!
分かるわけないじゃないですかー。なんて言えないし……。えっと……マンガで色々あったな……。
「別にそういうわけじゃないんじゃない? ガリガリとかだと逆に引くっていうし」
「いうし……?」
やばっ。
「あ、ほら、一般論? やっぱり好みによるんじゃないかな。結局」
なんて当たり障りのない回答。オレには人の悩みとか解決できないね。
「……そっか。ありがとう。流石解消部だね」
と思ったんだけど、以外にも一寸八分さんはオレの答えに納得してくれた。なんだろう、男だと思ってる人の言葉だと信憑性が増したりするのかな?
まぁほんの少しでも不安を解消できたのなら良かった。でも……、一寸八分さん、ダイエットでもしてるんだろうか。
「一寸八分さんスタイルいいし、肌も綺麗なんだから変にダイエットして荒れたりするほうがもったいないよ」
うちの学校基本メイク禁止だから隠しにくいだろうしね。
「 」
無反応、かと思ったら驚いた表情で固まってた。やがて視線を逸らされてこほん、と咳払い。気持ち悪かったかな? あ、セクハラか?
「青海くん、心と仲良い?」
「へ? シンって、朽網?」
こくん、と一寸八分さんは頷く。
朽網心。うちのクラスの男子で、確か弓道部だったかな? あ、そういえば一寸八分さんも弓道部か。それ繋がりかな?
「普通に友達かな? まだ遊んだりしたことないけど」
「仲良くしてあげて」
母親みたいなこと言い出したぞこの子。
「で、その素直さ、あのヘタレに見習わせて」
うん。やっぱりこの子、どーいう子なのかイマイチよくわからないや。その素直さって、自分がスタイルいいって自覚してますって言ってるようなもんじゃんか。……まぁ、本当にスタイルいいし綺麗なんだけどさ。
それにしてもヘタレか。
話した感じだとロールキャベツでもない本物の草食系みたいだし、そうとられても仕方ないのかな?
「一寸八分さんと朽網って仲良かったの?」
クラスではそんな素振りなかったから、ちょっと意外だった。むしろ、同じ弓道部の会地さんとよく話してる……というか、叱られてるのが印象深い。
「うん。幼馴染だよ。……しばらく会ってなかったけど」
ほほう。
幼馴染か……イイね☆
最近じゃ負けフラグとか言われてるけど、やっぱり幼馴染って何か良いよね! しかも今の感じだと高校で再会した、とか? デスティニー!!
「じゃあ会地さんとも幼馴染だったり?」
「あいつは敵」
閉店ガラガラ。いや、ガラス戸なんだけど、問答無用でカーテンも閉められました。
地雷だったっぽい。再会した幼馴染と、そこにいつの間にか割り込んでた世話好きの少女。
さ、三角関係……!(キラッ☆)
ω ω ω
一寸八分さんとの会話に囚われてたオレは、大事なことをすっかり忘れてた。
「ご相談があります!」
放課後、お料理教室だかなんだかで女子が全然いない四組の教室に、女子生徒の声が響いた。見たことない女子が二人。五組以降の子だと思う。
対するは悠。思いっきり不機嫌そうな顔をしてるのに、あの子よく立ち向かえるな。
「えっと……初対面、だよな」
苛立ちを極力抑えたのか、いつもの声がもっと低くなって余計怖いっす。
「はい! 五組の桐ケ谷っていいます!」
「あ、綾瀬です」
すげぇ……恐れて逃げるどころか自己紹介までした。あの子……できる!
その胆力、私、気になります!
「聞いたんですけど、黒酒くんの部活、悩みを解決してくれるんですよね」
やべっ。
「逃げるな彼方」
「ぐえっ」
走り出そうとしたら首根っこ掴まれました。
おっかしいなぁ……机五つ分くらい距離あったんだけどなぁ。
まさか……悪魔の実か!
と思ったら真後ろに鬼……じゃなかった。悠がいました。万力のような力で首を掴んでるから痛い痛い。
「逃げる? 馬鹿言うな悠。オレはこれから戦場に行くんだ。……厨房(家庭科室)という戦場にな! ごめんなさい逃げないから頭から手を離して下さい」
握撃できるんじゃないかっていう悠の腕力じゃオレの頭なんてリンゴみたいにつぶされちゃうよ。
「(お前……言ったのか)」
うーん、察しが良すぎるっていうのも考え物だね。
「(下手なこと言うよりはいいかなって。設定、考えといて良かったね☆)」
そんな風に考えていた時期が私にもありました。
ω ω ω
「次の方どうぞー……」
オレの案内に、男子が視聴覚室に入ってくる。
「あ、佐原」
「よう青海。部活始めるなんて水臭いぜ」
見た顔だと思ったら三組の佐原だった。
「色々あってねー。で、佐原も相談?」
「ああ。相談っつーか、頼みっつーかな」
またか、とオレは心の中で溜息を零した。たぶん、横に座る悠も同じ。
「俺も部活に入れてくれねーかなって」
やっぱり。
入部希望者はこれで18人目。佐原で25人目だから、7割くらいかな。半数以上が入部を希望するような人たちだった。
で、次の段階へ。
「志望動機は?」
悠の重圧のある声に、聞かれた人は自然と気を引き締めるわけで、
「それは、ほら。俺も学校のためっつーか、人のために何かしてーし?」
言い方はあれだけど、真面目なことを答えたりする。で、間髪入れずにへらっとしたオレの出番。
「で、本音は?」
「白水さんとお近づきになりたい!」
どうも、悠とオレの温度差というか、ギャップでこのトラップに引っかかる引っかかる。
「却下」
「うぐっ……」
引っかかった羞恥心みたいなものとか、悠の高圧的な物言いに反論しようとする人もいたけど、
「……」
「……なんでも、ないっす」
面倒事に巻き込まれた怒り+下心に対する軽蔑=覇気を纏った悠。こいつに睨まれて大抵黙殺される。
実に頼もしい。味方のうちはね。
すごすごと第二視聴覚室をあとにする佐原の背中は哀愁が漂ってた。そんなに知り合いたいなら、ちゃんと正面から……直の場合はダメか。
心が折れるか、別の世界が開けるだけだ。
「……今日はもう十分だろ」
「だね」
時間的にも体力的にももう無理。
入口にしてたドアに向かい、また後日って旨を伝えに行く。
「すんませー…… 」
絶句。
なにこの人だかり。せいぜいあと一人か二人かと思ったら、数えきれないくらいいるんですけど。どこから聞きつけたのか、一年だけじゃなくて二年生、ちらほらと三年生までいる。なんのイベント会場ですか。
「も、申し訳ないんですが、今日はもう終了です……」
「「ええー」」
ブーイングってわけじゃないけど、皆残念そうな声を上げた。けんか腰の人とかいるんじゃないかってビビったけど、そんなオレの予想に反して皆大人しく帰ってくれた。
「……」
いやー、まだいました。ラスボス。
「……」
覇気を纏った悠が、思いっきりこっちを見ています。睨んでます。今日の友は明日の敵ってね。え、それどこのサスケ?
「ぶ、部室行かね? ここだと落ち着かないし」
オレの提案に一理あると思ってくれたのか、悠は無言で立ち上がり退室する。
向かうのは教室。最初の子の話を教室で聞いてたら、いつの間にかあれよあれよと人が集まっちゃって、逃げるように視聴覚室に行ったから、オレも悠も教室にバック置いたままなんだよね。
と、辿り着いた教室には、甘い香りが漂ってた。
女子が数人いて、お料理教室が終わっちゃってたことが判明した。あーあ、終わっちゃったかー。
「あ、子子子さんに黄道眉さん」
声をかけると、子子子さんはビクつき、黄道眉さんはオレたちを見て意外そうな表情を浮かべた。なんか子子子さんに怖がられてるんだよね。オレだけじゃなくて皆だけど。
だから、会話するのは黄道眉さんと。
「青海くんは来ると思ってたけど……忙しかったの?」
「そんなとこ。お料理教室、楽しかった?」
「うん。ね、朋」
黄道眉さんに同意を求められて、子子子さんは小さく頷いた。でも、恐縮したりしたわけじゃなくて、本心からの同意だってことは、その笑顔からよくわかった。
「いいなー、オレも行きたかっ、た……」
「……」
殺気!
振り向いたら自業自得だ、とか言われそう。話題変えなきゃ殺られる。
「そ、そういえば何作ったの? クッキーだっけ?」
「皆で作るには時間無いから、マフィンになったの。おいしかったよ」
「マフィンかー。直、本当に色々作れるんだな」
「直ちゃんはマフィンじゃなかったよ」
子子子さんが話しかけてくれた! 感動! って、え?
「直、何作ったの?」
「エクレア。美味しかった……」
余韻に浸るように目を閉じて微笑む二人。さっきも黄道眉さんが同じ意味の言葉を言ったけど、そこに込められた感情の質が全然違う。
一方で、オレは寒気に襲われていた。
背後に漂う怒気が、オレに向けられている……!
「あ、他の男子には言わないでね。女子しか食べられなかったから」
「そ、そっか。うん。気を付ける」
そして二人は教室をあとにした。
部室に辿り着いてやっと一息つけると思ったら、堪忍袋の緒を振りほどいた悠が――
その後のことは語るまい。ていうか痛いだけの記憶なんて思い出したくない。
せめて、エクレアが食べられたらなー。
っていう思念が籠ってしまったのか、マスコットキャラを描いたらエクレアから手足が伸びたような変な生き物ができあがった。
なんか卑猥。ということで却下されるわ、片方の腕の腋から腕が生えてるとか馬鹿にされまくった。
直だけは可愛いって褒めてくれたけど、自分でもその感想はどうかと思う。
「――まる……っと」
日誌を書き終えて、前のページを捲っていく。
最初はブログを共有にすればいいじゃんって思ったけど、こうしてみると、皆の筆跡とかで気分とか性格が分かる気がして面白かった。
でもね、直。
司のことばっかり書くと、恥ずかしい思いをするのは司だと思うんだ。
ω 四月二十五日(水)16:30 ω
今日も相談者がやって来た。しかも昼休みにまで。
主な相談内容を要約すると、部員のデートのセッティングとか個人情報の流出。入部希望者は昨日の全敗が伝わってるのか一人もいなかった。
数人は悠が言葉巧みに言い丸めてことを納めてったけど、そろそろ限界に近い。悠の機嫌が。また殺されかけかねない。
それにしても、どうも解消部の内容とメンバーはほとんどの生徒に知られちゃってるらしい。拡散するの早いよ。メンバーがメンバーだから仕方ない気もするけどね。
それにしてもあれだね。
大人しい人が怒ると恐いっていうけど、明るい人が静かに怒るとマジで恐い。司は本気で怒らせちゃダメだね。直は何か変な気分になるから見たい気がするけど。
で、放課後。
相談者は、昼休みに教室に来て「男子にだけ相談したい」とか言ってきた二年生の女子二人組。だから、時間と場所を指定して女子二人には部室に待機してもらってる。本当は部室で相談を聞けたらいいんだけど、あの部屋の内装は他人には見せられない。
ということで第二視聴覚室。
「俺達にできることであればなんでもします。ですが、できないことはできませんので悪しからず」
全く悪びれずに言った悠の言葉にも、先輩二人は嫌な顔一つせずに頷いた。
「うん。わかってる。ほら。早く言いなよ」
「ちょ、せかさんといてよ」
ショートカットで赤い縁のメガネをかけた大きい方の先輩が、黒髪ロングをサイドで結った小さい方の先輩を肱で突っつく。
でも小さい方の先輩は決心が着かないのか、モジモジとするだけでなかなか言い出さない。
折角時間を指定したんだから、それまでに心の整理をしておけばいいのに。
そう思ったけど、まぁ悩んじゃうことをすぐに解決できる人なら、そもそも悩みを人に相談したりしないよね。
「……」
でも、そろそろ言ってくれないと、悠がやばい。爆発寸前の火山を見るようだ。
と、流石に悠の苛々が伝わったのか、大きい先輩が溜め息を溢して、こっちに視線を向ける。
「この子、白水直のこと好きなんだよ」
「 」
流石に悠の怒りも沈下した。鎮火したというべきか。
なんてことを考えてる場合じゃないね。流石の悠も機能停止してるし、ここはオレがなんとかしないと。
「えっと……オレたちに何をしろと?」
まさか、場をセッティングしろとか、仲をとりもって欲しいとか言うんだろうか。
「ちゃ、違うんよ。好きなんは好きなんやけど、惚れてるんと違うて……!」
あわあわと身振り手振りで否定する小さい方の先輩。
「あ、あんな、あの子同中の後輩やったんよ。で、弓道部でも一緒やった。……あの子は忘れとるみたいやけど」
「それはっ……」
本当に悲しそうな顔を見て、ついそれは違うって言いそうになってしまった。忘れてるんじゃなくて、そもそも記憶にない。言いかけて、説明しようがないって気付いてしまったから、結局何も言えなかった。
「?」
「……いえ。続けて下さい」
怪訝そうな顔をしながら、小さい……いい加減名乗ってくれないかな、この二人。
悠が「下手にでるな。相手が名乗るまで名乗るな」なんて言うから、やりづらいったらありゃしない。
「……二人は、どうして直ちゃんが弓道やめたか知っとる?」
知ってるけど、言えるはずもない。
「それが先輩の相談ですか?」
おお、悠が生き返ってた。しかもちゃんと話は聞いてたらしい。
直が弓道を止めた理由を知りたい。直を弓道部に入れたい。それなら、直たちをこの場に居合わせなかった理由にもなるしね。
でも、小さい先輩は首を横に振った。
「ちゃうよ。射は正直やから、無理にやらせても良いことなんか一つもない」
「行射に入っちゃえば早気もどっか逃げちゃいそうだけどね。あの子の場合」
大きい方の先輩はどこか嘲るような口調で、小さい方の先輩に睨まれて肩を竦めた。大きい方の先輩の方が力関係は強いのかと思ったけど、さっきまでのは話題のせいであって、本来は逆か同じくらいなのかもしれない。
「じゃあ何です?」
悠の質問に、また小さい先輩は黙ってしまった。
でもさっきのカミングアウトで言いづらいことなのは察してるから、悠も苛々せずに言葉を待っている。
「……が欲しい……」
え? 何だって?
自分でも声が小さいって分かっていたのか、そう聞き返す間もなく先輩は俯き気味だった顔を勢いよく上げて、
「直ちゃんの手作りスイーツが欲しい!」
そう先輩は懇願した。
あ、悠がまた固まった。フリーズしたら強制終了→再起動って時間がかかるからね。またオレが聞かねばなるまい。
「手作りスイーツならなんでもいいんですか?」
なら、今度持ってきてくれた奴をお裾分けすればいいじゃん。
そう思ったオレが浅はかでした。
「今度の強歩大会で景品になんねやろ!? それが欲しい!」
げっ。
「この子、コレクターっていうの? あんな感じなんだよね。白水が竹の弓に変える時、その前使ってたカーボンの弓も持って帰ったり」
「それ一番言うたらあかんやつや!」
「いや、まずあんたがあかん奴や」
ぐぬぬ……と呻く小さい先輩。
おやおや。これは結構ガチじゃないですか。
たしかに年一回のイベントの賞品なんて希少価値は高いのかも。何かを集めようとしたことがないからこの熱意はよくわかんないけど、一番くじのA賞とかヤフオクで結構高値ついてるから、欲しい人には堪らんのでしょうな。
どうする? という意思を込めて悠を見ると、一応復活してるけど眉間に深い皺を寄せていた。
「最初に言った通り、できるだけのことはします。ですが、期待はしないでください」
頑張るけど、勝てなくても怒らないでね。
かなり消極的な返答だったけど、参加権もなければ譲ってくれそうな男子の知り合いもいないらしい小さい先輩は満面の笑みで帰って行った。
大きい方の先輩はちょっと納得してないような表情をしてたけど、結局何も言わずに小さい先輩に続いて出て行ってくれた。
……。
名乗ってよ!
ω ω ω
部室で合流。
「ねぇ……悠はなんで私を睨んでるの……?」
理不尽な怒りを向けられて戸惑う直。直ちゃんぺろぺろ。
「直は悪くないよ」
悪いのは弱さに負ける人の心だ。……浅っ。つーかそのままだった。
上手いこと言おうとして何も思いつきませんでした。
「相談はともかく、実際違和感なんてどうやって見つけたらいいんだろうね」
カップを両手で包みながら言う司はどこか所在無さげ。見つける場所も時間も指定しないとか、違和感どうのこうのっていうのは実はここに集める口実なだけだったりして。
「幽霊に遇うかもしれないし、記憶にない別の何かが建ってるかもしれない。気長に探すしかないだろ」
半ば投げやりに言いながら、悠はティーカップを傾けた。そしてソーサーに戻し、溜め息を溢す。
「……あー、悪かった。ごめん。本当に直は悪くない。だからそんなに見ないでくれ」
「あ、うん、ごめんね……」
うん。まぁこれで手打ちってことでいいんじゃないかな。
「ちょっと提案があるんだけど」
オレの言葉に、皆の視線が集中する。
「相談の方の部活でもさ、部費って使っちゃ駄目かな」
真面目な質問だって理解した黒酒は、改めてソファに座り直してオレを見据える。
「どう使うんだ」
「えっとさ、相談って大体二種類くらいだと思うんだ。オレらが何かすることと、誰かが何かするのを手助けすることの二つ」
最後に聞いた先輩の相談は「オレ達が勝ってスイーツを勝ち取る」こと。前者だ。
「さっきの場合ならもう頑張るしかないけど、必要な道具があったりするかもしれないじゃん? 今回も直のスイーツが食べたいって話だったら、そのための調理道具だったりさ」
先輩たちの相談のことは言ってないけど一応話は伝わるのか、ふむふむ、と直と司が頷く。その傍ら、何かを思案するように視線を逸らしていた悠が、またこっちに目を向ける。
「手助けする場合は?」
「これも場合によるけど、誰かが持ってる情報が必要だったら、その人と親しくなる必要あるじゃん。そのための接待費とか」
秘密の話をしたい、って言っても、公園とかじゃキツイ。お店に入った方がいいけど、その場合こっちが奢った方が相手は喋りやすくなると思う。
こっちがペースを握るってことだ。悠ならこのあたりは納得してくれるだろう。
「お前……腹黒いな」
「君と同じさ☆」
「俺は腹黒いんじゃない。疑り深いだけだ」
どっちもどっちです!
「てか、オレ腹黒くないし。清らかな心の持ち主だし」
「確かに清流みたいに澄んでるよな。……薄っぺらいせいで」
薄い川……? 浅い川か。
「地に足の着く生き方ってことだね!」
「そのポジティブさだけは尊敬するよ」
「おう、見習いたまへ」
「……」
「……」
「……笑顔なのに目が怖いよ、二人とも」
司がドン引きしてた。
恐怖心より、やられっぱなしで傷ついたオレの心の方が重症だ。
いやホントに。
「司たちは相談受けた?」
休み時間中、いつになく人が多く集まってた気がしたんだけど、司の苦笑をみるに正解だったみたいだ。
「うん。まぁ彼方たちと同じようなもんだと思うよ」
「へ、へぇ~」
それでこの話題を振った途端直の機嫌が悪くなったんですね。
「司を差し置いて私を誘うとか馬鹿なの……? それとも将を射んとすればまず馬を射よ、かしら……ふふ……」
本心だったと思うよ。勿論言わないけど。
でも、このままじゃ時間削られてばっかで皆と遊ぶ時間なくなっちゃうな。
「もう面倒だし、目安箱でも置こっか」
今思いついた適当なことを言ったんだけど、皆の視線が集中してビビった。
「それいいかも」
司が賛成して、
「なら、直接話したいって人はメアドでも書いておいてもらうことにするか」
「あ、それなら遊び半分の人は減るかもしれないね。書いてない人は問答無用で却下とか」
悠と直がそれに続いた。
「直談判しに来る人はいるかもしれないけど、このままよりはマシだし……そうしよっか」
思いつきで言ってみただけなんだけど、決まっちゃった。
お、オレの才能が恐ろしいぜ……。
猫舌なのか、司はカップの紅茶をふーふー冷ましている。可愛い。
「そういえば二人は強歩大会どうするの? 走るの?」
一度口をつけて冷ますのを諦めたのか、カップを置きながら司が聞いてきた。
「んー、一応走るよ」
「俺もだ」
オレは勿論さっきの相談のためだったんだけど、悠が走るなら別に走らなくていい気がしてきた。
と、そんなオレに気づいたのか、
「ちゃんと走れよ」
釘を刺されました。
なんだ。案外良いところあるんじゃないか。
「万が一見られたりしたら言い訳できないだろ」
保身のためでした。ほんと、ブレない奴。
「司と直は?」
「私は歩くよ。梓たちと一緒」
と司。
一方直は、
「私は走るよ」
とちょっと意外な回答だった。てっきり司と一緒に行動するんだと思ってたけど、違うらしい。
「それって、一人で?」
「え? そうだよ?」
あ、そっか。何となく女子は誰かと一緒に行動するもんだ、って認識があったけど、そうだよね。元は男なんだし、司が溶け込みすぎなんだよね。
「直、智たちより早くゴールしちゃったりしてね。あはは」
そうなったら……あれ? どうするんだ……?
「「「…………」」」
「……今のナシで」
「「「…………」」」
その後、この変な空気が完全に消えてくれることはありませんでしたとさ。てへっ☆
次回……
「次は男か……」
「キスしちゃおっかな~」
……あなた、最低です!




